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EVの航続距離はもっと短くていい?【03】小さなバッテリーを求めるユーザーはごく一部

EVの航続距離はもっと短くていい?【03】小さなバッテリーを求めるユーザーはごく一部

3回シリーズの最終回。アメリカのメディア『CleanTechnica』で紹介されたEVの航続距離についてのシリーズ記事です。別の筆者が「小さなバッテリーのEVが適している顧客はごく一部」と反論しています。全文翻訳でお届けします。

【元記事】Let’s Talk About EV Range by Maarten Vinkhuyzen on 『Clean Technica
※冒頭写真はGrokで生成したイメージです。

目次

EV航続距離の話をしよう

航続距離について話をしましょう。あなたにとって航続距離とは何でしょう? 先日、ルーシッドのCEOであるピーター・ローリンソンが10年後に航続距離290km、30kWhバッテリーのミッドサイズファミリーカーについて発言しました。CleanTechnicaのザック・シャハンはこれを受けて、航続距離の少ない車を作ることの利点についての記事を書きました。

両者とも、議論のベースとなるのは典型的な「平均的なEVの使用法」で、全員に当てはまるものではありません。平均の定義に当てはまる人は多くありません。平均サイズというと、たとえば「軍服のサイズの話」が有名です。大きすぎるか、小さすぎるかのどちらかで、ぴったりフィットする人なんていません。

BEVオーナーはみんな、EVの航続距離がいかに曖昧なものか理解しています。そして、マイカーについても熟知しているので、航続距離に不安を感じることはめったにありません。BEVの航続距離が心配なのは、ガソリン車に乗っている人たちです。では、そういう人たちにとっての航続距離とは何なのか、さらに重要なのは、そのような人たちにとって不安を感じさせない航続距離とは何なのかを見てみましょう。

私がエンジン車のファンだった頃、私にとって航続距離は、ガソリンを入れてから次に給油するまでの距離でした。夏は1100~1300km、冬は800~900kmでした。なぜ知っているかと言うと、ガソリンスタンドに行くとトリップメーターをリセットする習慣があったからです。ほとんどのエンジン車のドライバーは、自分の車の航続距離を明確に把握していません。ガソリンスタンドに行くのは、ガソリンが少なくなってきたときか、ちょうどタイミングがよかった場合だけです。

エンジン車はガソリンタンクが空になると警告灯が点滅(または点灯)して、自動的に 「リザーブ 」に切り替わります。まあ、今ではリザーブを使うために燃料コックを回すなんてありませんが、それでもリザーブを使って運転できることは知られています。アメリカではどうなっているか知ませんが、私の経験ではリザーブは高速道路を時速100kmくらいで走れば、100kmはもちます。

BEVには、定められた航続距離以外のリザーブはありません。通常、BEVのバッテリーはガソリンを満タンにするようには充電しません。ハイニッケル電池(NCMまたはNCA)を使用している場合、おそらく80%以上は充電しないようにしていますよね。長距離ドライブの出発時だけは例外的に100%充電をすることもあるでしょう。私の車はバッテリー残量が20%に達するとパニックを起こしますが、高速道路を走る場合は残量30%で次の充電器を探し始めるとよいでしょう。

不安を感じさせない航続距離

では、私が考えるBEVの「不安を感じさせない」航続距離について説明しましょう。多くの人にとって、市街地や田舎を走る場合は残量80%から20%の間を使い、高速道路の長距離走行では80%から30%の間を使うというものです。もしくは単純にメーカーが謳っているEPAまたはWLTPの航続距離の60%から50%ぐらいの距離と思ってください。

ローリンソン氏の提案に話を戻すと、「30kWhのバッテリーで290km」は市街地走行の話なので、不安を感じさせない航続距離は175km。高速道路ではその半分になることも。テキサス州のフォートワース西部からダラス東部まで行き当たりばったりで走ろうとしないでください。距離にして95kmあるし、ダラスの中心部を避けると110km以上になります。アメリカの都市部は場所によってはとても広大です。

セカンドカーやサードカーには、この航続距離でも十分なことが多いです。1台目、もしくは1台しか所有していない場合、購入を検討する際に限界がどのあたりにあるのか知っておく必要があります。もしお住まいの地域に急速充電器がたくさんあるなら、1台目から航続距離が少なくても十分かもしれません。

では、なぜそのような航続距離が短い車を作るのでしょうか? そこで、もう一度航続距離について考えましょう。

EV購入検討者の多くに受け入れられるBEVが何なのか考えるとき、私は60kWhのバッテリーを搭載した標準的なBEVを使っています。BEVが世間一般に販売され始めた最初の10年間は、特にその傾向が強かったと言えます。小さなバッテリーを積んだEVは、ほとんどの一般的な使用法において、エンジン車の代わりになるものではありませんでした

一般に許容できる最も小さなバッテリーを積んだモデルを選ぶ理由は主に2つあります。つまり価格とバッテリーパックの重さです。現在、Cセグメント(サブコンパクト)のBEVの価格はエンジン車より約1万ドル高く、車両重量も数百kg増えます。

2010年当時、GMボルト(Volt)の60kWhバッテリーは約9万ドルだったと推測されます。日産リーフの60kWhバッテリーはおそらく約7万5,000ドル。しかし、2030年にはこれらのバッテリーは、内部の成分と市場の発展次第で1500~2500ドルまで落ちるかもしれません。

現在開発中の新技術により、バッテリーパックのエネルギー密度(kWh/kg)は今後5~10年で3倍とは言わないまでも、2倍になる可能性があります。そうした新技術のひとつが固体電池です。

ローリンソン氏が考えている10年後では、30kWhのBEVが60kWhのBEVに対して、価格でも重量でも競争優位性はないのです。

なぜそうしたEVモデルの機能性や使い勝手を制限するのでしょう?

ザックの主張は、ここ最近の市場についてのものです。小さなバッテリーのEVが適している客層が存在するのは、彼の言う通りです。でも、それは市場のごく一部であり、小型バッテリーEVは下取り価格が落ちる速度も早い可能性が高いです。私は、中国や韓国が現在ヨーロッパで販売しようとしている興味深い車種以外は市場に投入する時期ではないと思っています。

【編集部注】 3回にわたるシリーズ記事。読者のみなさんはどのように感じたでしょうか。シリーズ記事へのコメントでご意見をいただけるとうれしいです。「ちょうどいい」バランスの航続距離ってどのくらい? というのは日本のEV普及を進めるためにもすごく大事なポイントだと思うので、追ってEVsmartブログ編集部としての考察記事をまとめたいと考えています。

日本でも発売されたヒョンデ「インスター」。49kWhのバッテリーを搭載したグレード(価格は335万5000円〜)でWLTCモードの一充電走行距離は458kmと発表されました。

翻訳/池田 篤史(翻訳アトリエ)

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この記事を書いた人

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 軽自動車で300km、30ないしは40kWh は欲しいですね。
    バッテリーを守る為に80%充電とかいうなら尚更です。

    何しろバッテリーの容量は選べませんから。

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