日本は水素燃料電池自動車に投資するんでしょ?電気自動車との違いは?

結論:日本は水素燃料電池自動車だけに投資すると決めたわけではありません。水素自動車にも電気自動車にも経済的・技術的課題は山積みですが、電気自動車は2017年ごろをめどに、補助金抜き400万円で実際に320km走行できる実用車が見えてきています。

日本は水素燃料電池自動車に投資するんでしょ?電気自動車との違いは?

昨今の水素ブームを見聞きしていると、世の中はガソリン自動車からハイブリッドへ、そして電気自動車がちょっとだけブームになって最終的には水素燃料電池自動車に移行するかのように錯覚します。マスコミの取り上げかたも、水素燃料電池自動車のほうが多いらしいですね(私はテレビを持っていないので伝聞です)。この記事では水素燃料電池自動車(=水素自動車、FCVともいいます)と電気自動車を比較してみたいと思います。

目次

  1. 燃料電池車と電気自動車に関する補助金と予算額
  2. 水素燃料電池自動車の仕組み
  3. 水素の製造方法
  4. 燃料電池車と電気自動車の比較

燃料電池車と電気自動車に関する補助金と予算額

ENEOS水素ステーション
ENEOS水素ステーション

昨年、日本初(米国ではすでに現代自動車が燃料電池車SUVを発売しています)の燃料電池車であるミライが発売されました。723万円のミライの購入に対すし、202万と非常に高額の補助金も決定しました。東京都のように国の補助金(次世代自動車振興センター)に追加でミライに補助金を出す地域もありますが、基本的には723-202=521万円で購入できることになります。電気自動車に対する補助金は、最も高額なものでもテスラモデルSの85万円と、電気自動車のほうが圧倒的に少なくなっています。水素ステーション建設の補助金は1か所あたり1億5千万から2億8千万、対する電気自動車の充電設備設置の補助金は大きいものでも1基あたり400万。こう見ると水素燃料電池自動車関連の補助金のほうがずっと多そうに思えます。

国の予算規模でも比較してみましょう。まず電気自動車インフラ関連は、充電設備関連の2015年度予算が300億円です。燃料電池車インフラ関連は、水素ステーションの2014年度補正予算が96億円。また、車両そのものに対する補助金の予算は実は電気と水素は共通で、2015年度予算は計200億円なのですが、ミライの2015年の年間生産台数は700台程度とされているので、燃料電池車の購入に対する補助金額は総額14億円余り。残りの185億円はすべて電気自動車やプラグインハイブリッド向けの予算なのです。
このように見てみると、税金の投入額に関して言えば、まだまだ電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及のための投資が大きいことが分かりますね。

水素燃料電池自動車の仕組み

水素燃料電池自動車の仕組み
水素燃料電池自動車の仕組み

そもそも水素燃料電池自動車はどのような仕組みで動くのでしょうか?水素を入れると水が出てきて走る。そんなイメージを持っている方が多そうですね。水素燃料電池自動車は、水素を空気中の酸素と反応させて電気を起こし、その電気をバッテリーに貯めつつモーターで走行する車です。小さな発電所を車の中に持っていて、その電気で走る電気自動車の一種なんですね。この発電所のことを燃料電池といい、燃料電池はガソリンエンジンのように急激な加速・減速の変化ができないことから、発電した電気をバッテリーに貯め、燃料電池の電力とバッテリーの電力が力を合わせてモーターを駆動します。燃料電池からは排気ガスは出ず、水蒸気イコール水しか排出されません。
水素燃料電池自動車は、燃料として気体の圧縮水素を使用します。この水素、22.4リットルで2gしかなく、地球上で最も軽い気体と言われています。2gだと300mくらいしか走れません(笑)ので、700倍に圧縮して、700気圧のタンクにいっぱいに詰めます。例えばミライなら4.3kgで650kmを走行できるのです。この作業を充填といい、通常のガソリンスタンドではなく、専用の水素ステーションで行う必要があります。2015年3月末現在の水素ステーションは全国に12か所あり、高圧ガス保安法の対象となりますので、現時点では有人である必要があり、セルフはありません。

