アウディe-tron SUV発表、発売は2019年

昨日2018年9月18日、アウディより完全電気自動車のミッドサイズSUV、e-tronが発表されました。サイズ的にはQ6相当。これで完全電気自動車のSUVはテスラモデルX、ジャガーi-Pace、メルセデスEQC、アウディe-tronの四車種となりました。本記事では発表の概要と、メルセデスEQC・ジャガーi-Pace・テスラモデルXとの比較について書きます。

アウディe-tron SUV発表、発売は2019年

先日のメルセデスEQCの発表に引き続き、アウディも満を持して?e-tronを発表。噂ではこのタイミングの発表の流れについて、2020年にならないとEQCを販売できないメルセデスが、アウディより情報を前倒しで発表して、2019年発売予定のe-tronのインパクトを弱めようとした、とも言われています。実はアウディがe-tronのコンセプトカーを発表したのはなんと2009年。元々は2シーターのR8のような車でしたが、その後もいろいろなコンセプトカーが発表され、最後にA3 Sportback e-tronというプラグインハイブリッド車(CUV)が実車として2014年に発売されました。
その後沈黙は4年間続きます。A9 e-tronなども噂されましたがお蔵入り?やっと発表になったわけなんです。e-tronの発売は2019年。サイズ的には現存のQ6より少しだけ大きめのサイズ。

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Color: Antigua blue

e-tronはメルセデスEQCと同様ミッドサイズSUV。やはり他社と同様空力を強く意識したワイドアンドローのボディで、外観としてはアウディらしいシングルフレームグリル、カメラ式のサイドミラー(ミラーじゃないからサイドカメラか)が目を引きます。このグリル、良く見ると中央部分だけがスリットになっていて上下部分は閉じており、空力に配慮して不要な穴は設けない工夫がされています。
充電ポートは何とフロント左に配置され、とうとう各社バラバラの様相を呈してしまいました。日産リーフやA3 Sportback e-tron PHEVはフロント中央、アウトランダーPHEVはリア右、テスラはリア左、そして。。どうも電気自動車専業でない自動車メーカーは、ケーブルのレイアウトをあまり考えない傾向にあります。コネクター位置がさまざまだと、充電設備側としてはケーブルを長めにせざるを得ず、その分繋ぐときにケーブルを引き回さなければなりませんし、ケーブルは重くなるし、ケーブルが地面に接触してしまうので汚れるし、おまけにケーブルの長さ分だけ損失も増えてエコでもないという、面白くない結果になると思います。いい加減、各メーカー統一の方向で検討すべきではないでしょうかね。ホテルなどで、充電設備のある場所では、車が前後バラバラ、ケーブルがバラバラの方向に延びている図をイメージしたことがあるのでしょうか。

Detail

さて充電ポートの位置はおいておいて、肝心の充電ポート自体はカッコよく隠されています。何と左フェンダーにあるe-tronロゴをプッシュすると、ポートが電動で動作し、そこにCCS 2のポートが現れます。ただ見た感じCCS 2を入れること(=欧州のみ対応)しか考えていないみたいなので、ポートを米国用のCombo 1に差し替えれば米国市場はカバーできるものの、チャデモや中国のGB/T 27930のように急速充電と普通充電で別のコネクターを要求するようなケースでは、「収まりきらないんじゃない?」的な感じがしますよね?実は、フロント右にもe-tronロゴがあり、それをプッシュするとオプション装着のもう一つの充電ポートが現れます!これは凄い。ただこちらは普通充電専用とのことなので、おそらく日本や中国では、左に急速・右に普通充電ポートのように分けられるのだと思います。欧州・米国では普通充電する際は両方使えるってわけです。電気自動車ユーザーとしてはフロントはいいから、車両後方に一つ欲しいですよね。
欧州版のAC充電は標準では二種類用意され、230V/10Aのコンセント(単相)もしくは400V/16A 三相 11kWでオプションが22kW。欧州では三相400Vが家庭まで引き込まれており、屋内配線でL1など一つの相だけを使用してバランスを取っていることが多いようです。400Vの場合、一つの相の電圧は230Vになります。米国版では、240V/40A(単相)9.6kWの車載充電器が用意される模様です。米国では50Aくらいまではコンセントも可能なので、専用の家庭用普通充電器ではなく、NEMA 14-50コンセントでの充電もできるかもしれません。日本ではおそらく米国スペックとなり、200V 40Aだとすれば8kWまでということになります。

