ホンダが北米向け電気自動車 Acura『ZDX』を世界初公開〜102kWhで約900万円か

ホンダの海外向け高級車ブランド『アキュラ』は2023年8月18日(現地時間)に、新型電気自動車(EV)『Acura ZDX』『ZDX Type S』の詳細を発表しました。『ZDX』は2024年初頭に、北米で納車が始まる予定です。価格は6万ドル台からになります。

ホンダが北米向け電気自動車 Acura『ZDX』を世界初公開〜102kWhで約900万円か

コンセプト発表から1年で実車発表

ホンダは2040年までにEV、FCEV(燃料電池車)の販売比率をグローバルで100%とする目標を掲げ、アジア地域をはじめとした各地で電動車の投入を進めています。日本でも2024年には軽の商用EVを発売する予定です。

ホンダは2021年6月、北米市場向けのEVを『PROLOGUE(プロローグ)』という名称にし、2024年モデルとして発売することを発表しました。さらに2021年9月には、『プロローグ』の初年度の年間販売目標を7万台にすることを明示しています。2040年の目標達成に向けたEVの第一弾がSUVタイプの『プロローグ』で、ここを足がかりに2030年までに50万台のEVを北米で販売し、2040年の100%につなげていく計画です。『プロローグ』は、2023年中には先行販売を開始し、2024年初頭に納車を開始する予定です。

そして『プロローグ』と同じ時期に発売されるのが、海外向け高級ブランドのアキュラ(Acura)の『ZDX』と『ZDX Type S』です。

『ZDX(Type S)』は、アキュラが2022年8月に発表した『Acura Precision EV Concept(アキュラ・プレシジョン・イーブイ・コンセプト)』でデザインの方向性が示された後、2022年12月に車の名称と、2024年のモデルイヤーとして発売することが発表されました。それから約1年後の2023年8月18日に、より詳しい車の仕様が発表されたという経緯です。

なお、今回の『ZDX(Type S)』と『プロローグ』はどちらもGMとの共同開発モデルです。ホンダはこの後、2025年に独自開発のEV専用プラットフォームをベースにした中大型EVを北米市場に投入する予定です。

価格は約6万ドルで航続距離は325マイル

Acura ZDX Type S

『ZDX』は、ベースグレードの『ZDX(ズィーディーエックス)A-Spec』と、ハイパフォーマンスグレードの『ZDX Type S』の2種類になります。

価格は、『ZDX A-Spec』は6万ドル台から、『ZDX Type S』は7万ドル台からになります。2023年後半に先行販売を開始し、2024年の早い時期に納車を始める予定です。販売はオンライン販売のみになる予定です。

駆動方式は、『ZDX A-Spec』はシングルモーターのRWDと、2モーターのAWDの2種類で、『ZDX Type S』はAWDです。

バッテリー容量はいずれのモデルも102kWhで、航続距離はEPA基準で、『ZDX A-Spec』のシングルモーターは325マイル(約520km)、2モーターAWDは315マイル(約504km)、『ZDX Type S』は288マイル(約463km)です。

バッテリーは『アルティウム』を搭載

発表イベントの様子。

バッテリーは、GMが開発した『アルティウム(Ultium)』を搭載します。日産『リーフ』が搭載しているタイプと同じ、パウチ型のリチウムイオンバッテリーですね。

GMは、韓国の車載電池大手LGエナジー・ソリューション(LGES)との合弁会社、アルティウム・セルズで『アルティウム』を生産しています。2022年にはオハイオ州で最初の工場が稼働したと報じられています。今後は、2023年中にテネシー州、2024年にミシガン州で工場を稼働する計画です。

一方でホンダもLGESと合弁会社の『L-H Battery Company, Inc.』を設立し、オハイオ州ジェファーソンビルに2024年末の完成を目指して工場を建設中です。量産開始は2025年の予定で、年間生産能力は40GWhになります。

こちらの『L-H Battery Company, Inc.』で生産するバッテリーに関しては、ホンダのリリースには『アルティウム』とは記載されていません。タイプはパウチ型になると思われますが、詳細は不明です。40GWhだと、バッテリー容量が50kWhの小型EVなら80万台分、100kWhクラスでも40万台分を供給可能です。

