小型EVの研究開発をすすめるタジマコーポレーション
2024年最高の猛暑ではないかと感じた7月4日、静岡県掛川市にあるタジマコーポレーションの研究開発施設、「タジマ静岡掛川次世代モビリティR&Dセンター」で、新型EVの発表試乗会が行われました。
実は開催案内に詳細が書いていなかったのと、以前、創業者で社長兼最高経営責任者(CEO)の田嶋伸博氏からお誘いをいただいた際も、まとめてタジマのEVに乗ることができるというお話しか聞いていなかったので、どういう感じなのかなあと思っていたのですが、行ってビックリな試乗会でした。
試乗会の前に、簡単にタジマコーポレーションの紹介です。
最近では、小型カメラ「Go Pro」の代理店としても知られているタジマコーポレーションは現在、掛川のR&Dセンターのほか、静岡県磐田市の竜洋と平間、袋井市、埼玉県三郷市、福島県いわき市に、次世代車やレーシングカーの開発を行うR&Dセンターやパワートレインセンターを持っています。
また磐田市竜洋には小型EVの組み立てと検査を行うライン設備があるほか、磐田市袋井にはテストコースも併設しています。自動車の量産をしているわけではありませんが、かなり規模が大きくなっていることがわかります。
タジマコーポレーションは数年前から、小型EVや、狭い道の市街地を低速で運行するグリーンスローモビリティーを手掛けるようになりました。2018年には1人乗りの超小型EV「タジマ・ジャイアン」を発表しています。
またグリーンスローモビリティーは、これまで24の自治体、団体、企業に6〜10人乗りの小型バス「NAO」を納入してきました。そのうち11の自治体では、自動運転の実験をしています。
グリスロからEVバンまで3種類の新型EV登場
発表試乗会は、いくつもあるタジマコーポレーションの施設のひとつ、掛川のR&Dセンターで行われました。
後日、当日の気温を気象庁データで見てみると、近くの磐田市で最高34度、帰り際に休憩したサービスエリアのある静岡市では38.6度という酷暑。直射日光が当たる場所ではどういう気温になっていたのでしょうか。
酷暑で汗を吹き出しながらの試乗会でしたが、収穫は大でした。
この日、タジマコーポレーションは、グリーンスローモビリティーの「NAO2」、電動商用バンの「TWC-07」と電動ワゴンの「TVC-700」、電動ミニカーの「T-mini」という3種類のEVをお披露目しました。
それぞれに特徴があるEVなので、EVsmartブログでは田嶋伸博氏のインタビューを合わせて4回に分けてご紹介したいと思います。
最初はまず、グリーンスローモビリティーの「NAO2」からいってみましょう。
新規格「グリーンスローモビリティー」
グリーンスローモビリティー(長いので、以下グリスロ)は、気候変動防止対策の一環で、道路運送車両法の基準の一部を緩和してできた、新しい規格です。最高速度が時速20kmに制限されている一方で、窓ガラスがなくても公道が走行可能になっているほか、チャイルドシートの装着も不要です。
車両の種類は、軽自動車から小型自動車、普通自動車サイズまであります。
国交省では、従来の公共交通ではカバーしきれなかった、短距離のきめ細やかな移動サービスを実現することを目指した規格としています。
これに合わせて国交省、環境省では、グリスロ導入に向けた補助事業を実施しています。
これとは別に自治体でも導入を進めているところがあります。例えば東京都では都内の区市町村向けに「持続可能な地域公共交通実現に向けた事業費補助金」を交付してグリスロ導入を進めています。
杉並区や世田谷区がこれにより実証事業を行っていて、タジマコーポレーションの「NAO」を導入しています。
そして今回、発表試乗会でお披露目したのが、NAOの新型「NAO2」でした。
インホイールモーターとリチウムイオンバッテリーで進化
「NAO2」は、NAOに対するユーザーの反応を反映し、改良したモデルです。形こそ似てはいますが、中身は大きく変わりました。
まず、前モデルのNAOが、モーターでリアアクスルを駆動する一般的な形式だったのに対し、NAO2は4輪をインホイールモーターにしています。AWDです。雪国などでの需要が見込まれそうです。
駆動形式の変更と合わせて、バッテリーは鉛からリチウムイオンに変更されました。種類はリン酸鉄(LFP)で、メーカーは非公開です。
これにより航続可能距離は、15km/hの定地走行で、NAOの80kmから、NAO2では120kmに伸びています。
インホイールモーター採用と、バッテリーやコントローラーなどを運転席の床下に集中配置したことで、床の高さを大きく下げることができ、高齢者や子ども、女性でも乗り降りがしやすくなりました。
ちなみに最低地上高は、NAOの200mmから、NAO2では120mmになっています。またNAO2の床面地上高は250mmです。試してみると、乗降のしやすさが大きく違うことがわかります。
ただ、システムを最新にしたこともあり、価格は先代NAOよりもだいぶ高くなりました。NAOは6人乗りで448万円、8人乗りで498万円でしたが、NAO2は6人乗りが797万5000円、8人乗りは893万2000円と、350〜400万円近くのアップです。難しいところです。
なお、先代NAOで用意されていた10人乗りは需要があまりないので作らないそうです。
NAO2 主要スペック
NAO2-8J | NAO2-J | |
---|---|---|
全長×全幅×全高 | 4910×1545×1920mm | 4060×1545×1920mm |
ホイールベース | 2900mm | 2050mm |
