「広州モーターショー2023」レポート【日本メーカー編】2024年に新型EV続々登場か?

2023年11月17日~11月26日に広東省広州市で開催された「広州モーターショー2023」。中国メーカーのEVに注目した前編に続き、後編は日本メーカー各社が出展した電気自動車に注目、中国におけるNEV市場の動向などをレポートします。

「広州モーターショー2023」レポート【日本メーカー編】2024年に新型EV続々登場か?

トヨタは2024年中に発売予定の新型BEVをお披露目

世界一の自動車市場である中国で開催された「広州モーターショー2023」。日本ブランドではトヨタ、レクサス、日産、ホンダ、マツダ、スバルが今回出展しました。

『FlexCabin Concept』

そのうち、トヨタはベストセラー車種『カムリ』の新型モデルや、中国市場では5年ぶりの復活となる『ランドクルーザープラド』に加え、新たなBEVコンセプト『FlexCabin Concept』をお披露目しました。FlexCabin Conceptは中国で販売中の『bZ3』をそのまま大きくしたようなデザインで、間近で見たサイズ間はレクサス ESやトヨタ クラウンセダンに近い印象を受けました。

発表では「中国の消費者層に向けて中国で開発されたモデルを、スピード感をもって投入していく」と改めて表明しました。また、安全性の高いバッテリーに加え、スマートな運転体験を提供することを目標としています。会場では4月の上海モーターショー2023でお披露目された『FlexSpace Concept』と一緒に展示され、どちらも「bZ」シリーズの車種として2024年中の登場を予定しています。

『鉑智4X』

また、広汽トヨタ版bZ4Xのマイナーチェンジも発表されました、bZ4Xは中国で、第一汽車との「一汽トヨタ」、そして広州汽車との「広汽トヨタ」の2社が製造・販売を手がけています。そのうち、広汽トヨタ版のbZ4Xはマイナーチェンジを実施、新たな中国名『鉑智4X』が授けられました。

また、シリーズ名「bZ」は広汽トヨタオリジナルで「鉑智」(Bozhi/ボーチ)に改称、一汽トヨタとの差別化を図っていくとしています。広汽トヨタ版bZ4Xは改称以外にも、より洗練された印象を与えるボディ同色フェンダーが新たに設定されました。販売価格は前輪駆動モデルの最も安いグレードで17.98万元(約366.1万円)、最も高い四輪駆動モデルで23.68万元(約482.1万円)となります。

ホンダは新型BEV量産モデル『e:NS2/e:NP2』を公開

『e:NS2』

ホンダは2023年4月の上海モーターショーでお披露目した『e:NS2/e:NP2』の量産モデルを公開しました。ホンダも中国で合弁会社を二つ設けており、広汽ホンダが『e:NS2』を、東風ホンダが『e:NP2』を担当する形になります。

『e:NP2』

ホンダが展開する「e:N」シリーズ第一弾『e:NS1/e:NP1』は非常によく設計されていたものの、ヴェゼルをベースとしたBEVの印象が強いものでした。それに対してe:NS2/e:NP2ではプラットフォームは同一なものの、独自のボディを使用、一気に垢抜けた印象を与えます。また、e:NS1/e:NP1ではわずかだった両モデル間のデザイン差別化もしっかりなされており、よりキャラクターの違いが明確になったと感じます。

e:NS2/e:NP2の販売価格はまだ明らかにされていないものの、発売は2024年中を予定しています。

日産はヴェヌーシアの純電動SUVと初のFCEVを発表

日産が東風汽車との合弁会社を通じて展開するブランドである「ヴェヌーシア(啓辰)」では、純電動SUV『VX6』に加え、初となるFCEV(燃料電池車)もお披露目されました。ヴェヌーシアのFCEVはすでにガソリン車とPHEVが展開されているSUV「Vオンライン」の新たなバリエーションとして追加され、5分の水素充填で500 km(CLTC方式)走れるとアピールしています。

中国ではさまざまなメーカーがFCEVに取り組んでいるものの、依然としてその販売価格がネックです。今回発表されたVオンラインも通常モデルが9.98万元(約203.2万円)、PHEVが11.89万元(約242.1万円)なのに対し、FCEVは99.88万元(約2033.8万円)で販売されます。

より長い航続距離と良い装備を誇るトヨタ MIRAIは74.80万元(約1523.1万円)で販売されていることもあり、VオンラインのFCEVはあまりにも高いという声も聞かれます。とはいえ、中国は国家プロジェクトで水素エネルギーに注力しており、それに呼応するように各メーカーもFCEVの生産・販売計画を発表しています。より手の届きやすい価格帯になり、PHEVやBEV同様に普及することに期待します。

JMSと広州モーターショー、違いはどこに?

