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電気自動車充電インフラ整備の進捗状況/EV普及を支えるための拡充が着実に進展中

電気自動車充電インフラ整備の進捗状況/EV普及を支えるための拡充が着実に進展中

経済産業省が2023年に策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」に沿って進めているEV用充電インフラ整備の進捗状況を発表しました。2024年度末(2025年3月)現在、整備されている充電器は約6.8万口。2023年度末からの1年間で約2.8万口の増加となっています。

目次

2030年30万口へ向けて着実な増加

6月初旬、国の充電インフラ補助金政策などを担当する経済産業省自動車課から「充電インフラの整備状況」に関するレポートが公表されました。2023年10月に策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」では2030年までの充電器設置目標数を従来の「15万基」から「30万口」に倍増。急速充電器の高出力化や「充電した電力量(kWh)に応じた課金(従量課金)」や「充電事業の自立化」などの制度にも言及し、利便性が高く持続可能な充電インフラ社会の構築を目指しています。
※冒頭写真は中央道談合坂SA(上り線)に新設された最大150kWのマルチ急速充電器。

充電器数の単位が「基」から「口」に変更されたのも指針のポイント。複数口設置を前提とした改善だったと理解しています。

今回公表された内容のポイントを確認しておきましょう。

経産省発表資料PDFから引用。
出典:EV・PHEV普及台数:一般社団法人次世代自動車振興センター公表資料を基に作成
:急速充電器、普通充電器(目的地):ゼンリン、充電事業者の提供データを基に経産省推計
:普通充電器(基礎):集合住宅、月極駐車場、事務所・工場等における経産省補助実績の累計

まず、2024年度末(2025年3月)現在、日本全国に整備されているEV用充電器の数は約6.8万口(※1)で、2023年度末(2024年3月)からの1年間で約2.8万口増加しています。
(※1)2025年5月末時点で、ゼンリン、充電事業者のデータを基に経産省が推計したもの。今後見直しにより変動する可能性もある。

6.8万口のうち、急速充電器が約1.2万口、普通充電器が約5.6万口。普通充電器のうち、目的地充電が3.1万口、基礎充電が2.5万口となっています。

2024年3月から1年間の増加数に着目すると、急速充電器が0.2万口。目的地充電の普通充電器は0.9万口、さらに基礎充電の普通充電器が1.7万口と、普通充電器の口数が大きく増えています。指針が目標とする30万口のうち、急速充電器は3万口ですが、普通充電器(EV用200Vコンセントを含む)を前提とした目的地充電は10〜15万口、基礎充電は10〜20万口と示されているので、増加数の比率として、ある程度目標に沿った進展といえるでしょう。

急速充電器は出力90kW以上が大きく増加

セブンイレブン郡山南インター店の150kW(2口)器。

次に、参考として紹介されている「公共用急速充電器の場所別設置数・出力の変化」を示す一覧です。

総数割合〜50kW未満50〜90kW未満90〜150kW未満150kW
自動車ディーラー3,743
(-2)
38%695
(-515)
2,225
(+233)
665
(+151)
158
(+129)
コンビニ1,453
(+178)
15%268
(-432)
409
(+268)
732
(+298)
44
(+44)
高速道路(※)892
(+207)
9%123
(-92)
173
(+3)
460
(+172)
136
(+124)
道の駅740
(-53)
8%461
(-140)
235
(+59)
44
(+28)
0
商業施設912
(+51)
9%173
(-101)
517
(+86)
218
(+62)
4
(+4)
宿泊施設80
(±0)
1%63
(-3)
13
(+2)
4
(+1)
0
ガソリンスタンド744
(+304)
8%26
(-3)
668
(+299)
48
(+6)
2
(+2)
自治体設備552
(+23)
6%293
(-40)
229
(+40)
30
(+23)
0
その他681
(-11)
7%284
(-51)
242
(+34)
138
(+1)
17
(+5)
合計9,797
(+697)
100%2,386
(-1,377)
4,711
(+1,024)
2,339
(+742)
361
(+308)
割合24%
(-17%)
48%
(+7%)
24%
(+6%)
4%
(+4%)
出典:e-mobility powerの充電スポット一覧を基に作成。( )内の数値は、2024年3月からの増減数。
(※)高速道路は、SAPAおよびハイウェイオアシスを含む。

急速充電器の設置数は、1年間で697口増加。50kW未満が1377口減少した一方で、50~90kW未満が1024口増加、90kW以上は1050口増加しています。経産省の発表資料でも「割合を見ても前年度から50kW未満が17%減少、90kW以上のものが10%増えて全体の3割程度となるなど、高出力化が進んでいる」こと、また「ディーラー、高速道路においては、150kWの充電器の整備が進み、それぞれ120口以上整備された」ことが強調されています。

この数字の出典は「設置数のうち約9割の把握が可能なe-mobility powerのデータ」を基に作成したということなので、パワーエックスやフラッシュ(テンフィールズファクトリー)など、高出力器の急速充電サービスを展開する事業者による充電器は含まれておらず、各社の新設分を合わせると90kW以上の高出力器はさらに増加することになります。公共用急速充電器の「高出力化が進んでいる」のは、多くのEVユーザーが実感できていることと思います。

