Euro NCAPとは?
消費者団体による自動車の安全テストは世界各国で行われていますが、最も高い信頼を得て権威があるとされているのが「Euro NCAP(European New Car Assessment Programme:ヨーロッパ新車アセスメントプログラム)」です。Euro NCAPは1997年に設置された消費者団体が行っている製品評価テストで、アメリカのNCAPの欧州版とも言えます。メーカーからはもちろん、政府からも独立した形で試験と評価が行われています。
このテストで試される項目は「大人の乗員保護」、「子供の乗員保護(チャイルド・プロテクション)」、「歩行者保護」、「安全支援機能(事故抑止機能)」の4つです。これらが点数化されて評価されますが、同時に、細かい点数より見やすさを求めた「星の数」による評価も公表されています。
対象となるのは欧州圏内で販売されている自動車です。自動車の安全性を「衝突実験」と「衝突予防性能試験」から分析して評価し、結果を公表することで、ユーザーに各自動車の安全性の目安となる情報を提供し、同時に自動車メーカーに対してはより安全な自動車の開発を促すことを目的として行われています。
Euro NCAP 2019年第8回
記事執筆開始時点では「2019年第8回(the Eighth Round of 2019)リンク先は英文による概要リポート」の公表データをもとにしていましたが、「2019年第9回(the Ninth Round of 2019)」のEuro NCAPの発表が12月18日(水)の10:00(CET:Central European Time、中央ヨーロッパ時間)に行われ、年間のランキングが算出されたので、2回の内容を交えつつ、第9回の結果を中心にお伝えします。なお第9回は、日本時間だと時差が「+8時間」なので、12月18日の18:00に公開されました。
第8回の結果ではポルシェ初のBEVである「タイカン(Taycan)」が、「テスラ・モデルX」を追うように最高ランクの「5つ星」に入り、話題になりました。またガソリン車ですが、スバル・フォレスターが5つ星に入って話題になり、TVなどのCMで年末にかけて盛んに宣伝が行われました。目にした方も少なくないのではないでしょうか。
さて、ポルシェが満を持して投入したタイカンですが、評価項目を詳しく見てみると、4つの項目のうちの「乗員保護」で、大人と子供の両方の乗員の安全に関して80%以上を獲得しています。これについてEuro NCAPでは、「体の大きさや着座位置が異なっていても、乗員の安全性にばらつきがない」と高い評価を与えています。
そしてテスラ・モデルXですが、「ほとんどの場面で、衝突が回避されたか緩和された」と、やはりその安全性を高く評価しています。
Euro NCAP 2019年第9回
それでは、2019年最後の第9回テストが終わった段階での年間ランキングを見てみましょう。こちらの表も内燃車(ICE)、ハイブリッド(HV)、電気自動車(BEV)が混在していますが、総合得点で最上位のカテゴリーである「5つ星」に入ったものを上から並べてみます。
1. メルセデス・ベンツCLA
2. BMW Z4
3. テスラ・モデル3
4. BMW 3シリーズ
5. スバル・フォレスター
6. テスラ・モデルX
7. フォルクスワーゲン T-Cross
8. マツダ 3
9. シュコダ・スカラ
10. マツダ CX-30
このように、トップ10のなかにバッテリー式電気自動車(BEV)が2台入っています。いずれもテスラ製ですね。
さらにこれに続いて同じ「5つ星」カテゴリーには、「トヨタ系」だとカローラ、レクサスUX、RAV4、「日産」はジューク、「ホンダ」はCR-V、欧州大手では「フォルクスワーゲン」がゴルフ、「アウディ」はA1、Q7、Q8、「ルノー」がクリオ、「シトロエン」はC5エアクロス、DS3クロスバック、その他の欧州系メーカーでは「セアト」のタラッコ、「シュコダ」がカミーク、韓国からは「キア」のシード、アメリカからは「フォード」のモンデオ、クーガ、エクスプローラーがランクインしています。
電気自動車(BEV)だけで見ると、上位のテスラ・モデル3とモデルXに加え、メルセデスベンツEQC、ポルシェ・タイカンも同じ「5つ星」に入っています。世界的に市販されているBEVの種類が極めて限られている現状で、5つ星に4台ものBEVが入っていることは、BEV全般の安全性が高めであることを示唆していると言えそうです。
第8回では同じ5つ星に入ったものの、タイカンより下位だったモデル3ですが、第9回では再び上位に返り咲いています。世界的に評価の高いモデル3ですが、安全性能にも抜かりは無いようですね。
比べてみよう
せっかく年間ランキングが出ているので、同じようなクルマを比べてみましょう。BEVどうしを比べるよりも、BEVと同じクラスの人気ICEを比べたほうが面白そうですね。
1. 2019年最高位の「メルセデス・ベンツ CLA」と、BEV最高位の「テスラ・モデル3」を比べる。
CLAは「472〜534万円台」なのに対して、モデル3は「511〜717万円台」なので、モデル3の方が高価格帯に分布しますが、重なる価格帯もあるのでよしとしましょう。
評価項目 | 大人の乗員保護 | 子供の乗員保護 | 歩行者保護 | 安全支援機能 |
---|---|---|---|---|
メルセデス・ベンツCLA | 96% | 91% | 91% | 75% |
テスラ・モデル3 | 96% | 86% | 74% | 94% |
