ジャパンEVラリー白馬とは?
日本EVクラブが主催する「ジャパンEVラリー白馬」は今年で10周年を迎えた。筆者もラリーの存在自体は2016年くらいから知っていた。当時はまだEVオーナーではなかったが、一度は参加したいと思っていた。EVのレンタカーを借りてでも参加しようと考えたりしていたが、今回、ようやく購入した電気自動車、日産サクラで参加してきた。
今までは「そろそろ白馬の季節じゃないか?」と思いつつ、つい別の仕事や予定を入れてしまったり、申し込みが遅れたりしていた。しかし、昨年サクラを購入したことから、今年こそはと、予定を事前に確保した。SNSの情報などをチェックし、日程が公開になったらすぐにカレンダー登録をして備えるようにした。
その甲斐あって、10周年となる2023年に初めてのEVラリー白馬に参加することができた。念願かなったラリーの概要とその楽しみ方をレポートしたい。
自動車関連で「ラリー(競技)」というと、公道などに設定されたコースで行われる自動車競技だ。競技形態は、サービスパークという拠点から、決められた周辺道路を走行して再びサービスパークに戻ってくる形が一般的だ。車両はゼッケン番号ごとに1分ないし2分間隔で順番にスタートする。指定されたコースはリエゾンとスペシャルステージに分類され、スペシャルステージは道路封鎖を行なって到着順にタイムトライアルを行う。リエゾンはスペシャルステージをつなぐ移動コースで、ここは一般車両として通常走行となる。
だが、ラリー競技の起源となるのは、領主や王の合図とともに騎士や兵士が城に集まる馬の早駆け競技だと言われている。平時の戦闘訓練のひとつとして、有事に一斉に城や拠点に集まる練習だったとも言われている。つまり本来の「ラリー」のスタート地点は参加者の自宅や住居なのだ。
その意味では「ジャパンEVラリー白馬(EVラリー白馬)」はラリーの原点に沿ったものといえるかもしれない。EVラリー白馬は、2日間の日程で行われる。今年は7月22日(土)〜23日(日)に開催された。初日は受付の場所と受付時間が決められているだけで、参加者は各自のペースで自宅から受付会場に向かえばいい。受付会場は白馬ジャンプ競技場北側ロータリー。受付時間は10時から16時まで。
楽しむためのイベントなので、着順や時間は関係ない。会場では、企業の展示ブースやEV・PHEVの試乗会などが開かれていた。
主催者が用意したスペシャルミッションとデジタルスタンプラリーもあって、参加者は受付を済ませたあと、基本的に自由行動が可能だ。最新のEV試乗を楽しんだり、企業ブースを見学したり、周辺観光とともにデジタルスタンプラリーを楽しんでもよい。
盛りだくさんの内容で楽しみ方はフリースタイル
試乗車は「ホンダ Honda e」「ホンダCLARITY FUELL CELL」「日産サクラ」「三菱eKクロスEV」「BMW iX1 xDrive30」「BMW i4 eDrive40 M Sport」「BMW iX xDrive50」「BMW 330e」が用意された。試乗の事前申し込みは不要。先着順で空いている時間に予約を入れれば試乗できる。
初日の18時30分から21時までは「チェリーパブ」という白馬村のレストランで「EV白馬ナイト」(親睦会)が開催された。参加費1,000円で一杯目のドリンクと軽食がつく。それ以外のメニューは各自が個別に注文する。
地元のクラフトビール、ピザやフィッシュ&チップスがおすすめだ。パブではとくに予定された催しはなく、とにかく食事とビールを楽しむ。参加常連組もいれば、初対面同士でもEVオーナーとして情報交換したり、歓談で交流の輪を広げることができた。
2日目のイベントは「EV気候マーチ」(パレードラン)からスタートだ。参加車両はEV/FCEV/PHEV、つまりプラグイン充電が可能な自動車(コンバートEVでもOK)と水素燃料電池車に限定される。希望する参加車両が白馬村内の道路をドライブする。パレードといってもスタート地点と走行コースが決められているだけだ。今回のコースはエイブル白馬五竜 3駐車場をスタートして白馬ジャンプ競技場までのおよそ6km。ジャンプ台に到着したクルマからパレードランは順次解散となる。
10時30分からは主催者、ジャーナリスト、白馬村関係者らによるEVミーティング「充電インフラを考える」も行われた。ミーティングといってもトークセッションで、EVsmartブログ編集長の寄本氏がモデレーターを務め、白馬村の宿泊施設オーナーや、参加者のEVオーナーが、経路充電や目的地充電インフラのあり方についてさまざまな意見を述べた。
12時30分には「EV気候マーチ」のスタート地点(エイブル白馬五竜第3駐車場)に再び集合して参加車両の記念撮影が行われた。このタイミングでスペシャルミッションが締め切られるので、ミッション参加者はシートを提出する。アプリを利用するデジタルスタンプラリーは12時で締め切られる。