施設別の増減数に注目すると、高速道路のほか、ガソリンスタンドやコンビニの設置数が大きく増加しています。また、コンビニへの新設は50〜90kW未満(ほぼ全数が50kW器でしょう)より、90kW以上の高出力器の設置が多くなっています。飲み物を購入できたりトイレを借りられるコンビニが経路充電スポットとして増えるのは、EVユーザーとして歓迎したい動向です。

ガソリンスタンドの増加分は、e-mobility power提携の充電カードでも利用できるエネオスチャージプラスの施設が多いのではないかと思います。出力を確認すると、1年間の増加分304口のうち50~90kW未満が299口と大半を占めています。これは、エネオスチャージプラスご担当者を取材した際に聞いた「90kW以上の高出力器を増やすのは従量課金の制度が整ってから」といった趣旨の方針(関連記事)に沿ったことだと思います。

経産省の指針が従量課金の導入に言及しており、e-mobility powerでも2025年内の導入に向けて実証実験を行うなどの取り組みを進めているのは既報(関連記事)の通り。e-mobility powerの従量課金制度が始動したら、エネオスチャージプラスには「高速道路IC最寄りのSSに90kW超の高出力器を複数口設置」したステーションを続々と開設してくれることを期待しています。

高速道路では高出力複数口化が進展

新名神土山SA(下り線)。

経産省の発表資料ではさらに、「高速道路における充電器設置状況」をピックアップして紹介しています。指針が策定された2023年度末と2024年度末それぞれ、高速道路などのSAPAにおける急速充電器の口数と割合を出力別に整理したものです。

1口あたり最大出力50kW未満50〜90kW未満90〜150kW未満150kW合計
2023年度末口数21517028812685
割合31%25%42%2%100%
2024年度末口数123173460136892
割合14%19%52%15%100%

2024年度末の設置口数は892口で、前年度比で207口の増加となりました。また、50kW未満が92口減少しているのに対して、90〜150kW未満は172口、150kWが124口と大きく増加しました。資料の説明では「2024年度には、高出力化、複数口化、が進展。90kW以上が約2倍の口数(同+99%)となり、全体に占める割合も、44%から67%となった」ことを強調しています。

e-mobility powerでは高速道路の急速充電器設置数を2025年度には約1100口とすることを示しています。今年度中に200口程度増加すれば目標に達することになり、計画に沿って順調に進んでいると思われます。

今後の充電インフラ整備への懸念と期待

今回発表された「電気自動車充電インフラ整備の進捗状況」について、経済産業省自動車課の田邉国治自動車戦略企画室長に電話で少しお話しを伺いました。指針策定も担当した田邉室長としても、指針に沿った着実な進展に手応えを感じつつ、今後のEV普及を見据えてさらに利便性の高い充電インフラの実現を目指し,
EVユーザーの率直な声を注視していきたいとのことでした。

僭越ながらEVユーザーのひとりとして、進捗の現状について私なりに感じている懸念や期待を挙げておきます。

数だけを目標にしてほしくない

「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、ことに高速道路を中心とした経路充電インフラの高出力複数口化や従量課金の導入、持続可能な充電事業の自立化といった具体的なポイントを示しつつ、2030年までに急速3万口を含む30万口という「数の目標」を掲げています。

現在の設置口数は前述のように急速充電器が1.2万口、普通充電器が5.6万口で、着実に増加しています。ただし、目標の2030年まではあと5年しかありません。2024年度並みの1年で約2.8万口のペースでも増加数は約14万口。現状の約7万口と合計しても21万口で、30万口には届きません。

急速充電器に注目すると、現状の1.2万口を「2030年3万口」にするためには、年間およそ5600口程度は増やす必要があることになります。とはいえ、目標の数だけを追いかけて、使われない(さほど利便性が高くない場所など)急速充電器が増えてしまうのは避けてほしいと願います。

●経路充電、基礎充電代替インフラとして高稼働率が見込める場所に設置する。
●公共充電インフラとして、幅広いEVユーザーにとって使いやすいサービスを拡げていく。
●稼働率が高いステーションの複数口化を進めていく。

私の実感から考えて、おそらく大多数のEVユーザーが求めているであろう条件はこんな感じです。こうした条件を満たしながら、ユーザーにとって本当に利便性の高い急速充電器設置を進め、2030年3万口に届かなかったとしても、それはそれで納得できると思っています。既設器の稼働率を評価して充電サービス事業者に設置場所選定の改善を求めるなど、EV普及へ向けた大きなビジョンをもって取り組んでほしいと思っています。

NACS規格へのスタンスを示してほしい

急速充電器について、もうひとつ気になるのがNACS(North American Charging Standard=北米充電標準規格)への日本としてのスタンスです。

