「自転車・電動モビリティまちづくり博 2024」/注目ポイントを少数精鋭でレポート

6月5〜6日にかけて、「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2024~自転車・電動モビリティまちづくり博~」が東京都新宿区の住友三角ビル広場で開催されました。期待半分だったのですが、いくつかおもしろい展示を見つけました。少数精鋭でご紹介します。

「自転車・電動モビリティまちづくり博 2024」/注目ポイントを少数精鋭でレポート

ちょっと足を止めたい小規模イベント

東京都庁と道路を挟んで建っている、新宿西口の高層ビル街の元祖のような新宿住友三角ビルの地下に広がる広場で、今年も「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO」が開催されました。

2015年に自転車関連のイベントとして始まり、2022年から電気自動車(EV)を含む電動モビリティーと自転車の展示会に形を変えて、今年が3回目の開催になります。

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今年参加したのは66の企業団体。昨年の71から若干の減少です。

大きな注目を集めているわけでもなく、参加規模が大きいわけではなく、スペースが広いわけでもないイベントなので、実のところそれほど期待値が高かったわけではありません。それでも、行って見ないとわかりません。

会場を訪れてみると、ビジネス街の真ん中だからなのか、お昼時には通りがかる人が少なくない場所だからなのか、平日の昼間開催にもかかわらず、そこそこの人が集まっていました。

加えて、いくつか、ちょっと興味深い展示が見つかりました。少数精鋭ですが、ポイントを紹介してみたいと思います。

交換式バッテリー別売りの電動三輪車

まず初めは、車の普通免許で運転できる電動三輪車、ベクトリクス「I-Cargo(アイ・カーゴ)」です。見た目がシュッとしててきちんとデザインされているほか、ベクトリクスという名前に見覚えがあったので、気になって話を聞いてみました。

すると、この日が実車のお披露目だったそうです。ワールドプレミアです。

アイ・カーゴは宅配便などの事業者向けに、ラストワンマイルを担う乗り物として開発されました。開発したのは、シンガポールに本社を置くベクトリクスです。ただ、アイ・カーゴは日本のベクトリクス・ジャパンの発案で企画されたそうです。

アイ・カーゴの特徴のひとつはバッテリー交換式になっていることです。バッテリー容量は2kWhと3kWhの2種類で、いずれも2個搭載可能です。つまり最大6kWhまでいけます。

バッテリーは別売りなので、必用な分だけ購入することができます。

航続距離は、2kWhで35km、3kWhで50kmが目安になります。リアルワールドでの航続距離を想像すると、配送用なら3kWhが2個あればいける感じでしょうか。1個ずつ交換しながら使うこともできるのは、ちょっと便利です。

充電は別体の充電器か、車体の充電口から直接行います。電圧は家庭用100Vか200V対応で、J1772のコネクターを使った普通充電には対応していません。

普通免許で運転できるのは便利

アイ・カーゴは前1輪、後ろ2輪の三輪車で、ホンダの原付三輪バイク「ジャイロX」のように車体が傾きません。オートバイなど二輪車に乗ったことがない人でも怖くないようにと、意図的にこの構造にしたそうです。

加えて、車体が傾くとオートバイに分類されて、2輪の免許が必要になりますが、傾かないアイ・カーゴは、道路運送車両法では「側車付軽二輪自動車」になります。いわゆるトライクなので、4輪の普通免許で運転できるほか、ヘルメットも不要です。個人的には、半キャップのヘルメットでも着用したほうがいいと思いますが。

ただこの形状は、走ればすぐに分かると思いますが、曲がるときに気をつけていないと転倒するリスクが高くなってしまいます。この点を担当者の方に伝えると、重心がかなり低いのでそこまで不安定にはならないと説明を受けました。

実際はどうなのか、乗る機会があれば確認してみたいと思います。

アイ・カーゴはすでに問い合わせがあり、納車先もいくつか決まっているようです。実際の納車は秋から開始予定です。

国際色豊かなアイ・カーゴ

ところでベクトリクスは、1990年代にアメリカで割と大きめな電動スクーターを生産、販売していて、ニューヨーク市警察などにもバイクを納車していた電動車の老舗メーカーです。そう言われて、ベクトリクスのつづりに見覚えがあった理由がわかりました。

