テクノフロンティア2024で「シャオミSU7の衝撃」をテーマにトークセッション/アジアンEVの実力は?

東京ビッグサイトで開催された「TECHNO-FRONTIER2024」で、シャオミの電気自動車「SU7」の衝撃的な登場と、「日本市場で戦うアジアンEVの実力」をテーマにしたトークセッションが行われました。登壇したキーパーソンの発言で気になったポイントを紹介します。

テクノフロンティア2024で「シャオミSU7の衝撃」をテーマに座談会/アジアンEVの実力は?

主催者セミナーにEVsmartブログが協力

2024年7月24日から26日にかけて、東京ビッグサイトで「TECHNO-FRONTIER(テクノフロンティア)2024」が開催されました。メカトロニクス、エレクトロニクス関連の最新技術を中心に集めたアジア最大級の専門展示会です。

会場の一角には、今年も主催者企画として、注目されるEVの分解展示がありました。展示されていたのは吉利汽車(Geely=ジーリー)傘下の『ZEEKR 007』(ジーカー007)と、昨年は完成車状態だったシトロエン『AMI』(アミ)です。

ZEEKR 007が搭載している、BYDのブレードバッテリーに似た、金磚電池(Golden Brick Battery)と名付けられた短刀(ショートブレード)タイプのバッテリーも分解されて並んでいました。日経BPなどによれば、サプライヤーはCATLです。このほか、アンダーフロアはギガキャストで構成されているのも見てとれます。

一方のAMIは昨年、名古屋大学の山本真義教授の研究室でバラバラにしたものが展示されていました。

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このほかに来場者の注目を集めていたのが、中国のスマホ&家電メーカー、シャオミが発売した電気自動車の『SU7』でした。中国では発売開始から30分で5万台の受注が入ったことが世界で報じられましたが、未発売の日本国内で実車を見ることができるのは貴重です。アジア発のEVへの注目度は高くなる一方です。

「日本市場で戦うアジアンEVの実力」という看板とともに、SU7と並んで展示されていたのは、BYDの『SEAL』とヒョンデ『IONIQ 5 N』の実車です。というのは、主催者セミナーのEV特別セッションとして「シャオミSU7の衝撃~日本市場で戦うアジアンEVの実力は?」と題し、数多くのEVを分解評価してきた名古屋大学未来材料・システム研究所の山本真義教授とともに、すでに日本市場に進出しているアジアの大手EVメーカー2社、BYDとヒョンデのキーパーソンが登壇して行われたからです。

BYDからは東福寺厚樹BYD Auto Japan代表取締役社長、ヒョンデからは佐藤健Hyundai Mobility Japan MI、商品チームSenior Specialistが登壇。モデレーターは、昨年に引き続きEVsmartブログの寄本好則編集長が務めました。1時間45分に及んだ密度の濃いトークから、筆者が気になったポイントをお伝えします。

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トークセッションでアジアンEVの実力に迫る

満員御礼の大盛況でした。

最初のポイントは、アジアンEVは技術的な優位性があるのかという点です。中国からはIT系のスタートアップ企業がたくさん出てきて高い技術力をウリに世界で活動していますが、EVではどうなのでしょう。

BYDの東福寺社長は、「シール」ではバッテリーパックを車体の構造体の一部として使うことで部品点数を減らすなどしたセル・トゥ・ボディー(CTB)を採用していることを紹介。次のように述べました。

「CTBではバッテリー交換が難しいと言われるが、取り外しは特殊工具で簡単にできます。バッテリーを外して、他の車にそのまま使うこともできる。また『SEAL』では、側面衝突の試験も徹底していてダメージを受けにくい構造になっており、欧州のEuro NCAPで5つ星を獲得した。安全性や互換性を犠牲にしているようなことはありません」

東福寺社長(右)と山本教授(左)。

これに関連して山本教授は、BYDのシールなどを分解評価してわかったこととして、こう述べました。

「『bZ3』(トヨタが中国市場だけで発売しているEVの車種)は、フロアが3分割されていて、フロントだけがトヨタ製で、残りのバッテリーとリア部分は全部BYDがやっています。つまり日本が今まで強かったハードウエア、モノ作りのところでもBYDが成功してきているということです。また『SEAL』ではサイドフレームを入れて安全性も意識して作っていることがわかります。日本がこれからどう、アドバンテージを取るかは議論したいところです」

これを受けて東福寺社長は「日本市場の担当者(乗用車部門の社長)としては、トヨタが中国で作ったbZシリーズを日本に導入して、そのバッテリーはBYD製であることが知られるといいのですが」と笑いつつ、「(トヨタ車の)ボディーのキモの部分を担当させていただいているのはBYDにとって名誉だし、9万人のエンジニアがいる本社開発部門の励みになっている」と話しました。

