CES2024の意外な収穫〜2024年は世界でも商用EV普及元年となるのでは?

今年から新執筆陣となったエンジニアの福田雅敏氏が、ラスベガスで開催されたCES2024を取材。商用EVの出展数の多さやバリエーションに「今年は、世界的にも商用EV普及元年となるのでは?」と感じたレポートです。

CES2024の意外な収穫〜2024年は世界でも商用EV普及元年となるのでは?

ユニークで魅力的な商用EVの提案

世界最大級のテクノロジーイベントである「CES 2024」が1月9日から12日までアメリカ・ラスベガスで開催された。もともとは「Consumer Electronics Show」だったが主催者は「もう家電の展示会ではない」と宣言。近年は自動車関係の展示ホールも新設され、EVを中心とした新型車や新技術発表の場にもなっている。

今年も、ホンダが市販予定のEVコンセプトカー2台を発表し、ソニー・ホンダ・モビリティも昨年発表したAFEELA(アフィーラ)の量産型を発表するなど、CESの自動車への依存度が年々高まってきている。

ホンダやソニー・ホンダ・モビリティについては他の記事やメディアでも取り上げられているので、本レポートでは割愛する。私が、自動車の展示ホールでも気になったのは商用EV、FCEVの存在である。筆者は、商用EVの可能性については、現職場でもEV普及の糸口ととらえこれまでも何台もの商用EV、FCEVを開発してきた経験をもつ。はたして、どのような商用EVが提案されていたのかについてレポートする。

まず、ヒョンデのグループ会社である韓国のKIAである。そのKIAがプラットフォームは共用して、乗用のミニバンやピックアップ、商用バンなどに着せ替えが出来る「EASY SWAP」と呼ばれるコンセプトカーの「PV5 CONCEPT」を出展していた。

運転席の後ろのBピラーと床部分のプラットフォームは乗用も商用も同じとしながら、荷室部分を専用のステーションで交換する構造だ。例えば、普段は商用バンとして使用しているものを、週末にはリアボディを取り換えピックアップや乗用ミニバンに変えられると。これまでバッテリーの交換式などはあったが、ボディのバリエーションを変えられるのは初めて見た面白いコンセプトだ。

Easy Swap Technology | The Kia PBV(YouTube)

乗用ミニバンや商用バンだけでなくピックアップまで用意されるのはピックアップ王国ともいえるアメリカ仕様ならではだろう。

続いていくつかの商用EVを紹介する。まず驚いたのが右ハンドルの軽商用バンが展示されていたこと。そう、日本向けでASFが扱う軽EVバン「ASF2.0」だ。アメリカでも販売を検討しているようで今回は参考出品として日本仕様をそのまま持って来たとのことであった。「Dash Zero」と呼ばれindigo社のエンブレムが付けられていた。

Foxconnが主導するMIHのブースに置かれていたルクセンブルクB-ON社の「pelkan」は、ボンネットをもつ商用バン。これは全くのコンセプトカーの作りだったが、2024の第一四半期(Q1)にはローンチすると発表されている。簡単なスペックは、長さ5.7m×幅1.85×高2.5mのボディに、86kWのモーターと54kWhのバッテリー容量で250kmの航続距離を持つ。積載量は、1.2トンだ。

この「pelkan」はヤマト運輸に500台納入する予定があると語っており、記憶を頼りに調べたら、日本にもB-ON社があり、過去にヤマト運輸に納入されたドイツ「ストリートスクーター」社の商用バンを入れた会社であった。詳細は未確認だが、ヤマト運輸はルクセンブルクの商用バンを導入予定の様である。

アメリカUPOWER Tech社の「UP VAN」は、低床の荷台が特徴だ。スペックは明かにされていないが、デトロイトに本拠を置くLUMOS EV Inc.と「UP VAN」の開発契約をしたと発表。合わせて、日本の再生可能エネルギー事業などを手掛けるG Three Holdingsとの提携も発表されたので、こちらも日本で発売されるかもしれない。

大型の商用EVもバリエーション豊富

ここからは少し車両が大きくなる。まずMULLEN Automotive(マレンと読むようです)はアメリカカリフォルニアの会社。マレンはEVスーパーカーで有名だが、ここで紹介するのは商用車部門だ。

まず商用バンの「ONE」。長さ4.7×幅1.6×高1.7mのボディに60kWのモーターに42kWhのバッテリーを搭載し、180kmの航続距離と750kgの積載量を持つ。アメリカでの販売価格は$34,500(約500万円)。大きさ、見た目はトヨタのタウンエースに似ている。製造は中国のWuling(五菱)である。

もう1台がキャブオーバーの「THREE」。長さ6.2×幅2.4×高2.2mのボディに120kWのモーターに89kWhのバッテリーを搭載し、200kmの航続距離と2.4トンの積載量を持つ。アメリカでの販売価格は$68,500(約1,000万円)。大きさ、見た目はいすゞのエルフに似ている。こちらも製造は中国Yuejin(上海汽車関連会社)である。

