三菱ふそうトラック・バスがEV小型トラック「eCanter」生産設備見学会および「eCanter」の生産体制・使用済みバッテリーの取り扱いに関する説明会を開催。本社工場敷地内に設置したEVトラックでの役目を終えたバッテリーを活用する蓄電型急速充電器を公開するなど、小型トラックのEVシフトに取り組む具体的なアクションを紹介しました。
ディーゼルトラックとの混流生産でEV製造を効率化
2025年11月25日、三菱ふそうトラック・バス株式会社（三菱ふそう）が神奈川県川崎市の川崎製作所（本社および工場）で『eCanter 生産設備見学会・および生産体制・使用済みバッテリーに関する説明会』を開催しました。
eCanterのフレーム構造。ホイールベースによってバッテリーの搭載量を選択可能。
三菱ふそうでは2017年からEVトラック「eCanter」の生産を始めています。2023年に第3世代となる「eCanter」発売にあたり、ディーゼル車と同じラインでEVを製造する「混流生産体制」を実現。この日、メディア向けに実際の製造工程を公開しました。
EVトラックの製造方法については、三菱ふそう生産本部組立工作部部長の西澤祐介氏が紹介。主要な部品が異なるディーゼル車とEVのトラックを同じラインで製造するための工夫や新たに導入した製造機械などについての説明がありました。
実際の工場見学時には、ディーゼル車ではエンジンを組み付ける工程のところでEVトラックの場合はバッテリーユニットを組み付けるなど、熟練の作業員の技術で混流生産を実現している様子を見学することができました。
取り付けを待つバッテリーユニット。（生産ライン内は撮影禁止だったため画像は三菱ふそう提供）
第3世代となるまで、EVトラックは工場のラインからは外れた場所で、1台1台、まさに手作りで組み立てていたとのこと。混流生産が実現したことで、今後、EVトラックの需要拡大にも対応できるようになったということです。
「eCanter」はディーゼル車と共通のフレームを使用しています。EVはディーゼルなどのエンジン車と比較して部品点数が圧倒的に少ないのも特長のひとつ。野次馬的な理想としては、EV専用設計のプラットフォームに進化して、生産設備もEV専用のラインや工場になればさらに効率が向上するのではないかとも思います。
でも、ディーゼルトラックへの需要にはしっかりと応えながら、EVシフトを前進させていくために、混流生産が現状ではベターな選択。三菱ふそうがモビリティの脱炭素化を進めるために、まずは大きな一歩を踏み出したと理解できます。
バッテリー取り付けの作業風景。
駆動用バッテリーの「ライフサイクルマネジメント」への取り組み
この日の説明会でさらに興味深かったのが、「バッテリーライフサイクルマネジメント＆サーキュラーエコノミー」への取り組みです。モビリティ・トランスフォーメーション本部ゼロエミッション・エコシステム部部長のジモン・シュミット氏が、駆動用バッテリーの再利用やリサイクルについて、4つのポイントを示しました。
①バッテリー製造
最高の技術をもつパートナーとの協業で良質なバッテリーを提供する。
②ファーストライフ
eCanterに搭載したバッテリーのファーストライフ。モニタリングとeコンサルティングで劣化を防ぎ利用効率向上を図る。
③セカンド／サードライフ
eCanterのバッテリーを回収して定置型蓄電池として二次利用。
④回収（リサイクル）
役目を終えたバッテリーを回収してアノード（正極材）やカソード（負極材）を新しいバッテリーの原材料としてリサイクル。
三菱ふそうでは、eCanter（小型トラック）を活用するユーザー（おもに事業者）に向けて、充電設備のコンサルティングやファイナンス（リース）まで含めた「FUSO eモビリティソリューションズ」を提供しています。複数台のフリートでeCanterを利用する事業者も多く、自家用車に比べてEV用としての役目を終えたバッテリーの回収を行いやすいという側面があります。再利用からリサイクルまで、リチウムイオンバッテリーをしっかりと使い切り、原材料を再活用していく取り組みが確立されるのは意義あることだと感じます。
CONNEXX SYSTEMSの「EnePOND EV Charger」
敷地内に設置されていた蓄電池と電源部。
駆動用バッテリーのセカンドライフ活用の例として実証実験が進められているのが、CONNEXX SYSTEMS 株式会社が開発を進めている「EnePOND EV Charger」という蓄電型急速充電器です。説明会が開催された川崎製作所の敷地内には、eCanterの使用済みバッテリー（約160kWh分）を収めた電源部と、最大90kWの急速充電用ディスペンサー2口が実際に設置されていました。
最大90kW、2口使用時は各50kWという出力の急速充電器への電力は、定置型蓄電池から供給されるため、系統からの電力はコストを抑えた低圧契約でOK。利用する事業者のニーズによって、太陽光発電による電力を蓄えたり、非常時のBCP電源とし活用することもできそうです。
取り組みを説明したCONNEXX SYSTEMS代表取締役の塚本壽氏に質問したところ、蓄電池への再利用は「eCanter以外のEVのバッテリーでも可能」とのこと。また、EV用としての役目を終える目安としてはSOH70％程度を想定していて、蓄電池としては「70％の70％、つまりSOH49％程度が原材料リサイクルに回す目安」となるものの「蓄電池としての利用であれば劣化したバッテリーでも十分に役立つケースがある」ということで、合理的にバッテリーを使い切るビジョンを示してくれました。
この日、EnePOND EV Charger、もしくは蓄電池の価格などについての説明はありませんでしたが、定置型蓄電池の価格が高いのも日本の課題。セカンドライフのバッテリーを活用することで、eCanterを導入する事業者にとって合理的なコストで蓄電池や急速充電のシステムが提供されるとしたら、それもまたeCanter導入の大きなメリットになることでしょう。
バッテリーケースの塗装が違っていたりするのも、トラックからの再利用ならでは。
モビリティの脱炭素化に向けて、小型トラックのEVシフトは大きな一歩。三菱ふそうのチャレンジを応援しています。
取材・文／寄本 好則
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