床面地上高 | 250mm | ← |
最小回転半径 | 5.8m | 4.3m |
乗車定員 | 8人 | 6人 |
車両重量 | 1240kg | 1140kg |
駆動方式 | AWD(インホイールモーター) | ← |
モーター種類 | 永久磁石式同期モーター×4基 | ← |
最高出力 | 24kW | ← |
最大トルク | 592Nm | ← |
最高速度 | 19km/h | ← |
登坂能力 | 短期20%、連続15% | ← |
最小回転半径 | 5.8m | ← |
バッテリー種類 | リン酸鉄リチウムイオンバッテリー | ← |
バッテリー容量 | 18.8kWh | ← |
急速充電 | 無 | ← |
普通充電 | 2.4kW対応(200V) | ← |
一充電走行可能距離(15km/h定地走行) | 120km | ← |
価格(税込) | 893万2000円 | 797万5000円 |
ポリカ製ドアで暑さも緩和
もうひとつ大きく変わったのが、ドアにウインドウです。従来のガラス窓をNAO2ではポリカーボネートに変更。これで暑さをだいぶ緩和することができたそうです。
実際に乗ってみると、確かに違いが歴然でした。日なたでは40度を超えているのではないかと思うくらいの暑さで、ガラス窓のNAOに比べると、ポリカーボネートのNAO2では厳しさが和らいでいました。
エアコンも、NAO2では前後に吹き出し口があって、後席に乗っていた人に聞くと、冷気を感じることができていたそうです。
ところでNAOのガラス窓は、導入自治体でも気になる部分だったようです。
例えば東京都杉並区では、今年11月の本格運行に向けた実証事業として現在、6人乗りのNAOと、ヤマハのゴルフカート型の7人乗り「AR-07」を運行しているのですが、区の担当者によれば両車ともに暑いという声があるものの、とくにNAOは暑いと言われるそうです。
一方、ヤマハのゴルフカート型は開放感があるが、安全性に不安という声もあり、一長一短がありそうです。
杉並区では今後、こうした季節ごとの使用感を含めて、本格運行の準備のための実体把握を進めているそうです。
幅は軽自動車同等で狭い道に対応
さて、NAO2の大きな特徴はもうひとつ、幅が1545mmとコンパクトなことです。軽自動車規格の車幅が1480mmなので、軽自動車並みといっていいでしょう。
グリスロは地域の公共交通で抜け落ちている部分を補完するもので、その中には都市部の狭い道も含まれます。都内でも、高齢化が進む中、大型バスではカバーできない地域での移動の需要があります。
そうした地域ではそもそもスピードは出せません。それより車幅を抑えた自動車が求められるのも道理です。
加えて、グリスロでは不足する公共交通機関のドライバーに代えて、自治体職員や地域住民など一般のドライバーによる運行も視野に入っています。その意味では車幅の小さなNAO2のような車両にはメリットがあります。
もうひとつ、NAO2は座席一列ごとにドアがあるので、ドアが小さく軽くできています。これもまた、利用者が自分で開閉することを考えると長所のひとつになりそうです。
またシートの最後列は折り畳むことができ、車椅子のまま乗り込むことができます。
スペックを見ていて目を見張ったのが、車両重量です。6人乗りで1140kg、8人乗りで1240kgしかありません。車重が軽いのは正義と思います。CO2を減らす効果は大きいです。
登坂能力の最大20%も、なかなかです。地方では急坂、激坂も珍しくないので、ポイントになります。
充電は普通充電だけですが、バッテリー容量が18.8kWhしかないので急速充電は不要ですね。
そもそも最高速度20km/h以下なので、100km走るのに最低5時間はかかります。そんな運用はありえないので、夜間充電と、少しの継ぎ足し充電ができれば、1日中走ることができそうです。
NAO2は自社生産を目指す
ところでタジマコーポレーションは、NAO2に関しては自社で最終組み立てを行う予定です。先代のNAOは海外での委託生産でしたが、NAO2は袋井市の次世代モビリティR&Dセンターで組み立てを行います。
袋井市の施設には試作や試験のほか、組み立ておよび検査ができる設備があるため、必要なものをNAO2用に拡充して行く予定です。納車は、今年9月頃からになります。
日本で最終組み立てを行うことで、信頼性の向上につながる可能性はあります。反面、人件費の関係もあり、どうしても価格が上がってしまいます。
インホイールモーターやリチウムイオンバッテリーの採用もあって原価が上がっていることに加え、袋井市で組み立て作業をしているのが、車両価格アップの要因になっています。痛しかゆしです。
価格は高くなってしまいましたが、使い勝手はだいぶ向上したNAO2について、タジマコーポレーションの担当者は、問い合わせはきていると話していました。
実際の購入にどうつながるかは未知数だし、NAOをすでに購入している自治体などはすぐに買い換えるのは難しそうですが、導入団体、企業が増える傾向にはあります。
グリーンスローモビリティーについては、環境省と国交省が連携して補助事業を行っているほか、東京都のように自治体が独自に補助事業を行っている事例もあります。
補助金漬けになっては困りますが、地方では鉄道はもちろん、バス路線の維持も難しくなっていくので、補完する公共交通をどうするかは喫緊の課題です。
そこでまたしても内燃機関一辺倒にする必要はありません。NAO2を含めたグリスロのような新しい考え方の交通機関が増えるのは社会の在り方の転換にもなりそうで、ちょっと楽しみです。
取材・文/木野 龍逸