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上海モーターショーで『EZ-60』の開発主査に聞く:マツダと長安汽車の強みを生かす電気自動車

上海モーターショーで『EZ-60』の開発主査に聞く:マツダと長安汽車の強みを生かす電気自動車

中国で開催された上海モーターショーには日本メーカーからも意欲的なEVが出展されました。マツダが出資する現地法人「長安マツダ汽車有限公司(以下、長安マツダ)」は、新型電動クロスオーバーSUV『MAZDA EZ-60』を公開。開発主査である小澤裕史氏へのインタビューをお届けします。

目次

中国市場での巻き返しを画策する日欧OEM

中国市場においては、日欧の主要OEMの苦戦が報じられているが、2025年上海モーターショーでは、現地OEMやAI企業らとの共同開発EVを発表し、巻き返しを図っている。

アウディは新たなロゴを採用した中国市場専用のブランド「AUDI」を立ち上げ、専用プラットフォームのEVを投入した。トヨタはレクサス、bZ7およびbZ5を、日産はN7、ホンダ燁(イエ)シリーズと、どれも日本では見られないADAS+機能やデジタルコックピットを採用したEVが発表された。

マツダも例外ではない。欧州で投入されたEZ-6とはプラットフォームも異なる新型「EZ-60」を発表している。会場でマツダの新型EV EZ-60の開発主査、小澤裕史氏に話を聞くことができた。小澤氏は、マツダ 商品本部 主査の肩書を持つ一方、長安マツダでは製品研究開発センターでも部長(Director)を務めている。EZ-60の特徴や今後の展開について語ってもらった。

プレスカンファレンスでスピーチする代表取締役社長兼CEOの毛籠勝弘(もろ まさひろ)氏。

EZ-60はマツダと長安汽車のいいとこどりを目指した

Q. 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。さっそくですが、EZ-60の特徴をひとことでいうとなんでしょうか。

小澤氏(以下敬称略) そうですね。(現地合弁企業のパートナーである)長安汽車とマツダのそれぞれの強みを生かした車両ということができます。今年3月に発表した「ライトアセット戦略」のひとつの成果でもあります。

それぞれの強みとは、マツダの魂動デザインと人馬一体の走り、長安汽車が持つスマートコックピットやバッテリー技術のことになります。これらを融合させたものがEZ-60と言えるでしょう。

Q. 車両の機能でいうと例えばどんなものがありますか?

小澤 コックピットでいえば、センターコンソールに広がる26.54インチのディスプレイに注目してほしいと思います。助手席まで伸びる横長タイプですが、これが1枚のディスプレイで構成されています。大画面での快適なUIを実現するため、前のEZ-6比で1.6倍の処理性能を持つプロセッサを使用しています。

Q. ドライバー正面のメータークラスタがありませんが、情報はすべてセンターディスプレイに集中するタイプですか?

小澤 いえ、ダッシュボードに特殊なディスプレイが埋め込まれており、大型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)が実装されています。メータークラスタを廃止し、運転に必要な情報はHUDに集約できます。これにより、運転中の視線移動を最適化できます。

このHUDは100インチ相当のディスプレイになっており、裸眼3D表示にも対応しています。助手席向けに3D映画やエンターテインメントコンテンツを表示させることもできます。XRナビでは、進行方向を矢印でHUDに表示するのですが、直角、斜め奥といった曲がる方向に応じて立体的に表示されるので、あたかも道路上の表示のように進行方向を示してくれます。

Q. メーターパネルはなくなりましたが、正面のステアリングコラムにあるのはドライバーモニターシステムですか?

小澤 はい。ドライバーの運転状態、健康状態の監視のほか、ジェスチャーコントロールのセンサーとしても利用しています。サイドミラーは電子アウターミラーとなっており、ドア部分のディスプレイで両サイドを確認します。

オーディオシステムもこだわりました。23個のスピーカーを使ったサラウンドシステムはぜひ体験していただきたい。これだけスピーカーがあるとあらゆる音像を再現できる他、ドライバーだけ、助手席だけに聞こえる音を同時に作り出すこともできます。

