Fred Lambert氏が編集長を務めるEV関連のニュースサイト “Electrek” の2018年4月12日の記事によると、フォルクスワーゲンは「電気自動車(EV)」用二次電池(バッテリー)を製造する大規模電池工場を建設する方向に舵を切りました。これは、2020年に販売を開始する「I.D.」と名付けられた革新的なEVシリーズを見据えて、その基盤となる「MEBプラットフォーム(MEB [独] Modular Elektrobaukasten:モジュール式のEV部分の共通基本構造)」に搭載されることになります。ただし、電池セルは外部から調達します。
2018年4月初頭の同社の発表によれば、生産は、1938年から稼働している同社最古参のブラウンシュヴァイク工場で行われ、年間最大50万パックの二次電池を生産するとしています。すでに、同社の役員会・工場管理部門と労働組合の間で合意が結ばれています。
フォルクスワーゲン・ブランドのCEOであるHerbert Diess氏は、フォルクスワーゲンは将来のドイツのEVを開発・製造するため総力をあげる。二次電池はEV開発・製造における「価値連鎖(バリューチェーン)」の要であり、欧州各地の傘下の工場を念頭に重要技術をブラウンシュヴァイクに結集する、とその意気込みを語っています。
それを裏打ちするかのように、フォルクスワーゲンは4月初めにテスラからモデルSとXの計画管理を担う役員・技術者を引き抜きましたが、これはMEBプラットフォームの開発を主導させる目的だと言われています。
ブラウンシュヴァイク工場は、MEBプラットフォームを用いてフォルクスワーゲンがさまざまなEVラインナップを展開する際に、中心的役割を果たすことになるでしょう。同社役員のThomas Schmall氏によると、すでにここ数年でブラウンシュヴァイク工場には二次電池とそれを支えるシステムの技術が蓄積されており、さらに2012年にフォルクスワーゲンが発表し採用している「MQBプラットフォーム(MQB [独] Modulare Quer Baukasten:セグメントやパワートレーンの枠を越えて使える車輌共通プラットフォーム)」への電動パワートレーン「Modular E-drive System」の組み込みの研究も進んでいるとのこと。(ちなみに、前述のMEBは「EV」として最適になるよう再設計された共通プラットフォーム。MQBでは大容量バッテリー搭載には限界があったため、新たに策定された事情もある。)
確かに近年、ブラウンシュヴァイク工場はバッテリーとそれを支えるシステムや、電子制御機械式ステアリング・システム、そしてサスペンション部品の開発・製造に特化してきました。
これらMQBもMEBもE-driveもすべて、2020年に販売を開始する「I.D.」 EVシリーズを構成するモジュール・システムです。従来のICE(ガソリン車・ディーゼル車)はもとより、BEVもPHEVも全てのパワートレーンの車輌がMQBを基盤として製造され、パワートレーンが電動である場合はMEBがその中に組み込まれる形です。こうした技術を用いて、今後16カ所の工場でEVを製造すると、フォルクスワーゲンは2018年3月に明らかにしました。
このように、フォルクスワーゲンの戦略は今後さらに二次電池モジュールとパックに焦点をあてて行くことが予想されますが、その中に組み込む「電池セル」は外部から調達する方針のようです。これまで世界のいくつかの企業が行っている自社グループ内でセル製造まで抱え込む形を採らなくなくても、外部から高性能の二次電池を安価にかつ大量に入手できる見通しがあるとの判断でしょう。セルの入手先としてはLG ChemやCATLといった有名企業が噂されています。フォルクスワーゲンは今のところサプライヤーこそ明らかにしていませんが、「250億ドル(200億ユーロ)」に及ぶ二次電池セルの購入契約を交わしたと、2018年3月13日に発表しています。
(文・箱守知己)
ブラウンシュヴァイク工場の画像は https://www.volkswagen.de/de/unternehmen/werkbesichtigung/braunschweig.html より転載。