中国で格安電気自動車『宏光 MINI EV』のライバル車種が続々登場【後編】風光 MINI EVとBAW S3

中国の超格安EV、上汽通用五菱 宏光 MINI EVは絶賛大ヒット中です。その人気を追うように、中国のさまざまな自動車メーカーが相次いで似たような格安EVをリリースしています。後編では、東風汽車と北京汽車製造廠が満を持して送り出すそれぞれのモデルを紹介します。

中国で格安電気自動車『宏光 MINI EV』のライバル車種が続々登場【後編】強豪メーカーの格安電気自動車

東風汽車の『風光 MINI EV』

中国で2番目に設立された国営の自動車メーカー「東風汽車」では、『風光 MINI EV』という一切ひねりの無い名前のEVを「東風風光」ブランドから2022年3月に発売したばかりです。

風光 MINI EV

こちらは全長2995 mm x 全幅1495 mm x 全高1640 mmと、宏光 MINIEVよりも78 mm長いボディに。デザインは宏光 MINIEVやQQ 冰淇淋と大体は似ているものの、風光 MINI EVの方が丸みを帯びたフェイスを持っており、フロントの印象もかなり違います。また、ボディカラーに関しても同じようなパステルカラーのラインナップですが、風光 MINI EVにはツートン仕様が設定されていなかったりと、微妙に異なります。

風光 MINIEVは3種類のグレードが用意され、それぞれ3万2600元(約63万5000円)、3万8600元(約75万2000円)、4万4600元(約86万9000円)となっています。最上位グレードのみ容量13.8 kWhのバッテリーを搭載し、航続距離は180 km、それ以外は容量9.18 kWhの航続距離120 kmとなります。搭載モーターは一律で出力25 kWとされています。

後追いモデルなのだから装備も似通っていると思われがちですが、細かい部分を見るとさまざまな違いが見て取れます。まず、バック駐車時に便利なリアビューモニターを例に取りましょう。風光 MINI EVでは上位2グレードに標準搭載されているのに対し、宏光 MINI EVは最上位モデルの宏光 MINI EV マカロンにしか搭載されていません。

単純に価格で比較すると、風光 MINI EVは3万8600元(約75万2000円)のモデルから、宏光 MINIEVは4万3800元(約85万3000円)のモデルからリアビューモニターを搭載しており、日本円にして約10万円の価格差が見られます。納車の早さだけでなく、こういった細かな装備の差、価格の差で風光 MINI EVを選ぶ人が一定数いるのも事実でしょう。

とはいえ、販売台数に関しては本家やチェリーのQQ アイスクリームと比べると、あまり芳しくはありません。2022年3月の販売開始以前より先行で販売されていましたが、最も売れた月は1523台の2022年1月で、その後は減少傾向、2022年3月は872台でした。やはり、『宏光 MINI EV』が一種のファッションアイコンとなった今、「格安EV」を買い求めるよりも、宏光 MINI EV自体を「指名買い」する人が多いのだと推察します。

北京汽車製造廠の『S3』も日本円50万円台で登場か?

前編と合わせてすでに2モデルの格安EVを紹介しましたが、実は発売を控えているモデルがもう一つ存在します。それが、北京汽車製造廠(BAW)の「S3」です。

BAW S3

北京汽車製造廠という社名には馴染みの無い方がほとんどだと思いますが、あの有名な「北京ジープ」の会社と言ったらわかりやすいかもしれません。北京 BJ212、通称「北京ジープ」はソ連の軍用車「GAZ-69」を参考にした中国人民解放軍の軍用車で、1966年に量産を始めました。今に至る歴史はあまりにも複雑なので一部割愛しますが、国営メーカーの「北京汽車集団(北汽集団、BAIC)」と「北京汽車製造廠(北汽製造、BAW)」は、どちらも1958年に設立された中国人民解放軍の自動車工場に端を発するものの、現在は両社間の資本関係が解消され、全くの別会社とだけは書いておきます。

北汽集団は現在国内6位の規模を誇り、電動車にも注力しています。それに対し、北汽製造はルーツであるBJ212の近代化改修モデルを販売し続けたり、そのほかのオフロードモデルに注力しており、電動車市場では遅れを取っていました。それが今回、このS3でついに本気を出してきたという印象です。

もうわざわざ言うまでもありませんが、BAWのS3も大まかなデザインは宏光 MINI EVを参考にしています。特徴的なカクカクしたボディに、パステルカラーを基調としたツートンのボディカラー、そして小径ホイールまでは一緒です。

ですが、S3のフロントマスクは本家モデルやこれまで紹介した後追いモデルたちと違い、グリルレスデザインとなっており、非常にすっきりとした印象を与えます。S3のボディサイズは全長3151 mm x 全幅1498 mm x 全高1585 mmとなっており、これまでの中で最も大きいモデルとなっています。

また、インテリアも多少異なります。まず、宏光 MINI EVはメーター部に7インチディスプレイが配置されていますが、S3はダッシュボードに2つの10.25インチディスプレイが配置されており、この点においてはS3の方が優れているかもしれません。ただし、S3のキャビンは突出したセンターコンソールの影響で若干狭い印象で、内装の品質自体も本家より出来が悪いように見えます。

BAW S3

モーターに関しては本家、そしてQQ アイスクリームと同じ20 kWとなりますが、一方で航続距離は120 km、170 km、そしてこれまでのどのモデルにも存在しない200 kmモデルが用意されており、ここで差別化が図られています。さらにもう一つ、このBAWのEVを特別にさせるのが、5ドアモデル「S5」の存在です。

ここまでに紹介したモデルはどれも3ドアでしたが、北汽製造は単に3ドアモデルだけでなく、全長を347 mm延長させたオリジナルの5ドアモデルも投入します。フロントマスクも3ドアのS3とは異なり、細長い灯火類にフロントリップスポイラーでシャープな印象を持たせています。また、S5専用として航続距離300 kmの選択肢も用意されていたりと、本格的に遠出が行えるモデルとして確立させています。

S3とS5は2022年1月に発表されたばかりで、まだ販売は始まっておりません。価格はS3がライバル車種と同等、5ドアモデルのS5は1割ほど高い値段になると言われています。中国において、超格安・超小型EV市場は宏光 MINI EV登場以降、実質ひとり勝ちのレッドオーシャン市場となっています。

ですが、後追いモデルたちにも、消費者にとって選ばれる理由が実はあります。それが、「宏光 MINI EVは人気すぎて納車に時間がかかる」こと。宏光 MINI EVを求めるものの、デリバリーに時間がかかるために、比較的納車が早い後追いモデルの購入を決めたという声が割と聞こえてきます。実際、それらモデルの販売台数のほとんどがそういった層による購入でしょう。つまり、このまま上汽通用五菱の生産能力が同じままであれば、必然的に他のメーカーが販売するモデルに客が流れていくことになります。

宏光 MINI EV

でも、消費者が仕方なく選んでいるような、こんな後ろ向きな理由ではダメでしょう。中国の各社は、このまま上汽通用五菱の独壇場を許し続けるのか、それとも現状を打開する「ゲームチェンジャー」を生み出すことができるのか。日々進化を遂げる中国のEV市場がもっと「面白い方へ」向かう様子からは目が離せません。

(取材・文/加藤ヒロト)
※記事中画像は各社公式サイトから引用。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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