完全自立型EVシェアリングが広島で始動〜電気自動車を活用した日本の知恵を拡大へ!

2022年4月4日、中国電力が広島県などと協力し、環境省が提唱する「ゼロカーボン・ドライブ」を実現する「完全自立型EVシェアリングステーション」の実証事業を開始することを発表しました。気になるポイントを確認してみました。

完全自立型EVシェアリングが広島で始動〜電気自動車を活用した日本の知恵を拡大へ!

ゼロカーボンドライブの実現を目指す

今回発表された「完全自立型EVシェアリングステーション」は、系統電力から独立したソーラーカーポートと蓄電・制御システムを組み合わせ、太陽光発電電力のみで運用するEVステーションに、カーシェアリングサービスを組み合わせた、世界初の取り組みです。

ゼロカーボンドライブとは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電した電力とEV等を組み合わせることで走行時のCO2排出量ゼロで自動車を走らせること。3台分の駐車区画+蓄電池スペースの屋根として設置されたソーラーカーポートの発電容量は約12kW。38kWhという大容量の蓄電池に蓄えた電力で電気自動車を充電します。日産リーフには専用機器を通じて系統電力と連携するV2G(Vehicle to Grid)を行うことが可能ですが、今回のシステムは完全自立型なので、系統に電力を戻す必要はなく、充電するだけでOKです。

とはいえ、災害などの非常時には太陽光発電で充電した電気を携えて、まさに「走る蓄電池」として救援活動などで活躍することが可能です。

設備概要
ソーラーカーポート太陽光パネル 11.88kW
蓄電池容量合計38kWh(10kWh×3基、可搬型8kWh×1基)
電気自動車日産リーフ 1台(蓄電池容量40kWh)

MAZDA MX-30 EV 1台(調整中)
制御システム太陽光発電状況やEV待機状況に応じた蓄電池の充放電制御
非常用コンセント8口(4kW)

広島らしく、マツダの電気自動車『MX-30 EV』も配置。ただし(調整中)となっているのは、この車種がV2G(H)に非対応だからでしょうか。質問したところ、「マツダMX-30 EV MODELのシステム連携が完了次第、導入を予定しています。現在稼働している日産リーフと合わせて、計2台での運用を考えています」という回答でした。

自立型システムとの連携にもV2G対応が必要で、このプロジェクト用の1台だけ対応するよう調整中ということかと思いますが、市販モデルのV2G対応について、マツダからとくにアナウンスはありません。

中国電力のEVカーシェア『eeV』でサービス提供

今回の実証事業は、中国電力、広島県、パナソニック株式会社、AZAPA株式会社の4者で実施されます。それぞれの主な役割分担は、次のようになっています。

●中国電力:実証事業の実施
●広島県:実施場所の提供
●パナソニック株式会社:ソーラーカーポートの開発・提供
●AZAPA株式会社:オフグリッド型蓄電・制御システムの開発・提供

ステーションが設置されたのは、中四国エリアの産業振興のため新製品や新技術の発信などを担う拠点である広島県立広島産業会館(広島市南区)です。一般へのシェアリングは、中国電力が2021年に立ち上げた『eeV(イーブイ)』という電気自動車に特化したカーシェアサービスを通じて行います。

eeVでは「平常時は⾃治体・法⼈・⼀般の⽅がシェアし、災害発⽣時には⾮常⽤電源として利⽤される、移動だけではない地域を⽀える交通システム」を謳っています。今回新設されたステーションでは、平日は広島県の公用車としてEVを活用し、土・日・祝日に⼀般ユーザーがEVを利用することで、無駄なくEVを共有できる仕組みとする計画です。すでに4月から県の公用車としては活躍中。eeVを通じた一般利用は5月上旬から始まる予定になっています。

中国電力は、この事業を車両の電動化と使用電力の脱炭素化を同時達成するモデル事業として、EVステーションをに設置。今後、課題の洗い出しなどを進めていくとともに、複数法人や周辺住民によるカーシェアの仕組みを活用することで導入コストの低減を図るとしています。

さらに、「完全自立型EVシェアリングステーション」を活用して電力供給が困難な場所や電気工事の施工費用が高額となる場所などにおいても、EV導入を進めていくとのこと。有意義な取り組みだと思います。

eeVの公式サイトを確認すると、掲載されているステーションはまだ1カ所だけ。今回、完全自立型ステーションが実現したことを契機に、今後、ますます進展していって欲しいと応援します。

環境省の「EVカーシェア推進を目指す補助金」とは

実は、今回の確認取材を行うにあたり、編集部ではこの実証実験が令和3年度補正予算で施行される「再エネ×電動車の同時導入による脱炭素型カーシェア・防災拠点化促進事業」の補助金を使うのかと考えていました。

でも、中国電力や広島県に確認したところ「スケジュールの関係などもあり、今回の事業で補助金は使っていない」とのこと。考えてみれば、もうサービスが始まるのですから補助金以前に構想されたプロジェクトであることは自明です。穿った質問、大変失礼いたしました。

筆者自身、中国電力に話を聞いていく中で環境省の補助事業を利用していないことを聞き驚いたのが本当のところです。補助金ありきではなく、再エネ×EVカーシェアをいち早く展開することを選択した中国電力や広島県は、脱炭素社会実現に積極的に取り組んでいると評することができるでしょう。

広島県が中国電力と「完全自立型EVシェアリングステーション」の実証事業を始めた背景について、広島県環境政策課の担当者にも聞いてみました。

「今回の事業は、広島県が目指す『ネット・ゼロカーボン社会の実現に資する取り組み』のひとつで、実証事業により県民および事業者のEV利用、カーシェアリングおよび太陽光発電設備の普及促進、中山間地域等の給油所が減っている場所でのEV普及促進、ソーラーカーポートやEVを活用した災害時電源確保のほか、可搬型蓄電池の導入による電動自転車や電動カートなど様々な移動手段の活用促進などの効果が期待できることから協力することにしました」とのこと。

今回の広島県と中国電力の実証事業のように、自治体と企業が協力することで、ウィンウィンの関係でゼロカーボン社会をいち早く実現できると言えるでしょう。

ちなみに、環境省の「再エネ×EVカーシェア導入」補助金(長いので要約しました)は、地方公共団体、民間事業者を対象として、2022年3月25日から申請を受付中。10億円の予算がなくなり次第、受付が終了となります。

【詳細&申請先】
一般社団法人地域循環共生社会連携協会

環境省の資料より引用。

再生可能エネルギーと電気自動車をセットで導入して上手に活用することは、脱炭素モビリティの実現に向けて賢明で最強の方法です。中国電力&広島県の先進事例に倣い、また、環境省の補助金も活用して、全国に広がることを願います。

(取材・文/齊藤 優太)

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この記事の著者


					齊藤 優太

齊藤 優太

静岡県静岡市出身。大学卒業後、国産ディーラー営業、教習指導員、中古車買取を経て、フリーランスへ。現在は、自動車ライター、ドライビングインストラクターとして活動をしている。保有資格は、教習指導員(普通自動車一種・普通自動二輪)、応急救護指導員、運転適性検査指導員。

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