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「全日本EV-GP第2戦」レポート/テスラ勢が圧倒するなかで新勢力も台頭

「全日本EV-GP第2戦」レポート/テスラ勢が圧倒するなかで新勢力も台頭

電気自動車だけのレース「全日本EV-GP」の第2戦が4月27日に筑波サーキットで開催されました。注目を集めた新旧王者による爆速対決は想定外のトラブルで不発となりましたが、新勢力の台頭でエキサイティングな一戦となりました。

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モデルSで出走の地頭所選手にトラブルが!

日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催している「全日本EV-GP」は、各地を転戦しながら全7戦で争われます。その第2戦「筑波55kmレース大会」の舞台は、茨城県下妻市の筑波サーキットです。

2025年4月27日(日)は好天に恵まれました。雨中の第1戦(千葉・袖ヶ浦)とは打って変わって、コースもドライ。気温は日中20度を超えて、チームの皆さんは熱対策に頭を悩ませたかもしれませんが、見る側には気持ちのいい観戦日和となりました。

WIKISPEED EVレーシングのみなさん。左から、澤田晴輝選手、地頭所光選手、ジョー・ジャスティス監督、遠藤幸和選手。

午前11時に、13台が出走した公式予選が始まったのですが、いきなりトラブル。第1戦の覇者である地頭所光選手のタイムが伸びません。

「ソフトウェアの問題なのですが、最高速の制御が入って約140km/h以上出せなくなっていたんです」(地頭所選手)

ジョー・ジャスティス監督が率いる「WIKISPEED EVレーシング」は今回、地頭所選手をエースドライバーに据えて、オーディションを通った公募ドライバー2人をエントリーさせました。2人についてはあとでご紹介しますが、そのためにマシンの入れ替えが行われていたのです。

第1戦の優勝マシンであるテスラ モデル3 パフォーマンス(モーター出力377kW)ともう1台のモデル3(同)の計2台は新加入の選手がドライブして、地頭所選手はモデルS Plaid(モーター出力755kW)での参戦を選びました。しかしこのモデルSは、昨年の最終戦でクラッシュしていて、なんとか修理は間に合ったものの、セッティングを詰める時間が足りなかったようです。

エントリーリストで、地頭所選手がゼッケン1番の現役チャンピオン、KIMI選手と同じモデルS Plaidに乗ることが発表されて、白熱のバトルが期待されていたのですが、なんとも残念な展開に。マシントラブルを抱えた地頭所選手は予選タイムをクリアできない事態に陥りました。今シーズンから安全確保のために制定された「各クラスで予選トップタイムの110%を超えたら予選落ち」という新ルールが早速適用されることになったのです。

前戦覇者がまさかの予選落ち?

ガルフ軍団と応援のみなさん。写真中央のモデルSの右側に立つのがKIMI選手。

ポールポジションを獲得したKIMI選手の予選タイムは1分00秒264。なので最高峰のEV-1クラスは1分6秒290が足切りの基準に。地頭所選手のタイムは1分06秒833でした。全体では6番目の好記録だったにもかかわらず、通過ならず。

ただし「3年以内にシリーズ総合順位が5位以上の者」や「JEVRAが特別に認めた者」は出走できるという特別措置によって、後列からのスタートが認められました。ヒョンデ IONIQ 5NでEV-1にエントリーしたジゴワッツレーシング Ellaの柴田知輝選手(1分09秒748)もタイム不達でしたが、出走OKとなりました。

予選2位は、地頭所選手から第1戦の優勝マシンを引き受けたWIKISPEEDの澤田晴輝選手(1分03秒070)。3位にはガルフレーシングからモデル3 パフォーマンスで出場しているYUU選手(1分04秒578)が入りました。4位にWIKISPEEDのもう1人のドライバー、遠藤幸和選手。5位にEVステーションの西島真選手(モデル3 パフォーマンス)、6位にモンドスミオ選手(モデル3 RWD)という順。グリッド上位はテスラ勢が占めました。

充電タイムもEV-GPのお楽しみ

IONIQ 5 Nの応援に駆け付けたヒョンデ・モーター・クラブ・ジャパンのみなさん。

いつものように、予選の後は充電タイム。決勝に出走する車両をすべて満充電にしなければならないので、かなり長い休憩時間が取られます。WIKISPEEDチームはモデルSのセッティング改善に奔走することになりましたが、のんびりとランチタイムを楽しむチームもありました。

モデューロレーシングHonda eチームのピットを訪ねたところ、黒石田利文監督が料理の腕を振るっていて、ホンダのお膝元・鈴鹿の地元グルメだという「ジャンジャン焼き」をいただきました。ごちそうさまです。

各チームの応援にかけつけたTOCJ(テスラ・オーナーズ・クラブ・ジャパン)やHMCJ(ヒョンデ・モーター・クラブ・ジャパン)のみなさんも、ドライバーやチーム関係者と楽しそうに過ごしていました。観客とチームが密接にコミュニケーションできるのが、EV-GPの魅力です。