その後、経営主体が変わるなどした後、現在のベクトリクスはシンガポール本社を中心に、デザインは、イタリア、パワートレイン開発はポーランド、製造は台湾という多国籍の共同作業で車を作っています。

ちなみに台湾の生産は、日産車を現地生産している、YULONという自動車メーカーで行っています。担当者さんによれば、リーフを現地生産しているそうです。

ベクトリクス・ジャパンでは、主に日本のラストワンマイルをターゲットに、アイ・カーゴを売り込みたいと考えています。そのため積載量も100kg、700リットルと大きめになっていて、パネルバンと自転車の間を埋めることを狙っています。保険はバイク保険が使えるほか、車検もありません。経費的にもメリットがあります。

という諸々を考えると、自転車よりずっとラクなのは間違いないし、もしかすると需要があるのではないかと思えたりもするのです。

●アイ・カーゴ

全長×全幅×全高:2130×1020×1815mm
シート高:760mm
車両重量:280kg(バッテリー含む)
モーター:ブラシレスDCインホイールモーター
定格出力:3kW×2(左右)
最大出力:6.5kW
航続距離:70〜80km(2kWhを2個の場合・自社測定)
最高速度:スポーツモード60km/h、ECOモード20km/h
最大積載量:100kg(積載装置含む)
価格:108万7900円(税込)
登録区分:側車付軽二輪自動車

リーフから電気を取り出して「V2V」しちゃう

次に目についたのが、電欠のEVを救助するベルエナジーの「電気の宅配便」の新バージョン、「MESTA Pro」です。

ベルエナジーについては、EVsmartブログでも、EV用ポータブル急速充電器「Roadie V2」を何度か紹介したことがありました。

【関連記事】
EV用ポータブル急速充電器「Roadie V2」が販売&受注100ユニットを突破〜どこでも急速充電の活用法は?(2023年8月22日)

このRoadie V2をEVに積載する形で、ベルエナジーは、2023年9月に電欠EVの救援サービス「電気の宅配便」の実証実験を実施しました。この時は11月までの期間限定です。

これに続いて、今回、BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPOで展示したのは、2024年6月4日に発表したばかりの新モデル「MESTA Pro」です。電気の宅配便がさらに一歩進んだというか、「あ、これがあったか」という救援方法です。

Roadie V2がポータブル機に電気を蓄えていたのに対し、MESTA Proは、大容量の駆動用バッテリーから別のEVに直接、電気を送ってしまう方法です。ガソリン車でバッテリーが上がったときに、別の車とつないでスターターを回すジャンプみたいなものです。

言われてみれば、大容量バッテリーは車に搭載しているわけで、これを使わない手はありません。

緊急時の救援なら、近くの急速充電器まで20〜30kmも走れればいいので、容量の大きなEVなら余裕で支援に使えます。

DCからDCで急速充電するので小型化できた

駆動用バッテリーから直接電気を取り出すだけなら、V2X対応のEVであれば造作もないことです。でも別の車に急速充電するとなると話は別です。現状、そんな荒技ができるEVはありません。チャデモやCCSにも仕様がないと思います。

というわけで、ベルエナジーは独自技術で駆動用バッテリーから急速充電ができるようにする仕組みを開発しました。ハッキングですね。

自動車メーカーが聞いたら即、問い合わせがきそうですが、個人的にはとても楽しい話です。

四半世紀ほど前、トヨタの2代目プリウスのバッテリーを全てリチウムイオンに交換し、PHEVに改造したアメリカ人グループを取材したことを思い出しました。彼らもプリウスの車載コンピューターをハッキングして、バッテリーだけで時速100km以上出せるようにしていました。

