「NIO DAY 2021」開催〜新型EVセダンET5をお披露目&日本上陸も示唆

中国・上海に本拠地を置く電気自動車ベンチャー「NIO」が12月18日に「NIO DAY 2021」を開催しました。今回の目玉は新型セダン「ET5」のお披露目で、大きな注目を集めました。中国車研究家、加藤ヒロト氏のレポートです。

「NIO DAY 2021」開催〜新型EVセダンET5をお披露目&日本上陸も示唆

【公式アーカイブ動画】

2021 NIO Day from NIO on Vimeo.

※李CEOのプレゼンテーションは57分頃から始まります。

着実に市販モデルを拡大

NIO(中国名:上海蔚來汽車)は李斌(ウィリアム・リー)が2014年に設立しました。2016年には出力1341hpの純電動スーパーカー「EP9」をローンチ。EP9はドイツの著名サーキット「ニュルブルクリンク」ではラップタイム7分5秒12を記録し、「世界一速い電気自動車」の称号を手に入れたことでもたちまち話題になりました。

NIO EP9(撮影/加藤ヒロト)

また、「電気自動車のF1」としても知られる「FIA フォーミュラE 世界選手権」にも初年度のシーズンから関わっており、現在では「NIO 33 フォーミュラEチーム」の名前で参戦しているなど、モータースポーツ愛好家からは市販の純電動車よりもフォーミュラEの印象が強いブランドとなっています。

現在市販しているモデルは「ES8」、「ES6」、「EC6」、そして「ET7」の4モデルとなります。そのうち、ES8は2018年に登場した6/7人乗りフルサイズSUVで、NIOの最初のモデルです。バッテリーは現在75kWhと100kWhの2種類が用意されており、それぞれNEDC方式での航続距離は450kmと580kmです。モーターは前部に160kW、後部に240kWのものを搭載し、合計で最大出力536hp、最大トルク725N·mという驚異的なパワーを誇ります。

残るES6はより小さめなミドルサイズSUV、そしてEC6はそれをベースにしたクーペスタイルのSUVとなります。長らくSUVのみを展開してきたNIOですが、2021年1月に開かれた「NIO DAY 2020」では待望のセダンモデルを正式に発表しました。「ET7」と名付けられたこのモデルは、2019年の上海モーターショーにて「ET プレビュー」として公開されたコンセプトモデルの市販バージョンとなります。

全長5908mm、全幅1987mm、全高1505mmのボディを持ち、フルサイズセダンのクラスに所属するこのセダンはテスラ モデルSのライバルと言われていますが、もしかしたらすでにテスラを超えている部分があるかもしれません。

テスラも諦めた交換式駆動用バッテリーを急展開中

NIOが持つ大きな特徴の一つが、テスラも開発を諦めた「交換式駆動用バッテリー」です。NIOは最初のモデルであるES8からこれを提供しており、ユーザーは中国全土にて設置された交換ステーション「パワースワップ」で自分の車のバッテリーを即座に交換、航続距離を気にしないストレスフリーな旅を楽しむことができます。

NIO DAY 2021では2021年12月18日現在で733ヶ所のステーションを設置したと発表。2021年1月のNIO DAY 2020では「2021年末までに500ヶ所」としていたので、それを大きく上回る数字でその目標を達成しました。また、現在までに中国全土で550万回以上の交換を行なったと強調していますが、これは4.2秒に一回のペースで誰かがバッテリースワップを行なっているという計算になります。この数字からもそのすごさが分かると思います。

交換ステーションは中国を縦横無尽に走る主要高速道路に沿って主に設置されてきましたが、今年からは中国石化(シノペック)、中国石油(ペトロチャイナ)、そしてシェルと提携し、ガソリンスタンドへの交換ステーションの設置も進めています。こうした計画も含め、NIOは2022年までに交換ステーションの数を1300ヶ所以上にまで増やすとしています。また、通常のバッテリー充電へのサポートも怠りません。スーパーチャージャーは6000ヶ所以上、デスティネーションチャージャー(レストランやホテルなどの施設に併設されているタイプ)は1万ヶ所以上にまで増やすとしています。

急速充電&バッテリー交換インフラに加えて目的地充電インフラへの注力も解説。
バッテリー交換方式では、最新型バッテリーへのアップデートも容易。

【関連記事】
中国で進展するEVバッテリー交換方式の『ビッグ3』~NIO, Aulton, Geely(2021年10月24日)

豊かなライフスタイルブランドであることを強調

李CEOのプレゼンテーションでは、新型車紹介の前にNIOがライフスタイルカンパニーであることを強調。

NIO DAY 2021での発表を見て感じた点が、NIOはとにかくユーザーのライフスタイルをより豊かなものへと進化させる「ユーザーベース」なブランドという点です。まず、NIO DAY 2021からして自ブランドのユーザーと共に作り上げたイベントであることが他のEVブランドと一線を画しています。今回は490人のボランティア、そして450人のNIOユーザーがイベントの設営や案内、開催に関わりました。

NIOユーザー同士が交流し、EVに限らず、各々の得意分野で助け合いができるコミュニティや、NIO主催の参加型チャリティープロジェクトなど、所有者のライフスタイルの一部となるプログラムを多数用意しています。こういった点も、EVブランドとしてはもちろん、今までの自動車メーカーには無かった視点ではないでしょうか。