ミライの水素タンク
ミライの水素タンク

ミライの水素タンクは2本あり、700気圧という超高圧のため円筒形をしており、これがそれなりに場所を取っています。バスなどの大型の車両では床下に収納ができず、日野自動車のFCVバスでは屋根に8本の水素タンクを配置しています。
水素の充填は約3分でできますが、水素は気体のため、液体であるガソリンのように流し込んで終わりではありません。ステーションにある高圧のタンクと、中身が減ってしまった自動車のタンクをつなぐと、水素がステーション側から車側に流れ込み、圧力が均衡することで充填します。このタイミングで車のタンク内は温度が上がってしまうので、タンク素材のCFRPの限界85℃を超えないようにするため、ステーション側ではあらかじめマイナス40℃まで水素を冷却し(プレクール)充填しているのです。なかなか高度な仕組みですね。こちらの資料(英語スライド)に参考になるルックアップテーブルなどが掲載されていますが、実際には実験で求めたデータから近似式を用いて制御しているのだと思われます。

水素シリンダーとカードル
水素シリンダーとカードル

水素の価格は現在1kgあたり1000円(ENEOS)から1100円(イワタニ)とされていますので、仮に1000円で充填できたとして、ミライで満タン4300円。これで650km走るのですから、ガソリン車と比較すると、リッター130円として約20km/l。ちなみに650kmというのはカタログ値(JC08)ですから、経済性はほぼガソリン車と同等か安いと言えますね。現時点では、この金額では原料代だけで完全な赤字だそうなので、どこまで維持できるかは未知数です。

水素の製造方法

水素トレーラー
水素トレーラー

さて水素ステーションで水素を低価格で充填できることは分かりましたが、実際に水素はどうやって作るのでしょうか。
水素の製造方法には大きく分けて二つあり、メタン(=天然ガス・都市ガス)やプロパン(=LNG・LPガス)の水蒸気改質と、水の電気分解です。メタンは石油の一種ですが気体であり、関東では都市ガスに利用されています。これに水蒸気を高温で反応させるとメタンがバラバラになり、水素と二酸化炭素が生成されます。メタン1に対し、水素4、二酸化炭素1の割合です。そもそもメタンを始め石油は地球上で長年かかって炭素と水素が結合してできたもの(炭化水素)なのですが、それを分割して水素を取り出そうというわけです。メタンは、そのままエンジンで燃やして天然ガス自動車を走らせることもできます。メタンを改質して水素を作って燃料電池車を走らせても、燃やして天然ガス自動車を走らせても、結果としては水と二酸化炭素が排出されます。
取り出した水素をそのまま利用できる水素ステーションをオンサイト型と呼び、水素を運んできて充填する、ガソリンスタンドのようなステーションをオフサイト型と呼びます。オンサイト型は大量のメタンを必要とし、熱もかなり発生しますので、どうしても大規模になりがちです。

HYSERVE-300 サイズを人と比べてください
HYSERVE-300 サイズを人と比べてください

水蒸気改質はメタンだけではなく、ガソリンやナフサ、LPGなどからも可能です。どれもメタンと同様、水蒸気を反応させて水素と二酸化炭素を取り出します。ちなみに都市ガス(メタン)の料金は消費者価格で1m3あたり130円くらい。これを20℃くらいと仮定すると1m3 @20℃=0.9318Nm3。メタン1に対して水素は4作れますから、332.8g作れることになります。すると、水素1kgの製造原価は130 x (1000/332.8) = 約391円となります。なお、大阪ガスが販売開始した水素発生装置HYSERVE-300では0.36Nm3の都市ガスで1Nm3の水素が作れますので、1kgの水素=11.2Nm3ですから、必要な都市ガスは0.36 x 11.2 = 約4Nm3、20℃に換算すると約4.3m3ですから、HYSERVE-300で製造すると、水素1kgの製造原価は130 x 4.3 = 559円となり、当然ですが上記の理想的な計算より約30%ほどロスがあることになります。
面倒な計算が続きましたが、都市ガスから考えた場合、出来上がった水素を燃料電池車に充填するための700気圧までの圧縮と、マイナス40℃までのプレクールに必要な電気代、そして水素ステーションの場所代と人件費などは559円の計算に入っていません。水素1kg 1000円は天然ガスという化石燃料を使った場合、二酸化炭素を排出するだけでなく、日本国内ではビジネスとしても継続不能に近い仕組みだということが分かります。
※LPGで計算してもほぼ同等か、より高くなりました。

