BYDブースは段違いの注目を集めていた
2023年4月18日から27日まで開催された上海モーターショー2023は、コロナ禍が明けた中国自動車業界の「今」を世界に向けてアピールする場となりました。新型コロナウィルス感染症の影響で縮小開催となった2021年とはうってかわり、開催規模も2019年レベルに復活し、会場には海外からの来場者も数多く見られました。
中国の自動車メーカーはここ数年で急速に世界の注目を集めるようになりました。今回の会場でも、「NIO(蔚来)」や「リーディングアイディール(理想)」、長城汽車の「オーラ(欧拉)」など積極的な海外進出を目論むブランドのブースには多くの人々が集まっていました。
活気ある中国メーカーブース中でも段違いの注目を集めていたのが、2022年に世界一となる186万台もの電気自動車(BEV/PHEV)を販売した「BYD(比亜迪)」です。BYDは今回、関連するすべてのブランドあわせて合計6つの新モデルを初めて一般に公開しました。
SEAGULL(海鴎)を正式に発表
そのうちの一台が、「海鴎」です。「SEAGULL」(シーガル 日本語で「かもめ」の意味)としても知られているBYDの最新コンパクトBEVは2022年夏ごろから登場が噂されており、2023年3月に正式発表、そして今回の上海モーターショー2023で正式にローンチされました。BYDは現在、「海洋」シリーズと「王朝」シリーズの2つの商品群を展開しており、SEAGULLは前者における最小車種となります。ちなみに、SEAGULLはよく「BYDの乗用車最小モデル」と勘違いされますが、BYDの最小モデルは2008年に発売した「F0」、およびその純電動版の「e1」となります。
全長3780 mm x 全幅1715 mm x 全高1540 mm、ホイールベース2500 mmのコンパクトな5ドアハッチバックボディには、容量30.08 kWh、および38.88 kWhの自社開発「ブレードバッテリー」(リン酸鉄リチウムイオン電池)を搭載しています。「SEAGULLはナトリウムイオン電池を搭載して登場する」とも噂されていましたが、現時点でその電池を搭載するモデルは投入されていません。
航続距離は中国独自のCLTC-P方式で前者が305 km、後者が405 km(実質的には電費が7km/kWhとしても、約211kmと約272km)となり、数値だけ見れば、このクラスにしてはかなり良好な航続距離であることがわかります。対応出力は30kWと40kWと抑えているものの、急速充電にも対応しています。モーターは最高出力55 kW(73 hp)、最大トルク135 NmのTZ180XSHを前車軸に一基搭載しています。
内装は他のBYD車種と同様、独特な流線形を描くダッシュボードが印象的です。中央には回転可能な10.1 inディスプレイを装備しており、インフォテインメントやエアコンの操作が可能となります。中国の購買層が重視する要素の一つ「コネクティッド機能」も充実しており、4G回線にWi-Fiホットスポット、OTAシステムアップデート機能など、最新の中国製BEVでは当たり前の機能を搭載しています。
SEAGULLの価格は7万3800元(日本円換算約144万7000円)から8万9800元(約176万1000円)と、確かに数字だけ見れば非常に安価です。ですが、この価格は現在の中国の、まさに血で血を洗うような値下げ競争が影響していると言えます。
例えば、日本では600万円程度(実際はリースとサブスクのみなので参考価格)、アメリカでは4万2000ドル(約568万9000円)にて販売されているトヨタのbZ4Xは、中国では同等グレードのメーカー希望小売価格が22万9800元(約450万4000円)となっています。さらに、ここからディーラー独自の値下げ施策が加わります。広東省深圳市にあるとあるディーラーでは時限措置ではあるものの、6万元(約117万6000円)の値引きを実施、先述のグレードだと16万9800元(約331万2000円)で購入できる形となります。
この値下げはトヨタ bZ4Xだからというわけではありません。2023年モデルのフォルクスワーゲン ID.3でも、ドイツ本国の価格は4万6100ユーロ(約689万2000円)からですが、中国でのメーカー希望小売価格16万2890元(約319万3000円)となり、もはやすべてのメーカーが過度な値下げ競争を強いられていることがわかります。
話題のSEAGULLが日本で販売される可能性は?
