大型トラックオーナー要注目/電動トラックはどこまでディーゼル車の代わりになれるのか?

アメリカのコメディアンにしてカーマニア、「Jay Leno’s Garage」というチャンネルで様々なクルマ情報を発信しているジェイ・レノ氏が、テスラのEVトレーラー『Semi(セミ)』の開発陣から詳細な情報を聞き出す動画を公開しました。テスラオーナーにして翻訳者、池田篤史さんの翻訳&検証解説レポートです。

大型トラックオーナー要注目/電動トラックはどこまでディーゼル車の代わりになれるのか?

※冒頭写真などはYouTubeの動画より引用。

動画内の登場人物

いつもテスラの未発表モデルを一足先に試乗しているJay Leno(ジェイ・レノ)が今度は大型トレーラーヘッド「Semi(セミ)」に乗り、実際に運転しながら開発陣から色々と新情報を引き出してくれました。現在分かっている範囲で、EVトラックはどこまでディーゼルトラックと渡り合えるのか、動画の内容を翻訳しつつ、検証してみました。

Jay Leno Hauls Tesla Semi with Tesla Semi(YouTube)

ジェイ・レノはコメディアンや俳優、司会として有名で、大の車好きとしても知られている、アメリカ版所ジョージのような方です。これまで、サイバートラックや次期ロードスターなど、テスラが発売予定のモデルのプロトタイプを、ご自身の番組「ジェイ・レノのガレージ」で紹介してきました。

セミの動画に登場するお相手はチーフデザイナーのフランツ・ホルツハウゼンと、セミトラック開発部シニアマネージャーのダン・プリーストリー。フランツは言わずと知れた、ほぼすべてのテスラ車をデザインした人物で、部下のダンはスタンフォード大学出身の秀才で、2010年からテスラで働いている古株メンバーです。

EVトラックの開発背景

Bing Image Creatorで作成したAIイメージです。

そもそもセミを開発しようと思ったきっかけは7年前に遡ります。2016年にネバダ州にテスラのバッテリー工場「ギガ・ネバダ」が竣工した際、当時の最高技術責任者(CTO)が、ネバダからカリフォルニアの組立工場までディーゼル車で部品を運搬するのは地球環境に優しくないと考え、真剣にEVトラックの可能性を検討し始めました。

大型トラックは走行している台数で考えると全自動車の1%に過ぎませんが、排ガスは全体の18~20%を占めるため、大型トラックを電動化すると環境汚染を大幅に減らすことができます。排ガス以外にもメンテナンス代、運転手の安全性、快適性などのメリットもあります。

また、アメリカではトラック運転手の平均年齢は50歳(日本でも2021年時点で48歳)と比較的高く、若者があまり来てくれない業界ですが、魅力的で安全かつ、運転しやすい最新鋭のトラックを導入すれば、物流業界を目指す若手も増える効果も見込まれます。

動画で見えてきた使い勝手

テスラ車は従来のクルマに比べてデザインが奇抜で未来的なアイデアが満載なため、初めての方は慣れるのに少し時間が必要ですが、開発に際して現場のドライバーのニーズを取り入れているし、開発の中心人物はダイムラー社で大型トラック「カスケディア」の開発も行っていたので、専門家の意見を取り入れたしっかりとした車両に仕上がっていると思われます。

運転席はご覧の通りセンターポジション+右後ろに助手席となっており、ドアは逆開きです(以下の写真参照)。ダッシュボードが目の前にないため前方視界はとてもよく、死角が少ないです。

ドライバーは横の窓から離れているため、側方や後方は目視ではなくステアリング両脇のモニターやサイドミラーで確認することになります。ダン氏によると、たくさんカメラがついているので、ドライバーはすぐに慣れるそうです。

左側のモニターは車速やバッテリー残量、エアブレーキの残圧など、車両の状態に関する情報が確認できます(エアブレーキは150PSIまでメモリがあるので、10.34×100kPaですね)。右側のモニターはナビや音楽、車両の設定など、ドライバーがパネルを操作する項目が並んでいます。

自動運転を見据えて、ステアリングコラムには指示器やワイパーのレバーもなく、全てハンドルのボタンと右の画面に集約されています。指示器(ステアリングの一番左端の上下のボタン)は慣れると直線道路では何も意識せずに押せるようになりますが、ハンドルを回している最中に指示器の操作をするのは難しいと思われます。