水の電気分解
水の電気分解

電気分解はどうでしょうか。電気分解は水に電気を流すと、水素と酸素が発生するという反応です。この水素を燃料電池で酸素と反応させるとまた水ができます。そうです、電気分解は、燃料電池への充電のような反応なので、取り出せるエネルギーと同等以上の電力が必要となるのです。永久機関じゃないですからね。例えばホンダのSHS2ソーラー水素ステーション(注、学術的な資料です)の資料や発表資料などを見てみると、おおよそ60kWhで1kgの水素を製造・充填できるとあります。ちなみに全部東京電力の昼間電力で賄うと仮定すると、水素1kg製造あたり60kWh x 30円/kWh = 1800円となり、電気代だけで街で売っている水素1000円/kgの1.8倍の値段になってしまいます。つまり、電気分解は商用の電力で行った場合はコストが合わず、基本的には太陽光や風力などの再生可能エネルギーで賄うべきということになります。
別の見方をしてみましょう。60kWhの再生可能エネルギー由来の電力で、水素自動車のミライは151km走行でき、電気自動車のモデルSは300km走行できます。
もちろん、再生可能エネルギーの買取価格は太陽光で安くても27円/kWh程度となりますので、60kWh発電して売電したら、買取価格は1620円もらえます。太陽光発電を所有している場合、発電した電力で1kg水素を充填して151km走行するか(1000円相当)、発電した電力を売電して1620円もらうかの選択となるわけですね。

ここまでのお話しで、水蒸気改質も、電気分解にもそれぞれ課題があることがお分かりいただけたと思います。まとめてみましょう。売価1000円分、1kgの水素を製造すると仮定します。これには、前述のように700気圧までの圧縮・マイナス40℃までのプレクール、場所代や人件費は入っていません。

方式機材概算製造原価/1kg二酸化炭素排出その他課題
水蒸気改質HYSERVE-300559円あり化石燃料が必要
電気分解(系統電力・昼間)SHS21800円発電所から排出ありなし
電気分解(再生可能エネルギー)SHS20円なし電力を売電すれば1620円もらえる

参考:水素ステーションの安全性に関する経済産業省の資料(2015年2月)

燃料電池車と電気自動車の比較

CO2排出量の比較、石油生産から車両の走行までNEDO水素エネルギー白書
CO2排出量の比較、石油生産から車両の走行までNEDO水素エネルギー白書

最後に次世代自動車として、水素燃料電池自動車(FCV)と電気自動車(BEV)を比較してみたいと思います。
現時点で、「普通の車と同等に乗れる」という意味では、残念ながらどちらも失格ですね。FCVは水素ステーションが存在しない県もありますし、BEVは今までの記事でも書いてきたように、充電計画なしで長距離の移動が難しくなります。プラグインハイブリッド車(PHEV)が、現時点では次世代自動車としてはベストな選択と言えると思います。

ちょっと待ってください。

  • PHEV=ガソリンタンク+ガソリンエンジン+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電可)
  • FCV=水素タンク+燃料電池+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電不可)

じゃなかったでしたっけ?それでは、

  • FCPHEV=水素タンク+燃料電池+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電可)

ってのはできないのでしょうか?

もちろんそれも技術的には可能なのです。そうすれば、水素ステーションがないところでは結局走行できませんが、自宅近辺では水素を使わず家庭の電力で走行でき、圧倒的に水素代を浮かすことができます。現時点では、FCVの水素タンクはまだまだ大きく燃料電池のコストもバッテリーのコストも高いため、バッテリーが多めになるFCPHEVはまだ先の話になると思われます。

ではもっと先、政府が水素インフラにもっともっと投資をして、現在の電気自動車と同様、国内どこでも水素を充填できるくらいまで、水素ステーションを充実させるとどうでしょう。国内ガソリンスタンド3万に対して電気自動車・PHEV用の急速充電器は5千ですから、水素ステーション5千か所と想定します。一か所現在は4億円かかるのですが、半額くらいになると考えて、一か所2億円を投資します。すると総投資額は1兆円ですね。
政府は水素・燃料電池戦略ロードマップでは、2020年代半ばをめどに、海外からの水素輸入をベースとして大規模な水素供給を行う計画のようです。確かに上で計算したように、石油を輸入に頼る日本がその石油から水素を作るより、海外でまだ利用されていないエネルギー源、例えば褐炭のように、そのままでは日本に輸送して運べないが、その場で燃やして発電→水を電気分解→水素を作れるものを活用するのであれば、もう少しコストは下げられるかも知れません。ただし、この場合は水素は何らかの方法で液体等にして、タンカーで日本まで運んでこないといけないのです。
水素はそういう意味で、石油に依存しない代わり、輸入水素に依存するエネルギーでもあるといえます。石油の輸入が日本経済のバランスシートを大きく崩している今、同様に輸入水素に頼る計画が、有益であるかどうかは検討の余地があるのではないでしょうか?