これらの事情を踏まえた上で、もう一度SEAGULLの価格を見てみましょう。非常に魅力的な価格ではあるものの、採算度外視の値下げ競争はブランド力の低下を招くという声もあり、中国国内の自動車市場はもはや正常に機能しているとは言えません。さらに、仮に日本にSEAGULLが導入されるとなっても、中国本国のような価格ではやはり販売できないでしょう。中国の価格は前述の値下げ競争によるもので、そこに日本で販売するにあたっての諸々のコストが重なってくるからです。
すでに日本で販売されている純電動コンパクトSUV「ATTO3」を例に取りましょう。日本での販売価格は440万円からとなりますが、一方で中国仕様「元PLUS」の同等グレードは15万9800元(約313万2000円)となっています。もちろんまったく同一の仕様というわけではないので単純比較はできませんが、それでも日本で販売されることを想定すると、少なくとも「+100万円」程度は価格が上がることを念頭におくべきです。
価格面以外にも、SEAGULLは大前提として軽自動車の規格に収まっていないという点が挙げられます。そのため、SEAGULLと比較するべきなのは日産 サクラではなく、少なくともトヨタ ヤリスやホンダ フィットなどのBセグメントICE車であると筆者は思います。また、仮に日本での価格が競合と比較して安価であっても、やはり「中国車」に対してマイナスイメージを抱く人は一定数存在します。このような特異な市場にSEAGULLを本当に投入することがメリットになるのか、また、投入するとなればどのようにアドバンテージを確保するのかを、BYDは考える必要があるでしょう。
ちなみに「BYD SEAGULL」という名称は4月20日にBYDが商標登録したことが公開されています。これまでの例では商標登録をしても必ず販売されるとは限りませんが日本での発売は大いに期待したいところです。
0-100km/h 2秒! BYD初のスーパーカーも登場
上海モーターショー2023で話題をかっさらったのはSEAGULLだけではありません。BYDが2023年始に発表したBYDの超高級純電動ブランド「仰望」からは、純電動ハイパーカー「U9」もお披露目されました。「コの字」の巨大ヘッドライトに、カーボン製の巨大リアウィングと、まさに「ハイパーカー」の名がふさわしいデザインが特徴的です。
U9は数々の点において斬新な機構を備えていますが、その中でもサスペンション技術は特筆すべき点です。BYDは2023年、独自開発のサスペンション技術群「DiSus」を発表しました。これは可変ダンパー技術の「DiSus-C」、エアサスペンションの「DiSus-A」、そしてハイドロニューマチックサスペンションの「DiSus-P」で構成されますが、U9ではそれらすべてを合体させた「DiSus-X」を搭載しています。
これにより、身をよじるような動きや、3輪走行、そして驚くことに10センチ程度のジャンプも可能としています。もちろん、これらの技術は特段新しいものではありません。ボディをうねらせる挙動はメルセデスベンツが開発した「アクティブボディコントロール」、ハイドロニューマチックサスペンションによる3輪走行は1955年に登場したシトロエン DSで有名、そしてジャンプもアメリカのローライダーでは定番のカスタムです。ですが、BYDがこれら技術を開発し、さらに進化させるほどの技術力を持つようになったのは刮目すべき点だと感じます。
U9の詳細なスペックはまだ明かされていませんが、加速力に関しては0-100 km/h加速を2秒以下で行うとしています。販売時期はBYD本国の担当者によると年内の予定、販売価格は不明ですが最低でも100万元(約1960万円)になると予想されています。
BYDは2023年4月、全世界で21万295台の新エネルギー車を販売しました。その中には海外に向けて輸出した1万4827台も含まれています。本国にとどまらず、海外にも続々と進出しているBYDを、各市場の地場メーカーはどのように迎え撃つかが焦点となります。
取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)
価格がどこまで抑えられるかやな
Seagullが、ここ日本でも発売される事を期待しております。
今からとても楽しみです。