ステアリングの角度は従来よりも立っていて、シートも少しリクライニングしているため、乗用車のようにリラックスした姿勢で運転ができます。

右画面のすぐ下はスマホの非接触充電器、さらに手前の黄色いボタンがサイドブレーキ、赤はトレーラー側、黒いクレジットカードのようなものは車の鍵(スマホを鍵にすることも可能)、更に手前には小物入れやカップホルダーもあります。

トレーラーとの接続はヨーロッパ方式で、青と赤がブレーキ、緑が灯火類です。このあたりは仕向地や顧客の要望に合わせて柔軟にカスタマイズできると思います。

それよりも私が期待しているのは、トレーラー側にもモーターを取り付け、回生ブレーキの電力をセミのバッテリーに送る機能が将来登場することです。従来のEVは牽引すると極端に航続距離が減るのですが、トレーラー側の運動エネルギーも電力に換えられたら相当有利なはずです。

次の画像は、セミが2台とトレーラーを合わせた総重量27~32トンの構成です。司会のジェイはプロのトラックドライバーではありませんが、それでも変速の必要もなく、苦しそうに音を立てるエンジンもないため、「言われなければ重量物を牽引していることに気づかない」と述べています。

駆動は後軸のみで、後後軸がクルージング用、後前軸が加速用。普段は後後軸だけで走行し、アクセルをグッと踏み込むと自動的に後前軸もクラッチが繋がります。

セミの主なスペック

セミには、3つのモーターが搭載されており、合計出力は1500psに達します。車両重量は発表されていませんが、12.2トン前後と予想されます。同格の大型ディーゼルトレーラーヘッドはだいたい8~9トンなので、EVトラックは最大積載量が3~4トン減ってしまいます。しかし、欧米ではEVトラックは1~2トン多めに積載してよいことになっています。たまに「EVトラックはバッテリーが重すぎて、荷物は従来の半分しか積めない!」のような主張をネットで見かけますが、誤った情報ですね。

テスラのIR資料より引用。

バッテリーは超急速充電に適した800~1000Vを採用。最速30分で7割充電可能と言われています。もちろん専用の充電器が必要ですし、条件によっては7割も入らないでしょうけど、設備投資をして運行計画をしっかりすることで航続距離の心配は無くなります。

このバッテリー容量ですと、最大積載(車両総重量36.3トン)の状態で800km走行可能です。上記の急速充電と組み合わせることで、1日に1732km走行した記録(関連情報サイト)もあります。下図の右下のグラフを御覧ください。実線がバッテリーの残量(SoC)で、深夜0時に100%で出発して、朝7時過ぎに約10%を残して目的地に到着、そこから少し充電して45%ぐらいまで回復して、8時すぎに出発して……、というように読みます。ちなみに、それほど重量物を運ばない場合はもっと航続距離が伸びます。

平均速度は100km/h前後で、休憩(充電)は24時間のうち、大体3時間半。(RUN ON LESSより引用)

トルクが大きいEVトラックは登坂能力も優れており、急坂でも従来のディーゼルセミトレーラーを加速しながら追い抜くことができます(Xで見つけた関連動画投稿)。また、EVの隠れた利点として、標高がいくら上がっても馬力が落ちません。逆に空気が薄いぶん、空気抵抗が減って電費が良くなります。山間部をよく利用するドライバーは、既存のディーゼル車との差をより大きく感じられることでしょう。

載荷が重いと下り坂でブレーキを酷使することになりますが、EVトラックは回生ブレーキがあるため、ブレーキパッドの損耗が抑えられます。カリフォルニアには6%の勾配が8kmも続く大型トラックの難所があり、ディーゼルトラックなら10分間延々とモータリングしながら時速50km/hでゆっくりと下っていくのですが、触媒が冷えてしまい、昇温させるために無駄に燃料を吹くことになります。セミなら最大積載でも回生ブレーキだけで減速でき、無駄な燃料を吹くどころかバッテリーを充電することができます。

騒音や排ガスの低減においてもセミは優秀です。走行中は静かなので、接近するバイク等、周囲の音がよく聞こえ、事故を抑制しやすくなります。また、納品先によってはアイドリング禁止の所もありますが、EVなら気にせずエアコンを入れてゆっくりと休むことができます。有毒な排ガスを吸い込むことがないのでドライバーの健康にも貢献します。

