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「Busworld Europe 2025」視察レポート/世界ではバスのEVシフトが着実に進行中

「Busworld Europe 2025」視察レポート/世界ではバスのEVシフトが着実に進行中

モビリティのEVシフトは、乗用車だけの話ではありません。世界ではバスなどの商用車でも着実に電動化=脱炭素化の実現に向けた動きが進んでいます。ベルギーのブリュッセルで開催された世界最大のバスショーを、長年EVバス開発などに携わってきた電気自動車のスペシャリスト、福田雅敏氏がレポートします。

目次

展示されたバスの7〜8割がEVやFCEVだった

Busworld Europe 2025(主催:Busworld Europe)が10月4日(3〜4日はプレスデー)から9日まで、ベルギー・ブリュッセル(Brussels Expo)で開催された。通常は隔年の開催で、前回は2023年に開催された。今回は40カ国から559社(前回526社)が出展、バスメーカーは81社(2023年は66社)で、209台のホール内展示、29台の屋外展示が行われた。

展示車両を並べると、総延長は3.5キロメートルを超えるという。展示会場は82,000平方メートルで、東京ビッグサイトの約7割が、バスとその関連部品等で埋め尽くされた形だ。来場者数も増加し、101カ国から45,427人(前回40,120人)というバスだけの展示としては驚異的な数に達し、世界最大のバスショーと言われている。

筆者はこれまで中国を含め6回のBusworld(バスワールド)に参加しており、前回の2023年にも参加したが、その時よりもさらにEV、FCEVバスの出展台数が増えており、今回は、出展台数の約7~8割程度がEV、FCEVバスであった。

2023年のレポート(関連記事)では、4年ぶりの開催でEVバスの出展割合が大きく伸びたこともあり、「図鑑」としてレポートしたが、今回は、前回からの大きな変化点などを中心にレポートする。

インターシティや観光バスなど大型のEVバスが増えた

会場に入り、前回と雰囲気が少し変わったと感じたのが、バスの車体が高いことである。車両価格ではなく、文字通り、車高が高いのである。

これは、これまでの展示車両は路線バスのEVが中心だったものが、すでにEV路線バスがヨーロッパでは普及し始めたため、「インターシティ」と呼ばれる都市間交通のバスという、観光バスと路線バスの中間に位置するカテゴリーが注目されて、大幅に出展数が増えたためである。詳しくは後述するが、観光バスのEVが増えてきた。

つまり、従来のバスワールドの中心だった路線EVバスから、インターシティや、より車高の高い観光バスの出展が増えていたことが、「車高が高い」印象に繋がっていたということだ。

中国メーカーが増え、インドやベトナムからも初出展

まず、路線EVバスから紹介しよう。その出展国もこれまでのヨーロッパとトルコが中心だったものから、中国勢が大幅に出展数を増やしてきたのが印象的だった。

そして今回、6月のハンブルグでのUITPサミットにも出展されていたが、バスワールドとしては初めてとなるインドからJBMというバスメーカーが出展していた。正確にはJBMバスの子会社となるJBM Electric Vehicles社からで、路線バス「ECOLIFE e12」で欧州市場へ参入した全長12mクラスの大型バスである。

バッテリー容量は250~300 kWhといくつかの選択が可能で、航続距離は最大400kmと後発ながらも他のバスメーカーと同等の性能を誇る。そして、車体が特徴で、ステンレスのフレームを採用している。

もう1台印象的だったのが、英国のかつてはスポーツメーカーだったMG(Morris Garages)から初出展されていた路線EVバスである。MG社は中国上海汽車(SAIC)グループの企業となり、そして今回、欧州で路線EVバスを販売するMG COMMERCIALブランドを立ち上げたのである。展示車は、左ハンドルであるため、英国以外でも販売することを意味する。今回は、展示車両のほか、EVコンポーネントを搭載したシャシの展示も行っていた。

アジアからは、中国やインドだけでなく、これも初出展のベトナムVINFAST eBusが欧州で市場に参入することを発表した。

8mクラスのEB8と12mクラスのEB12の2台を出展していた。

筆者は昨年、ベトナムをプライベートで旅行したが、その時も街中を鮮やかなグリーンの路線EVバスが多く走っているのを見かけた。それがVINFASTグループのバスであったが、今回出展されたのはそれとは形の異なった欧州専用モデルであった。

トヨタ製のスタックを採用したFCEVの連接バス

他にも路線バスEVは数多く出展されていたが、欧州市場の路線バスは約3割が連接バスと言われているが、その連接バスのFCEVがポルトガルのCAETANOからワールドプレミアとして発表された。CAETANOは、他にも新型路線EVバス2台も出展しており、ラインアップの路線EVバスを刷新していた。

この連接FCEVバスの大きな特徴は、燃料電池(FC)スタックにトヨタ製を採用している点である。2.5世代の燃料電池スタック(トヨタ製燃料電池スタックの改良版)と言うことで、日本でもジャパンモビリティショー2025でいすゞがエルガFCVを発表したが、それと同じものと思われる。

この連接FCEVの車体は中国の国営企業CRRC(中国中車)製だという。中国で車体をEVのバッテリー容量少ないバージョンとして生産し、ポルトガルに車体を送る、CAETANOにて、燃料電池システム、水素タンクなどを搭載しFCEVの完成車となるということである。ここで特筆すべきはコストで、以前販売していた12mクラスとほぼ同等の価格で18mの連接バスが販売できるとのこと。ヨーロッパでも比較的物価の安いポルトガルよりさらに中国からの調達によってコストが抑えられると理解できる。