KIMI選手がポール・トゥ・フィニッシュで貫禄の優勝

そして午後4時5分スタートの決勝(全クラスが混走)。PPからダッシュに成功したKIMI選手が他車を引き離しにかかります。2周目に1分03秒715のベストラップを叩き出して、その後も1分05〜08秒台で安定した走行。まったくスキを見せずにポール・トゥ・フィニッシュを飾りました。

後列スタートしたEV-1クラスの2台も追い上げましたが、地頭所選手は再セットアップが間に合わず、スピードリミッターが作動したままの戦いに。それでも1分08〜09秒台をキープして5位をゲットしたのはさすがの一言です。

「KIMIさんとのレースは僕も楽しみにしていたのですが……。次戦までにしっかり走れるようにしてきます」と地頭所選手。

優勝したKIMI選手も「光くん(地頭所選手)とバトルする予定だったので少し残念でした。(次戦の)岡山では激しいレースをエンジョイしたいですね」と話していました。

IONIQ 5Nの柴田選手も8位まで順位を上げてフィニッシュ。「後ろからスタートしたおかげで、逆にしっかりレースをさせてもらった感じもありました。もう少しタイムアップして、これからもみなさんとご一緒させてもらいたいです」とレースを振り返っていました。

じつは柴田選手とはレース前日にもお会いしていたのですが、サーキットにドライビングシミュレーターを持ち込んで、バーチャル筑波サーキットの攻略に挑んでいました。まんま映画「グランツーリスモ」のようで面白い風景でした。柴田さんは超小型のEV用普通充電器「Ella」を販売する株式会社ジゴワッツの社長。この大会では新開発した急速充電器をピットに設置してテストも実施。レース車両のみならず、観戦に訪れたEVにも無料で充電するサービスが好評だったことも追記しておきます。

EV-2クラスの熱戦にも注目

熱戦となったのはEV-2クラスです。昨年レース活動をやめたチームからマシンを買い取ったWIKISPEEDチームがいよいよ本格始動しました。今回エントリーした2選手の戦いぶりをご紹介します。

澤田選手は、Super FJでのレース参戦を目指していて、SNSでオーディションがあることを知って応募したそうです。EVレースは初体験。「テスラに乗ってみて新時代のクルマだと思いました。EVは一般的には普及もこれからだと思いますが、だからこそ面白く感じます。いずれレースで得たデータを市販車にフィードバックするようなことができればいいですね」とレース前から意気込んでいました。

もう1人の公募ドライバー、遠藤選手はジムカーナで全日本選手権に出場経験もあって、モータースポーツライセンスを持っています。EV-GPにも日産リーフなどで出場していた経験者で、熱対策などバッテリー管理に気を遣うEVレースのノウハウについても先刻ご承知。「耐久レースのような面白さがありますよね」と話していました。

決勝では、澤田選手が快調に飛ばしましたが、終盤にバッテリー容量不足に陥り、ラストは「航続距離が0kmに」。やむなくスローダウンしたものの、それでも表彰台をゲット。遠藤選手も6位に入って、チームのポテンシャルの高さを示すかたちになりました。WIKISPEEDチームは今後もドライバーを募りながら挑戦を続けていくそうで、EVレースの登竜門として存在感を高めていくかもしれません。

さらに今回、注目を集めた出場者は、久しぶりにEV-GPに参戦した西島選手でした。終盤に澤田選手をかわしてEV-2クラスを制覇。総合でも2位に入りました。以前に日産リーフで年間参戦していた西島選手は、同じ筑波サーキットで行われている「EV Day」でタイムアタックを重ねて腕を磨いていたそうです。テスラ モデル3 パフォーマンスを手にいれたのを機に、EV-GPに再参戦。「やっぱりレースは楽しい。サーキットで安全にクルマ同士のバトルができるのは、ほんとにいいですね」とニコニコ顔でした。

また、EV-P(プロトタイプ)クラスに参戦しているHonda e(113kW)の菊田辰哉選手と、EV-F(燃料電池車両)クラスのトヨタミライ(120kW)を駆る飯田章選手とのテール・トゥ・ノーズの熱戦も見どころでした。飯田選手はかつて国際F3000などで大活躍したレース界のレジェンド。レースを終えた菊田選手は「あの飯田さんとバトルができてめちゃくちゃ光栄でした」と興奮した様子で話していました。

上位をテスラ勢が占めるEV-GPは、二大勢力がポイント争いを引っ張っていくことになりそうです。今大会ではKIMI選手が監督兼ドライバーを務めるガルフレーシングが1位と4位、さらに同チームから技術サポートを受けるEV-3のモンドスミオ選手が7位でした。このガルフ軍団に対抗するのがWIKISPEEDチームで、公募ドライバーのデビュー戦で総合3位、5位、6位。地頭所選手のモデルS Plaidが万全になれば、次戦以降も盛り上がりが期待できますね。

EV-GP第3戦は、5月31日(土)に岡山県の岡山国際サーキットで開催されます。詳細なリザルトや今後の日程などは日本電気自動車レース協会(JEVRA)の公式サイトに掲載されています。

取材・文/篠原 知存

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この記事を書いた人

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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