パリモーターショー2022レポート【01】BYDが欧州にもEV3車種投入を発表

10月17日から23日(現地時間)に開催された「Mondial de l’Auto」(パリモーターショー)。3年ぶりの対面開催となった中、注目ポイントはやはりEVに絡んだ中国勢や新興勢力の動きです。中国勢2社(BYD・GWM)とベトナム1社(VinFast)の動向をシリーズでレポート。第1回は「BYD」に注目します。

パリモーターショー2022レポート【01】BYDが欧州にもEV3車種投入を発表

欧州には「TANG」「HAN」「ATTO3」を投入

日本でもEVでの乗用車市場進出を発表した「BYD」は、パリショーでも欧州戦略を発表した。プレスカンファレンスは、BYD Europe and International Cooperation divisions Managing DirectorのMichael Shu氏のスピーチから始まった。Shu氏は「フランスという重要な地域で素晴らしいEVを発表できることを光栄に思う」と述べ、「TANG」「HAN」「ATTO3」の欧州ローンチを発表した。

TANGはEセグメントのSUV。HANはスポーツセダン、ATTO3はCセグメントSUVという位置づけとなる。SUVは欧州においてCセグメント以上では各社の主力モデルといっていいがひしめく状態で、まさに激戦区への2車種の投入となる。

もう一方のスポーツセダンは、EVにおいてシンボル的な存在だろう。テスラが乗用車EVで市場に先鞭をつけたのが、モデルSというスポーツセダンだからだ。BYDには「SEAL」という新型があるが、実績ベースと供給体制を優先させるため、TANGとHAN、そしてATTO3の投入となったようだ。

あらためて3モデルの基本スペックを整理しておく。

TANG

EセグメントSUV(7人乗り)
発表予定価格:€72,000(約1058万円)
AWD
WLTP:400km
モーター出力:200kW
バッテリー容量:86.4kWh
0-100km/h:4.6秒

HAN

Eセグメントスポーツセダン
発表予定価格:€72,000(約1058万円)
AWD
WLTP:521km
モーター出力:380kW
バッテリー容量:85.4kWh
0-100km/h:3.9秒

ATTO3

CセグメントSUV
発表予定価格:€38,000(約558万円)
FWD
WLTP:420km
モーター出力:150kW
バッテリー容量:60.4kWh
0-100km/h:7.3秒

発表された3モデルは9月にプレ発表が行われオンラインでの予約が始まっている。導入は全EUとしている。北欧やドイツでの出荷が先になるとみられており、英国やフランスも年内には出荷が始まる見込みだ。

ATTO3はEURO NCAPで5つ星獲得

価格は発売される国によって前後するという。7万2000ユーロという価格設定はどうだろうか。アウディ e-tronやメルセデスEQBなどのEUでの価格が6万ユーロ後半から7万ユーロくらいなので、中国勢が価格で攻めてくると予想していた人には、あまり安くない印象だ。日本でもBYDオートジャパンが「価格だけで勝負はしない(東福寺社長)」と述べているので、BYDはグローバルでも価格競争力で市場を獲りにくるわけではなさそうだ。

もちろん品質や技術力の裏付けに自信があるということだろう。プレスカンファレンスでも、品質と技術をBYDの特徴として挙げていた。パリショーの数日前、ATTO3が、EURO NCAPの衝突安全性評価で5つ星を獲得したという。E-Platform3.0と、燃えにくいとされるLFPバッテリーの賜物だろう。

Shu氏は、SEAL (EU投入は24年になるといわれている)も展示車として持ち込み、「Cell To Body(CTB)」プラットフォームの説明も行った。「SEALのボディは、フレームとバッテリーパックを一体化したもので、そのねじれ剛性は40,000Nm/degreeを越える」という。

SEALに採用されたCTBは、LFPのブレードバッテリーのモジュール構造は排し、ブレードセルを直接並べたバッテリーパックを車体のプラットフォーム構造と一体化させたものだ。他にも水素燃料電池車の開発研究を行っていること。プラグインハイブリッド車では、「SONG DM-i」は航続距離1100km(NEDO)を誇る技術があることも強調していた。

