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EVがエンジン車を超える日への大きな一歩/BYDが「スーパーeプラットフォーム」を発表

EVがエンジン車を超える日への大きな一歩/BYDが「スーパーeプラットフォーム」を発表

BYDが次世代BEV専用プラットフォーム「Super e-Platform」を発表しました。5分間で約400km走行分の充電ができることを実演。中国全土に新型EVの性能を活かす超急速充電ネットワークを構築することを明示しました。電気自動車が利便性でもエンジン車を超える日が近付いています。

目次

新プラットフォームを搭載した新型EV予約も開始

発表では「給油と充電のスピードを同等にする」というスローガンをアピール。

2025年3月17日、電動車(EV&PHEV)販売台数で世界一となった中国のBYDが、次世代EV専用プラットフォームとなる「Super e-Platform(スーパーeプラットフォーム)」を発表しました。システム電圧1000Vに対応させることによって1メガワット級の急速充電を実現。3万RPMを超える超高性能モーターも搭載するなど、EVのコアテクノロジーにおける革新的な内容が、グローバルで大きな反響を呼んでいます。

また、BYDはスーパーeプラットフォームを初採用するHan LとTang Lを4月中に正式発売する方針を表明し、予約価格を発表しました。発表された価格は、Han Lが27〜35万元(約557〜723万円)、Tang Lは28〜36万元(約578〜743万円)です。

エンジン車の利便性と比較して、EVは航続距離と充電時間が課題とされてきましたが、BYDが今回発表したスーパーeプラットフォームはそうした懸念を解決し、EV普及ブレークスルーへの大きな一歩となる可能性があります。課題解決の手段とされていた「バッテリー交換」や「全固体電池」の必要性を吹き飛ばすかもしれません。

発表の内容をじっくり確認してみた

今回の発表内容を正しく理解するために、BYDのEV、とくにBEVテクノロジーに関する沿革を確認しておきましょう。

BYDは2010年に「eプラットフォーム1.0」を採用したe6を発売。2015年に発売したQin EVには800Vシステムを初採用しました。さらに2018年に発売したTang EVには「eプラットフォーム2.0」として、モーターやインバーターを一体化した「3-in-1パワートレイン」を初搭載。そして2020年に発売されたHan EVには、BYDの独自内製LFPバッテリーである「ブレードバッテリー」を搭載して、LFPを中心戦略に据えました。

そして2021年に発売したドルフィンでは「8-in-1パワートレイン」をはじめとするさらなる統合を進めた「eプラットフォーム3.0」を採用。さらに電池パックの搭載方法を最適化するCTB(Cell to Body)をシールに初採用。そして2024年には「12-in-1パワートレイン」に進化させた「eプラットフォーム3.0 Evo」をシーライオン07(日本発売モデルはシーライオン7。日本導入モデルはeプラットフォーム3.0を採用)に初採用しました。このように BYDはBEV専用プラットフォームを継続的に進化させてきた実績があります。

充電性能を向上させる1000Vシステムを採用

さて、今回のスーパーeプラットフォームで特筆するべきは、まず1000Vシステムに対応しているという点です。eプラットフォーム3.0 Evoから本格的に採用されたSiCパワー半導体をさらに改良することで最大耐圧が1500Vという、量産車最高レベルのシステム電圧に対応しました。

今回BYDがスローガンとして掲げている「給油と充電のスピードを同等にする」という超急速充電を実現する上で、EVのシステム電圧を引き上げることは重要なポイントです。現在中国市場における標準となってきている800Vシステムからさらに一段、技術的なハードルを引き上げました。

またBYDはただ単に自動車製造だけではなく、半導体を自社製造するという技術も持ち合わせています。結局のところ、1000Vシステムを採用、特にBYDのように何百万台もEVを量産する上でボトルネックとなるのは、サプライヤーがそもそも1000Vシステムに対応するパワー半導体を開発・量産しているかどうかです。サプライヤーの量産準備ができていないと、自動車メーカーも1000Vシステムを採用することができません。ところがBYDはすでに1000V級に対応するSiCパワー半導体を大規模に生産する工場を稼働させており、量産性と内製化によるコスト低減の両方を実現することができるのです。

ブレードバッテリーもさらに進化

そして、この1000Vシステムとともに超急速充電の実現において重要となるのがバッテリー性能です。BYDは2020年から独自内製LFPのブレードバッテリーを採用しており、すでに日本国内でも4車種のBEVをラインナップしています。ただし、BYDのLFPバッテリーの弱点として指摘されていたのが急速充電性能です。

例えばeプラットフォーム3.0 Evoを採用したシーライオン7は最大240kWに対応し、SOC(State of Charge=バッテリー残量)10%から80%まで24分で充電できます。 その一方で、中国の競合メーカーであるXpengは3月13日に発売した新型G9に対して93.1kWhのLFPを搭載して、充電出力が最高530kWに対応させることでSOC10%から80%まで12分で充電することが可能。また中国Zeekrも7Xに対して75kWhのLFPを搭載して、充電出力が最高450kW程度に対応させることでSOC10%から80%まで10.5分で充電することが可能となっています。

