バッテリー交換式電動バイクでフードデリバリー
フードデリバリー大手の『Uber Eats Japan(以下、ウーバーイーツ)』と、電動バイクのバッテリーを共同利用するサービスを提供する『Gachaco(以下、ガチャコ)』は、2023年1月31日から、ウーバーイーツのデリバリーパートナー(配達員)が電動バイクをレンタルし、ガチャコのバッテリー交換ステーションを利用できる実証事業を開始しました。今回の事業は1月31日から3月31日にかけて行われる予定です。
2月2日、実証事業の発表会が、交換用バッテリーを備える『ガチャコステーション』を設置したエネオスの『ENEOSマルチモビリティステーション』(東京都世田谷区駒沢)で行われたので、参加してきました。
発表会ではまず、ガチャコの渡辺一成CEOが、今回の実証事業を通して電動モビリティーを「実際に体験してもらい、感想や意見をいただいて、サービスをよりよくしていきたい」と挨拶。2024年3月までに東京都内に70カ所の『ガチャコステーション』を設置する計画だと話しました。
続いてウーバーイーツ事業開発部門本部長の安承俊氏が次のように挨拶しました。
「ウーバーイーツでは全国13万人を超えるデリバリーパートナーが自転車や原付などで配達をしており、その中で原付を利用してデリバリーをする比率が高まっているので、電動化は(サステナビリティに向けて)非常に有用な取り組みになります。デリバリー業界でも二輪車の電動化は注目されています。ウーバーイーツとしても、中長期的にサステナブルな移動手段のアクセスを支援していきます」
月額1円で電動バイクをレンタル
今回の実証事業で使用する電動バイクはホンダの『GYRO CANOPY e:』で、交換式のバッテリーが2個(1個で最大約1.3kWh、2個で2.6kWh)搭載されています。
ホンダの電動バイクにはこの他、原付一種と二種の『BENLY e:』『BENLY e:プロ』がありますが、今のところ販売は法人向けのみです。理由は中古車になったときのバッテリー回収を確実にするなどのためと、説明を受けたことがあります。ちょっと惜しいですが、今後、ガチャコのステーションが増えれば、いつかきっと個人販売が始まると期待しています。
実証事業では、『GYRO CANOPY e:』をウーバーイーツの配達員が月額「1円」でレンタルをすることができます。
月額1円で電動バイクが借りられるなら応募するしかないと思いますが、今回の上限は10人。その中から抽選で決めたそうです。何人の応募があったのかは、非公開でした。月額「1円」なら、相当な倍率だったかもしれません。
電動バイクのレンタルは、ホンダモビリティソリューションが提供している『Hondaのお仕事用バイクサブスク』サービスで、選ばれた配達員が個人契約。レンタルした電動バイクはガチャコステーションでバッテリー交換サービスを利用できます。バッテリー交換の費用を配達員が負担するのかどうかは質問し損ねました(週明けに確認して追記します)。
なおホンダモビリティソリューションは、2022年11月から個人配達員向けに2輪車(ICEのみ)のサブスクサービスを始めているので、今回もそのシステムを利用しています。ただし現時点で、電動バイクは実証事業だけで提供されています。惜しいです。
実証事業を通して電動バイクの利用方法を把握
ウーバーイーツの安氏から、配達員の移動手段で原付の比率が高まっているという話がありましたが、どのくらいの比率になっているかは非公開だそうです。また、各配達員が1日にどのくらいの距離を走っているかや、どの程度のエリアをカバーしているかなどのデータも非公開です。
安氏によると「何回くらいバッテリーを交換するのかなども、今回の実証事業で把握できればと考えている。ホンダの『GYRO CANOPY e:』は航続距離が長いので交換回数はそれほど多くはないと思うが、利便性を考えるとステーションは多い方がいい。将来的にはそこも期待したい」とのことでした。
『GYRO CANOPY e:』はバッテリー2個搭載で、30km/h定速走行のデータでは65~77kmとなっています。ウーバーイーツの走行データがないので想像でしかありませんが、少なくとも1~2日に1回は交換が必要ではないかと思われます。
そうすると、やっぱり営業エリアの近くにガチャコステーションがあるのが利用の前提になりそうです。
ガチャコの渡辺CEOによれば、ガチャコステーションはいまのところ都内に7カ所、大阪に1カ所を設置しているそうです。ウーバーイーツで利用可能なエリア、またバッテリー交換式電動バイクが活躍できるエリアはまだまだ限定的と言えそうです。
2024年3月までに都内70カ所に交換ステーション
ガチャコステーションは今後、計画通り2024年3月までに70カ所に設置されれば、約3kmメッシュにステーションが1カ所はあるという状態になるそうです。ステーション1カ所につき、12個のバッテリーを収納できる交換機が1台、設置されるのが基本形態です。
ガチャコステーションの利用方法は簡単です。ICタグを交換機のパネルにかざすと、利用可能なバッテリーのラックが青く光ります。そこでバッテリーを交換して、自分のバイクに搭載するだけです。