余談になるが、MULLENはアメリカで日本のアパテックモーターズが扱う中国製小型EV 「大熊」をアメリカで「GO」の名前で売る会社でもある。

そして、MULLENのグループ会社であるBollinger Motors。アメリカミシガンの会社で、オフロードEVで有名な会社だ。

ピックアップ型の「B2」から紹介する。SUV型「B1」の兄貴分として、ピックアップ型「B2」は更に長いホイールベースに長い荷台を備え本格的オフロード機能を備える2モーター2段減速機付き全輪駆動となる。詳細なスペックは不明だが、荷台と室内にはハッチが設けられ、ハッチを開けると荷台と室内が通じ更に長尺物などを載せることが出来る。

アメリカでは、GMハマーEVにもピックアップがラインナップするが、「B2」はトラックの大きさ区分がクラス3となるので、普通のピックアップのクラス2より大きなものになる。それだけにワイルドなオフロードピックアップといった感じだ。

同じくBollinger Motorsから、キャブオーバー型のトラック「B4」のパネルバンとその荷台を外したシャシが展示されていた。こちらのトラック区分はクラス3と4。「B4」は、クラス4で、車両総重量7トンで最大積載量が3.3トンとなる。

特徴は、リアデフ一体式のe-BEAMを採用しているのでプロペラシャフトがなくなり、その部分の左右のフレームの間にバッテリーが搭載されている。非常にパッケージの良いものとなっている。こちらもいすゞのエルフに似ている感がある。

聞くことは出来なかったが、シャシなどは親会社MULLEN同様に中国から供給を受けている感じであったが、設計、組み立てはアメリカミシガン州にデトロイトで行っているとのことであった。

ここでピックアップが出てきたのでもう1台紹介する。ベトナムの新興EVメーカーのVINFAST(ビンファスト)が、新型ピックアップトラック「WILD」をワールドプレミアした。ビンファストは既にSUV型をアメリカでも発売しており、それに続くモデルとなる。全長5324mm×幅1997mmのボディに観音扉のドアを持つ。見た目はまだショーモデルの様であった。詳細も発表されていない。

また日本ではなじみがないがアメリカの新興EVメーカーRIVIANのピックアップ「R1T」が何台か、展示ブースの脇役として展示されていた。ピックアップを展示するところは、アメリカのイベントらしい趣向である。

ここからは大型になる。オランダのDAFである。270kWのモーターに420kWhのバッテリーを搭載し車両総重量は29トンとなる。荷台のついていないキャブ付きシャシ状態で展示されていた。

次はFCEVトラック。これも大型でアメリカのKENWORTHのボンネット付き大型トレーラーヘッド。FC(燃料電池)システムはトヨタ製が搭載されている。アメリカロスアンゼルス港を中心にトヨタと共同で実証試験をしたトラックだ。既に試験は終了し成功裏に終了したと報じられている。報道では、連結車両総重量(GCWR)約37.2トンまで満積載した場合の航続距離は約480km以上に及ぶという。また、15~20分の充填時間で、1日に複数シフト走行し、最長約800kmまで走行が可能だとしている。

そして最後の1台は室内会場では見かけなかったが、アメリカの新興FCEVメーカーNIKOLAのトレーラーヘッド。会場外の公道をデモ走行していて、頻繁に見かけた。一回の充填で800kmの航続距離を持ち、20分で充填が可能となるもの。トラックの区分はクラス8の大型。200kWのFCで最大出力575kWのモーターを駆動する。水素タンクの圧力は700気圧でトヨタの「MIRAI」等と同じ高圧のものが採用されている。

筆者がCESを訪れたのは初めてだった。家電ショーの延長にEVの展示があると思っていた程度だったので、乗用EVがメインかと思ったら、意外にも商用EV(FCEV)が多かった。CESを取材して感じたのは、商用バンにおいて、日本と関係する会社が3社もあることに驚きつつ、世界的に見ても商用バンがEV普及の鍵となるのかもしれないということだった。中国企業と連携している会社も多かった。

商用EVについては、日本でも昨年三菱ふそうトラック・バスが第二世代の「eCanter」を発売し、いすゞも「エルフEV」を発売したばかりだ。軽商用バンにおいては、三菱自動車が「ミニキャブEV」を昨年末に発表し、ホンダも「N-VAN e:」の発売を今春に控えているなど、日本において商用EVが2024年は普及元年となるだろうと思っていた。CESを見学し、世界的にも2024年が商用EVの普及元年になるのではと改めて感じた次第である。

取材・文/福田 雅敏

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					福田雅敏

福田雅敏

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で38か国訪問している。通勤などの足には、クラリティ FUEL CELL(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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