BYDが目指す現地化戦略

BYDのEU戦略の発表でもうひとつこだわっていたのは、現地企業とのパートナーシップだ。日本と同様に電気バスやバッテリー事業でEUに浸透していた同社は、乗用車市場参入でも「現地化」の戦略を取り入れている。

プレスカンファレンスでは、Shell、FORVIA、Bosch、Continental、ZF、Brembo、Infineon、Orangeなど計8社とのパートナーシップも発表された。e-Platform 3.0やCell-to-Body、LFPバッテリーといった主要コンポーネントを自社で押さえながら、半導体、電装品、タイヤやサスペンション、ブレーキ、その他内外装部品において、欧州の主だったTier1サプライヤーと関係を構築している。Orangeはフランスの大手通信事業者。コネクテッドカーサービスで協業する。

Shellは石油元売りの大手だが、BYDとはEU圏でのチャージングポイント構築で提携する。Shell Mobileでは、新しい時代のビジネス開発としてEV充電インフラ、とくにガソリンスタンドから充電スタンド(チャージングポイント)へのシフトを進めている。中国市場では、2022年3月に今回と同様なShellとBYDのチャージポイントでの提携が発表されている。BYDのEU進出に合わせてEU圏でも同様な連携を展開するということになる。

Shu氏によって、Shell MobileのGlobal Executive Vice PresidentのIstavan Kapitany氏が紹介され、パートナーシップについて説明した。

「BYDとの提携はShellが考える人々によりよい生活を提供するという理念と一致する。Shell Mobileが計画するEU圏内300万か所のチャージングポイントすべてにおいて、BYDの充電体験をサポートする。またBYDオーナーについては特別なBYD EV Houseを設置する計画もある。」

とのコミットメントが発表された。BYD EV Houseについての詳しい説明や情報はなかったが、専用ラウンジのような施設が設けられるものとみられる。Shu氏は「合計で400万kmのチャージングクレジット」のキャンペーンについて言及したが、詳細未定とのことで取材しても情報はでてこなかった。

販売方式はEUでも正攻法


ディーラー網展開についても言及があった。まずはドイツが先行する形だが、EU各国と英国の現地有力ディーラーとの提携を増やし販売拠点を全EUに広げるとする。すでに予定されているのは、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、フランス、そして英国だ。EU加盟国ではないが、イスラエルにも拠点を構える予定がある。

販売戦略は、現地ごとのディーラーとのパートナーシップを重視する考えだ。販売チャネルは現地企業との関係を重視する。これは、じつは中国市場への進出する場合の基本的戦略と言われていたものだ。中国の市場開放直後、中国企業はこれまでの取引関係や信頼を重視し、外資や新興企業が技術や取引条件のメリットだけでは容易に現地市場に入り込めなかった。

しかし、各国市場において外資に対するこのような障壁は、国を問わずして存在する。BYDは、日本やEU展開でも現地化を基本としている。タイミングもよく練られている。EUにおいてもEV化や脱内燃機関に反対する声は存在する。だが、パリショーでも主要OEMが電動化をメインに据えつつも、内燃機関のスポーツカーや競技車両の展示もにぎわっていた。しかし、脱炭素や電動化が2016年ごろから動き始めたEUではシフトがうまい形で進行しているからだ。

プレスカンファレンスの最後は、すでにBYDを契約しEUで最初のオーナーとなる人たちへのキーの贈呈セレモニーで幕を閉じた。これもEUスタイルの踏襲と言えるかもしれない。正攻法でのEU戦略は間違っていないようだ。

(取材・文/中尾 真二)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. いよいよBYDが欧州ローンチ開始ですね。各EVメーカーが続々と欧州や北米に進出していて、世界中が大きく変わろうとしています。世界中のメディアが日本メーカーの【出遅れ感】を感じる昨今ですが、まだまだ巻き返しに期待しています。頑張れNIPPON!

  2. 正直、ハイブリッドがカーボンニュートラルに対する最適解だと思う。

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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