テスラギガファクトリーのサイズ(EV Obsessionより)
テスラギガファクトリーのサイズ(EV Obsessionより

BEVはどうでしょうか。現在、85kWhのバッテリーを搭載するテスラモデルSは、テスラ独自のスーパーチャージャーが展開できれば、ほぼ実用レベルに達していると言えると思います。マンションなどの駐車場への自宅充電設備の展開など、まだまだ課題はありますが、1兆円かかるほどの大規模な投資は必要ないと思われます。
問題はバッテリーのコストです。テスラはパナソニックからバッテリーを購入していますが、2017年をめどにギガファクトリーをパナソニックと共に完成させ、年間50万台のBEVに搭載できる量のバッテリーを、現在のコスト、1kWhあたりおおよそ200米ドルの3割減で生産するとしています。このギガファクトリーは2020年には年間35GWh分のバッテリーを生産する予定としていますが、これは2013年の世界中のリチウムイオン電池の総生産量と同じです。またEV Obsessionによれば、ギガファクトリーの大きさはボーイング社の工場と同じくらいのサイズであり、東京ドームちょうど10個分くらいとされています。
solarenergieもし320kmを現実的に航続可能な2017年の「テスラモデル3」が50kWhのバッテリーでリリースされると仮定すると、想定電費は(実際使うのは90%の45kWhとして)、140Wh/km。米国基準の現行モデルSがおおよそ187.5Wh/kmですから、小型化と軽量化、タイヤの低転がり抵抗化により達成可能かどうかギリギリ、、というラインかと思われます。この場合のバッテリーのコストは50 x $140 = $7000、すなわち日本円にしておおよそ84万円となります。これを補助金抜き400万の車に搭載するわけですからなかなかコスト的には大きいと言えますが、しかしそれでも実現可能な数値ではないでしょうか?

このように考察を重ねてみると、以下のことが分かります。

  • 現在のガソリン車と全く同じ使い勝手が必要であれば、PHEVはベストな選択である
  • BEVは現時点でも、多少高額ではあるが、自宅充電とスーパーチャージャー・ネットワーク(もしくは同等の100kW級急速充電設備)が完成すれば、ほぼ実用上問題ないレベルにある。また2017年には400万円前後で320km走行できる実用車が発売される技術的見込みがある。
  • 燃料電池自動車は、現時点では水素ステーションが少なく、営業時間も限られ、水素ステーションの収益性にも疑問符が残る。将来に渡っても、ロードマップは存在するものの、技術的にも経済的にも「絵に描いた餅」状態であり、2025年になっても成功するかどうか分からないレベルにある。

この記事のコメント(新着順)11件

  1. いまさらのコメントで恐縮ですが・・・
    燃料自動車がBEV車両より政府がBACK UPしているのは何故でしょうか?
    それは、石油業界に遠慮しているからだそうです。すでに愛知のメーカーはBEVへかじ取りを
    行ってきましたし、国内の自動車企業の大多数はBEV/PHEVを新規販売するようです。
    (埼玉の企業は、海外モデルのみですので得意の逆輸入かな)
    今は、車メーカーの押しつけデザインですので(好きな方はすみません)、家族構成や用途に応じた車種がなく従来型車両を購入している方が、多岐に渡る車種構成になることで、普及率が増加していくのではないでしょうか?
    そうなると充電器の数量が不足したり、充電器の容量が問題化するのでしょうね

    1. kent様、コメントありがとうございます!
      そうなんですかね、、>>石油業界に遠慮
      海外ではKoch Brothersがアンチ電気自動車でキャンペーンを張っていることはご本人達も明言されておられますが
      http://www.huffingtonpost.com/entry/koch-electric-vehicles_us_56c4d63ce4b0b40245c8cbf6
      日本では守る権益がほとんどないような、、単に輸入して生成するだけですしすでにハイブリッド化でかなりガソリン需要は減少していそうですし、、