800Vシステムで世界の急速充電に対応可能なワケ

一方、ヒョンデの佐藤氏は「IONIQ 5」が輸入車としていち早くV2Xに対応したことについて、「チャデモ規格の特徴であるV2Xはいわば日本独自の機能だが、お客様の声をくみ取って本社で議論し、チャデモのコネクターから電気を取り出せるよう技術的な問題を解決してくれた」として、次のような説明をしてくれました。

Hyundai Mobility Japan の佐藤健氏。

「日本ユーザーの要望に細やかに対応できるのは、日本に研究開発センターがあるのが大きいのではないかと思います。そこで、日本独自のチャデモ規格にどう対応させるかなどの開発を続けてきました。またIONIQ 5はもともと800Vのシステムを持っていますし、将来的には350kWは念頭に置いて開発を進めています。日本でも充電インフラの出力が上がれば素早く対応できるよう考えています」

山本教授はすでに分解したことがある IONIQ 5の特長として、「車載充電器とは別にモーターのインバーターを昇圧コンバーターに見立てて充電するという特殊なシステムを採用していて、そのおかげで800Vシステムを持ちながらも世界中どこでも、既存の急速充電器で充電できるシステムになっている」というポイントを紹介しました。

分解研究のレポート写真などを例示する山本教授の解説が興味深いものでした。

また山本教授は、充電時も含めたバッテリーの温度管理について、BYDが冷媒を使用した温度管理をしていること、またBYDはティア1メーカーとして熱マネジメントのシステムを外販していることに触れ、「今後、温度管理においてより有利な冷媒が出てきた場合には、BYDの市場拡大が期待できるのではないか」という考えを示しました。

EV車種のバリエーションが増えてほしい!

さらに寄本編集長からは、ヒョンデがグローバルで発表した約300万円のコンパクトEV『インスター』を例に、「日本でEVがなかなか進まないのは、多くの人が欲しくて買える車種があまりにも少なすぎることが理由ではないか」という指摘があり、インスターの日本導入への期待、大衆的車種バリエーション増加への期待が語られました。

ヒョンデの佐藤氏は、インスターの日本導入は決まっていないが「日本では250万円から350万円の価格帯の車がいちばん売れていて、いろいろ調べている」ことを明かし、こう話しました。

「まだ決まっていないんですけれども、この車がサイズ的にも日本のお客様には非常にマッチするだろうということで、検討しているところです。韓国と欧州ではすでに発売が決まっていて、日本のお客様からも多くの反応をいただいています」

続けて寄本編集長は、ブラジルとメキシコなどで発売された100万円台で買うことができるBYDのコンパクトEV『ドルフィン MINI』(中国では『SEAGULL』として発売)について、東福寺社長に日本への導入予定を尋ねました。

東福寺社長は「そうですね」と前置きして、こう答えました。

「販売店の皆さんからも、このサイズがほしいという話は出ています。(価格帯もサイズも)ドルフィンMINIは日本に合っていると思います。ただ、まずは左ハンドル(の市場)から進めていること、また日本に入れるには欧州で認証を取ってからでないと入れにくいなどの事情もあり、今すぐには難しいのですが、検討はしたいと思っています」

最後に寄本編集長が、「日本国内では中国や韓国製のクルマに対する偏見もありますし、CEV補助金の減額という壁もあって、たいへんだとは思いますが、躍進を期待したい」と、両社にエールを送り、満員御礼のトークセッションは終了しました。

なおこのトークセッション、事前予約制だったのですが、早々に予定数が埋まったそうです。しかも展示会全体の中でも、満員御礼だったセッションは多くなかったらしく(そもそも専門家向けなので来場者がモーターショーのように多くありません)、EVへの注目度は今ではとても高いことがわかりました。

注目度だけでなく、実際にEVの数が増えてほしいのは言うまでもありません。

日本市場は欧州や中国に比べると、もともと輸入車の市場シェアが著しく低いので、海外で注目されている車もなかなか入ってこないのが悲しいところです。とはいえ、ヒョンデのインスター、BYDのドルフィンMINIともに、もしかしたらこれぞ黒船かもしれないと感じるので、一日でも早い日本市場への登場を期待して待ちたいと思います。

取材・文/木野 龍逸

【編集部注】
主催の日本能率協会ご担当者から、今年の主催者展示がSU7であることと、昨年同様のトークセッションのモデレーター依頼のオファーをいただいてすぐに思い浮かんだのが「SU7も気になるけど、EVで日本市場に進出してがんばっているヒョンデやBYDの技術を、イベントに集まる日本のプロフェッショナルの方々に知ってほしい」という思いでした。
主催者展示の仕掛人ともいえる山本教授、ご登壇いただいた東福寺社長、そして佐藤さん、それぞれが「取材でインタビューしてもここまで話してくださらないのでは?」と感じるほど深く密度の濃いお話をしてくれたおかげで、有意義なトークセッションになったのではないかと感じています。登壇者のみなさま、そして会場に足を運んでくださったみなさま、本当にありがとうございました! (寄本)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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