パワートレインはエンジン車よりも桁違いに回転慣性が低いため、電子制御で優れた安定性を発揮できます。イーロン・マスクによるとジャックナイフを防止することも可能だそうです。オートパイロットや隊列走行、無人運転なども将来的に実装される予定のため、事故のリスクは大幅に減少すると考えられます。

3台の隊列走行で先頭車両のみ有人運転をしている様子。(出典:テスラ)

車両価格は未発表ですが、同等の大型EVトラックと似たような価格帯になるだろうとダン氏は言います。セミの発表当時、航続距離800kmバージョンは18万ドルとされており、ダイムラーのEVトラック、eCascadiaは14万ドル(航続距離370km)と言われているので、通常のディーゼル車よりは高く、3000万円近くになると予想します(1ドル=150円換算)。

なかなか手が出せない金額と思われるかも知れませんが、そこから最初の3年でディーゼル車と比べて燃料費だけで3000万円の節約効果があるそうです(アメリカの電気代や軽油代、平均走行距離での試算)。

さらにオイル交換や尿素水の補充、メンテナンスなどでも節約でき、恐らく日本でも何かしらの税制優遇があると考えられるため、イニシャルの導入コストが高くてもよく走る人ほど運用コストで安く抑えることができ、車両の寿命までの総コストなら安くなります。個人の趣味を反映する乗用車と異なり、1kmいくらのシビアな世界の商用車だからこそ、自社のルートなら導入できると判断した会社からどんどん乗り換えるだろうと私は信じています。

よくある疑問点

EVでよく聞く疑問が「冬の雪道で立ち往生したらどうするの?」です。これについては全く問題ないと言えるでしょう。セミのバッテリーは900kWh前後と予想されており、一方でドライバーが消費する電力はエアコンを付けてTVを見るなどしても3kW程度でしょうから、バッテリーのサイズに対する消費量が少なすぎて、あまり考慮する必要はありません。EVはバッテリーパックが冷えると使える電力量が減るのですが、ダン氏は「これだけ大きなバッテリーの塊なのでなかなか冷えない」と言います。

Bing Image Creatorで作成したAIイメージ。

次に気になるのが、バッテリーは劣化するのか、交換はいくらするのかだと思います。劣化についてはテスラ車がEV業界でも特に優秀で、乗用車と同じ劣化傾向だとすれば現行のバッテリーでも走行距離320万キロ、次世代バッテリーなら1,200万キロは使えるでしょう。

ただし、320万キロの寿命までずっと最大積載で800km走行できて、30分で7割充電できるわけではありません。徐々に性能が劣化していき、航続距離は最終的に1~2割減るだろうし、急速充電も30分で5割しか入らないなどが想像されるため、年数が経ってきたトラックは軽め、短めの荷物のルートに回すことも視野に入れる必要があります。

もっとも、その頃には充電網がさらに拡充されていて、そこまで航続距離は気にしなくていい世の中になっているかも知れません。

バッテリー交換の金額については情報が全く無いので推測になりますが、800km走行できるトラックが18万ドル、480kmバージョンは15万ドル。価格差が全てバッテリー価格だとして、バッテリーの価格は1125万円ということになります。

大規模災害だと電気が止まって役立たずになるのでは? という疑問をお持ちの方もいるかと思います。しかし軽油も被災地までタンクローリーが来てくれないと給油できなくなります。ライフラインの復旧は電力が最も早く、タンクローリーが被災地に軽油を届けに来るよりも先に、EVトラックは活動を再開できます。

世界的な排ガス規制の強化

世界的にエンジン車に対する規制が厳しくなっており、アメリカやヨーロッパでは2027年から大型商用車の排ガス規制が強化される予定です。これは対岸の火事ではなく、ディーゼル車の販売総数が減るため、車両価格が上がったり、製造をやめてしまうメーカーも出てくることを意味します。

この規制強化はEVシフトを促すものではなく、これまでの規制では思ったほど都市部での大気汚染を削減できなかったために行われます。特に厳しくなるのが大型車の排ガスで、欧州委員会の考え方は「大型車のマフラーの値段が多少高くなっても、それによって削減される医療費のほうが大きい」というものです。

例えばEuro7規制ではこれまでのNOxやCO2以外にもアンモニアやメタンのセンサーが必要で、PEMSやOBMといった新しい機器も取り付ける必要があるため、車両価格に反映されます。要するに、エンジン車のトータルコストを考えるときに、石油を掘って、自動車を作って、燃料を燃やして、廃車するというライフサイクルに、排ガス由来の医療費まで含めるということです。