外装でもう一つ特筆すべきは1.8tまでの牽引ができること。モデルXは2.2tまでですのでほぼ同等の能力です。欧米では牽引のニーズが非常に高いのでしょうね。

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Color: Siam beige

バッテリーサイズは95kWhで、航続距離は世界標準のWLTPで400kmと発表されました。当サイトでいつも参考にしている米国EPA基準の航続距離はまだ発表されていませんが、ジャガーi-PaceのWLTP 292マイル/EPA 240マイル(後者はメーカーによる概算値)の比率を用いると、329km程度。長距離EVの基準である300kmの航続距離は余裕でクリアしていそうですし、EQCともほぼ同等と言えるでしょうが、i-PaceやモデルX 75Dの380kmオーバーと比較するとかなり差を付けられているとも言えます。この二台はe-tronよりバッテリー容量も小さいので、空力とパワートレインの効率がモノを言っているのかもしれません。各競合車両の比較については、記事最後をご覧ください。

Interior

フロントモーターの出力は125kW、リアモーターの出力が140kW、システム統合出力は265kW/561Nmと、バッテリーの容量の割には出力は低めに抑えられています。通常、電気自動車の場合は前後モーターの出力を足してもシステム統合出力より大きい、すなわち、出力はバッテリーの能力によって制限されている場合が多いのですが、アウディe-tronに関してはモーターのサイズを競合より小さめに設定しているように思えます。265kWの出力時、0-100km/hは6.6秒、「ブーストモード」を有効化することにより、システム統合出力を300kW/664Nmにまで高めると0-100km/hは5.7秒になるそうです。

Interior

内装でちょっと変わったところは5スクリーン(!!)ということ。ダッシュボードがナビやスピードメーターなどのメインのディスプレイ、センターコンソール上は機能の切替(物理ボタンの代替!?)とナビ、センターコンソール下はエアコンなどのステータスの表示と、手書き入力パッド・バーチャルキーボードに使われているように見えます。残りの2スクリーンはバーチャルミラーで、左右ドアの窓の真下に位置し、今までのドアミラーに近い位置にセットされています。指でタッチすることで向きを変えるなども可能です。

外装・内装を含めて詳細なレビュー動画がアップされていますので、真剣に見たい!という方はこちらの動画をご覧ください(英語)。17:17くらいからバーチャルミラーの解説があります。

回生レベルは0(=回生無し), 1, 2, 最大のように4段階にハンドル後ろのパドルで切り替えることができ、アウトランダーPHEVで作られた伝統のインターフェースを継承しています。

Apple CarPlayとAndroid Autoに対応し、スマホを繋ぐだけでスマホに入っている音楽を聞いたり、ストリーミングしたり、Googleマップのナビを使用したりすることも可能です。

95kWhのバッテリーの内部を見ていきましょう。内部構成は12セルモジュールが36個とのことで、合計432セル構成となります。しかし36モジュール?36×2=72だと302.4V,36×3=108だと4.2V x 108 = 453.6V!これは今までのバッテリーとはかなり違います。つまりe-tronのバッテリーは4並列(4P)108直列(108S)つまり108S4Pのパックとなり、満充電電圧が453.6Vと、通常のEVの96S=403.2Vのバッテリーより電圧が高く設定されています。勘の鋭い方はもうお分かりでしょう。充電速度を上げるために、108Sにして電圧を上げているのではないでしょうか?例えばチャデモ50kWの充電器の多くは125Aまで出力することができます。96Sのバッテリーを搭載しているEVでは充電中、例えばバッテリーが空で3.2V程度とすると3.2V x 96 x 125A = 38.4kWでしか充電できません。しかし108Sなら、3.2V x 108 x 125A = 43.2kWで充電することが可能になるのです。108Sにするためには車内のすべての高電圧関係のパーツの耐電圧を少し上げる必要があります。

