「全固体電池は少なくとも10年先」ストアドット社

超急速充電バッテリー技術を開発するストアドット社でさえ、全固体電池の生産は少なくとも10年先の未来だと考えています。アメリカメディア『Clean Technica』から、全文翻訳記事でお届けします。

「全固体電池は少なくとも10年先」ストアドット社

【元記事】 StoreDot Says Solid-State Batteries Are At Least 10 Years Away by Steve Hanley on『Clean Technica』

Clean Technicaでは、全固体電池技術の先駆者とされるイスラエルのストアドット(StoreDot)社をこれまでも多く取り上げてきました。わずか5分で充電できる電池を現在テスト開発中とされる同社には、ボルボ・カーやダイムラー・トラックが出資しています。それだけに、同社が全固体電池の量産が可能となるのはまだ10年先であり、自動車メーカーはその間、暫定的なソリューションに集中すべきであると発表したことは、少々の驚きでした。

同社が今週発表したプレスリリースによると全固体電池はコストパフォーマンスがよく、高速かつ安全な充電が可能で、高エネルギー密度のバッテリーになり得ますが、技術は未完成で、量産に至るまでにはまだ大きな課題をいくつか抱えているとされます。全固体電池はリチウムイオン電池やリチウムポリマー電池などの現行技術に見られる液体電解質やポリマーゲル電解質の代わりに、固体電解質を使用します。

ストアドット社CEOドロン・マイヤースドルフ(Doron Myersdorf) 博士によると「ストアドットのような有力な電池開発企業が世界の自動車メーカーに対して、超急速充電技術の現実的で誇張のない導入ロードマップを提供することは極めて重要です。競合他社は強気な主張をしていますが、全固体電池はまだ少なくとも10年以上先の話というのが現実であり、超急速充電が可能なEVを開発中のメーカーがすぐに利用できるソリューションではありません。

私たちは、2028年までの量産を目標とする半固体電池の導入が、より現実的なステップであると考えています。この電池は、わずか3分で160km分の充電が可能な、先進的で安全かつ高性能な電池です。半固体電池は、全固体よりも製造工程がシンプルで、難易度が低いという利点もあります」。

今年3月にストアドット社は「100inX」という戦略的技術ロードマップを公開し、シリコン主体XFC(超急速充電)、半固体、全固体という、3世代の同社将来技術を紹介しました。これらの電池は、160km分の走行距離をそれぞれ5分、3分、2分で充電できるようになるというもので、第1世代の電池は2024年、第2世代は2028年、第3世代は2032年に生産開始予定です。

そして先月、ストアドット社は1000サイクル以上の充放電が可能なセルを、量産可能かつEV用の形状で提供開始しました。これは同社の優れた超急速充電バッテリーセル技術を証明するもので、現在、ストアドット社が世界中に持つ自動車OEMパートナーにパウチ型で提供され、過酷な試験に晒されています。5分間の充電で160km分の走行ができるようになると期待されています。

同社は、独自の有機・無機化合物を設計・合成し、AIアルゴリズムによって最適化することで、従来のリチウムイオン電池に対する革命を起こしました。10分未満でEVを充電することを可能にする、つまり通常の内燃エンジン車の給油時間と同等のレベルに到達したのです。

ストアドット社の戦略的投資家やパートナーにはダイムラー、BP、ビンファスト、ボルボ、ポールスター、オラエレクトリック、サムスン、TDK、そして製造パートナーのEVEエナジーが名を連ねています。ストアドット社によると「5分で160km」のバッテリーを2024年までに量産化するプランは予定通りに進んでいるようです。

トヨタは、2025年までに全固体電池を搭載した自動車を市場に投入するとの主張を継続していますが、業界関係者の大半はその主張に懐疑的です。もしトヨタがメーカーとしての存続をそのような開発に賭けているのだとしたら、彼らは深刻な問題を抱えています。いずれにせよ本誌では、Group14社の前途有望なシリコンアノードプロセスなどの電池技術の進歩に関する情報提供を継続します。

高出力で急速充電が可能な全固体電池は、現時点ではかなり遠い存在ですが、EVを支持する人たちが、より優れた電池が登場すると確信できるに足るブレークスルーは現在も確実に存在しています。世界は今、軽量でコンパクトで電費のいい、一般人にも手が届くEVを切実に求めています。

翻訳/池田 篤史(翻訳アトリエ)
※記事中画像はStoreDot社の広報素材を使用。

この記事のコメント(新着順)7件

  1. そもそもEVは温暖化対策の一環として提案されたはずですが、EVが真に温暖化対策に有効であることの議論が少ないと思います。EV化は自然エネルギー普及と並列して議論すべきです。

  2. 水素燃料やE-Fuelが先に実現しそうですね
    電池になってもその元は発電ですからね。

    トレーラーとかの大型車や電気航空機が先じゃないかな?

    ガソリンでまだまだ先まで行けますよ

  3. 全固体電池の技術資料を読み漁った人間ですが、まだ技術的課題や現地点での成果は芳しくないですな。少なくとも東芝SCiBを超えないと普及は難しいと思います。
    自身が知る限り容量は精々100mAh、それに対して東芝SCiBは23Ahあります。
    しかも単セル当たりの電圧は2.4V…それも東芝SCiBと同等。

    なんだかトヨタの出した「約束手形」の期限が長いと感じてしまいます。忘れたころにしか出ない気がした。セル容量の拡充も数値比からして最低10年かかると思いますよ。

    「二次電池とキャパシター(コンデンサー)の中間の性質もつ電池」発想は魅力でも、既に東芝がSCiBとして先行した分野ですし、エネルギー密度もそれに打ち勝てるものてないと普及は難しいと思いますよ。
    あとクルマ以外のジャンルに使われていることも重要!すでに鉄道分野(ハイブリッド気動車が典型例)で広く使われている東芝SCiBは消防法クリアも考え水系溶剤を使う方向にも研究開発が進んでいます。こういう産業BtoB用途にも広がらないとスタートアップも難しいんやないですか!?

  4. まぁ、T社の狼が来た!は置いといても
    今回話題のekクロスEVを3泊4日でお借りして約500㎞兵庫県西部から下関まで一般道だけで走ってきましたが、ガソリン車ならそのままノンストップで走れますが
    ekクロスEVの場合は受電容量の問題もあって途中5回の充電ストップを余儀なくされました。
    時間制限のない充電器2か所を利用したこともあって3時間余分にかかりました。
    5分で160kmということならば約30分のロスで済みますから魅力的ではありますね。
    しかしながら
    既存のバッテリーを30㎾積んだ方が良いように思います。

  5. 最近のシャオミスマホの120w充電見たく電池を分割して充電して速度上げるみたいなことってEVだとできないんですかね?

    1. 実はもうありますよ、BYD傘下のDENZAブランドにD9いうMPVがあって、二つの充電器から並列で充電する機能が付いています。

  6. 5分程度で160kmが実現すると経路充電がやりやすくなっていいですね。
    固体でも半個体でもニーズに合えばいいので期待できそうです。

    対応する充電器は360kW級でしょうか。一般ご家庭の消費量を最大60Aと見積もっても60軒分。
    ちょっとした地域規模の消費電力があちらこちらでバースト状にオンオフを繰り返すと発電所や送配電設備での電圧・周波数調整が大変そうですね…。
    超急速充電設備にはある程度電力をプールできる充電設備と太陽光発電所を併設、という形で進めば発電所や送配電設備にも優しい気がします。
    EVのみならず周辺地域にも送電できれば現在は捨ててる電力をフル活用できますし。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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