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シャオペンがグローバルブランドイベントを開催/AIロボティクスカンパニーへの進化

シャオペンがグローバルブランドイベントを開催/AIロボティクスカンパニーへの進化

躍進する中国のEV企業はBYDだけではありません。NIO(蔚来汽車)、Li Auto(理想汽車)とともに中国新興EVメーカーの「御三家」として注目されるXPENG(小鵬汽車)が、近未来のモビリティを再定義するAI戦略を発表するイベントを開催しました。コンサルタント、前田謙一郎氏の解説レポートです。

目次

何小鵬CEOの情熱的なプレゼンが印象的だった

2025年4月22日、香港のカイタッククルーズターミナルで開催された「XPENG GLOBAL BRAND NIGHT(シャオペン グローバルブランドナイト)」は、XPENG(シャオペン)が単なる自動車メーカーではなく、AI技術でモビリティを再定義するブランドであることを世界に示した一大イベントであった。フラッグシップMPV「X9」(もちろん電気自動車)の世界発売と同時に、10年の歴史と未来のビジョンが披露され、自動運転、Turing AIチップ、人型ロボット「IRON」などが注目を集めていた。

何小鵬(カ・ショウホウ)会長兼CEOの2時間にわたる情熱的なプレゼンは、XPENGの新しい業界トレンドをリードするテクノロジーだけでなく、2025年の60カ国進出と海外売上50%の目標など、さらなる成長の意気込みを感じ取ることができた。今回はこのイベントで語られた注目ポイントを紹介したい。

XPENG GLOBAL BRAND NIGHT

XPENGの生い立ちとミッション

最初に何小鵬CEOから会社の生い立ちについて説明があった。XPENGは2014年、広州大学城のガレージで設立、社名の「X」は未来への探求を意味し、伝統的な自動車メーカーではなく、AIを活用したインテリジェントモビリティの創造を目指している。

何小鵬CEOは、技術は特別な人のためではなく、すべての人々のためにあるとして、技術の民主化を述べていた。2018年に初の車「G3」を発売し、自動駐車や音声制御を搭載したスマートEVとして注目を集め、2020年には香港とニューヨークで上場し、中国EV企業初のデュアル上場を達成した。2022年の「G9」は、従来の中国製品の安かろう悪かろうのステレオタイプを打破し、北欧や中東で高い評価を得ていると説明された。

何小鵬CEOは一人で2時間に渡ってプレゼンを行った。(XPENG BRAND NIGHTライブ映像より)

グローバル展開は2020年のノルウェー進出から始まり、現在は30カ国以上で製品を販売。2025年には海外売上の50%を目標とし、ヨーロッパのラグジュアリEVセグメントで中国ブランドNo.1を誇っている。

研究開発には9つのグローバルR&Dハブと24,000人以上のエンジニアが関わり、シリコンバレーにも拠点を展開。自動車だけでなく、AI、自動運転、空飛ぶ車、人型ロボットの開発をしながら、持続可能性にも注力し、ESG評価で2年連続AAランクを獲得しているとのこと。

今まさに、テスラもFSDによる自動運転やロボタクシー、そしてオプティマスなどによって自動車メーカーからAI・ロボティクスカンパニーへ進化を遂げつつあるわけだが、まさしくXPENGも同じ将来像を描いているということだ。

現実世界AIへの注力

XPENGはAI革命、電動化、そして現実世界のAIで移動の革命を起こす。

何小鵬CEOが次に説明したのが、現実世界AIへの注力だ。AIがモビリティを超えた新しい生活様式を生み出すエネルギーと位置づけ、AIが過去の蒸気、電気、インターネットに続くパラダイムシフトを引き起こし、物理世界とデジタル世界を融合させる。そしてXPENGはこの最前線にいると強調していた。

物理世界とデジタル世界の融合は、例えば自動運転車が道路環境をリアルタイムで学習し、ロボットが人間の動作を模倣することで実現される。つまり、Open AIやGoogle、その他LLMのようなデジタル中心のAIを超え、触覚や視覚データを活用した現実世界のAIを制するという将来のトレンドを確実に捉えていると感じられる説明であった。

XPENG事業戦略の中心にはAIはある。

そしてXPENGはクラウドAI、Turing AIチップを統合し、自動運転の実現や人型ロボットの開発を加速している。

自動運転においては、2025年末に中国でレベル3自動運転を実現予定として、100kmごとに10回の人間介入を1回未満に抑える目標で、2026年の初めにはグローバルでも展開を目指すとしていた。数百万キロの走行データとユーザー動画を活用し、現実世界の複雑な環境の学習を継続、実際のユーザー動画を紹介し、ユーザーが広州から香港への右ハンドル走行への切り替えで車が交通ルールを学習し、ラウンドアバウトをスムーズに走行した例なども紹介していた。

とくに、今後の自動運転分野の優位性を勝ちとるための自社でのAIチップ開発は注目すべきポイントだ。Turing AIチップは、自動運転、ヒューマノイドロボット、空飛ぶ車を支える自社開発の心臓部であり、プレゼンでは従来のソリューションの3倍、テスラHW4の2倍の計算能力を持ち、40コアプロセッサで30億パラメータをローカル処理できると何小鵬CEOは語る。

汎用GPUの購入では無駄が多く、それを排除するためにも自社開発を行い、車両やロボットに最適化したカスタマイズを実現するということだろう。これはテスラがNVIDIAからのGPU調達だけでなく、Dojoコンピュータを自社開発していることからもそのメリットや重要性がわかる。今後の量産については2025年第2四半期に中国で開始するとしている。

