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台湾から押し寄せるEVシフトの激流〜「FOXTRON」視察レポート【02:電気バス編】日本を走る日も間近!

台湾から押し寄せるEVシフトの激流〜「FOXTRON」視察レポート【02:電気バス編】日本を走る日も間近!

バスの世界もEVシフトに向けた動きが加速しています。日野自動車との経営統合を進めている三菱ふそうは、2025年8月、鴻海(Foxconn)とZEVバスの共同開発に関する基本合意書を締結しました。EVエンジニアの福田雅敏氏による台湾視察レポート第二弾です。

目次

日本導入が見込まれる「MODEL T」がたくさん走行

前編ではFOXTRONのEV乗用車を取り上げたが、後編では日本導入が予定されているEVバスを現地でいち早く確認できたので、その印象と情報を報告する。
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/taiwan-foxtron-ev-inspection-report-part-01-passenger-evs/

まず最近の発表を整理しておきたい。三菱ふそうトラック・バス株式会社(三菱ふそう)と鴻海精密工業(Foxconn)は、ZEV(ゼロエミッション車両)バスに関する戦略的協業の検討で基本合意書を締結した。日本の商用車業界を牽引する三菱ふそうと、世界最大級の電子機器メーカーであるFoxconnが手を組むことで、モビリティの脱炭素化を加速させる狙いだ。

合意では、両社の子会社である三菱ふそうバス製造(MFBM)と鴻華先進科技(FOXTRON)が、MODEL T(大型電気バス)およびMODEL U(小型電気バス)を皮切りに、ZEVバスの開発・生産・サプライチェーン・販売で協力していく方針が示されている。筆者が11月に現地を訪れた際には、8月に発表されたこの枠組みのもと、すでにMODEL Tが街中を走っている様子を確認できた。

MODEL Tはグッドデザイン賞を受賞

見学はFOXTRON本社(台湾・新北市)から始まった。試乗は叶わなかったものの、MODEL Tを2台じっくり観察でき、そのうち1台は通勤時間帯に社員シャトルとして運用されているという。

公表されている主要スペックを挙げると、全長×全幅×全高は12,000×2,500×3,280 mm、ホイールベースは6,000 mm、車両総重量は約13,000 kg。バッテリーはCATL製のLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)で容量は400 kWh。航続距離はNEDCモードで400 km、充電規格はCCS1で最大130 kWに対応。路線型のEVバスとしては高めの最高速度120 km/hを持ち、登坂能力は25%とのことだった。

外観の印象は、台湾で見かける他のバスと比べて圧倒的にスタイリッシュだ。2022年に日本のグッドデザイン賞を受賞していることを知れば、その洗練された造形にもうなずける。サイドミラーは欧州の最新バス同様に電子ミラーへと置き換えられ、視認性と安全性に配慮した設計が際立つ。実車の観察では、フロントのタイヤハウス上に2つのボックスがあり、そこにバッテリーが搭載されているのが見て取れた。

欧州など最新のEVバスの事例を踏まえると、BYDは床下にブレードバッテリーを配置し、その他多くの路線バスが屋根上にパックを載せる傾向がある。MODEL Tのボックス配置は機能面の合理性が感じられる一方で、見栄えの点では今後の改良余地もあるように思われ、商品性向上へのブラッシュアップに期待したい。

日本国内で生産の可能性も

日本導入時の仕様については、現地でも「具体的に協議中」との説明で、クライアントの予算や要望に応じてデザインや装備が変わる可能性があるという。これは前編で扱ったEV乗用車と同様のスタンスで、柔軟なカスタマイズにより各市場へ最適化する考え方だ。

生産体制については、現状は台湾南部の高雄で生産されているが、直近の報道では三菱ふそうと鴻海が日本国内で新会社を来年1月にも設立する方向で調整しているとされ、筆者の訪台直前に伝えられた。この点に関してFOXTRONからはコメントは得られなかったものの、日本での事業生産展開を見据えた体制づくりが進む可能性は高い。

その後、MODEL Tの生産拠点がある台南市にも足を運んだ。街中ではMODEL Tが頻繁に走っており、すでに相当数が納入済みであることが実感できた。販売台数についてFOXTRONは「数百台レベル」とだけ回答しており、需要と供給の両面で着実に広がっている印象だ。

小型電気バスMODEL Uにも期待

もう一つの注目モデルが小型電気バスのMODEL Uである。三菱ふそう向けに供給される計画が示されているが、今回の訪問では現車の確認には至らず、プレゼン資料で概要のみが紹介された。

全長×全幅は6,990×2,080 mm、ホイールベースは3,995 mm、航続距離は約250 km。日本の区分ではマイクロバスに近いサイズで、既存のローザ(初代は1960年、現行モデルは1997年に登場)と重なる領域を担う可能性がある。次期型ローザ相当としての展開も十分に考えられるが、MODEL Uはフレキシブルなプラットフォームと高いカスタマイズ性を特徴としているため、実際の日本仕様ではデザイン・内外装・パッケージが大きく変わるのではないだろうか。また、生産については、MODEL T、MODEL Uともに、国内では三菱ふそうバス製造(富山)の関与が有力視されている。

トラック・エンジン領域で語られる日野自動車との事業統合の話題にも触れておく。鴻海グループとのアライアンス発表後、バス事業の住み分けは一層複雑になるが、日野はいすゞとの合弁でJ-BUSを持ち、従来どおりバスはその枠組みが中心となるだろう。

一方、三菱ふそうは従来ラインアップに加え、MFBMの存続と鴻海グループから供給されるEVバスでポートフォリオを拡充し、ゼロエミッション化に向けた選択肢を増やす構図が見えてくる。

いずれにせよ、FOXTRONのバスが日本を走る日が近づいている。都市交通の電動化は、事業者にとっては運用面・コスト面の新たな最適化を、乗客にとっては静粛・快適な移動体験をもたらす。EVバスの選択肢が広がることは、街の景観や交通サービスの質にも良い変化をもたらすはずだ。いちバスファンとして、その到来を心から楽しみにしている。

取材・文/福田 雅敏

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この記事を書いた人

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で39か国訪問している。通勤などの足には、クラウンセダンFCEV(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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