中国のモーターショーでは毎回そのスケールに圧倒させられます。広州モーターショーは特に会場自体が不必要に大きくて徒歩での移動が苦痛なため、電動スクーターで移動する来場者もちらほら見受けられました。そしてもちろん、出展メーカー・ブランドも日本やアメリカ、ヨーロッパで開催されるものよりその数は圧倒的に多いです。

毎年モーターショーが開催されるごとに新しいブランドが増えては消え去っていく、ブランドの高速消費がおこなわれている市場です。中国の消費者に対してアピールするためには「目新しさ」が必要で、それが既存メーカーによる新ブランド乱立の一因となっている面もあります。

今年は日本でも4年ぶりにジャパンモビリティショー(かつての東京モーターショー)が開催されました。中国で東京モーターショーに匹敵するのは上海/北京モーターショーなので単純比較はできませんが、両者の違いは明確です。東京モーターショーでは以前より自動車メーカーの出展だけでなく、部品サプライヤーによる新技術の出展も目玉要素でした。それが東京開催のジャパンモビリティショー2023ではさらに裾野を広げ、出典の対象を「モビリティ全般」としました。乗り物のサイズにこだわらないだけでなく、その乗り物を活用したサービス展開なども展示することで非常に見応えのある内容を提供しました。

対して広州モーターショーでは、部品サプライヤーの展示エリアは限られていました。とはいえ、バッテリー大手の「CATL(寧徳時代)」や「ファーウェイ(華為)」など、完成車を作らない大企業による出展はここ数年で目立ってきています。

また、今回は国営海運会社「COSCO(中国遠洋海運)」が完成車メーカーと同じホールにブースを出しているのには驚きました。同社は自動車輸出に関するソリューションを展示しており、中国が今後さらに自動車の海外展開に力を入れていくと感じさせるものでした。これ以外にも、自動運転やライドシェアに力を入れる会社も出展していました。

中国のモーターショーでは毎回、誕生したばかりのブランドが続々と新モデルをお披露目しています。真新しさは十分な一方、量産までこぎつけなかったブランドもこれまでたくさん見てきました。「バイトン」や「前途」、「シンギュラート(奇点)」、「ボードリン(博駿)」、「ニウトロン(自遊家)」など、どのメーカーも誕生当初は大きな注目を集めましたが、どれも破産したりして表舞台より姿を消してしまいました。

中国ではモーターショーに出展したり、予約を受け付けたりしただけではスタートラインに立ったとは言いづらく、実際に自動車をデリバリーしてからようやく評価できるようになるわけです。そういう意味では、真新しさだけを追求しただけの新ブランドが乱立しない日本やアメリカ、ヨーロッパは比較的市場が成熟しており、消費者は損をしにくいと言えるでしょう。この問題は客に対する長期的なアフターサポートや、数年後、十数年後を見据えたブランドイメージの構築にも関わってきます。

中国の消費者は諸外国に比べてまだ自動車を買い慣れておらず、消費者層としては未熟です。その日暮らし、高速消費されるような新興ブランドではなく、信頼性の確保された選択肢が見向きされるようになるべきであると感じます。

2023年11月、中国はNEVのシェアが38%に!

中国国内の乗用車販売データをリリースする「乗用車市場信息連席会(乗連会、CPCA)」によると、2023年11月の乗用車小売販売台数は全体で206.2万台、そのうち新エネルギー車(NEV=PHEV・BEV・FCEV)は38%となる78.3万台を記録し、前年比30%の上昇となりました。2023年1月は新型コロナウィルス感染症の影響で前年比41%の下落を経験したものの、その後台数は徐々に回復、1月から11月の累計販売台数は全体で1932.8万台、新エネルギー車は774万台となりました。

2019年11月の乗用車小売販売台数が205万台、そのうち新エネルギー車は7.8万台であったことを考えると、この4年ほどで新エネルギー車は格段に売り上げを伸ばしていることがわかります。ただ、中国の景気状況はあまり好ましくないとも言われており、この状況がいつまで続くかも不透明です。例えば、BYDは2023年の販売台数目標を最低300万台としながらも、360万台は狙っていきたいとしていました。ですが、2023年11月の販売台数は10月とほぼ横ばいの約30.2万台を記録、2023年1月から11月時点での累計は268.3万台となります。300万台を達成するには最後の一か月で31.7万台を販売する必要があり、その目標を達成できるかに注目が集まります。

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取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

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					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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