国産の完全自動運転システム開発に取り組むTuring(チューリング)が、開発の進捗状況などを発表する「Turing AI Day 2025」を開催しました。都内の道を30分間自動運転で走行する「Tokyo 30」のチャレンジに成功したことをお披露目。テスラと同じ「E2E」と呼ばれる方法で、2030年までに完全自動運転の実用化を目指すロードマップを示しました。
ミッションは「We Overtake Tesla」

動画アーカイブから引用。
2025年12月1日、完全自動運転システム開発に取り組むTuring株式会社(チューリング)が、開発の進捗状況などを発表する「Turing AI Day 2025」を開催しました。電気自動車と相性がいい完全自動運転にはEVsmartブログとしても興味しんしん。チューリングの本社があるゲートシティ大崎(東京都品川区)で開催されたイベントに参加してきました。
オンライン&リアル会場で開催されたイベントの様子は、YouTubeでアーカイブされています。
Turing AI Day 2025(YouTube チューリング公式チャンネル)
2021年に創業したばかりのスタートアップですが、「We Overtake Tesla」をミッションに掲げて急成長。イベントの冒頭では、有明やお台場付近など東京都内の公道を、30分間、まったく人の介入なしに走破する「Tokyo 30」と名付けたチャレンジに成功した際の走行動画が早送りで紹介されました。
テスラが北米などで実装し始めている「FSD v14」がすごいなぁと圧倒されつつ、「このままじゃ日本は置いてけぼりかぁ」と憂えていましたが、なかなかどうして、チューリングのチャレンジも着々と前進していることを実感できました。
テスラが先行する「E2E」モデルがメインストリームになってきた
イベントではチューリングで開発に携わるエンジニアのキーパーソンが続々とプレゼンテーションを行いました。端的にまとめると、AIを司るGPU基盤を強化して「今後2年で現時点の5~10倍の計算能力」を獲得。複数のカメラからの映像情報を単一のAIで処理する「End to End(E2E)」モデルをベースに、AIが視覚情報(Vision)、言語情報(Language)、そして行動(Action)を統合的に理解して行動を判断する「VLAモデル」などの進化によって、2030年までの完全自動運転実用化を目指すということです。

開発進捗について説明する山口祐CTO。
かなり専門的な技術解説が多かったので、詳細を知りたい方はアーカイブ動画やチューリングの公式サイト(エンジニアによる公式ブログやテクノロジー解説ページがあります)などをチェックいただくとして、私が文系EVユーザーとして「!」と感じたポイントをピックアップしておきたいと思います。
ひとつ目のポイントは、自動運転は「E2E」が優位になってきていることです。自動運転の実現に向けての方法は大きく分けて、LiDARやレーダーなどのセンサーを組み合わせ、あらかじめ定義した条件に基づいて判断し行動する「ルールベース」というモデルと、カメラからの映像情報をAIが判断して行動を決定する「E2E」モデルがあります。
チューリングCEOの山本一成氏は、今後の戦略を説明するプレゼンテーションの中で、自分たちが取り組んできたE2Eが完全自動運転実現に向けた「メインストリームになってきた」という手応えとともに「ルールベースよりも難しい技術で苦労しましたが、最近、キャズムを超えた。指数関数的な爆発の手前まで来たなというイメージをもっている」と自信を示しました。

素人のEVユーザー目線でも、LiDARなどのセンサーをごてごてと満載してギクシャク走る自動運転車より、普通の外見で高速道路や市街地の道をスマートに駆け抜けるテスラ車のFSDのほうが、より「完全自動運転の実現」に近付いていると感じます。
勝利の鍵は「Second Mover Advantage」

もうひとつ印象に残ったのが、これも山本一成CEOが示した「Second Mover Advantage」というキーワードです。E2E自動運転の実現に向けて世界の先頭を走っているのはテスラです。山本氏は「テスラがとんでもなく先を行っており、我々はそのテスラにどう勝つかという話をしている」として「Second Mover Advantage」という言葉を示しました。

テスラやWaymo(ウェイモ)といったプレイヤーは、とんでもない額のR&D費用をかけて自動運転実現に向けた先頭を走っていますが「我々は世界の一流プレイヤーが描いて見せてくれた軌跡を追いかけていく。セカンドムーバーであることの有利さを活かしてしっかりと追いかけるということを、社内一丸となってやっている」と、追走する立場の優位性を説明しました。
自動運転は「Not a Winner Takes ALL」

さらに山本氏が強調したのが、「Not a Winner Takes ALL」、つまり、自動運転は最初に実現した「勝者」が一人勝ちできるものではない、たとえば「今日テスラが完全自動運転を実現したとしても、明日には世界中のクルマが自動運転になるわけじゃないですよね」ということです。
ソフトウェアなどの世界では「Winner Takes ALL=勝者総取り」と言われてきましたが、自動運転は単純なソフトウェアではなく「搭載した自動車を作り、量産しなければならない」というプロセスがあるがゆえに、単一の勝者が総取りすることは難しい側面があります。「我々はセカンドムーバーであることを自認した上で、ちゃんと追いかけていくってことが、本当の勝利のために大切な視点だと思っている」と、力強く語ってくれました。
日本の自動車メーカーとともに、国産の完全自動運転実現を!
チューリングは、この AI Day に先立つ11月17日、シリーズA 1st closeとして153億円の資金調達を実施したことを発表しました。出資者にはトヨタ自動車のクルマ作りを支える「 Tier1(ティアワン)」として知られるデンソーをはじめ、幅広い業種の有名企業が名を連ねています。
自動運転の頭脳となるAIの完成度を高めるためにも、実際の市販車で、一般のユーザーによる膨大な走行データを蓄積することが重要なはず。国産完全自動運転の実現というチューリングの野望を叶えるためには、日本国内の自動車や情報産業が結集して、前向きなチャレンジを続けていくことが必要なのだと感じます。
GPUの計算能力がうんぬんといった専門的な技術解説には、正直、理解が追いつかないところもありました。でも、続々と登壇し、自信に満ちた表情で解説を行うチューリングの若いエンジニアのみなさんの言葉には「日本もまだまだ頑張れるじゃん」という熱いエネルギーを感じとることができたのでした。
日本の自動車メーカーから、テスラのFSDもびっくりの自動運転車が登場することを期待しています。
取材・文/寄本 好則






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