      私はIT業界にずっと身を置いてきましたが、ソフトウェア産業は、プラットフォーム化とシンプル化の連続で、プラットフォームはだんだんと壮大に複雑になっていっていますが、全体としてのソフトウェアやサービスの仕組み自体は以前よりシンプル化かつオートノマス化、すなわち、人による運用や調整を不要とし、自律的に動作するように変化していっています。これはすべての産業についてそのような方向に向かうトレンドにあると言え、電気自動車もこの流れにあるものと思っています。逆に燃料電池車はシステムを複雑にするだけでなく、様々なところに無理があり、効率も結局あまり良くなく、利便性も良くないと、消費者にとってメリットが出せそうにもないところが問題であるように思います。水素ステーションが3万か所あっても、売れないと思いますよ。

  2. 4月19日発表「エネルギー革新戦略(概要)」の中の「革新戦略による新たな展開」を見て感じたことは、日本がこれから電力を国際戦略の一環とするなら発送電を分離し、自動車、航空、電車、電機メーカーなど企業と国が一体ととなって、全国統一的な送電管理体制「高圧直流送電線(スーパーグリッド)」を確立することが第一番目に取り上げなければ、エネルギー革新戦略にならないのに、日本は電力自由化を先にしてしまい、本来は東西周波数の統一が先だったのではないかという疑問があります。
    そして、今日本は時間軸でいうと昭和15年と同じ状況化にいると思います。
    特に読売新聞に1面に「日本再興戦略2016」が取り上げられていましたが、
    IT活用など推進、新成長戦略に「官民会議」 s.news.nifty.com/economy/stockd…欧米諸国から見た日本は真似猿で基盤環境が無いのにIoT(Internet of Things、モノのインターネット)活用だ。ドイツのIndustrie 4.0(第4次産業革)、米国のIndustrial Internet
    (インダストリアル・インターネット)等の言葉に載って発言をしていますが、歴史的背景が無い日本が提案したら笑いものになるのは必然。
    特にG7伊勢志摩サミットの提案の中で、燃料電池自動車(FCV)および水素ステーション計画を国の柱に安倍首相はするつもりでしょうが、経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」改訂版の中に
    (リリース)http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160322009/20160322009.html
    (本文)http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160322009/20160322009-c.pdf
    次のような記述を本気にできることと思っているのですか?
    1.水素を日常生活や産業活動で利活用する社会、すなわち「水素社会」の実現を目指すことには、その価値が十に分にあると考えられる。なぜならば、水素利活用技術の適用可能性は幅広く、既に実用化段階にある定置⽤燃料電池やFCVだけでなく、船舶や鉄道等を含む他の運輸分野、水素発電等、我が国のエネルギー消費分野の多くに対応し得る潜在的な可能性があるが、こうした多岐にわたる分野において、水素の利活用を抜本的に拡大することで、大幅な省エネルギー、エネルギーセキュリティの向上、環境負荷低減に大きく貢献できる可能性があるからである。
    2.エネルギー政策の観点だけでなく、産業政策の観点からも水素エネルギー利活用の意義は大きいと考えられる。(中略)我が国の燃料電池分野の特許出願件数は世界一位で、二位以下の欧米をはじめとする各国と比べて5倍以上と、諸外国を大きく引き離しているなど、水素エネルギー利活用分野における我が国の競争力は高い。
    1について、地球儀を見てもわかるように日本の小国が水素社会になったとして、何になるのでしょう。現在の内燃機関を積んだ自動車が新興国を中心に何億台も普及しているのにその問題を忘れ、自動車の価格とCO2の増加、未知の水素による環境悪化を考えたら、粉飾決算している会社に貢いでいる様なものです。(国際会議の場で、水素社会と言っているから彼方此方のFBで安倍首相の話を聴く人の少ない写真が紹介されいたのは記憶の新しいところです)
    日本の未来を考えるのであれば、現時点での水素社会の話は止めるべきです。段階を踏まずしてやることは、一部の起業の優遇措置です。
    2について、原発を見てもわかる様に基礎研究において、日本はいざという時に使えない技術です。欧米や米国が水素社会には問題があるからやらないだけではないでしょうか。
    今政府がやっていることは、「人造石油製造事業振興 7 ヵ年計画で昭和16年には、120万トンの人造石油が生産される計画」と何の変わりもないことをやっているしか見えません。
    対日石油禁輸が最終的に発令されたのは昭和16年8月1日。それから4ヶ月後、ハワイの真珠湾奇襲による日米戦争が始まりました。
    翌年の日本を歴史の資料から推定して喩えるなら、「台風が来て屋根が飛んでしまい、家の中に雨がザーザー降り込んで雨漏りしているのに、誰も何も言わないで見ない様にして、一生懸命、玄関の鍵を閉めて戸締りに精を出している状態」と表現したらよろしいでしょうか?