自社開発のTuring AIチップ。

以前はXPENGもLidarを使用した自動運転システムを開発していたが、2024年以降コスト削減と技術進化を背景に、カメラベースの自動運転にシフトしている。P7+やMONA M03などの新モデルではLidarを排除し低コストの自動運転を実現した。特に昨年には何小鵬CEOがテスラのFSDをアメリカで実際にテストし、その進化に感銘を受けたことが転換のきっかけとなったようだ。

人型ロボットへの応用

そしてこれら自動運転技術とAIチップを使った延長線上にあるのがXPENGの人型ロボット「IRON(アイアン)」だ。プレゼンの中ではロボット開発は自動運転と同じL1~L5のカテゴリーをたどり、L3以上の自律性が必要と述べており、自動運転のAIフレームワークをロボットに応用すると述べていた。

自動運転では、数百万キロの走行データで強化学習を行うが、IRONも同様に人間の動作から新たなデータセットを構築、今後はL3の自律性を実現して、2026年に量産を開始するとしている。

XPENGの人型ロボット「IRON」。

広州工場ではパイロット運用が進行中で、今後は工場で作業し人間と協働して効率を高める。家庭での利用についてはより多くの反復と学習が必要で、より長い時間がかかるだろうと語っていた。業界では、テスラのオプティマス、Figure AI(BMW工場で運用)、Boston DynamicsのAtlas、Unitreeなどたくさんのライバルが存在するが、50億人民元(約1075億円)もの投資を行うとのことからこの分野のXPENGの本気度が伺える。

4月23日から開催されている上海モーターショーでもこのIRONのデモが行われていたが、その歩行はとても自然であったし、メディアからも多くの注目を浴びていた。

AI汽車「X9」の発表

このようにプレゼンでは今後の業界トレンドは現実世界AIであるとして、XPENGの優位性や今後のマイルストーンを何CEOが語っていたが、最後に紹介されたのが彼らのフラッグシップモデルである小鵬X9だ。

X9はXPENGのSmart Electric Platform Architecture 2.0(SEPA 2.0)に基づく7人乗り電動MPVで、2024年1月発売以降、中国のラグジュアリMPV市場でトップセラーになり、2024年には21,141台を販売し、アルファード(16,701台)を上回ったと説明された。全長5293mm、ホイールベース3160mmの大型ボディで今後は香港でのグローバル発売を機に、欧州進出を予定している。

新型X9(XPENG ウェブサイトより)

この2025年モデルのX9については、496の部品をアップグレードし、35%の部品を変更、新しいエクステリアカラーや20インチ「ステラフローティングホイール」、ソフトクローズドアなどを採用。自動運転においてもLidarを廃止し、Turing AIチップを全モデルに標準搭載し、自動運転機能を強化、L3相当を2025年末に目指すと述べられた。バッテリーは94.8kWh(650km CLTC)または105kWh(740km CLTC)に拡大、5C超急速充電で10分405kmを実現したとしている。

新型X9(XPENG ウェブサイトより)

他にもゼログラビティシートは第1・2列に標準装備、腰への圧を60%軽減、新たに通路を確保し、子供の移動も容易になった。後輪ステアリングでは5.4mの最小回転半径を確保、7.7平方メートルの室内は、3列目折り畳みで自転車5台を収納でき、21.4インチ後席スクリーン、23スピーカーオーディオ、10.8L冷蔵庫など、快適性へのこだわりは群を抜いている。

さらに中国での価格は359,800~419,800人民元(約770~900万円)で、アルファードより手頃という価格設定だ。プレゼンを見ながらX9はとても魅力的に思えたし、何小鵬CEOが、自身がアルファードを愛用し、「快適性と技術で超えたい」と述べ、X9をアルファードの進化版と位置づけていたようにX9にかける意気込みを感じた。

今年はヨーロッパにも輸出され、今後のグローバル市場での躍進も見どころだ。もちろん、X9だけでなく、XPENGはG6、G9、Mona 3、P7+などの幅広いラインナップを持っており、様々な市場ニーズに応えることもできる。

XPENGが目指すのはAI汽車(自動車)。

今後のXPENGの進展に期待

XPENGのグローバル・ブランドナイトは、2025年フラッグシップモデルX9の発表だけでなく、XPENGのAIへの注力やグローバルビジョンを世界に示したイベントであった。実際のイベントは何CEOのプレゼン前からライブ配信が行われており、世界中からメディアや投資家、インフルエンサーが集まり、その熱気をモニター越しに感じることができた。

中国経済の成長は鈍化したが、昨年の新車販売台数は成長し、NEV車の勢いは止まることがない。そして電動車と知能化をいち早く進める中国メーカーの製品には勢いや活力が溢れているように思う。その中でも、現実世界AIである自動運転やロボット開発は今後の大きなトレンドであり、XPENGの戦略はそのトレンドを真っ向から捉えている。

テスラにおいても、6月からテキサスで開始予定のFSD自動運転を使った有料ロボタクシーサービスは注目を浴びているし、先日も人型ロボット「オプティマス」の進化した歩行動画がXでポストされていた。今後もXPENGの海外展開、そして人型ロボット「IRON」などその動向に注目したい。

文/前田謙一郎(Youtube / Spotify)

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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