さて、MESTA Proはリーフに収まるくらいのサイズになっています。ベルエナジーが以前に発表した、同じくV2Vで使う充電器「MESTA V1」は、車で牽引しなければ運べない大きさでした。駆動用バッテリーの直流(DC)を交流(AC)に変換し、さらに直流(DC)に変換してEVに充電するという構成だったため、大きな変圧器が必要だったためです。

でもMESTA Proは、駆動用バッテリーからDCのまま取り出してDCで送り込むようにしたため、サイズを小型化できたそうです。

CCSやCCS2で建設機械需要を狙う

MESTA Proは、現状ではCCSとCCS2だけに対応しています。チャデモ対応は開発中だそうです。

ベルエナジーによれば、日本でもCCSは、クレーン車やショベルカーなどの重機が使っているそうです。なるほど、確かに輸入重機をチャデモに変える意味はないですね。

建設機械は建設現場に充電設備がないので、ベルエナジーとしては、そこにニーズがあるのではないかと考えたそうです。でも建設現場だけでなく、チャデモ仕様ができたら需要は大きく広がりそうです。「電気の宅配便」の今後は、ちょっと楽しみです。

一方で、建設機械がCCS標準になるとチャデモの居場所がさらに狭くなっていくのではないか感じたのですが、それはまた別の話。

また、最終的には、充電口と充電口をつなげば急速充電でエネルギー移転ができるような仕様ができればさらに便利だし、その時には電気そのものをシェアする枠組みがあったら相互扶助になって安心感倍増かもとか、いろいろ想像がふくらんだのですが、実現するとベルエナジーが苦しくなってしまうので、どうしようと思ってしまうのでした。

トルコ製EVバスもあった

最後にご紹介するのは、トルコ製の電気バス「KARSAN e-JEST」です。日本では、搬送ロボットや自動倉庫関連の設備を販売している商社、アルテックが取り扱っています。

KARSAN社は、トルコでは大手の電気バスメーカーです。小型から大型までさまざまな大きさの電気バスを生産、販売しています。e-JESTはこれまでに22カ国で1000台以上の販売実績があるそうです。

アルテックが日本に導入したe-JESTは、もっとも小さな全長5.9mの小型バス。BYDの「J6」の全長が6990mmなので、約1m短くなっています。アルテックは、狭い道でも入っていけることをポイントに、自治体などでの需要を想定しているそうです。まずは関東近県で売り込みをしていく計画です。

発売は2023年12月ですが、最近、1台目の車検が完了し、今年度は100台の販売を目指して営業活動を本格化しています。

アルテック自身は自動車の実績がないこともあり、サービス関係はJRバス関東と提携して実施します。

●KARSAN e-JEST

全長×全幅×全高:6900×2120×2800mm
車両総重量:5000kg
最高出力:135kW
最大トルク:290Nm
航続距離:210km(NEDC)
乗車定員:22人(仕様による)
バッテリー容量:88kWh
急速充電:CCS2、チャデモ
価格:4300万円

バッテリー容量は88kWhで、航続距離は約210km。モーターは、BMWの「i」シリーズのものを利用しているようです。ただ、iシリーズのどの車種かは不明です。最高出力135kW、最大トルク290Nなので、「i3」より若干、パワーがあるようですが、どうでしょうか。

充電は、チャデモの充電口と、CCS2の充電口がついています。CCS2は普通充電を兼用しているので、そのまま残しているそうです(ただ日本で普及している普通充電用コネクターとは規格が違うので、そのままでは使えません)。大きなバスなのでスペースがあったということですね。ちょっとユニークです。

安全装備は、ABSや横滑り防止装置などを標準装備しています。価格は4300万円の予定です。

価格を考えると、BYDのJ6が2000万円を切る超優良コスパなので、もう一段、がんばらないと勝負は厳しいかもしれません。それでも、サイズのバリエーションが増えると市場の活性化につながるので、がんばってほしいと思います。

以上、今年のBICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO2024から、目についたものを少数精鋭でご紹介しました。また来年、何かおもしろい展示物があればお伝えしたいと思います。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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