インターシティEVバスも多彩な出展

ここからはインターシティ(都市間路線)EVバスを紹介する。まずはMercedes-Benz。eINTOURO M。全長13mに207kWhのLFPバッテリーを2パック搭載しているため414kWhの総容量。航続距離は500kmと発表されている。eIntouroは、インターシティだけでなく、スクールバス、シャトルバス、遠足路線、短距離、長距離輸送など様々なシーンでの活躍を想定しているという。

Mercedes-Benzは、EV、FCEV、ディーゼルであるが観光バスのSetraブランドまでを入れると、屋内外の展示で11台と、筆者が確認した中では最大の出展台数だった。

そしてSCANIA。SCANIAはバスの完成車事業から撤退したので、2台のインターシティEVバスを2社のコーチビルダー製として出展していた。1台はスペインIrizar製でもう一台は、前述したポルトガルCAETANO製である。

ここでは、特徴的なCAETANO製を紹介する。全長は日本の保安基準を超える英国仕様の右ハンドル3軸15m車で、バッテリー容量は534kWhである。航続距離は最大600kmと発表されている。充電は、CCS2で最大325kW(500A)である。

BYDからもインターシティが出展されていた。BYDはヨーロッパの拠点がオランダにあり、工場はハンガリー。デザインもヨーロッパ専用である。

最大495kWhのLFPブレードバッテリーで655kmの航続距離。CCS2のデュアルチャージ(2本掛け)充電が可能で最大520kW、他にACの44kWとパンタグラフからの520kWの充電にも対応する。

一充電航続距離850kmのEV観光バス

ここからはさらに車高が高い観光型EVバスを紹介する。中国からの出展が多いのだが、BYDが5台とEVシャシを展示。そして次に展示台数が多く気合が入っていると感じたのが、YUTONGである。二階建てのいわゆるダブルデッカーから、15mクラス、そしてここで紹介する観光EVバスを出展していた。

全長14m、全高3.9m、全幅2.55mと日本の一般的な保安基準を3サイズとも超える大型観光バスで、704kWhのバッテリーで航続距離は最大850kmと発表されていた。筆者が確認した限り、最大のバッテリー容量と航続距離だった。850kmあれば(実用的な航続距離は8割程度だとしても)、日帰り旅行であればほとんどのケースで充電無しの往復が可能であろう。

また、車高は高いとはいえバリアフリーに対応しており、車いす用のリフトを備えている。

他にも中国企業から観光型EVバスの出展は多く、1社で数台の観光型を出展する会社もあった。

ここで変わりどころの観光バスを紹介する。おそらく今回出展ではこの1台だけだろうと思われたのが、スペインIrizarの観光型PHEVバスである。屋外展示場に展示されており、詳細の発表はなかったが、バッテリーのみで80kmの走行が可能ということだった。

水素や自動運転関連の展示はやや低調

さて、筆者がプレスデーから参加して最初にブリーフィングに参加したのがトルコのKARSANだった。ブリーフィングでは、電動化、水素、自動運転に力を入れていると発表していたので、今回のバスワールド全体もその傾向にあるのではと感じていた。

実際に会場を取材して感じた印象として、電動化については前回よりもさらに展示台数やバリエーションが増加していたのに対して、水素に関しては出展台数が減っていた。

そして、ここで注目したいのが自動運転である。KARSANの2台のほかは、同じくトルコのOtokarとポーランドのBLEESの4台のみで、思いのほか少ないと感じた。このうち3台は、外の試乗会場で試乗でき、筆者も3台とも試乗したのだが、筆者がこれまで試乗した、アメリカのドライバーレスタクシーWAYMOやここでも取り上げたVW(フォルクスワーゲン)のMOIAと比較してしまうと、どうしても完成度が落ちる印象だった。

具体的には、人が思わぬ動きをした時の急ブレーキ感などが不快であった。おそらく開発費のかけ方などがVWやWAYMOと比べて桁違いなのだろうと思う。

搭載するバッテリー容量は増量傾向か

最後に、出展数が多かった小型バスからもう1台を紹介する。ルノーの商用車ブランドが展示していたRenault Pro+である。ベースとなるRenault Master商用バンの後端のルーフを少し下げた、日本でいうコミューターバスクラスの小型EVバスである。22人乗りのシティバスと14人乗りのシャトルバスが提案されていた。バッテリー容量はいずれも87kWhで航続距離は最大350kmと発表されている。

ほかにも様々なバス用機器メーカーが出展しており、EV用急速充電器ではMCS(Megawatt Charging System)が、さらにモーターやバッテリーなどが展示されていた。

今回のバスワールドは、前回と比べると路線バスではこれまでの400kWhから500kWhへと、インターシティは500kWhから600kWh、連接バス、観光バスでは700kWhへとバッテリーの容量が増量してきたという印象だった。

また、FCEV(燃料電池)バスの出展台数は減ったものの、トヨタとホンダがFC(燃料電池)スタックを展示(初出展)した点には、バスの燃料電池化が進む兆しなのかと感じた次第である。

取材・文/福田 雅敏

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この記事を書いた人

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で39か国訪問している。通勤などの足には、クラウンセダンFCEV(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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