このように競合が次々とLFPでも超急速充電を実現する中、BYDも急速充電に関するブレークスルーが期待されていたわけです。

そして今回ついに、BYDも超急速充電に対応する新型ブレードバッテリーを採用したということになります。超急速充電はバッテリー劣化への影響が懸念されますが、内部抵抗を50%も低減することで充放電性能を高めながら、SEI被膜の自己修復機能を実現することで、電池が高温状態となる超急速充電を行った場合でも35%の寿命改善を実現したと発表しました。

また、電池パックの構造も従来の片面から両面の冷媒冷却にアップグレードすることで冷却性能が90%アップしており、安定した超急速充電性能にも対応するとしています。

これらの技術を組み合わせることによって、スーパーeプラットフォームを初採用するHan LとTang Lは最大1メガワット(1000kW)級の急速充電出力に対応。実際に発表会に合わせて開催された公開充電テストでもSOC5.0%から充電をスタートして10%程度で出力が1000kWに到達。SOC20%で660kW、SOC36%で620kW、SOC42%で560kW、SOC47%で500kWと断続的に低下していくものの、5分間の充電でSOC63.1%に到達しており、その段階でも408kWという充電出力を維持していました。

これは83.212kWhのバッテリーを搭載するHan LのCLTC航続距離に換算して400km走行分以上に相当します。5分で400km以上の航続距離を回復できるとイメージしてみれば、BYDの主張する「給油と充電のスピードを同等にする」というスローガンもあながち誇張ではないことが理解できます。

低SOC下では1秒に2km分の航続距離すら回復可能。BYDは10Cと説明しているものの、実際の最大Cレートは12Cに到達しています。

超急速充電ネットワークへのコミットも表明

さらにBYDはスーパーeプラットフォームの充電性能を最大限発揮できるように、単一ストールで最大1360kWもの充電出力を発揮可能な超急速充電器を開発し、中国全土に4000カ所のステーションを建設していく方針も表明しました。充電ケーブルも自社開発を行っており、グリッドへの負荷を低減するために、これまた自社内製の蓄電池やソーラーパネルも併設することで安定した超急速充電ネットワークを構築します。

女性でも扱いやすく液冷式の独自開発の充電ケーブルを採用。もちろん充電規格はGB/Tです。業界最大手であるBYDがGB/Tを継続採用してきたことから、中国では規格が承認されているものの(CHAdeMO3.0)に移行する予定はないと思われます。

またスーパーeプラットフォームには、これまでDenza D9やN7でも採用されていた、2つの充電ケーブルを同時に接続可能なデュアル急速充電にも対応。これによって500kW級以上の超急速充電器を2ストール使用すれば、最大1000kWを発揮可能となります。さらに中国市場で一般的に普及している180kW(≒250A×750V)級急速充電器を2ストール使用すれば、最大360kW近い充電出力を発揮することも可能となり、既存の充電インフラでも新型EVがもつ卓越した急速充電性能の恩恵を受けることができます。

ちなみに中国市場では、Xpeng、NIO、Li Auto、Zeekr、ファーウェイ、シャオミなどが600kW級以上の超急速充電ネットワークを中国全土に構築中であり、主要都市部やその都市間の高速道路上には超急速充電ネットワークが徐々に拡充してきています。経済減速が囁かれている中とはいえ、中国市場の成長の力強さが感じられます。

超高性能モーター採用で走行性能を向上

次に注目すべきなのが、最高回転数3万RPM超の超高性能モーターを搭載しているという点です。BYDはスーパーeプラットフォームを初採用するHan LとTang Lに超高性能モーターを搭載してきました。このモーターは最高回転数が30511RPMという、量産車最高の回転数を実現。例えばテスラモデルS Plaidに搭載されているリアモーターの最高回転数は20000RPM。シャオミSU7 UltraのV8sモーターも27200RPMであることから、BYDのモーターが先進的であることがわかります。

この超高性能モーターのステーターには10層のフラットワイヤーヘアピン巻線があり、テスラのようにカーボンスリーブローターは採用されていない模様。SU7 Ultraなどと同じく、材料の改善によって超高回転数に対応。

単一モーターによる最高出力は580kW。これもモデルS Plaidの253kW、SU7 Ultraの425kWをはるかに凌ぐパワーです。さらに注目するべきは最高出力とモーターの重量の相関関係を示した出力密度です。この出力密度が高ければ高いほど、より小型のモーターでパワーを発揮できることを示します。BYDの新型モーターは16.4kW/kgという出力密度を実現しており、例えばモデルS Plaidが6.22kW/kg、SU7 Ultraでも10.14kW/kgであることから、競合をはるかに凌ぐ効率性です。

