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フォルクスワーゲンのEVミニバン『ID. Buzz』日本発売/価格は約900万円〜

フォルクスワーゲンのEVミニバン『ID. Buzz』日本発売/価格は約900万円〜

フォルクスワーゲン・ジャパンが、2022年のグローバルでの発表以来大きな注目を集めていた電動ミニバン『ID. Buzz』(アイディー・バズ)の注文受付を開始しました。価格は約900万円〜。納車は7月下旬以降に始まる予定です。

目次

EVになって復活したワーゲンバス

日本では「ワーゲンバス」と呼ばれていたフォルクスワーゲン『タイプ2』のDNAを、現代の技術で電気自動車(EV)にして復活させた『ID. Buzz』(アイディー・バズ)が、いよいよ日本市場に導入されました。

フォルクスワーゲン・ジャパンは2025年6月20日、六本木ヒルズアリーナで発表会を行い、アイディー・バズの受注を開始したことを発表しました。会場には数百人のメディア関係者が集まり、関心の高さを示していました。

六本木ヒルズアリーナで開催された発表会は大盛況。

アイディー・バズは、欧州では2022年秋に発売されています。それから3年近くが経過しての日本導入になりました。とはいえ、とくに日本が遅れたというわけでもなく、欧州、北米に続いて、今年になってオーストラリア、シンガポールなどのアジア、太平洋地域で発売された時期に合わせての展開だったそうです。なんにしても、首を長くして待っていた人には朗報です。

CEV補助金の額は未発表

トリムは「Pro」と「Pro Long Wheelbase(PLW)」の2種類で、車体関連のおもな違いは名前の通りのホイールベースと、乗車定員、バッテリー容量、それにタイヤサイズです。

装備面では、プロは、コーナリング時にライトの向きを変えるダイナミックコーナリングライトや、運転席、助手席、後席を独立して調整できる3ゾーンフルオートコンディショナー、運転席と助手席のパワーランバーサポートにリラクゼーション機能などがオプションになっています。対してPLWは、これらが標準装備されています。この他PLWにのみ、パノラマガラスルーフのオプション設定があるのも違います。

フォルクスワーゲンID. Buzz(アイディー・バズ)
●Pro(6人乗り) 価格:888万9000円〜
ホイールベース:2990mm/バッテリー容量:84kWh(グロス)/タイヤサイズ:前後19インチ
●Pro Long Wheelbase(7人乗り) 価格:997万9000円〜
ホイールベース:3240mm/バッテリー容量:91kWh(グロス)/タイヤサイズ:前後20インチ

なおCEV補助金の額はまだ発表されていません。アイディー・バズは外部給電に対応しておらず、同じフォルクスワーