著者
充電スポット検索
カテゴリー

新型リーフの「ユーザー希望小売価格」を考えてみた/日本で買えるEVの競合車種と比較検討

新型リーフの「ユーザー希望小売価格」を考えてみた/日本で買えるEVの競合車種と比較検討

日産は6月17日に新型リーフの諸元などを初公開しました。発売は2025年秋に北米で開始し、その他の地域に順次拡大します。価格は未発表ですが、バッテリー容量や車格を参考にして競合しそうなEVと比較しつつ考えてみました。

目次

2025年秋に北米から販売開始

日産自動車は2025年6月17日に、第3世代の新型『リーフ』をグローバル向けに発表しました。第2世代の発表から、実に8年ぶりのフルモデルチェンジです。日進月歩の電気自動車(EV)の世界で8年というのは、隔世の感があります。

発売は2025年秋の予定で、北米市場がスタート地点になります。価格はまだ発表されていません。北米の後は順次、世界各国に販売を拡大する予定です。ただスケジュールは公表されていないので、日本にいつ入るのかは不明です。

日産のイバン・エスピノーサ最高経営責任者(CEO)は第3世代リーフについて、「より多くの方にEVライフを楽しんでいただけるよう、魅力的な機能を多数搭載しています。印象的なパフォーマンス、スタイリッシュなデザイン、そして先進的な技術で経営再建計画『Re:Nissan』の中核を担う商品です」とコメントしています。

日産はホンダとの経営統合協議の破談後、過去最大級の赤字決算となり2万人規模の人員削減や工場閉鎖を計画するなど、経営環境が極めて厳しくなっています。新車発表もあまりない中で、リーフのフルモデルチェンジの位置づけは必然的に重くなります。

では新型リーフはどのようなEVと競合するのでしょうか。価格は未発表ですが、バッテリー容量などから推察してみます。ついでに、ライバル車と比較して選ばれるための価格、すなわち日本の多くの自動車ユーザーが期待する「ユーザー希望小売価格」を考えてみます。ユーザーとしては安ければ安いほど望ましいのは当然ですが、ここは冷静かつ合理的に考察してみたいと思います。

最大充電電力は150kW

今回の発表で新たに分かったのは、充電性能やバッテリー容量、一充電走行可能距離です。

まず充電性能は、最大150kWに対応します。北米ではNACS(北米充電規格)になるのでテスラのスーパーチャージャーにも対応可能とされています。日本ではCHAdeMO(チャデモ)、欧州ではCCSの規格になる予定です。

航続可能距離は、75.1kWhの大容量モデルではEPA基準で最大303マイル(約487.6km)です。日本のWLTCモードでは600km以上になると見込まれています。

52.9kWhグレードの航続可能距離は出ていませんが、単純計算ではWLTCモードで400km以上になりそうです。

スペックで比べると価格競争が厳しい

バッテリー容量一充電走行距離
(WLTC)
最高出力最大トルク価格
(税込)
CEV補助金
(※2)
(参考)
円/kWh
日産
新型リーフ52kWh
52.9kWh未発表130kW345Nm未発表未定
日産
新型リーフ75kWh
75.1kWh600km以上(推定)160kW355Nm未発表未定
日産
現行リーフ X
40kW322km110kW320Nm408万1000円〜89万円10万2025円
日産
現行リーフe+ X
60kW450km160kW340Nm525万3600円89万円8万7560円
日産
アリアB6
66kWh(※1)470km160kW300Nm659万100円〜89万円9万9850円
ヒョンデ
IONIQ5 Voyage
84kWh703km(※3)168kW350Nm523万6000円〜67万円6万2333円
ヒョンデ
IONIQ5 Lounge
84kWh703km(※3)168kW350Nm574万2000円67万円6万8357円
ヒョンデ
KONA Voyage
64.8kWh541km(※3)150kW255Nm452万1000円〜67万円6万9768円
ヒョンデ
KONA Casual
48.6kWh456km(※3)99kW255Nm399万3000円〜67万円8万2160円
ヒョンデ
INSTER Casual
42.0kWh未発表71kW147Nm284万9000円〜56万2000円6万7833円
ヒョンデ
INSTER Voyage
49.0kWh458km85kW147Nm335万5000円〜56万2000円6万8469円
BYD
SEALION7 RWD
82.56kWh590km(※3)230kW380Nm495万円〜35万円5万9956円
BYD
ATTO3
58.56kWh470km(※3)150kW310Nm418万円〜35万円7万1379円
ボルボ
EX30
69kWh560km200kW343Nm559万円〜46万円8万1014円
テスラ
モデル3 RWD
594km541万3000円〜87万円不明
※バッテリー容量は、新型リーフとアリアはネット値、BYDはカタログ値とネット値がほぼ同等、ヒョンデとボルボと現行リーフはグロス値、テスラは容量非公開
※1:北米仕様は63kWh
※2:2025年4月1日以降の登録
※3:自社測定値