テスラの規格をもとに策定されたNACSは、急速充電と普通充電が同じポートで使用できたり、水冷ケーブルで高出力充電が可能であるなど、EVユーザーとしては歓迎すべき優れた規格であることは間違いありません。日本国内にはすでに日本が中心となって策定した国際標準であるCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電器整備が進んでおり、引き続きチャデモで前進というスタンスが規定の方針かとは思うのですが……。

トヨタや日産をはじめとする日本メーカーも、北米で発売するEVはNACS規格とすることを発表しています。さらに、ソニーホンダモビリティのアフィーラ(AFEELA)に続き、今年5月にはマツダが「2027年以降に日本国内で販売するバッテリーEVの充電ポートにNACSを採用」することを発表しました。

日本国内でNACS規格対応の充電器設置も始まっています。

充電ポートの規格はEVを発売する自動車メーカーの選択であって、ユーザーが選べるものではありません。マツダが突然発表したように、たとえば、これから多くのEV車種を日本市場に投入するであろうトヨタが「2027年以降はNACSを採用」なんてことになったら、チャデモ規格のEVは一気に時代遅れになってしまいかねません。

EVを知らない人にとって、ただでさえややこしい充電のこと。さらなるEV購入を検討する人たちの不安を払拭するためにも、公共用充電インフラのNACS対応が「あり得ない」のか「可能性はある」のか、明確な国としてのスタンスが示されるといいのになと思います。海外に目を向けると、欧州ではコンボ規格(CCS2)、中国ではGB/Tで推進という姿勢を明確に打ち出して、テスラ車も欧州ではCCS2、中国はGB/T規格の充電ポートを採用しています。

基礎充電インフラの拡大へさらなる施策を期待

最後のポイントは、集合住宅などの基礎充電(普通充電)インフラに関する課題です。発表資料によると、2024年度の1年間で基礎充電設備は0.8万口から2.5万口へ、約1.7万口増加しています。2030年までの5年が同じペースで増えたとすると約8.5万口、現在の2.5万口と合わせて11万口で、一応の目標数には到達することになります。

発表資料では「普通充電器(基礎)については、集合住宅(賃貸)を中心に整備が進展。合意形成の必要な集合住宅(分譲)の整備を促進していく」と説明されていて、今後も前向きに進んでいくのでしょう。また、さまざまな取材を通じてマンション管理組合に関わる人たちのEV充電設備に対する理解が進みつつあることも実感しています。とはいえ、身近な知人などと話していると「住んでいるマンションで充電器設置を提案したけど通らない」といった声を聞くことが少なくありません。

EVにとって基礎充電環境は、日常的な利便性を左右する最も重要なポイントです。補助金や情報発信で機運を変えていくのはもちろん大切なことですが、さらに具体的な基礎充電インフラ拡充の施策が進められてもいいように感じます。

たとえば、欧米で進められている「充電の権利法(Right to charge law、Right to plug law)」の制定は有効な一手になるでしょう。これは、集合住宅や賃貸住宅の住民が充電設備を設置する権利を保障する法律です。法律で決まれば、「設置するかしないか」から「どのように設置するか」に論点が移り、さらに多様で利便性が高く、充電料金も合理的なサービスの創出に繋がっていくのではないかと思います。

また、集合住宅の駐車場だけでなく、事業所の従業員用駐車場への普通充電設備設置を進めるのも有効でしょう。現在の制度でも事業所(事務所・工場)駐車場への補助金申請は、集合住宅などと同様に認められており、普通充電設備の場合は「駐車場収容台数の10%以下かつ10口以下」、充電用コンセントの場合は「20口以下」といった条件が定められています。

現行制度の情報発信をさらに進めるのとともに、社用車EVの新規導入と併せて充電設備設置の補助金を申請すればさらに多くの設置口数を認めるとか、企業のEVシフトを促進するような施策があると、一般メディアも取り上げるトピックになりそうな気がします。

なにはともあれ、魅力的な国産EVを!

経産省の発表でわかるように、日本国内のEV充電インフラは進化しています。ことに高速道路やコンビニの高出力複数口化の効果は顕著で、いまだに「EVは充電場所が少ない」といった論評を目にすると「いったいいつの時代の話をしているの?」と思うのがEVユーザーとしての実感です。

とはいえ、日本の新車販売におけるEVのシェアは低空飛行を続けています。2022年に日産サクラなどの新型軽EVが発売されてBEVのシェアは一時3%に迫るほどに上向きかけたものの、サクラの販売台数が落ち着いて、最近はまた1%前後に逆戻りしています。「ニワトリか卵か」でいえば、充電インフラという「卵」が先に整いつつあるのが現状といえるでしょう。

先日、新型日産リーフが発表されました。さらに今年は、ホンダの軽EVや、スズキの「e VITARA」など、日本メーカーの新型EVがデビューすることが見込まれています。

日本でEV普及が進まないのは「欲しくて買える車種が少ない」のが最大にして唯一の原因というのは私の持論。充電インフラは着々と進化しています。あとは「日本メーカーから魅力的なEV車種が出揃ってくるのを待つばかり!」と期待しています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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