    米国は戦争よりも災害等の救援時代になったため軍事費にかけるリスクを軽減するため、エネルギー(燃料)輸入の分散化を行い、多少問題がある藻類バイオ燃料も国内生産を目指しています。日本の石油関連商社が石油、天然ガス、石炭等のエネルギー輸入さえしていれば、国が防衛してくれると感違いしているから藻類バイオマス燃料やバイオコークス等を真剣にやらない事実を忘れてはなりません。

    あとG7伊勢志摩サミットで、世界経済のリスク要因の一つに原油安ことを取り上げる様ですが、トランプのババ抜きに例えるなら、誰がババだか知っているのに参加する様なものです。
    原油安の原因は、2年前のロックフェラー兄弟財団、化石燃料投資から撤退宣言から従来の投資対象が変わっただけのことです。それを日本がどうにかする様な発言は、まさしくババの対象ではないですか。
    米国がホルムズ海峡を全て撤退した時に日本独自で守れるのでしょうか。
    日本の終戦記念日は8月15日ですが、世界のほとんどの教科書では第二次世界大戦が終了したのは9月2日です。その約2週間で何が起きたか。東南アジアの国々で日本軍がいなくなった後、国名は書きませんが、植民地主義が復活したことを忘れてはならないと思います。
    安倍首相の発言は、民間企業の社長規模の発言と世界のマスメディアは思っているのではありませんか。
    今回のG7伊勢志摩サミットには、アジア圏の未来という重要なことが含まれていることを忘れてはならないと思います。
    まして、財政が安定しつつあるドイツが日本の提案に乗ることは考えられません。
    日本はしばらく燃料電池自動車および水素ステーション計画は凍結して、原因の見直しとして、江戸時代的のコミュニティ的な伝統的暮らし的な考え方を残しつつ行う「原点回帰+1」的発想で、エネルギー問題や農業・畜産業・漁業のインフラ整備をすることで日本を変えて行くべきだと思います。
    日本が提案するべきことは、日本が世界に向けて発信することは一つしかありません。「化石資源を使わずに経済を安定させる」下記の内容です。
    1.化石・石油であれば現在の施設・産業は使用できる藻類バイオマス燃料。
    2.化石・石炭であれば現在の施設が使用できる藻類バイオマス残渣バイオコークス
    3.農業であれば、自然農法中心とした生産。4.畜産業であれば、放牧を中心とした生
    産。
    5.漁業であれば山・川・海の連携を大事にし、遠洋漁業は止め。沿岸漁業、沖合漁
    業でできる国にする。養殖業は、貝類のみに他の養殖段階的に止める。
    6.自動車は、ハイブリッドなみの驚異的な低燃費を実現した内燃機関の良いマツダ自動車スカイアクティブ(特にディーゼル車を欧米に)や日産自動車+三菱自動車がコラボした電気自動車。
    これからの時代は、「国の豊かさGDP(国内総生産)」より「コスト・リテラシー
    (コストに対する広い見識と問題解決への適切な知識)」
    をG7伊勢志摩サミットでは発言するべきだと私は思います。

  3. 考えるまでもなく水素燃料電池自動車に経済的合理性がないのは明らかです。トヨタ、マスコミ、政治家の本当の狙いを疑います。トヨタについては一度決めたら引けない官僚主義的なところがあるのではないでしょうか・遠い将来燃料電池自動車にメリットが出るかもしれないという主張もありますが、なぜそんなに無理をしてまで急ぐ必要があるかわかりません。私が想像するには電気自動車は技術的参入ハードルが低く、部品点数も少ないため過当競争になりトヨタの技術的優位が保てなくなると言う企業エゴではないかと思います。ガラカーになることは間違いありません。