新型EVをプラットフォーム発表早々に発売するスピード感

そしてBYDはスーパーeプラットフォームを初採用するHan LとTang Lを4月中に正式発売する方針を表明し、予約価格の発表を含めた予約販売を開始しました。

Han Lは全長5050ミリ、全幅1960ミリ、全高1505ミリ、ホイールベースが2970ミリの中大型セダンです。AWDグレードは前後に2つのモーターを搭載して最高出力は810kWを発揮。83.212kWhの新型ブレードバッテリーを搭載することでCLTC航続距離は601km(RWDグレードは701km)を実現しています。

当初は100kWh超級の大容量バッテリーを搭載するのではないかと噂されていたものの、量産車最速の急速充電性能を実現することでバッテリー容量を抑えて、その分生産コストを引き下げてきたのではないかと推測できます。

価格は前述の通り、Han Lが27〜35万元(約557〜723万円)、Tang Lは28〜36万元(約578〜743万円)。例えばHan EVが17.98万元、テスラモデル3が23.55万元、シャオミSU7が21.59万元からのスタートであり、主流のプレミアムBEVセダンよりもわずかに高めの値段設定を行ってきているといえます。ユーザーが新技術に魅力を感じてプレミアム価格でも十分に購入してくれるだろうという、BYDの自信の表れとも感じます。

もちろんモデル3やSU7などBEVセダンと競合することも考えられますが、やはり直接競合するのはドイツBBA(ベンツ&BMW&アウディというプレミアムブランドを称する略語)の存在でしょう。とくにドイツ勢が販売台数を稼ぐ「34C(BMW3シリーズ、アウディA4L、メルセデスCクラス)」に大きなプレッシャーがかかることは間違いなく、販売台数減少や収益性が圧迫されることは避けられないでしょう。

このように、革命的な新世代BEVプラットフォーム「スーパーeプラットフォーム」を発表と同時に、これを採用する新型BEV4月中に発売開始するスピード感こそ、BYDの真骨頂であると思います。

立て続けに進化を発表するBYD

3月18日のレポート記事でも紹介したように、BYDは2月にも「God’s Eye」と名付けられた最新ADASの発表会を開催しました。さらに3月初めに「Lingyuan」と名付けられた車載ドローンシステムを発表しています。BYDはここ数年で研究開発費を大幅に増額しており、2024年Q3ではテスラの倍近い資金を投入しています。これらの研究開発という種まきが、いよいよ最新ADASや車載ドローンシステム、そして今回のスーパーeプラットフォームとして花を咲かせているのです。

BYDは3月末までにDenza N9、BYD Qin L EV、そしてYangwang U7という新型車を一気に発売するなど新型車攻勢を強めながら、ドルフィンなどを含む多くの既存モデルをスーパーeプラットフォームに順次置き換えていくとも噂されています。

Wang会長は2023年ごろ、PHEV販売は2026年ごろにピークアウトするのではないかと投資家会議において説明していたと報道されています。当時はその真意が不明だったものの、このスーパーeプラットフォームの発表を理解すると納得できます。すなわち、スーパーeプラットフォームによってPHEVを置き換えるのに十分な性能をBEVでも達成できる見込みであり、2026年シーズン中にも既存モデルの置き換えが進むことでPHEVのシェアが縮小すると予測していたのではないかと推測できるでしょう。

はたしてスーパーeプラットフォームによって、ガソリン車やPHEVを購入していたユーザーをBEVへ移行させることができるのか。BYDが目論むEVシフトの総仕上げが始まろうとしているわけです。

日本に導入されるにはまだまだ時間がかかりそうですし、日本国内でメガワット級充電ができる未来が短期的に来ることはないと思いますが、それでもデュアル充電を活用すれば、赤いマルチで約300kW(350A×450V×2ストール)、eMP社の次世代超急速充電器であれば約700kW(350A×1000V×2ストール)を発揮できる可能性はあり得るでしょう。

いずれにせよ、BYDの最新テクノロジーにワクワクせずにいられないのは私だけではないはずです。スーパーeプラットフォームの日本導入にも期待しながら、BYDの最新動向は今後も定期的にチェックしたいと思います。まずは4月15日に正式発売がスタートするシーライオン7の値段設定とリアルワールドにおけるEV性能に注目です。

Tang Lにはオプションで車載ドローンシステムを搭載可能。半径2km以内での操縦だけでなく、自動充電機能や車両の自動追従機能も搭載。車載ディスプレイからワンタップで専用ルーフデッキに自動着陸も可能。Tang Lの他にもYangwang U8、FCB Bao 8、Denza N9、BYD Sealion 07 DM-iに搭載可能。全モデル一律1.6万元(約33万円)で装着できます。

文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル
※記事中画像は発表会中継動画や公式サイトから引用。

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この記事を書いた人

免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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