13時からはランチとスタンプラリーなどの表彰式で、白馬村の丸山俊郎村長や、白馬村キャラクターの「ヴィクトワール・シュバルブラン村男III世」も参加してくれた。ランチ&表彰式が終わるとお開きで、参加者は各自自宅を目指す。
2日間のイベントやプログラムが盛りだくさんに用意されているが、基本的に参加の仕方、楽しみ方は自由。受付だけしてあとは家族で白馬村を満喫しつつ、親睦会やパレードラン、スペシャルミッションやスタンプラリーなどについてはそれぞれの都合やペースに合わせて気軽に参加すればよい。
EVという特定カテゴリで、オーナーコミュニティのイベントと思われがちだが、そんなことはない。強制参加や団体行動が求められるようなイベントではない。行動が制限されたりタイムスケジュールに追われるようなプログラムもほとんどなく、あったとしても任意参加、自由行動が原則だ。その分各自の責任が問われる面もあるが、ラリー初参加、EVを初めて購入した私も、夏の白馬の魅力とともに、雄大な自然の中をEVで走る爽快感を楽しめた。
目的地充電可能な宿は約40軒〜申し込みと宿手配のポイント
来年以降、参加してみようという方のために、今回私が経験した「ポイント」を紹介しておく。
参加申し込みは主催する日本EVクラブが開設する「ジャパンEVラリー白馬」の特設ページから行う。日本EVクラブのサイトの「イベント」情報からたどることができる。申し込みが終わったら事務局から参加受理のメールが届くはずだ。このメールに参加車両の番号や集合場所などの案内が添付されているので、あとはそれに従って現地で受け付けをする。
受け付けではステッカーやパンプレット、記念品(Tシャツ)などがもらえる。あとは、会場でEV試乗するもよし、自分たちのプランで白馬観光を楽しんでもよい。
ただし、宿の手配は自分で行う必要があった。土日開催で、今年の場合はちょうど学校の夏休みスタートと前後したため、白馬村の宿はかなり混んでいた。来年の開催日程はまだわからないが、宿の手配は早めがよいだろう。自分は案内が来てからの手配となったが、なんとか普通充電設備のあるロッジ(白馬ペンション&ログホテル ミーティア)に部屋を確保できた。
参加受理のメールには、周辺の宿泊施設と充電器設備の情報が含まれている(同じ情報は白馬EVクラブのホームページにも掲載されている)。宿泊施設情報には目的地充電用の普通充電器、またはEV充電用200Vコンセントの設置情報も書かれている。宿で充電ができると、現地までの移動プランに余裕ができるので、ぜひ充電設備のある宿を手配したい。
白馬村は環境政策の一環としてEV充電環境の整備にも力を入れている。村内にはおよそ40か所の充電設備を備えた宿や飲食店が存在する。日本屈指のEVフレンドリーな村といっていいだろう。40か所の中で、DC急速充電器は道の駅、村役場、樅(もみ)の木ホテルの3か所に設置されている。リストのほとんど宿が200V(3kW)の普通充電器やコンセントを1〜2口用意してくれている。テスラのウォールコネクタを設置している宿もある。
筆者は、EVsmartブログ用の取材を兼ねていたので、スペシャルミッションとデジタルスタンプラリーのコンプリートを参加目的のひとつとした。そのため現地には前日入りするスケジュールとして、宿は21日、22日の2泊で手配した。後述するが、スペシャルミッションとデジタルスタンプラリーの両方をこなすとなると初日はほぼその移動で終わってしまう。受付は午前中に済ませておきたい。
スペシャルミッションとデジタルスタンプラリーを満喫
今年のスペシャルミッションには、以下の5つのミッションが設定されていた。
ミッション1:白馬村の充電設備がある宿に泊まる
ミッション2:試乗会に参加する
ミッション3:「EV気候マーチ」(パレード)に参加する
ミッション4:ラリーの様子をSNSに投稿する(ハッシュタグ#EVラリー白馬2023)
ミッション5:白馬村内でランチをする(レシート添付)
受付でチェックシートを受け取り、ミッションごとにスタンプをもらうか情報を記入する。ミッション1は、宿手配の段階でクリアできるかどうかが決まってしまう。運悪く充電設備のある宿がいっぱいで予約がとれなかった場合はクリアできない。ミッション2は、試乗車、時間の制限があるのであまり遅い時間だと枠が埋まっている可能性がある。試乗会は初日(22日)の16時までだ。
そもそもパレードに参加する予定がない場合、ミッション3のクリアはできないことになるが、それ以外のミッションのハードルはそれほど高いものではないだろう。筆者は運よく充電器のある宿が手配できたので5つのミッションすべてをクリアできた。
デジタルスタンプラリーは「furari」というGPSやQRコードを利用したスタンプラリー用アプリを利用する。インストールは簡単なのでその場でインストールしてすぐに使うことができた。
イベントごとのコードを入力すると、地図上にチェックポイントが表示される。チェックポイントに主催者が用意したQRコードがあれば、それを読み取ればスタンプゲットとなる。GPS情報を使ってチェックポイントに到着しているかを判定するポイントもある。ラリーの締め切り時間になると、参加者ごとのクリアポイントは自動的に集計される。デジタルなので、スタンプカードの提出などは必要ない。
スタンプラリーをガイドブックがわりに穴場めぐりがオススメ
デジタルスタンプラリーの攻略方法も各自の自由だ。筆者はコンプリートを目指したので、クルマのナビ(日産純正ナビ)にチェックポイントをすべて登録した。車載ナビには「旅行プラン」として事前に観光地や立ち寄りポイントをセットできる機能がある。これを利用した。もちろんスマホのナビアプリやGoogleマップを使ってもよい。
「furari」やナビでチェックポイントの場所の距離感やばらけ具合がわかる。効率重視なら近いところから攻めていくか、いちばん遠いポイントから村の中心部に戻るパターンもいい。今回の場合、集合・受付会場からいちばん遠いポイントは10キロほどの「姫川源流湧水」という場所だった。国道148号線の沿線にあり交通至便ながら、自然に恵まれた穴場のハイキングコースだ。国道沿いに駐車場もあるので気軽に行ける。
チェックポイントには黒菱峠の黒菱スカイラインの駐車場もある。ここは地図上の直線距離は5キロくらいだが、約9キロを標高1500メートルまで登る山道だ(白馬村がおよそ標高700メートルに位置するので高低差800メートルほど)。舗装はされているが林道のような道だ。
スタンプラリー後半で、時間とバッテリー残量を気にしながら行くより、先にここを押さえておくのもよいだろう。筆者は宿で100%充電にできていたのでここは最後のほうにまわした。というより、スタート直後はあまり戦略を考えず、近場のポイントをクリアしていったので遠方ポイントが最後のほうになっただけだ。
他のチェックポイントはつり橋のある公園、穴場的な足湯や散策路、資料館、ビジターセンター、神社などだ。毎回主催者が趣向をこらした場所を設定してくれる。観光プランを立てていなくても、スタンプラリーの主だった場所をいくつかめぐるだけでも夏の白馬を満喫できるはずだ。
筆者は白馬はスキーでしか来たことがなかったが、夏の白馬・八方もなかなかだ。当日は関東でも30度を超える気温を観測していたが、こちらは日中で23~28度くらいで平地よりは過ごしやすい。なにより緑ゆたかで、木陰が多い。行く先々にちょっとした小川や清流(一部農業用水路だが)もある。来年はもう少し日程をとって家族と2泊、3泊と滞在したいと思ったくらいだ。
参加者と一体になれるEV気候マーチと記念撮影
2日目のメインは「EV気候マーチ」だろう。今回パレードランに参加した車両はおよそ70台。テスラ、リーフ、iMiEVが多いが、ことしはサクラ、eKクロスEVも増えていた。ほかにプジョーe208、Honda e、ATTO3などの姿もあった。商用車ベースのMINICAB-MiEVトラックもみかけた。その1台はソーラーパネル3枚を搭載した改造モデルだった。コンバートEVでは「トヨタ ハイエース」も参加していた。
全体の記念撮影もある。広い駐車場を借り切っているので、参加者の車両をすべて並べても見切れたりかぶったりせず1枚の写真の収めることができる。もちろん参加者もいっしょに記念撮影に参加する。
サイズ、色、形がバラバラなので、きれいに並べるのは難しいが、手慣れたスタッフがうまく誘導してくれる。こういったときの待ち時間でも、アイドリングなしでエアコンを利かせることができるEVは誘導するスタッフも楽なのではないだろうか。
炎天下、70台もの車(熱源)がエンジンとエアコンの排熱をだしているところで車の誘導はかなりのハードワークだ。ただし、1台だけテスラがギミックのエンジン音を鳴らしていたのは愛嬌だ。
レポートが長くなってしまったが、それだけ盛りだくさんな内容だったということでご容赦いただきたい。
次回は、白馬村の充電環境や、サクラでの自宅と白馬往復についてレポートしたい。
取材・文/中尾 真二
今年、プジョーe208で参加したものです。
EV気候マーチでは、50台近くのクルマが集まり麓へ走り出した瞬間にドアウインドウを下げた途端、エンジン音なし!排気ガス臭なし! 蝉の音や田んぼ沿いではせせらぎの音しか聞こえず、まさにゼロエミッションを体感。そしてそのマーチの一台に一役かっているという特別感がありました。
参加車両ではFITEV、SUBARUソルテラ が超レア車かと思います。懇親会ではFIT EVの開発者ともお話しすることができました。白馬村からの帰路、約300kmを無給電で帰ってくることができました、これが一番のEV旅の思い出です。