    1. よこはま様、コメントありがとうございます。そうなんですよね、化石燃料由来の水素製造の場合は1000円/kgは維持できず、また太陽光由来の場合、太陽光買取プログラムが存在する限り、パネル設置者は水素製造より売電を選ぶと思います。おっしゃる通り、経済合理性がないため、そっちにお金が回る仕組みが存在しないということなのですね。
      いくら電気自動車の競争が大変だからと言って、競争をしないでいると、いつかは規模の論理で負ける時が来るのではないでしょうか。それが、DRAMの時のように「別に高額な、高次商品じゃないからいいや」で済まないとき、もしかしたらまずいことが起こるのかも知れません。すでに米国や韓国の競合は規模を拡大しコストを下げる方法を模索しています。

  4. 基本は 経産省指導の次世代自動車戦略研究会2010年4月に基ずいて居るのだと思います
    http://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/material/pdf/last_report.pdf
    これにより BEV,PHEVの充電器補助や 充電試験運用、有料化のロードマップに乗って 各企業が運用しているんでしょうね。
    又、トヨタのFCV発売については カリフォルニアの法律の改正でHVが対象外になり BEVをラインナップに無い為 重課税対象となるのを避けるための 赤字なからも 現時点での環境車両の投入をしなければならなかった 事情も大きく有るのだと思っています。

    1. スージーパパ様、いつもありがとうございます。
      そうですね、CARBの規制は厳しいものがありますが、とはいえトヨタもRAV4 EVでテスラから電気自動車を1484台(2600台の予定だったようです)調達していますし、現時点での生産台数を考えれば電気自動車を追加する選択もあったのではないかと思いました。。今後も車両作りではトヨタは利益を上げられる可能性があると思いますが、水素製造においては1kg 1000円で利益を出すのは非常に難しそうに思えます。実際トヨタさんは自社工場にすら水素ステーション設置していないことが、本気度を物語っているのではないでしょうか。米国GMなどには自社運営の水素ステーションがあります。ご存じのとおり電気自動車陣営は自社工場やショールームにも充電設備を設置し、顧客からのフィードバックを収集していますよね。

  5. 難しい計算が理解できずでしたが、全体はわかりました。

    究極のエコカーではないことはもっと伝えるべきです。

    世界の動きはどうなのでしょうか。ヨーロッパではFCVの話しは聞かないし、むしろPHEVやBEVの新車ラッシュな気がします。
    ガラパゴスとは言いませんが、世界で普及しないとFCVは成り立たない。

    それにしても、何故、トヨタがこれほど水素社会を力説しているのでしょう。このような調査はトヨタならやるでしょう。

    1. 孫悟空様、お世話になっております。コメントありがとうございます。
      究極のエコカーかどうかというのはちょっとわかりませんが、いずれにしろ今回の記事では水素を生産するところを中心に計算し、生産だけでも継続可能ではないことが分かりました。
      トヨタ様については2025年以降のかなり長期的に先をご覧になっているのだと思います。その時点になっても石油以外のエネルギー備蓄、輸送、そしてグリッドの平準化を行うための決定的インフラができなければ、水素もインフラとしては候補に上がってくると思います。

  6. お書きになられている通りだと 思います。  実は うちの倶楽部JOPCには  結構 データーに厳しい倶楽部員(本業が研究者さん)が居るんです。
    大雑把な私とは ま反対なので 結構論争になるのです(笑)
    水素の運搬など 高圧を掛けずに インフラ整備も 現状のガソリン施設が流用出来る様ですので 参照くださればと思います。(スマートジャパンの記事なのですが)
    http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1412/24/news025.html

    1. スージーパパ様、いつもコメントありがとうございます!
      記事拝見しました。有機ハイドライドですね。これらの技術は、遠い将来にはきっと役に立つときが来ると思います。本記事では水素の製造→貯蔵→輸送→消費の製造部分と消費部分のみフォーカスしてみたのですが、製造部分だけみていただいても、コストが見合わないのがお分かりになると思います。すなわち、有機ハイドライドの技術が今現在、無料で、100%利用可能になっていても、やはりコストは見合わないのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

執筆した記事