拡大した図を見ますと左側にクーラントの接続がありますので、これも強制水冷と考えて良いと思います。このバッテリーパックはジャガーi-Paceの90kWhの容量拡大版の95kWhで、設計も共通性が高いように思われますね。ということは、当然ですがバッテリーヒーター等も搭載していると考えて良さそうです。

米国での販売価格は$74,800とのこと。アウディは米国では20万台に達していませんので、補助金はフルの$7500が適用されますから、実質$67,300。価格は直接競合になるジャガーi-PaceメルセデスEQC、そして若干これらの三兄弟(!?)よりちょっとだけ大きなテスラモデルXあたりを強く意識していると思われます。
最後に、スペックを比較しておきましょう。

最後にアウディe-tron、メルセデスEQC、ジャガーi-Pace、そして若干サイズの大きいテスラモデルX 75Dの比較を載せておきましょう。

アウディe-tronメルセデスEQCジャガーi-PaceテスラモデルX ロングレンジ
新車価格$74,800
(約840万円)
推定70,000ユーロ
(約917万円)
$69,500
9,590,00円(税込)
$80,450
10,730,000円(税込)
バッテリー容量95kWh80kWh90kWh100kWh
EPA航続距離328km321km377km475km
システム最大出力265kW
300kW(ブーストモード)
300kW294kW404kW
システム最大トルク561Nm
664Nm(ブーストモード)
765Nm696Nm596Nm
全長 x 全高 x 全幅4901 x 1616 x1935mm
※おそらくミラー抜き
4761 x 1624 x 1884mm
※おそらくミラー抜き
4682 x 1565 x 2011mm
※ミラー閉じ
5037 x 1680 x 2070mm
※ミラー閉じ
車両重量2490kg2425kg2208kg2459kg
駆動方法四輪駆動四輪駆動四輪駆動四輪駆動
定員5名5名5名7名
0-100km/h6.6秒
5.7秒(ブーストモード)
5.1秒4.8秒4.9秒
急速充電150kW CCS
80%まで30分
110kW CCS
10-80%まで40分
100kW CCS
80%まで40分
120kWスーパーチャージャー
80%まで40分
※実車では50分程度

アウディe-tronの特筆すべき点は150kW充電を世界初で実現しているということです。また、オランダのFastNEDという充電事業者によれば、175kWのCCS急速充電器を用いた場合、80%からは充電速度が低下するとなっています。150kWが30分間そのまま続くとすれば充電電力量は150×0.5=75kWh。95kWhのバッテリーパックの80%時の容量は95×0.8=76kWhで、つじつまが合います。
0%56%80%
アウディe-tron150kW150kW150kW
テスラ モデルX
(P100D)
120kW100kW50kW

こうやって比較してみると、FastNEDのデータが正しければ、アウディe-tronの電池は急速充電に非常に強そうということが言えます。

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Color: Antigua blue

欧州ではIONITYが、米国ではElectrify AmericaがCCSの充電ネットワークの構築を行っていますが、現時点(9/19現在)でIONITYは欧州で6か所、Electrify Americaは米国で15か所。対するスーパーチャージャーは全世界で1,342か所(日本国内に18か所)。アウディe-tronも既存の50kW充電スタンドを利用できるとはいえ、当然充電速度は3分の1になります。モデルXでも既存の50kW充電スタンドを利用可能です。
これからのIONITY, Electrify Americaの投資に期待するとともに、日本国内での超急速充電網はどうなるのか、ちょっと心配でもあります。

アウディe-tronはすでに生産が開始されており、発売は2019年中ごろになる模様です。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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