一覧表にしてみました。このスペックやバッテリー搭載量で考えると、競合しそうなのは、75kWhグレードの場合はボルボ『EX30』やテスラ『モデル3』、ヒョンデの『IONIQ5』、『KONA Voyage』(コナ・ボヤージュ)、BYD『シーライオン7』などになりそうです。

なかなか厳しい市場です。日本で好調なセールスを続けている様子のモデル3(あるいはモデルY)はいわずもがなですが、EX30やKONA、IONIQ5、シーライオン7も強敵です。

新型リーフの75kWhグレードと競合するEVの価格は、400万円台なかばから500万円台半ばの間です。とすると、新型リーフも75kWhモデルは、日本では550万円前後を上限に価格設定する必要がありそうです。

ところで現行の日産『アリアB6』は、バッテリー容量が66kWhで、価格は約659万円です。新型リーフは、アリアよりバッテリー容量が多いにもかかわらず、価格はさらに下げないといけないわけです。

今の、厳しい経営環境の中でもがいている日産に、この戦略的な価格設定が可能なのでしょうか。簡単ではないのは明らかですが、例えば販売ネットワークのきめ細かさなど価格以外の魅力で訴求するにしても、あまり価格差が大きいのはよくありません。なんとかがんばってほしいです。

52kWhグレードで400万円を切れるか

一方で52kWhグレードだと『KONA Casual』(コナ・カジュアル)、BYD『ATTO3』などが対抗馬になりそうです。

このクラスの価格競争はさらに激しく、400万円が中間地点です。ただATTO3はCEV補助金が35万円と少なめなので、現行リーフのCEV補助金が89万円になっていることを考えると、新型リーフは車両価格が少し高くても最終的には補助額の差で同程度の支払額になりそうです。

でもコナ(48.6kWhのカジュアル)は、CEV補助金を含めると330万円程度です。新型リーフも400万円前後にならないと大きな差が出てしまいます。

EVの市場シェアを取りに行くのなら、少なくとも400万円前後、価格で攻めるならさらに20万円くらい安く設定する必要があるかもしれません。もし380万円で出てきたら、補助金を含むと300万円を切りそうです。そうなれば衝撃的です。

などと外野があれこれ言うのは簡単で、現行リーフXが40kWhで400万円を超えていることを考えると、清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟と勢いが必要になりそうではあります。

現行リーフから2割程度は価格引き下げが必要か

視点を変えて、車両価格をバッテリー容量で単純に割り算したkWhあたりの価格を見てみると、ヒョンデは6万円前半から7万円程度(コナ・カジュアルのみ8万円台)、BYDも6万円前後から7万円前後になっていることがわかります。ボルボも、少し高いとは言えkWhあたり約8万円です。

これに対して日産は、リーフe+は8万円台後半ですが、アリアB6が約9万9000円、リーフXは10万円を超えています。装備の違いもあるので一概には言えませんが、装備的には輸入車も充実しているので、やはり日産の現行EVのコスパは弱いと言っていいのではないでしょうか。

そうなると日産は現状から少なくとも1割以上、場合によっては2割程度はkWhあたりの価格を下げないと、競争の第一歩で出遅れてしまいそうです。そんなコストダウンは一朝一夕にできるものではないと思いますが、もうとにかく、奮起を期待するしかありません。

参考までに、kWhあたりの価格を「7.5万円/kWh」とした場合、新型リーフの52kWhは「396万7500円」、75kWhは「563万2500円」。「6万円/kWh」では52kWhが「317万4000円」、75kWhが「450万6000円」になります。

少し話は逸れますが、新型リーフに近いルノーのEV『RENAULT 5 E-TECH ELECTRIC(5 Eテック)』の価格は、40kWhモデルが約450万円前後(英国で2万2955ポンドから、ドイツで2万7900ユーロから)、52kWhモデルが約550万円前後(英国で2万6995ポンドから、ドイツで3万2900ユーロから)です。

5 Eテックは「AmpR Small platform」というプラットフォームを採用しています。元の名前は「CMF B-EV」で、ルノー傘下のEV専門メーカー、アンペアが供給元になっています。

新型リーフより少し小さい、Bセグメント用のプラットフォームで、急速充電の対応出力が最大で100kWなどの違いがあるものの、共通の技術を使っている部分もあります。このプラットフォームを使った5 Eテックが、欧州だと450万円から550万円になります。

イギリスなどは日本の2倍くらいの物価に感じることがあるので、現地では日本の200万円台の感覚かもしれませんが、似たようなプラットフォームを使っているEVがこの価格だと新型リーフも日本ではだいぶ高くなってしまうのではないかという不安が浮上してきます。

まあ、心配ばかりしていても仕方がないので、そうならないことを祈りつつ、新型リーフの1日も早い日本市場導入を待ちたいと思います。

文/木野 龍逸

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

コメント

コメントする

目次