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モデル3でEV優位を実感/自動運転システムとAIで変わる2030年の自動車模様

モデル3でEV優位を実感/自動運転システムとAIで変わる2030年の自動車模様

コンサルタントの前田謙一郎氏がマイカーとして新型テスラ『モデル3』を購入、改めて実感する「進化」をお伝えするシリーズ第2弾。世界で拡大する電気自動車の販売シェアを確認しつつ、自動運転システムとAIの発展が、自動車をどのように変えるのか考察します。

目次

もうガソリン車に戻るのは難しいことを実感

前回は納車されたテスラのモデル3を日々運転したことで、改めて感じたEVの快適性やテスラの先進性について紹介した(関連記事)。ちょうど1ヶ月ほど乗って感じるのは、運転だけでなくアプリやユーザーインターフェースもスマホ並みの機能性で、この便利さは一度体験すると従来のガソリン車に戻るのは難しいと思わせてくれることだ。
(※冒頭写真は新型モデル3の「ドッグモード=ペットを待たせているあいだも車内を過ごしやすい温度に保つ機能」紹介写真。出典:Tesla, Inc.)

新型モデル3(出典:Tesla, Inc.)

そしてこの感覚は車での移動がもはや運転の楽しさだけのものではなく、デジタル化や知能化などによって、移動時間をいかに快適に、効率的に変えていくかということに繋がる。世界中でEVを中心とした自動車の自動化とAI活用は加速しているが、テスラを運転することで、その潮流が実感として理解できる。今回は2024年の世界の電動化状況を見ながら、加速する自動運転やAI、今後の自動車模様について考えてみたい。

2024年の世界の電気自動車は25%も成長

2024年の世界の電気自動車(BEV・PHEV)登録台数はイギリスの調査会社Rho Motionの調査によると約1710万台となり、2023年度の約1370万台から25%も成長した。世界の全登録台数はS&P Globalのリリースによると約8820万台で、そのシェアは19%となり、おおよそ5台に1台はEVであったということだ。

2024年世界のEV販売台数 (出典:Rho Motion)

グローバル市場は全体として成長したが、地域間の格差も拡大した。北米では9%の成長、欧州市場は3%縮小し、中国は40%成長という結果になっている。特に2024年のドイツでの補助金廃止はヨーロッパ市場全体に影響を及ぼしたと考えられる。

世界地域別EV台数の進捗 (出典:Yahoo Finance ※データ: Rho Motion)

また、BEVとPHEVのそれぞれの内訳についてはAutovista24が次のような数字を出している。BEVは約1080万台の登録で前年度対比13.6%の増加、PHEVは約650万台となり約54%という大幅な成長となった。このPHEVの成長に関してもBYDに代表される中国メーカーが牽引した形だ。私が以前勤めていたポルシェではPHEVはパフォーマンスを上げる機能として定義されていたが、市場のBEV移行への過渡期において、PHEV成長が今後どう推移していくのかは新しい注目すべきポイントだ。

中国のPHEVに対しての考え方は、昨年末に訪問した上海での市場調査の際に現地ユーザーへのインタビューによってたくさんのインサイトを得ることができた。上海のような都市部ではいたる所に充電施設がありBEVで全く問題なく、先進的なイメージもあり好まれるが、広大な中国で1000km以上も離れた田舎へ帰省するようなユーザーも多く、彼らはPHEVを選択すると述べていた。しかしながら、そのユーザーたちも将来的に中国各地で充電ネットワークの拡充がさらに進めばPHEVを選ぶ理由はあまりないと思うと語っていた。

先日、BYDがスーパーeプラットフォームのカンファレンスを行い、1MW(1000kW)の超急速充電と10Cの充電レートを実現。4月に発売する新プラットフォーム搭載車種で、わずか5分で407kmの航続距離を補充可能であることを発表した(関連記事)。今後、中国をはじめとして、EVの充電性能及び充電ネットワークの進化と拡充はますます進んでいきそうだ。

BYDスーパーeプラットフォームの発表会。

2030年までには自動運転が競争優位を決定づける

以上のような自動車業界の電動化はこれまで脱炭素化や環境規制をトリガーとして進んできたし、中国においては従来メーカーの市場優位を覆し、成長産業とするため国策としても推進されてきた。

同様に、今後数年間は自動運転が競争優位を決定づけるだろう。そしてそのためにもBEVであることは必要最低条件となる。テスラのFSDやBYDが発表したGod’s Eye(神の目)自動運転システムは、カメラ、レーダー、LiDAR、AIチップなどを駆動するために数十~数百ワットの電力を必要とするが、これはBEVの大型バッテリーによって賄うことができる。自動運転の頭脳であるAIが常時稼働する未来では、BEVの直接電力供給が圧倒的な利点となる。

自動運転が24時間稼働する交通社会においては運用コストも重要になってくる。BEVの燃料代のメリットと再生可能エネルギーとの相性の良さは長期的な経済合理性があるし、BEVはフリートとしてのスケーラビリティでも内燃機関車を圧倒する。テスラのロボタクシーが示したようにワイヤレス充電による一元的な充電インフラでサービス全体として効率的に管理が可能になり、内燃機関車の燃料供給網の非効率さとは比べ物にならないだろう。

また車両間データ共有が容易になるのもメリットだ。たとえば、テスラやBYDのフリートが走行データをリアルタイムで集約し、AIの学習を加速することに繋がる。これにより、フリート全体の自動運転性能が指数関数的に向上する。

来年立ち上げ予定のテスラロボタクシー(出典:Tesla, Inc.)

