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世界一のEV先進国ノルウェー訪問【後編】人気モデルや充電インフラの状況について

世界一のEV先進国ノルウェー訪問【後編】人気モデルや充電インフラの状況について

テスラやポルシェの「中の人」として活躍した経歴をもち、モデル3のオーナーでもあるコンサルタントの前田謙一郎氏が世界屈指のEV先進国であるノルウェーを訪問。2回に分けたレポートの後編では、ノルウェーで人気のEV車種や充電インフラの状況を紹介します。
※冒頭写真はノルウェーの首都オスロー中心部にあるNIO Houseと試乗車。

目次

ノルウェーのEV販売ランキングは?

前回の記事では、ノルウェーEV協会へのインタビューを通して、その概要と役割、ノルウェーがEV先進国となった背景のインセンティブ、クリーンエネルギーなどを紹介した。さらに、今年には新車100% BEV目標がほぼ達成目前であることをデータで確認した。

今回は、その続編として協会のアナリストLars氏へのインタビュー後半、ノルウェーの人気モデルや充電状況などを紹介したい。Lars氏は協会ではアドバイザーというポジションでEV市場分析や政策提言を行なっている。短いインタビューの中ではあったが、EV普及の理由や売れ筋モデルについて語ってくれた。EVの経済性や実用性を説明しながら、実際に車好きで以前はポルシェ964に乗っていたカーガイであり、単なる政策的観点からの説明でなく、車ユーザー視点を踏まえた彼の説明にはとても説得力があった。

ノルウェーのEV市場は多様化が進んでいる。最も売れているモデルはテスラのモデルYで圧倒的に市場をリードしている。2025年7月YTD(1月から7月累計)でModel Yは登録台数11,721台、シェア13.8%を占め、1位を独走。7月単月でも715台でトップを維持している。Lars氏曰く、テスラはこれまで色々あったが、スーパーチャージャー網の利便性やそのテクノロジーの先進性で売れていると述べていた。テスラのモデル3はYTDで9位につけているが、シェアは約2%に過ぎず、ヨーロッパではモデルYのサイズ感があっているのだろう。

ノルウェーでもモデルYは人気だ(筆者撮影)

2025年ノルウェーのモデル別登録台数(OFVノルウェー道路連盟のデータから作成)

2025年ランクモデルYTD(1月-7月)登録台数YTD シェア (%)7月登録台数7月シェア (%)前年度比 (%)7月ランク
1Tesla Model Y11,72113.87157.5355.41
2Toyota bZ4X5,09362923.1-24.57
3VW ID.44,3315.14084.3-31.23
4VW ID.73,37042953.1293.36
5VW ID.33,2103.82572.7121.69
6Nissan Ariya3,0603.62522.6-12.212
7Skoda Enyaq2,4922.9574654.72
8Volvo EX302,2582.72422.5-25.114
9Tesla Model 32,0412.41021.1-65.4-
10BYD Sealion 71,8972.23804New4

現在は他のメーカーも台数を伸ばしており、VWグループが特に目立つ。ID.4はYTD登録4,331台で3位、ID.7はYTD3,370台で4位、ID.3もYTD3,210台で6位となっている。そして、フォルクスワーゲングループ傘下のシュコダEnyaqはYTD2,492台で7位、7月単月では574台で2位に躍進している。やはりノルウェーではVWグループが欧州ブランドの地元優位を示している。

フォードがVWと共同開発した欧州専用EVエクスプローラも見かけた

トヨタのbZ4Xが改善の効果で2位に躍進

そして、興味深い説明だったのがトヨタのbZ4Xが直近で売れているということだ。Lars氏曰く、ヨーロッパでも初期のbZ4Xはエアコンを入れるとバッテリーメモリが減るなど評判はよくなかったが、最近は改善しているとのこと。YTD登録5,093台でなんと2位、シェア6.0%となっている。Lars氏の説明によると、トヨタは長年、ノルウェーで信頼のブランドとして親しまれており、そのブランド力がEVでも生きているとのことだ。この視点は興味深く、世界の他の市場でも競合と同じようなスペックのEVを投入できれば、長年のトヨタブランドはEVにおいても通用するということだろう。

トヨタのbZ4X。周りを走る車もすべてBEV

そして、街中のタクシーでの採用など中国メーカーの進出は非常に顕著だ。ただ、データからはまだ上位に食い込むまで市場を揺るがしているようには見えない。

例えばBYD Sealion 7は今年から販売開始となり、YTD1,897台で10位に入ってきたが、Xpeng G6はYTD1,271台で19位といった具合だ。以前、中国を訪問した際に現地の調査会社から中国メーカーはヨーロッパの進出において、まずは台数よりもブランドイメージをプレミアムセグメントで構築することに注力していると聞いたことがある。確かに、オスローのNIO Houseのブランディングからわかるように、中国メーカーのマーケティング戦略はポジショニングを作ることに注力しているようだ。

