双方向充電可能なEV用車載充電器は「より小さく、速く、安い」時代に

ドイツに拠点をもつ電子機器研究機関である「フラウンホーファー研究機構」が、次世代のEV用車載充電器を提案しています。アメリカのメディア『CleanTechnica』の記事を全文翻訳でお伝えします。

双方向充電可能なEV用車載充電器は「より小さく、速く、安い」時代に

【元記事】Bidirectional On-Board Chargers: Smaller, Faster, Cheaper by Christoph Hein on CleanTechnica
※冒頭写真はフラウンフォーファーのプレスリリースから引用。
© Fraunhofer IZM | Volker Mai.

サイズは小さくても大きなパフォーマンスを発揮

車載充電器はEVの充電に欠かせない重要な装置で、eモビリティの将来を左右する部品と言っても過言ではありません。フラウンホーファーIZMはパワーエレクトロニクスの最新技術を結集して、次世代の車載充電器への道筋を切り拓くことに成功しました。半分のサイズで2倍の性能、双方向充電、機械で効率的に量産できるなどの特長を備えた次世代の車載充電器は、経済的な観点からeモビリティの急速な発展を促進するでしょう。

EVのバッテリーが減ってきて、運よく急速充電器にたどり着くことができたなら、そこで15~30分程で充電し、再び出発することができます。これは、物によっては最大350kWもの大電力が出せる急速充電器のおかげです。こうした充電器の電力は、EVのバッテリーと同じ直流(DC)で供給しています。つまり、車載充電器を使わずに直接バッテリーを充電することができるのです。

一方で、圧倒的に数が多い普通充電器(AC充電器)はそうは行きません。多くのご家庭のガレージにある家庭用コンセントから、単相交流(AC)で最大3kWの出力のものまで様々なタイプがあります。さらには一般的な公共充電スポットや家庭用ウォールボックス型充電器に使われる三相交流だと最大22kWで充電でき、多くのEVを約4時間で完全に充電することができます。

しかし、せっかく普通充電器側が大電力を供給できたとしても車載充電器(OBC)のせいで最大11kWに制限されているEVがたくさん存在します(EVsmartブログ編集部注※11〜22kWの普通充電という例示は欧米の基準です)。

現在のOBCは一般的に、大型のコイルなど手作業で製造・組み立てする部品が大量に使われているため、必然的にサイズが大きくなり、車内で場所を取ります。EVメーカーの多くは、OBCを2つ取り付けるか、より大きなモジュールを使用するなどして、充電能力を11kWから22kWにアップグレードできるオプションを用意しています。

どちらのオプションもコストとスペースの両面でデメリットがあり、かつ、ほとんどのOBCは一方向にしか充電できません(充電器→車両)。車両から送電網(グリッド)に電力を戻したり、家庭用ソーラーのバッファとして使ったりすることはできません。古い技術のOBCでは、EVが分散型エネルギー貯蔵ネットワークになって再生エネルギーへのシフトを推し進める事はできないのです。

GaN半導体を使った1MHz以上の高速正弦波共振コンバーター

フラウンホーファーIZMはこの問題を解決するために複数の新しいコンポーネントを開発し、それらを小さなパッケージに収める必要がありました。中でも重要なコンポーネントのひとつが、共振型高周波トランスである正弦波共振コンバーター(SAC)です。車載のキャパシターによって寄生地電流が生じると、回路に地絡を引き起こしてシステムが作動しなくなる可能性があるため、SACの主な役割は車両のバッテリーを送電網から確実に絶縁することにあります。

この新しいSACが革新的なのは、フラウンホーファーIZMの設計で使用されたGaN(窒化ガリウム)スイッチの部分です。このスイッチは、広いバンドギャップを持つ新しい高性能半導体で、1.3MHz(1秒間に130万回)の周波数でコンバーターをスイッチングすることができます。

フラウンホーファーIZMの新しいOBCの開発を監督したオレグ・ツァイターは、「高速スイッチングの実現により、我々はモジュールの設計を全面的に見直すことができました」と述べています。また、これはもうひとつの重要な部品であるPFCチョークに密接に関連しています。

PFCインダクタ – フラットコイルと機械生産

OBCにはもうひとつ、力率改善(PFC)回路と呼ばれる重要なコンポーネントがあります。PFCは送電網と車両の橋渡しの役割を果たし、地域によって50Hzないしは60Hzの安定した正弦波交流電流を車両に供給します。これを実現するために従来のOBCでは「チョーク」という非常に大きくて高価な部品を使用していました。フラウンホーファーIZMは現在、共有のフェライトコア上に4つの磁気結合コイルを持つ、基板型のフラットPFCインダクタを使用しています。

このPFCチョークは従来よりもコンパクトなだけでなく、手作業ではなく機械で生産することができます。フラットな設計のため、チョークは低いインダクタンスしか発生させられませんが、SiC(シリコンカーバイド)スイッチを備え、140KHzで動作するPFCにとっては問題になりません。「スイッチング周波数を上げたため、インダクタンスは問題になりませんでした」とオレグ氏は言います。「スイッチングが速いため、電流は極めて短い時間しか流れません。したがって、インダクタンスが低くても大電流になることはありません。」

フラウンホーファーIZMが採用したスマートなパッケージングと、各部を相互接続する技術により、同研究所はついに、従来のOBCの半分のサイズでありながら2倍の充電能力(22kW)を持つ、体積わずか3000ccのOBCを完成させました。「簡単に言ってしまえば、我々は1枚の大きな基板にすべてを盛り込んだのです。我々のパッケージング・ソリューションによって、この基板に必要なものすべてを機械で実装できます」とオレグ氏は言います。つまり、生産コストが大幅に減少するということです。

しかし、新しいOBCの利点はこれだけではありません。このモジュールは400Vと800Vどちらのバッテリーにも対応し、97%以上の効率で動作します。また、送電網からバッテリーへ、そしてバッテリーから送電網へと、両方向に電流を流すことができます。これは、少なくとも技術的な観点から、再生エネルギーへのシフトにおける基本的な問題のひとつが解決されたことを意味します。

このシステムと、そこに採用されている数々の巧妙な技術に興味のある方は、6月11日から13日までドイツのニュルンベルクで開催されるパワーエレクトロニクスの国際展示会「PCIMヨーロッパ」で間近に見ることができます。フラウンホーファーIZMのブース(第5ホール、300番ブース)では、この新しいOBCの世界初公開が行われる予定です。

翻訳/池田 篤史(翻訳アトリエ)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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