中国車に人馬一体技術を注入

Q. 運転操作を含めて、車室内体験は非常に興味をそそられます。が、マツダとしては走りも譲れない部分だと思います。ADAS機能や人馬一体の走りについてはどうでしょうか。

小澤 ADAS機能はL2+に対応していると思ってください。人馬一体については、今回電子制御サスペンションを採用しました。ドライバーの操作に対しても、L2+の運転中も安定性や乗り心地を重視した制御を行っています。L2+でレーンチェンジするときも非常にスムースで余分なロールを感じさせないようになっています。

Q. マツダはトルクベクタリングの技術を持っています。MX-30を運転したときは、アクティブサスのようなハンドリングを感じました。パワートレイン制御によるトルクベクタリングとアクティブサスの制御を組み合わせると、最強のドライブフィーリングが実現できそうですね。

小澤 はい。姿勢制御もそうですが、EZ-60のアクティブサスはとくに乗り心地をよくする方向でチューニングしました。というのは、欧州寄りの足は中国では「固い」と言われてしまうからです。

プラグインハイブリッド版はレンジエクステンダーとして設計

Q. EVとしての性能はどうですか? 聞いた話では、中国では春節など長期休暇でEVでも省をまたいだ里帰りをする人もいると聞きました。バッテリー容量や航続距離はどうなっていますか?

小澤 まだ最終仕様として確定させていませんが、バッテリー容量は78kWhです。航続距離はCLTCで600kmとしています。急速充電性能は30%から80%までの時間はおよそ15分(最大受入出力は80〜100kW程度と推定)です。バッテリーやパワートレインは長安汽車の車両をベースにマツダが設計しました。パワートレインは、EVの他、1.5Lのエンジンを搭載したプラグインハイブリッド版も用意します。

エンジンは発電専用で、マツダとしてはREV、レンジエクステンダーと分類しています。バッテリー容量は32kWhですが、航続距離は1000km(CLTC)としています。

Q. EV版もREV版も1000km帰省に十分対応できそうですね。この性能なら欧州や北米展開も可能だと思いますが、EZ-60の海外展開は考えていますか?

小澤 はい。EZ-60はグローバルモデルなので、中国のあとはEUへの導入を考えています。EUではすでにセダンのMAZDA eが投入されています。EZ-60はSUVなのでラインナップを増やすことになります。次の可能性は東南アジアです。タイやインドネシアでは、どちらかというとコンパクトカーが人気ですが、新しいユーザー層、EV購入層に訴求していきたいと思っています。

EZ-60に見るマツダの戦略

インタビューで改めて感じたのは、同社のライトアセット戦略(2025年3月に発表されたマツダの電動化戦略)の柔軟性の高さ、懐の深さだ。

マツダとしては、どちらかというと職人が一途に車づくりに励むイメージがあり、走りや安全性にこだわりを持つ。異論は認めるが、たとえるなら、マツダ車はタッチパネルや大画面ディスプレイよりアナログメーターや物理ボタンを好む会社というイメージがある。

しかしEZ-60は26.54インチという大型ディスプレイにメータークラスタの廃止。ドライバー席にもオットマンチェア(ゼログラビティシート)を採用している。車内からのドア開閉はレバーではなくボタンで行う。近年の中国人気車の標準(流行?)といえばそうだが、昔からのマツダファンにとっては違和感があるのではないかと思ってしまう。

EZ-60はライトアセット戦略の賜物

だが、マツダの強みは技術や仕組みに対する柔軟性、適応能力にある。

マツダのライトアセット戦略では、「多様化するニーズや環境規制に柔軟に対応すべくマルチソリューションで電動化を進める。多様な商品・電動化技術を、タイムリーに開発・生産し、市場導入するにあたり、既存資産の活用度を高める」としている。

「マルチソリューション」を単にパワートレインの選択肢に留めず、車両設計手法やサプライチェーン、エコシステムまで範囲を広げ、「既存資産」を自社技術由来のものに限定しなければ、EZ-60の設計思想に合点がいく。

マツダは、ビルディングブロックやフレキシブル生産ラインなど、以前から車づくりの革新を行ってきた。いまや常識ともいえるシミュレーションを活用したモデルベース開発もマツダがいち早く成果をあげている。こういった点から、筆者は、マツダはレジリエンス能力の高い会社だと思っている。今回の上海モーターショー視察とマツダへのインタビューでその認識がさらに強まったといえる。

取材・文/中尾 真二

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この記事を書いた人

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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