アキュラ『ZDX』もホンダ『プロローグ』もGMとの共同開発なので『アルティウム』バッテリーを搭載しますが、2025年に『L-H Battery Company, Inc.』が生産を開始する頃にはモデルイヤーも新しくなっているし、ホンダ独自開発のEVも発売予定なので、バッテリーも『あアルティウム』とは違うものになるかもしれません。

急速充電は、最大190kWに対応しています。なおホンダ広報によれば、充電規格はCCSを採用しているそうです。ホンダはBMWグループ、ゼネラルモーターズ、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツグループ、ステランティスN.V.と合弁会社の設立で合意していて、2030年までにアメリカとカナダで高出力の急速充電ポイントを少なくとも3万カ所、設置することを発表しています。

この充電ネットワークの設備はCCS、NACSのいずれでも充電可能にするほか、プラグ&チャージで簡単に充電ができるようなシステムを採用する予定です。こうしたことから、将来はともかく、今すぐにNACSを採用したEVを出す必要性は薄いと考えられます。

ハイパワーでも電費はもう少し向上を期待

ここで、下世話にバッテリー価格から見たコスパを考えてみます。

6万ドル台という価格帯は、1ドル=145.4円(8月23日時点)なら約873万円~です。約900万円というところでしょうか。これで102kWhのバッテリー容量であれば、1kWhあたり約8万5600円からになるので、バッテリー容量から見たコスパは悪くないといえそうです。もちろん、車両価格は安くないですが。

一方で、航続距離が約520kmというのは、バッテリー容量からすると、もう少しほしいかなと思ってしまいます。1kWhあたり5km程度という電費は、決していいものではないと思います。それでも『ZDX A-Spec』のシングルモーター(RWD)で最大出力が推定340馬力、『ZDX Type S』は推定500馬力という突拍子もない性能ということを考えると、致し方ないところがあるのかもしれません。

ただ、EVは最大出力にかかわらず、ドライブモードによって電費を抑えることができるので、省エネモードがあれば航続距離はもう少し伸びる可能性はあります。

走行性能によってどのくらい違いが出るか定かではありませんが、『ZDX』や、ホンダ『プロローグ』に試乗できる機会があれば、公道を走って検証してみたいところです。

Acura ZDX スペック

ZDX A-SpecZDX A-SpecZDX Type S
駆動系RWDAWDAWD
モーター数1モーター2モーター2モーター
最大出力(推定)340馬力500馬力
航続可能距離(EPA)325マイル
(約523km)
315マイル
(約507km)
288マイル
(約463km)
バッテリー容量102kWh
急速充電最大190kW
全長×全高×全幅(インチ)197.7×64.4×77
全長×全高×全幅(mm)5022×1635.8×1955.8
ホイールベース121.8in.(3093.7mm)
価格6万ドル台〜7万ドル台〜
https://acuranews.com/en-US/releases/all-electric-2024-acura-zdx-and-zdx-type-s-make-dramatic-global-debut-arriving-early-next-year

その他のスペックいろいろ

その他のスペックをざっと紹介します。まずタイヤは『ZDX A-Spec』が20インチ、『ZDX Type S』が22インチです。かなりでかいですね。アキュラ史上、最大のタイヤサイズらしいです。

また『ZDX Type S』は、車高調整可能なエアサスペンションのほか、ブレーキは6ピストンキャリパーで15.6インチのブレンボを搭載しています。強力なブレーキですが、考えてみるとEVは回生ブレーキの制動力も強大なので、エネルギーを熱にして捨ててしまう機械式ブレーキにはあまり活躍の場はないかもしれません。

オーディオはBang & Olufsenとコラボレーションしたアキュラ向けシステムです。2024年のアキュラには全ラインナップに搭載される予定です。

以上のようなスペックが明らかになっています。兄弟車になると思われるホンダブランドの『プロローグ』は詳細が出ていませんが、ドライブトレインの性能差がどのくらいになるのか、バッテリー搭載量は変わるのか、価格がどうなるのかなどが気になります。

ということで、いよいよホンダからも、少しずつEVの実車の詳細が出てきました。ホンダが北米市場に車を投入すれば、日本の御三家のようになっているトヨタ、日産、ホンダが揃います。それぞれのEVがリアルワールドでどのような評価を受けるのか、市場でどう動くのか。さらに日本市場へのEV投入はどうなるのか。今後に注目していきたいと思います。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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