環境対策や社会貢献についても、明確なビジョンとアクションプランが示されました。

最大の注目は新モデル「ET5」の発表

今回のNIO DAY 2021で最も注目されたのが、新モデル「ET5」の発表です。ET5はET7に次ぐ2番目のセダンモデルで、全長4790mm、全幅1960mm、全高1499mmのCセグメントセダン、ライバルで言えばテスラ モデル3や、同じ中国製のシャオペン(小鵬、XPeng)P7などが該当します。

一本の綺麗な線を描くヘッドライト、シャープで突出したリップスポイラー、そしてサメのように上部が突出している「シャークノーズ」をモチーフとしたフロントデザインが、普通のEVにはない引き締まったスポーティー感を演出しておりとてもカッコ良いです。リアもダックテール風のリアスポイラーや、最近のトレンドである左右が繋がっているテールライト、ブレードをイメージしたリアディフューザーなど、デザインのこだわりは細部まで抜かりがない印象でした。

ルーフは全面ガラスとなっており、99.9%のUVをカットしながらも、その面積1.28平方メートルのパノラミックルーフは乗員に広い空の美しさを教えてくれます。ちなみにルーフ前方には小さな「こぶ」が3つありますが、ここには「超遠距離高精度LiDAR」センサーが内蔵されています。これを含め、7個の800万画素カメラ、4個のソニー製300万画素サラウンドビューカメラ、5個のミリ波レーダー、12個の超音波センサー、2つの高精度測位ユニット、V2X(車路協同感知)とADMS(アドバンスド・ドライバー・モニタリング・システム)など、合計33個の高性能センサーを搭載しています。

アクティブセーフティだけでなく、衝突時の安全性能であるパッシブセーフティも妥協はありません。NHTSA(米国運輸省道路安全交通局)が定めるロールオーバー(横転)時の安全性能は5つ星の基準値である1.45~1.6を超える1.7の点数を記録したことを強調しています。また、ユーロNCAPやC-NCAP(中国の自動車アセスメント)でも5つ星を達成できる性能を有しているとしています。

車内エンターテイメント機能で特筆すべきなのが、車内AR/VR機能です。ET5は初めて、ARとVRの理由を想定したインテリア設計となっています。具体的には、運転時に必要な情報を専用設計のARグラスを通して見る事が可能で、これにより車内にHUDなどのディスプレイを設置する必要がなくなります。また、VR機能では専用のVRヘッドセットを使うことで、例えばヘッドセット経由で撮影した運転中の景色を、車内にいない友人と共有し、一緒に旅をしている感覚を得るような事も可能となるそう。車内VR機能で乗車中のエンターテインメントに新たな感覚をもたらしそうです。

補助金適用前の車両本体価格は75kWhバッテリー搭載モデルが32万8000元(邦貨換算:約588万8000円)から、100kWhバッテリー搭載モデルが38万6000元(約692万9000円)からとなります。また、車体とは別に交換用バッテリー単体を月額制で利用する「BaaS」を契約することで、両者とも本体価格は25万8000元(約463万1000円)となります。BaaS利用料金は75kWhが月額980元(約1万7000円)、150kWhが月額1480元(約2万7000円)となります。また、自動運転システムも月額680元(約1万2000円)で契約する形になります。

ちなみに、ET5オーナーは10年保証と無料の家庭用充電器に加え、バッテリー交換、コネクテッド機能、ロードサービスが永年無料となり、ET5が提供する価値は単に車というプロダクトだけではありません。

一充電航続距離は中国CLTC基準。実用では目減りするでしょうが、十二分です。

2025年までに日本上陸?

これまで見てきた多くの革新的な電気自動車は、どれも日本に進出する具体的な計画が描かれておらず、日本の「電動車愛好家」は指を咥えて見ているしかなかったかもしれません。しかし、NIOに関してはその限りではない可能性が出てきました。

NIOは最近、ノルウェー上陸を果たしましたが、2022年中にはドイツ、オランダ、スウェーデン、デンマークへの進出を予定しています。そして、イベントではそれらに加え、2025年までに25ヵ国以上での展開を予定していることが明かされました。

ここで注目したいのが、25ヵ国と言及した際に表示された世界地図です。ヨーロッパ諸国に加え、アメリカ合衆国なども描かれていますが、なんと、日本も含んだ世界地図となっていました。プレゼンテーションで「日本」という国名は語られませんでしたが、これはもう、2025年までにNIOが日本に上陸することを示唆していると解釈して良いでしょう。当然、日本国内でバッテリー交換ステーションのネットワークも構築されるはずです。

イベントの最後にはNIOオリジナルのバンド「NIOバンド」によるオリジナル曲の演奏が行われ、イベントの開催に協力したNIOユーザーの一覧がスクリーンに表示されました。ここまでユーザーにエンタメ性を提供する自動車ブランド、なかなか無いのではないでしょうか。今までの自動車ブランドが行なってこなかった、新たな価値の創造を提供していく姿勢からは今後も目が離せません。

(文/加藤ヒロト)
※記事中画像は公式アーカイブ動画から引用(注記以外)。

この記事のコメント(新着順)2件

  1.  無条件にカッコイイ車です。インダストリアル・デザイナーの要職に欧米人がいるでしょうね。AR/VRの応用も良い視点だと思います。
     ただ、バッテリー・スワッピングは過渡的なもので、急速充電網整備に比べてコストも嵩むし、これはどうなんでしょうね。

    1. バッテリー・スワッピングは過渡的ではないと思います。
      やはり充電速度の問題が有るので高速道路ではバッテリー・スワッピングは定着させても良いと考えます。※規格を同じにしてくれると良いです。

      高速道路を充電しながら走れるなら必要なくなるとは思います。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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