蓄電池型超急速EV充電システム「Hypercharger」による充電ステーションを展開するパワーエックスが、東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。EV充電だけでなく、定置用蓄電システムによって「永遠に、エネルギーに困らない地球」を目指しています。
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上場当日はストップ高となる注目株に

上場通知書を受け取った伊藤正裕CEO。
2025年12月19日、蓄電池型超急速EV充電システム「Hypercharger」による急速充電ステーションを全国に展開する株式会社パワーエックス(本社:岡山県玉野市、取締役 代表執行役社長CEO:伊藤正裕氏)が、東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。
パワーエックスの創業は2021年3月で、創業4年にして株式上場。セレモニー後の記者会見では、IPO(新規株式上場)の目的は「知名度や信用力の向上」と「資金調達の多様化」で、調達する資金は本社工場「PowerBase」製造棟の増設や、2026年に出荷開始を予定している定置用蓄電システム「Mega Power 2500」の研究開発費などに投入する計画が説明されました。
上場セレモニーや記者会見が行われた19日、初値が1130円のパワーエックス株は1430円となるストップ高で初日の取引を終えました。
パワーエックスの主力は「BESS」事業

ストロボ焚いたら、作業着制服の反射テープが輝いてました。
今回、今まで充電ステーション開設の取材などでご縁があったこともあり、お祝いがてら上場セレモニーと記者会見の取材に伺いました。東京証券取引所に足を踏み入れることさえ初めてで、噂に聞いていた「五穀豊穣と企業の繁栄を願い」鐘を打ち鳴らすセレモニーを実際に見たのも初めてでした。
打鐘セレモニーの際、取材で顔なじみのEV充電事業担当役員である森居さんをググッとクローズアップで撮影しようとしたら「カメラが近いよぉ」と笑顔で指摘されてしまいました。失礼しました。

打鐘セレモニーを行うEVチャージステーション事業担当の森居紘平氏(右)と、電力事業担当の小嶋祐輔氏(左)。
EVsmartブログとしては、CPO(Charging point operator=EV充電サービス事業者)としてのパワーエックスが気になります。とはいえ、パワーエックスは「永遠に、エネルギーに困らない地球」をスローガンに掲げ、「日本のエネルギー自給率の向上を実現」することを目指して、定置型蓄電池を中心とした大型バッテリーを生産するメーカーです。
セレモニー後に行われた記者会見の「事業計画及び成長可能性に関する説明」では、BESS(Battery Energy Storage System=定置用蓄電システム)事業が売上構成比の83.8%(2025年3月累計ベース)を占めていて、EVCS (Electric Vehicle Charge Station=EV充電ステーション)事業の売上構成比は8.5%であることが示されました。
質疑応答でEV事業への展望を問われた伊藤CEOは「今年、EV事業にはそれなりに投資してきた。まだ年内にオープンする充電ステーションもあります。一方で、日本国内のEV普及は鈍化しています。EVが走っていなければ充電器も売れませんし、充電する方も減ってしまいますので、国内のEVの普及率に合わせて投資を調整していく」という見解を示しました。
事業の成長がEV普及の進捗に左右されるのは、パワーエックスに限らずすべてのCPOに共通した懸案です。日本国内のEVシェアが急成長を遂げるのは、国内自動車メーカーが普及価格帯のEV車種のバリエーションを増やす2026年以降になるでしょう。
ただ、EV普及を応援するひいき目で考えると、現状は1〜2%台程度で推移している新車販売のEVシェアが10〜20%になれば、充電ビジネスの市場規模も単純計算で10倍に拡大する可能性を秘めています。きたるべき飛躍の時を迎えるためにも「多くのEVユーザーが使いやすい場所」に合理的な充電設備を設置していくことが大切です。すでに「高出力器複数口設置」や従量課金などを実現しているパワーエックスの急速充電ステーションは、かなり優良な施設といえます。
再エネシフトとともにBESS事業には大きなポテンシャルがある
太陽光発電など再生可能エネルギー活用の拡大にともなって「余った電気をためておき足りない時に使う」ためのBESSは、今、世界で注目され、大きく成長しているプロダクトです。
会見では「日本のBESS市場は今後15年で300GWhに到達する見込み」であり、BESS事業における2025年〜2029年までの受注&受注見込み残高は533億円になっていて工場はフル稼働状態、来年度以降も堅調な成長を見込んでいることが説明されました。
パワーエックスは大型蓄電池の製造とともに蓄電所全体のプロデュースも垂直統合で行っています。主要顧客はエネルギーや通信の大手企業。BESSには輸入製品が多いものの、国産の安定した制御と長期メンテナンス体制がアドバンテージになっているということでした。
EV用のバッテリーも作っちゃえばいいのに?
「われわれはメーカーである」(伊藤CEO)という矜持を示すため、上場セレモニーや会見に伊藤CEOをはじめ社員のみなさんは工場の制服であるという作業着姿で登場しました。
パワーエックスはバッテリーメーカー、とはいえバッテリーの基本単位となる「セル」は中国製を調達して使用しています。そもそも日本のリチウムイオン電池製造シェアはだだ下がり中。いっそのこと、セルも国産や自社製として、EV用のバッテリーまで製造することはできないものか。
質疑応答の時間に「バッテリーのセル(リチウムイオン電池の最小単位となる単電池)は中国からの調達と承知しています。チャイナリスクは心配じゃないでしょうか? またセルを自社製造する可能性はありますか?」と質問してみました。

伊藤CEO。
伊藤氏の回答は、まずチャイナリスクについては「われわれが調達しているのはエネルギー密度が200Wh/L未満の、コモディティ化した電池セル。先だって中国が発令した輸出規制には電池も入っていたが、高密度の電池のみが対象で影響はなかった。ただし、サプライチェーンの多様化、多重化には注力していて、今後に向けて東南アジアからの調達契約も進んでいる」とのこと。
また、国内生産のセル利用も前向きに検討しているが「コモディティ化した電池の供給元は北米、東ヨーロッパ、さらに東南アジアなどにも広がっていて、ビジネスモデル上、そのとき一番いい電池セルを採用してリスクを分散」するための意図的な戦略であり「セルの自社生産については現時点では検討していない」という説明でした。
テスラの場合は蓄電池もEVもギガファクトリーなどの自社で生産していますが、世の中にEVや蓄電池を広げ、再生可能エネルギーを普及させるための方法はひとつじゃないってことですね。
いろいろと、改めて勉強になる会見でした。電気自動車と再生可能エネルギーは、密接に関係しています。モビリティの脱炭素化実現のために、発電の再エネ化シフトが必須。そのために、定置型蓄電池は大きな役割を果たします。
パワーエックスの成長のみならず、日本のBESSやEV普及の進展にも注目していきたいと思います。
取材・文/寄本 好則









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