大人の乗員保護性能と安全支援機能は同じレベルですが、子供の乗員保護と歩行者保護がCLAの方が上ですね。折角なので、さらに詳しく結果を見てみましょう。
子供の乗員保護に関するCLAへのコメントです。
正面オフセット衝突テストでは、ダミー人形の測定値は、6歳と10歳の両方の子供のすべての重要な身体領域に対して良好または適切な保護を示しました。サイドバリアテストでは、頭部加速度の測定値に基づいて適切と評価された10歳児の頭部を除く、身体のすべての重要な部分が良好に保護されていました。 CLAには、助手席に後ろ向きのチャイルドシートが取り付けられたことを自動的に認識し、その座席位置のエアバッグを無効にするシステムが装備されています。メルセデス・ベンツのこのシステムは、堅実に機能したことを示しました。 CLAの乗員固定システム(シートベルトなど)は、すべて適切に設置されており、適切に収容することもできます。
対して、モデル3へのコメントは以下です。
正面オフセットテストでは、10歳の子供の場合、首の緊張のダミー測定値がこの身体領域のわずかな保護を示しました。そうでなければ、両方の子供のダミーの保護は良好でした。サイドバリア・テストでは、すべての重要な身体領域の保護が良好であり、テスラ・モデル3は評価のこの部分で最大ポイントを獲得しました。(欧州車では10年以上前から装備されているように)助手席エアバッグを無効にして、チャイルドシートを助手席位置に後ろ向きに設置して使用できるようにすることが可能です。エアバッグの状態に関する明確な情報がドライバーに提供され、システムが有効に作動します。 モデル3が設計されているすべての乗員固定システムは、車に適切に取り付けて、また適切に収容することもできます。
ということは、評価の差は「10歳の子供乗員の、首への影響のわずかな差」から出ているのでしょう。いずれにせよ、どちらのクルマとも、高い安全性能を示していると言えそうです。
2. 「テスラ・モデル3」と、登場時から競合すると言われる「BMW 3シリーズ」を比べる。
どちらもLarge Family Carのカテゴリーで、3シリーズの価格帯「461〜980万円台」に対して、モデル3が「511〜717万円台」と、3シリーズの高級価格帯を除けば、標準的なグレードはほぼ重なっています。
評価項目 | 大人の乗員保護 | 子供の乗員保護 | 歩行者保護 | 安全支援機能 |
---|---|---|---|---|
BMW 3シリーズ | 97% | 87% | 87% | 76% |
テスラ・モデル3 | 96% | 86% | 74% | 94% |
大人の乗員保護・子供の乗員保護はほぼ同等ながら、歩行者保護では3シリーズがずっと上、逆に安全支援機能ではモデル3がずっと上と、なかなか拮抗しています。順位もモデル3の「3位」に対して、僅差の3シリーズが「4位」とガチンコです。どちらを選んでも悔いが無い選択でしょう。ただし、モデル3は走行中はCO2は一切出しませんし、自動運転のアップグレードが頻繁に届いて「常に進化」するところがアドバンテージでしょう。
3. 「テスラ・モデルX」と、競合すると言われる「メルセデスAMG C63」を比べる。
モデルXが「1110〜1348万円台」、同じ価格帯だとAMG C63あたりだと言われますが、こちらはSUVではなく高級セダンですし、過去のEuro NCAPデータも見当たらないので、今回は諦めました。
4. 「ポルシェ・タイカン」と「テスラ・モデルX 」を比べる。
登場したてで、前回第8回のテストではモデルXに肉薄したタイカンですが、最終の第9回では同じ5つ星ランクながら、モデルXより下位に落ちています。評点を見てみましょう。
評価項目 | 大人の乗員保護 | 子供の乗員保護 | 歩行者保護 | 安全支援機能 |
---|---|---|---|---|
ポルシェ・タイカン | 85% | 83% | 70% | 73% |
テスラ・モデルX | 98% | 81% | 72% | 94% |
子供の乗員保護と歩行者保護は同等ながら、大人の乗員保護と安全支援機能で差が出ています。また、電費に関してもテスラ・モデルXには及ばないとの意見もありますが、初のBEVでここまで頑張っているポルシェには、今後さらに頑張ってほしいと感じました。
おわりに
安全という視点でBEVを含めたいくつかのクルマを見てきましたが、テスラの健闘が印象的でした。「最近のクルマは幅が広いねぇ」という意見を良く耳にしますが、側面衝突を考えると致し方ないことが、このEuro NCAPの結果をみていてもよく分かります。この点で、日本国内で人気のあるクルマはなかなか高スコアは取りにくいのもうなずけます。
評価項目で近年重要度を増してきているのが「安全運転を支援する機能」であることは否定できません。事故を未然に防ぐ機能です。スバルが大事にするアイサイトもそうですね。テスラの画像解析や複数のセンサをもちいた安全運転支援は、世界中を走るテスラ車からの情報を活かしたアップグレードが頻繁に行われ、どんどん進化することもよく知られています。これが刺激となり、他のメーカーのクルマもどんどん安全の方向に進化してくれることを切に願います。
なお、Euro NCAPのクライテリアはどんどん進化するので、たとえば 2013年の「歩行者保護機能 86%」と2019年のそれを比較することは無意味だと付け加えておきます。当ブログの読者には、釈迦に説法ですが……。
(文/箱守 知己)