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初対面のEV用急速充電器を確認「ULTRA EV CHARGER」の運営会社を訪ねてみた

初対面のEV用急速充電器を確認「ULTRA EV CHARGER」の運営会社を訪ねてみた

ジャパンEVラリーの下見で訪れた長野県白馬村、国道沿いのパチンコ店駐車場で見たことがない急速充電器に遭遇しました。黒いボディに「ULTRA(ウルトラ)」のロゴ。独自アプリで従量課金のシステムになっているようです。いったい、どんな会社のどんなサービスなのか。東京都港区に本社がある運営会社を訪ねてみました。

目次

EV充電天国の白馬村に見知らぬ急速充電器が出現

6月某日、「ジャパンEVラリー白馬2025」の運営スタッフでもある私は、長野県白馬村を訪れました。白馬EVクラブのキーパーソンである渡辺俊介さん家族が営む「あぜくら山荘」という宿に一泊。夕食後に四方山話をしていると「白馬村に、聞いたことがないプロバイダーの急速充電器が設置されたんですよ」と俊介さん。スマホで撮影した写真を見せてもらうと、2口タイプの急速充電器で、黒いボディには「ULTRA」のロゴが描かれています。たしかに、見たことも聞いたこともない充電器です。

翌日、少し早めに宿を出発、予定した打ち合わせの前に行ってみました。国道148号線沿い、JR白馬駅まで2kmほどの「チャレンジャー神城店」というパチンコ店の駐車場に、なるほど、黒い急速充電器が設置されていました。

何日か前に俊介さんが見た時は使い方などの案内もなかったそうですが、この日は「利用方法のご案内」というステッカーが貼られていて、「spocha(スポチャ)」という専用アプリをインストールするための二次元バーコードが示されています。

自分のスマホにアプリをインストールしてみると、マップ上にチャレンジャー神城店の充電器が表示されます。アプリの表示では「急速充電180kW」「88円(ULTRA会員44円)」といった案内がありました。月額2000円で「ULTRAプラン」の会員になると、都度の従量料金が50%OFFになるようです。

あぜくら山荘の普通充電器で満充電状態ながら、アプリの使い勝手を体感するために少しだけ充電してみようかと思ったのですが、残念ながらアプリの充電スポット案内表示は「急速充電 0/2 使用不可」となっていて、まだ実際の利用はできないようです。

この日は設置されている充電器の写真を撮影だけして、白馬村を後にしたのでした。

太陽光発電所などを展開する企業の新規事業

公式サイトから引用。ただし現状のサイトはアプリの説明などが古いままで、改修作業中ということでした。

はたして、白馬村に新設された「ULTRA」というのは、どんな会社が提供しているどんなサービスなのか。公式サイトなどを手がかりに調べてみました。運営しているのは「合同会社 ULTRA EV CHARGER」という会社で、芝公園(東京都港区)に本社があるようです。

さらに「製造元 CHINT GROUP CO., LTD.」と紹介されています。設置しているEV用急速充電器のメーカーということでしょう。この「CHINT GROUP」は太陽光発電設備や送電配電設備などの事業を展開する中国の大企業、のようです。もしかすると、EV充電事業で日本進出か? とも思いましたが、詳細はよくわかりません。

ウェブサイトの問い合わせフォームからコンタクトしてみたものの数日間返信はなく、いろいろと調べた末に、なんとか ULTRA EV CHARGER の担当者と電話がつながって……。「EVsmartブログ、いつも読んでます」ということで、芝公園の本社を訪ねることになったのでした。

指定されたフロアの受付に、ULTRA EV CHARGER の社名がありました。

ULTRA EV CHARGER の本社は、地下鉄御成門駅に近い瀟洒なオフィスビルにありました。とはいえ、1階エレベーターホールの案内板に「ULTRA EV CHARGER」の社名がなくて少し戸惑ったものの、指定されたフロアに上がってみて納得。ULTRA EV CHARGER は太陽光発電所運営などを展開する「NORTH ENERGY HOLDINGS」という会社のグループ企業として、EV充電事業を展開するため、2017年に設立された会社なのでした。

取材に対応してくれたのは、EV充電事業を統括するマネージャーの有住(ありす)峻平さん。EVsmartブログを愛読してくれているそうだし、笑顔の爽やかな好青年。細かすぎる突っ込み質問は控えつつ、まずは ULTRA EV CHARGER の急速充電サービスのあらましを伺いました。

年内に100口程度を目標にネットワークを拡大中

EV充電事業マネージャーの有住峻平さん。

まず、急速充電器の設置を始めたのは「今年(2025年)1月ごろから。まずは30基程度を設置しました」とのこと。アプリの地図画面をズームアウトしてみると全国で28カ所に設置されているようで、白馬村の充電器もそのひとつです。当面は「2025年の年内に100基程度」が目標ということでした。

マップで確認すると、北海道に4基、長野県や東京都、また関西地方などに24基が設置されているようです。大阪や愛知には道の駅もありますが、数が多い長野県あたりでは白馬同様にパチンコ店が目立っています。「パチンコ店優先の方針で設置しているんですか?」と確認すると「弊社にはまだ営業のリソースが少なく、設置場所の選定や交渉は代理店様にお願いしています。長野県などを管轄する代理店様が、たまたまパチンコ店に強かったのがおもな理由です」とのこと。