現在、市場を牽引する自動運転(高度運転支援)の代表として挙げられるテスラのFSDは先月から中国でOTAアップデートを通じて「オートパイロット自動支援運転」として展開を開始した。完全自動運転ではなくドライバーの監視が必要なシステムであるが、北米版と同じカメラ8台のビジョンベース、HW3と4に対応、エンド・トゥ・エンドAIで動作する。北京の狭い胡同や歩行者・スクーター混在の道を巧みに走行、車線が曖昧なエリアや未舗装山道でも柔軟に対応、大型トラックを避ける逆車線選択など人間らしい判断も実現していることが、多くの動画などで紹介されている。さらに今後はヨーロッパやインドへの展開が期待される。

BYDの「God’s Eye」にも注目したい。2月の発表で全車種に無料搭載を予定しており、約9,500ドルの「Seagull」から「Yangwang」ブランドの高級ラインにまで対応。3段階(下からC、B、A)の構成になっており、Cはカメラベース、BとAはLiDARを追加し、最大600 TOPSの処理能力で都市や高速をカバーする。DeepSeekのクラウドAIと5G連携で、7200万km/日のデータを学習し、性能を日々進化させるとのことだ。

アメリカでもウェイモがロボタクシーサービスの地域を拡大しているし、昨年はクロアチアのリマックもスーパーカーの次は高級ロボタクシー「ヴェルヌ」を発表した。このように自動運転は単なる技術革新を超え、コスト削減と安全性向上を実現する社会インフラへと進化し、この競争優位が自動車市場を形作るであろう。

リマックの高級ロボタクシー「Vernu(ヴェルヌ)」(出典:Rimac)

BYDが採用するDeepSeekが話題になったが、先日テスラもGrok3を発表、OpenAIのGPT-4oやDeepSeekを超える優位性を持ち、従来のGrok2より桁違いに強力で地球上もっとも賢いAIだと、イーロン・マスクが説明していた。今後テスラはこのチャットボットをテスラ車に搭載する予定であるが、自動車は運転する機械から、巨大なモバイルPCプラットフォームへと転換しつつあるとも言える。

このように、2030年までには競争力のあるBEVを作れないメーカーは淘汰され、自動運転を自前で作れない会社はサプライヤー化、もしくは少数の高級車製造に留まらざるを得ないことが予想できる。

内燃機関車の役割は

多くの自動車メーカーがミッションとして掲げる人間の移動をより快適に、安全で効率的にするという目標は自動運転とAIによって次なるステージに進まなければならない。もちろんFun to Drive、運転していて楽しい車も引き続き必要だが、それもBEVにおいて実現可能だ。

内燃機関に残された役割は感情に訴えかけるエンジンや排気音、マニュアルで操るガソリン車ならではのドライビングプレジャーを楽しむためのツールとなるだろう。しかしながら、このような純粋なガソリン車で走る喜びは、高騰するガソリン代や税金、排ガス規制などにより非常にラグジュアリーで趣味性が高いものになっていくことが予想できる。日常の通勤や買い物、ロングドライブなどには自動運転機能を備えた電気自動車が便利になる一方、特別な週末にはマニュアルのガソリン車を操って箱根やサーキットに行く、そのような車の使い分けは今後ますます顕著になっていくと思う。

ガソリン車とフィルムカメラは似ている。(筆者が愛用するフィルムカメラ)

最近はフィルムカメラがブームになっているが、筆者もライカM6でその写真を撮る(車を運転する)という行為を楽しんでいる。オートフォーカスはなくマニュアル、露出計は内蔵されているが全ての設定を自分で決めなければいけない。被写体や目的を決めてじっくり向き合い、そのシャッター音や手に持った質感は、例えばポルシェのマニュアル車を操りエンジン音を楽しむのと全く一緒の感覚だ。

フィルムの質感やアナログ撮影という動作を楽しんでいるわけだが、とても費用がかかる。ガソリン代が高騰するようにフィルム代も高くなっていて、1ロール3000円以上するものもあるし、現像代も数千円かかる。最近は「JDM」というキーワードが注目されて、カスタマイズなどの車カルチャーが再熱しているが、これもガソリン車が持つノスタルジーを感じるアナログな楽しさが大きいと思う。

新型モデルY(出典:Tesla, Inc.)

今回、再びテスラのモデル3を所有し1ヶ月以上乗ったことで改めて感じたのは「BEVの優位性が自動運転やAIの搭載をますます加速し、より安全で効率的な交通社会を実現していく」ことだ。テスラのモデルYは2024年もトヨタカローラの世界販売台数を上回り、世界で一番売れたモデルになった。トヨタも中国で破格の売り出し価格のbZ3Xを発売し、欧州でC-HR+などの新型EVも発表した。2025年も世界の自動車業界は電動化と知能化によってとても面白くなりそうだ。

文/前田 謙一郎YouTube/ Spotify

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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