Zeekrも走っている

EVのランニングコストは圧倒的に安い

ノルウェーのEV普及は、インセンティブ、インフラ、啓蒙活動の三位一体だ。前回記事で紹介したインセンティブ(VAT免除、登録税低減、高速料金なしなど)は経済的メリットや使い勝手の良さを確立している。具体的なコスト比較を見ると、EVの優位性は明らかだ。EV協会が紹介してくれたサイトによると、自宅充電のコストは化石燃料に比べて圧倒的に安い。

2025年1月から3月のデータで、コンパクト、中型、そしてSUVの燃料別のコスト比較がされている。ID.3のようなコンパクト車の場合、EV自宅充電は100km走行に対し19クローネ(約269円)となっているが、ディーゼルは111クローネ(約1,575円)ガソリン126クローネ(約1,788円)、モデル3のような中型車はEVでも 19クローネ(269円)、ディーゼル113クローネ(1,603円)、ガソリン171クローネ(2,427円)、モデルYのような中型SUVも同様に自宅充電が圧倒的に安い。中型車で500km走行した場合、自宅充電代1,345円とガソリンの12,135円では圧倒的なコスト差だ。

100km走行あたりのエネルギーコスト(www.vegvesen.noより)

前回の記事でも述べたようにノルウェーの電力は主に水力発電(総発電量の約90%)で賄われており、安価でクリーンかつ豊富なエネルギーだ。これによってヨーロッパでも低い電力価格を実現している。対照的に、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料は「汚染者が負担する原則」に基づき高額な税金が課されており、これらの税収はEVインセンティブの財源となり、コスト差をさらに拡大している。

ノルウェーの充電インフラ状況

充電インフラの状況についても話を聞いた。まず、基礎充電環境が充実している。ノルウェーEV協会によると約81%の人が自宅充電をしており、法律によってマンションなどの充電施設の設備は集合住宅の住民全体で負担することになっている。結果EV所有者の92%が自宅充電設備を所有している。

普及する自宅充電(ノルウェーEV協会資料より)

そしてノルウェーの2025年の急速充電施設は、世界トップクラスの密度と成熟度を誇る。2026年には急速充電器が10,000台に達する見込みで、その9割が150kW以上となっている。2011年からの黎明期には政府主導で設置が進められ、2015年以降は国全体の幹線道路において50km毎に充電器を設置開始し、2017年に完了した。2017年以降は公的補助が段階的に廃止されており、Enovaという政府所有の企業がEVインフラ開発を支援している。民間事業者が商業的に利益を生む形で充電ステーションを構築・運用できるようサポートしており、現在は低密度地域でのサポートを中心に、電動トラック用の施設の拡充を進めている。このようにEV黎明期からノルウェーの国家充電戦略は一貫性があったことがわかる。

【参考サイト】
National charging strategy(ノルウェーの充電戦略)

ノルウェーにおける充電プロバイダーのリーダーはフィンランドのKempowerだ。ノルウェーでは3,000箇所以上に施設を持っており、ヘルシンキでもこの充電施設は多く見かけた。欧州ネットワークのIonityは高速道路を中心に展開しているし、テスラのスーパーチャージャーも約100箇所の充電ステーションを備えている。

オスロー中心部にあった急速充電器(筆者撮影)

オスロの中心部ではStellaenergyが展開する急速充電器(Kempower製)があった。急速充電の料金形態は変動制が主流で、自宅充電に比べると公共急速は4から8 クローネ/kWh (約56円から113 円)と割高になるようだ。Stellaのスクリーンにも5.99 NOK/kWhという料金が表示されている。

EVユーザーとして個人的に素晴らしいと思ったのは2023年から全ての急速充電器でクレジットカードのタッチ決済機能が必須になっていることだ。これまでいろんなEVに乗ってきたが、日本での公共急速充電器利用の煩わしさはその認証にある。カードを使ったりメーカーが提供するアプリであったり、その点テスラは充電器を挿入するだけで良いのであるが、多くのEVユーザーにとって充電の煩わしさは未だ大きな課題だ。ノルウェーでも以前は同様の問題があり、タッチ決済の導入で解決している。このようなユーザー視点の改善は本当に素晴らしいと思う。

EV先進国ノルウェーとEV協会訪問を終えて

様々な急速充電器が集まるスポット(ノルウェーEV協会資料より)

ノルウェー訪問を振り返ると、オスローのクリーンな街並みや多様なEVの風景から、「持続可能性」という言葉を実感できた旅だった。世界最先端のEV大国となった背景、それを主導するEV協会のインタビューを通じて、学ぶべき点も数多くあった。2024年の新車EV販売シェアがわずか約2%に留まる日本は、自動車大国でありながら、世界の潮流から遅れた後進国と言わざるを得ない。

一方、ノルウェーは90年代から促進してきたVAT免除や登録税低減を長期的に実施し、EVの総所有コストを内燃機関車より大幅に低く抑え、経済的インセンティブにより国民の選択をEVへ導いた。そして、何より脱炭素社会に向けた国全体の意識が高い。日本は環境負荷低減や脱炭素化へのシフトをさらに加速させるべきであり、早期の移行は電動化・知能化が進む自動車産業で将来の競争力強化にも直結すると信じている。

取材・文/前田 謙一郎Youtube /x.com

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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