設置場所については「国の充電インフラ補助金が活用できる場所」を基準に選定。設置する機器代や工事費などの初期費用、電気代を含むランニングコストが全て「0円」で、充電利用料金の「最大30%」を設置場所の提供者に還元するという「ZEROプラン」による設置を進めているそうです。

専用アプリの開発は系列のIT企業が担当しているとのこと。インハウス開発的に、今後の使い勝手向上などにも対応していくのではないかと思われます。また、設置済みの充電器を含め「今後設置する充電器には決済端末を搭載し、アプリのインストールや登録という手間を省いて、クレジットカードや電子マネーで決済できるようにする」予定とのことでした。

EVユーザーからの「お願い」です

さて、取材の結果を端的にまとめると「ULTRA EV CHARGER という新たな充電サービスプロバイダーによる急速充電ネットワークが立ち上がって、今まさに発展途上」ということです。現在の設置場所の中に、下妻市役所(茨城県)や、道の駅 筆柿の里・幸田(愛知県)、道の駅 奥河内くろまろの里(大阪府)など公共性の高い経路充電スポットもありますが、はたして今後、多くのEVユーザーが便利に使える場所に増えていくのでしょうか。

前述のように、白馬では「使用不可」だったのでまだ実際に使ったこともない状況で論ずるのは恐縮ですが、お話しを聞いてわかった範囲で気になったことを、ひとりのEVユーザーからの「お願い」として挙げておきます。

補助金による設置ビジネスだけで終わりませんように

EVsmartブログで急速充電器の設置場所についてしばしば「使われる場所に!」と提言しているのは、2010〜2015年ごろに設置されたものの、あまり使われないままに朽ち果てていく急速充電器を見てきた、EVユーザーにとって忌まわしい過去があるからです。

補助金を活用して0円設置は良いですが、急速充電器のおもな用途は長距離ドライブ途中の経路充電、もしくは、集合住宅が多い都市部における基礎充電代替に限定できます。まして、日本で最大の充電サービス事業者である e-Mobility Power のネットワークではない充電スポットを展開するなら、できるだけ多くのEVユーザーが「ここなら使える!」と思える好立地がとても重要です。

設置費用に交付される補助金頼みのビジネスで「設置しただけ」にならいないよう、強くお願いしておきます。

白馬村「チャレンジャー神城店」の充電スポット。国道沿いに広い駐車場があって停めやすそうだけど、近くの道の駅や白馬村役場の急速充電器があり「選ばれる充電器」とするにはそれなりの魅力が必要になりそうです。

ユーザー本位のアプリ表示などを徹底してほしい

たとえば、白馬のパチンコ店に設置された充電器、本体のスペック表記を確認すると、2口のケーブルの最大出力は各口ごとに450V×200A、つまり、最大90kWになっていました。ところが、ULTRA のアプリを見ると「180kW」と表記されています。

90kW+90kWで、設備全体として最大180kWということなのでしょう。でも、ユーザーが充電で利用できるのはあくまでも「最大90kW」です。ほかにも、「¥88」とする料金表示に、課金単位が「分」なのか「kWh」なのか表記がないなど、利用者にとってわかりにくい点が見受けられます。

有住さんをはじめ ULTRA EV CHARGER のサービスに関わるスタッフのみなさんにはできるだけ実際に自分でEVを活用していただいて、あらゆる点で「ユーザー本位」の仕組みやサービスにアップデートしていってほしいと思います。

保守メンテナンスをしっかりと行ってほしい

急速充電スポットに立ち寄ったのに、故障中で充電できない! という事態に遭遇するのは悲しいものです。ところが、ULTRA EV CHARGER のアプリを見ると、アイコンがグレーで表示されていて「使用不可」になっているスポットがたくさんあります。一部のスポットはすでにEVsmart(EV充電エネチェンジ)などの充電スポット検索アプリでも出てきますが、使用不可であることが明示されているスポットは多くありませんでした。

ひとつひとつの状況を細かく確認していないので、まだサービス開始前というスポットがあるのかも知れないですが、7月22日の今日の時点でアプリに表示されるスポットの半分以上が使用不可になっているのは、あまりに心許ないと言うしかありません。6月中旬に使用不可だった白馬のスポットは今日もまだ使用不可のままになっています。いろいろ大変なんだろうと推察はできますが、補助金を活用して公共の充電スポットを設置運営する以上、EV社会を支える一定の責任があるはず。ぜひ、しっかりとした保守メンテナンスを行っていただけるよう、強くお願いしておきます。

噂レベルですが「急速充電スポットで非常停止ボタンが押されると配電盤のブレーカーが落ちたような状態になり、現地に出向いて復旧させる必要がある。誰かが妨害を意図して非常停止ボタンを押すケースもあるのでは?」と聞いたことがあります。そんなアホな所業をする人はいないでしょと思いつつ。EV充電インフラの健全な発展を願っています。

なにはともあれ、ULTRA EV CHARGER のサービスはローンチしてはいるものの発展途上という印象でした。今後は ULTRA だけでなく、独自の決済システムを備えた新たな急速充電サービスが増えてくることでしょう。EV充電、ことに急速充電サービスを展開するプロバイダのみなさんには、なにとぞ「ユーザー本位で持続可能な急速充電ネットワーク」を拡げてくださるよう期待しています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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