まとめ:EVトラック導入の検討ポイント

EVトラックは、まだ全員にお薦めできるものではありません。冬にマイナス30度を下回るような地域や、3シフトで24時間走り続けるトラックなど、極端なケースでは今後もしばらくディーゼル車が使われるでしょう。

積載率が低い業務や、密度の低い貨物を運ぶ会社は航続距離が伸びるので運行計画を立てる上で有利です。

拠点間配送の業務で拠点にテスラの充電器を設置できるなら、荷役時間や休憩が1日3時間(90分充電×2回)確保できればOK。2024年問題で休憩時間や拘束時間が厳しくなるので、そこをうまく充電に当てる事が重要です。

日中しか(もしくは夜間しか)操業しないトラックは、急速充電ではなく普通充電の設備を用意すべきです。普通充電といっても、夜の10時間で500kWh以上充電するでしょうから、テスラの乗用車向け充電器「スーパーチャージャー」を数基建てておくのが便利でしょう。風の噂ですが、米国では8基建てるのに2000万円するのだとか(噂なので全く見当違いだったらゴメンナサイ)。

スーパーチャージャーをプレハブ化することで設置コストを圧縮。(出典:MCLOVIN

北海道や東北など、マイナス20度が当たり前の地域がルートに含まれる場合は、多少航続距離は減りますが、常時走行または充電されているトラックなら、それだけで熱が発生するので大きな影響はないと考えます。ただし、これはテスラから詳細な追加情報が出てくるまで安易な結論は出せません。

林業や鉱業などで山の上から資源を取ってきて平地に運ぶ業務では、空荷で登り、重い荷物を持って回生ブレーキで下ってくるので、あまりバッテリーが減らないという事例があります。逆に鉱山でも大きな穴の底から資源を持って上がる場合はかなり航続距離が少なくなるそうですが、最近では路面電車のようにパンタグラフをつけたEVもあるようです。

精密機器の輸送はギヤチェンジを全くしないセミが有利です。エアサスも標準で装備されているようなので、貨物への影響は非常に小さいと思われます。

メンテナンスは点検項目が少ないのでよいのですが、心配なのが修理です。テスラは部品によっては入手まで何ヶ月も待たされるので、テスラ・ジャパンがしっかり在庫してくれるかが焦点です。将来的には自社でパーツや部品取り車両を用意しておくのも自衛手段としてはアリだと思います。

まだまだ評価項目はあるでしょうけど、主に以上の観点から自社のトラックの利用方法を分析することで、EVトラックを導入できるのか判断できます。会社によっては合わないこともあるでしょうけど、使い方がバッチリはまる会社がたくさんあることもまた事実です。引き続き大型トラック分野の電動化に関する最新情報をお届けできればと思います。

トリビアコーナー

最後に、私の解説記事で恒例のトリビアコーナーです。今回は、もちろんセミのトリビアを。

【1】 セミはエンジンがないため、フロントタイヤの切れ角を大きく取ることができ、最小回転半径はモデル3/Y並み。
【2】 セミには12Vと24Vが備えられていて、これまで使っていたカー用品や業務システムがそのまま利用できる。ただ、気になるのは乗用車のテスラ車ではアクセサリー類をつけるとノイズ等で車にエラーが出たりするので、そのあたりはしっかり対策してほしいですね。次世代のセミには48V系の電源も用意されるそうです。
【3】 サイドミラーが付いているのはアメリカの法律で電子サイドミラー(カメラ)が認められていないため。日本では認められているため、あの巨大なサイドミラーをカメラに置き換えられたら、恐らく2~3%電費が良くなると思われます。
【4】 これまで60~70台のセミのプロトタイプが製造されました。
【5】 トラック(トレーラー)にソーラーパネルを貼ることも検討したそうですが、コストや重量増に対するリターンが少ないのでお勧めはしないとのこと。
【6】 エンジニア系ユーチューバーのジェイソン・フェンスキーによると、現在のセミのプロトタイプでも、載荷の重量だけ見ると、アメリカの大型トラックの業務の6~9割は置き換えられるのではないかとのこと(関連動画)。

文/池田 篤史

この記事のコメント(新着順)1件

  1. EVトラックには送電網の過負荷という意味で今のところ懐疑的ですが、記事中にもある通り1キロいくらのシビアな計算でゴーサインが出るなら十分価値はありそうですね。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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