EV放浪記2.0【004】ソーラー電気自動車は実現するか? 世界一を目指すソーラーカーの最新技術

Honda eオーナーの篠原さんがEVライフを探求する連載『EV放浪記』。第4回はソーラーカー世界大会に挑戦する工学院大学のチームを訪ねてのレポートです。ソーラーEV実用化の可能性を探っています。

EV放浪記2.0【004】ソーラー電気自動車は実現するか? 世界一を目指すソーラーカーの最新技術

工学院大学ソーラーチームの発表会へ

ソーラーカーの世界大会に挑戦する工学院大学(東京都八王子市)の学生チームが7月5日、大会出場に向けて設計・製作した新車両を発表した。太陽光だけで走り続けるソーラーカーは、EVの究極的なかたち。最先端の技術を覗いてみると……。

愛車のHonda eで訪ねるつもりが、発表会場は同大学の新宿キャンパス。近かったので今回は手軽なバイクで行っちゃいました。

工学院大学ソーラーチーム(チーム紹介公式サイト)は、自分たちで開発したソーラーカーで世界大会優勝を目指すという学生プロジェクト。約100人のメンバーがいるそうだ。発表会は、応援団に就任したタレントの井上咲楽さんや宮城弥生さんも登場するなど、華やかな雰囲気で行われた。

チームが目指しているのは、今年10月にオーストラリアで開かれる「2023ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ(BWSC)」だ。同国北部のダーウィンから南部のアデレードまで、3000キロ以上の距離を走る大陸縦断レースで、今回は世界23カ国から43チームが参戦予定。最速到達を競うチャレンジャークラスに挑む。

工学院大学ソーラーチームの新型車「Koga」。タレントの井上咲楽さんと宮城弥生さんも応援。

お披露目された新車両「Koga(コーガ)」を見て、ちょっと驚いた。もう少し手作り感のあるものを想像していたからだ。全然違っていて、ゆるさとは無縁。一目でタダモノじゃないとわかる。地を這うような流線形のボディ。一体化した太陽光パネル。タイヤは接地面以外は隠されている。コックピットは極細で、みるからに空気抵抗が少なそうだ。

ソーラーカーに憧れて入部したというプロジェクトリーダーで、今回のドライバーも務める中川立土さん(工学部3年生)が舞台に立ち、「ドライヤーを使うぐらいの電力で、時速100kmで走れます」などと車両を紹介してくれた。

1kWのパネルで最高速度は130km/h!

車載の太陽光パネルは、最大1000W(1kW)の発電能力がある。最高速度は130km/hに達するという。レースタイムは午前8時から午後5時までと決まっていて、その日にたどり着いた場所で野宿する(!)。けっこうワイルドなレースのようだ。

容量5kWhのバッテリーも搭載している。一般的なEVとは違って、あくまでも補助的なもの。Kogaは晴れていて平地なら、太陽光パネル(最大出力1kW)の電力とモーター出力が時速100km前後で「釣り合う状態」になって、延々と走り続けることができるそうだ。走りながらバッテリーに蓄えた電力は上り坂などで必要な時に使う。得られた電力を、状況に合わせて効率的に使い切るのがドライバーの腕の見せ所だ。

車体重量は140kgと超軽量。乗員は80kgになるようにウエートで調整する。太陽光パネルは、汎用の住宅向けを使うことがレギュレーションで決まっている。各車イコールコンディションで競うためだ。そうした条件の中で、空気抵抗の少ないフォルムを実現するために前1輪、後2輪にすることにしたという。

ソーラーカーでポピュラーなのは、逆の前2輪、後1輪らしい。前1輪、後2輪を実現させるために学生たちが考案した世界初の技術が「グランド・フレーム・サスべンション」。ホイール・イン・モーターの駆動輪であり操舵輪にもなる前輪を、シャーシ(基本骨格)から直接支えている。また、後2輪もボディに直接タイヤを組み付けたシンプルな構造。こちらは「リバース・タイヤ・ウォール」と呼んでいる。サスペンションの構造自体を変えてしまった。

これに加えて、ハイドロニューマチック・サスペンションで車体の安定を図る。4年前に参加した前回大会で技術賞を獲得したサスペンションを改良したものだ。前後輪の上下動をコントロールしてピッチングを抑制し、車高を一定に保つ。

前輪はこんな感じで支えられている(濱根さん提供)。
実車の写真も送ってくれた。

「世界初の技術を投入するクレージーなチーム」と自己紹介していたのが興味深かったので後日、チーム監督で工学部教授の濱根洋人さんにリモート取材をお願いした。「走る実験室」とも呼べるようなアイデアや新技術をどうして投入するのか。

「他のチームは、それほど冒険してきません。一般的な技術を使ったマシンで、たとえばパンクした時のサポートとか、チームワーク的な部分で勝負をする。私たちはそうではなくて、勝つための理想形を目指すことに意味があると思っています」

前1輪にしたことで「少なくとも1割は空気抵抗を少なくできている」という。「空力を突き詰めていくと、粘性抵抗をいかに抑えるかが大事になる。このフォルムはなるべく車体の後方に乱流を発生する場所をずらしています」

モーターについての話も面白かった。5日間も走り続ける長距離レースなので、加速のためのトルクはそれほど必要ではなく、高速域で一定のパワーをかけ続けるような使い方がメインになる。自分たちで最適の材料や巻き数を検討して製作しているのだが、「裏技も仕込んだ」そうだ。

ドライバーが手元でボタンを押すとコイルと鉄芯の位置関係が変わり、トルク型から高速型まで8段階に変更できる。高速回転時のロスを防ぐための調整機能も追加。伝達装置ではなく、モーターの特性を直接いじる「仮想ギアチェンジ」だ。電気を効率よく使うために、とことんまでやれることを考える。

追加取材に応じてくれた濱根さん。

「すべては勝つためです。技術はいずれフィードバックされていくかもしれないですが、実用化が先にあるわけではなくて、勝つためにどうすればいいかを考えていますね」

7月15~17日の3日間、栃木県にあるブリヂストンのテストコースで試走して、スラローム走行や高速走行などを行い、安定性の良さが確認できたという。「オーバルトラックではバンクの一番上を快走しましたよ」とニッコリ。

ソーラーEVといえば、オランダのスタートアップ企業「ライトイヤー」が、太陽光だけで1日約70km走れるという世界初の量産車「ライトイヤー・ゼロ」を発表。限定生産で高額だが、普及版の生産計画もあるようだ。日本でも「プリウス PHEV」に車載ソーラーパネルのオプションがあって「1年間でEV走行1,200km分に相当する電力」を発電できるという。ソーラーEVが市販されるのはいつごろになるのか。

「変換効率が飛び抜けた次世代電池が実用化されれば可能性はありますが、現状では、一般的な乗用車を太陽光だけで動かすのはまだ難しい」と濱根さん。ライトイヤーの創設メンバーはソーラーカーレースの元ライバルだそうだが、見立ては厳しかった。

「ただ、太陽光パネルも安くなっているので、低速で短い距離を行き来するロースピードビークルなど、限られた条件下でならモビリティとしての実用化は十分に考えられると思っています」

充電不要の究極のエコカー、ソーラーEVの市販車が街中を走り回る日のことを妄想しつつ、Kogaの優勝を祈ってます。

Honda e のプロフィール(2023/7/20現在)
総走行距離:3万9628km
平均電費:8.5km/kWh

取材・文/篠原知存

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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