著者
カテゴリー

マツダが電動化時代に向けた戦略を発表/スモールプレーヤーとして企業価値向上を目指す

マツダが電動化時代に向けた戦略を発表/スモールプレーヤーとして企業価値向上を目指す

マツダが電動化のマルチソリューションを具現化する「ライトアセット戦略」を発表し、プレス向け発表会を開催しました。投資額を抑制し、スモールプレーヤーとしての企業価値を向上させる戦略とのこと。ジャーナリスト、諸星陽一氏のレポートです。

目次

電動化への投資額は大幅に抑制

2025年3月18日、マツダは東京都内において、「マルチソリューション2025」と題した発表会を開催した。この発表会の案内状には「経営環境の不確実性が増す中でいかに電動化時代に適応していくのか、その戦略と、それを支える「ものづくり」の進化についてアップデートをご説明する」と書かれており、マツダがどのように電動化への道を進むのかを知るために取材に出向いた。

ポイントを総括すると、マツダでは2030年まで電動化の黎明期と捉え、多様化するニーズや環境規制にタイプするマルチソリューションで電動化に取り組むこと。また、多様な商品・電動化技術を、タイムリーに開発・生産し市場導入するにあたり、既存資産の活用度を高めることで、スモールプレーヤーとしての企業価値を向上させる「ライトアセット戦略」を実行することが示された。

社長の毛籠勝弘氏。

冒頭、社長の毛籠勝弘氏より今後の開発状況、投資額などについての説明が行われた。毛籠社長のスピーチを簡潔にまとめると、2022年から2030年に向けて行っている電動化への道のりは現在フェーズ2の段階で、現在は過渡期にあたる。2028年~2030年がフェーズ3でここで本格的にバッテリーEVの導入が始まる。

フェーズ1がおおむね計画通りに終わった現在だが、インフレなどの影響もあり投資額は当初予定していたより5000億を大幅に増え7500億に上ると算定された。しかし、パートナーである長安汽車との協業による共同開発車を中国、欧州、ASEAN市場などに早期投入し2030年のBEV比率を25%(約40万台)とすれば、山口県岩国市の電池モジュールパック工場への投資を含めても4000億円を切れるまでに投資額を下げられるという。

また、2022年に公表した電動化投資1.5兆円は、インフレの影響で2兆円規模にふくれあがることが予想されたが、こちらも協業による電池投資などの最適化によって、当初どおりの1.5兆円程度に抑えられる見込みで、自社開発のハイブリッドや、スカイアクティブZ、ロータリーエンジンの開発を進めるなど電動化の選択肢を広げていくという。

エンジンの熱効率向上とコストダウンを目指す

続いて取締役専務執行役員兼CTOの廣瀬一郎氏より、ICE(内燃機関エンジン)搭載車の意義が説明された。マツダの考えはトヨタと似ていて、国や地域で電源構成などが異なるため、今の時点で大切なのはエンジン車、バッテリーEV、PHEV、ハイブリッド車などマルチソリューションでのクルマの提供がカーボンニュートラル(CN)とビジネス成長の両方を支えるというもの。

取締役専務執行役員兼CTOの廣瀬一郎氏。

マツダはエンジン開発にブレーキを掛けることはないが、排気量や気筒数などのバリエーションなどは絞っていく方針であることを明らかにした。従来は排気量ごとに異なる燃焼特性を目指していたが、今後は排気量に関係なく一つの目標を掲げてその燃焼特性を目指すような開発を行う。そうすることで制御ソフトウエアの統一が可能となり、ここでもコストダウンが見込める。エンジンに対する設備投資は6割減を目指すという。

設備投資を減らすとはいえ、まだまだエンジン車に頼る部分は大きい。Well to Wheelを考えたら、エンジンの熱効率を上げることでエンジン車のほうが優位だと考えており、マツダはスカイアクティブZという新しいエンジンで高い熱効率を実現できるので、そのエンジンを使うことでWell to WheelでのCN化を進められるとしている。

EV専用プラットフォームのモデルは2027年ごろか

常務執行役員で電動化推進担当の梅下隆一氏からはバッテリーEVの開発についての話があった。

電動化推進担当の梅下隆一氏。

現在のマツダのEVは中国の長安汽車との合弁会社で製造されるセダンのEZ-6がグローバルモデルとして存在している。EZ-6はBEVとPHEVの2本立てで、2025年には第二弾としてクロスオーバーSUVが登場、2028年から2030年にかけて第三弾、第四弾も予定されている。

一方でEV専用プラットフォームを用いたモデルについては2027年ごろの登場を目標としている。ライバルが多いEV開発では迅速な意思決定が必要となるため、従来7階層で構成されていた開発チームを3階層に単純化。チームスタッフの上にはリーダーとセンター長しかいない構成に変更している。

新しいEV専用プラットフォームはどのようなタイプの電池も搭載可能な高いフレキシビリティを持たせるという。つまり、電池の形状や性能、調達環境などが変わっても対応できるプラットフォームにし、世界各国の工場で調達可能なバッテリーを搭載できる。また、バッテリーのトレンドが変化し、例えば全固体電池が主流になったとしてもプラットフォームを大きな変化はなく移行できることを目指すということだ。すなわち、このプラットフォームは息の長いプラットフォームになることを示唆している。

マツダはEV開発においてはサーマルマネジメントが重要だと考えている。冬の寒い時期は熱交換器から得られる熱で電池を温めるだけでなく、暖房装置やモーター、インバーターから発生する排熱も利用。一方夏場はこれから出た熱を熱交換器を使って冷やす側に利用するとしている。

バッテリーEV開発においては開発工数で50%低減、開発投資で40%の低減を目指しているという。

EV生産の効率化も目指す

生産技術・グローバル品質・カーボンニュートラル・コスト革新担当の弘中武都氏。

最後に常務執行役員で生産技術・グローバル品質・カーボンニュートラル・コスト革新担当の弘中武都氏より生産現場などについての説明があった。

製造現場においても新しい取り組みが行われている。マツダは従来から混流生産を実現しているが、BEVの生産も従来工場での混流生産の予定だという。このために必要なのがサブラインの存在。ICEと異なるBEV部分をサブラインで製造し、途中からメインの組立ラインにモジュールとして入れ込むことで新しい製造ラインを作らずに製造を可能にし、工程数自体も4割減できるという。

既存の混流ラインの活用によって、バッテリーEV専用工場新設に対し、初期投資は85%の低減。量産準備期間も80%低減できるとのこと。

年間生産台数が120万台前後のマツダとしてはバランスのとれた戦略のように思える。ここで一気にBEVにシフトしてしまうのも、BEVの開発速度を落とすのも、どちらもリスキーだ。現状ではエンジン車に軸足を置きながらも、虎視眈々と着実にBEVの開発と生産方式を進めているのがマツダのスタンスであると理解できた。

2027年の専用プラットフォーム採用のBEVがどうなるのか? コスト削減はどこまで実勢価格に影響するのか? 期待して見守りたい。

取材・文/諸星 陽一

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

コメント

コメントする


目次