バッテリーは1個で約10kgです。筆者が昔使っていた、電動レーシングカートの鉛バッテリーが1個18kgだったことを思うと、それほど重くは感じません。まあ、ここは個人の体力によりますね。
将来的にガチャコを利用する電動バイクの数は、「何年までに何台という目標数は見えていないところがあるが、ひとつのバッテリー交換機について10台程度(の電動バイクがある)として、700台くらいを想定している」(渡辺CEO)とのこと。
この数をどう見るかは悩ましいところですが、個人的には「もっと増えるといいなあ」と思ってしまいます。
ホンダは日本郵便と、2020年に2000台の電動バイクを納入する契約を取り交わしています。実際、最近の東京では電動バイクの郵便配達は、珍しいものではなくなっています。使っているのは『BENRY e:』で、バッテリーはガチャコで備えているものと同型です。
この数を基本に考えると、今から2年後に700台はどうしても少なく感じてしまいます。変化に臆病になっている感のある日本社会で電動バイクは、確かにハードルが高いかもしれません。それでももう少し、景気のいい話が出てくるようになるといいなあと思うのです。
新規オープンしたばかりの『ENEOSマルチモビリティステーション』
ところで、今回の発表会が行われた『ENEOSマルチモビリティステーション』は、ENEOSホールディングス(当時はJXTGホールディングス)と、バイクシェアなどを手がけるOpenStreet(オープンストリート)が共同で、2020年1月に発表したモビリティプラットフォームの将来構想に基づいて設置された施設です。
リリースによればENEOSモビリティステーションの開所は、ガチャコ&ウーバーイーツ発表会当日の2月2日ですが、前日の2月1日に開所式を行ったようです。EVsmartブログはまったく気がついていませんでした。うかつでした。
ENEOSマルチモビリティステーションでは、電動キックボード、電動アシスト自転車など、さまざまな電動モビリティーを利用することができます。
【利用可能な電動モビリティー(サービス名称と運営会社)】
電動キックボード 6台(LUUP/Luup)
電動アシスト自転車 6台(HELLO CYCLING/OpenStreet)
電動スクーター 6台(HELLO MOBILITY/OpenStreet)
電動小型自動車 2台(HELLO MOBILITY/OpenStreet)
電動アシスト自転車はヤマハの『PAS』、電動スクーターはホンダ『BENRY e:』、電動小型自動車はトヨタの『C+pod』を配置していました。
『BENRY e:』と『C+pod』はどちらも販売先が限定されているので、読者のみなさんには普段は乗る機会がほとんどないといっていいと思います。シャアサービスで試乗するのも楽しそうです。
シェアリングサービスでこうした電動モビリティーが増えるのは大歓迎。全国に広がることを期待したいです。
【編集部注記】
駒沢のENEOSマルチモビリティステーションでの電気モビリティシェア。以前『水に浮く! 軽EV『FOMM ONE』はいつから日本で買えるのか?』という記事取材で、今回の小型EVシェアと同じオープンストリートのアプリを使ったさいたま市でのFOMM ONEシェアを利用したことがあり、免許登録などを済ませたアプリがアクティブだったので、駒沢のC+podを借りてみようと思ったのですが……。まだ、予約を受け付けていないようです。いつから利用できるのか、問い合わせ中なので詳細わかったら追記をアップデートします。
また、『BENRY e:』も「法人プラン限定」となっていて、個人のアカウントでは予約できませんでした。
残念!
気になる『Gogoro』との関係
ところで電動バイクのバッテリー交換といえば、思い出すのは先行している台湾のメーカー『Gogoro』のサービスです。EVsmartブログでも、石垣島で展開されている様子を紹介したことがあります。
『Gogoro』の電動バイクとサービスは、公式HPによれば、すでに9カ国で展開されています。ネットワークには複数のバイクメーカーが参加していて、日本からはヤマハも名を連ねています。
一方でガチャコは、ENEOS、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキによる合弁会社で、二輪メーカー4社は共通規格を定めることで合意しています。
でも、規格が複数になるのは、普及にとってハードルのひとつになります。規格奪取の競争に敗れると、けっこう後が大変です。そして規格は、機能が高ければ勝ち取れるというものでもありません。そのことは、ビデオレコーダーのβとVHSの戦争でも明確になりました。
すでに世界展開を始めている『Gogoro』と、これから打って出ていく『ガチャコ』。同じ土俵で争うようになれば、どちらにとっても不幸なことになりかねないのが心配です。
このへんも含めて、後発の『ガチャコ』がどう考えているのかも聞きたかったのですが、今回は時間がありませんでした。
とは言え、1日の走行距離がそれほど長くない電動の小型二輪にとってバッテリー交換はとても有効なソリューションだと思います。1日も早い普及を祈りつつ、今後の展開を待ちたいと思います。
取材・文/木野 龍逸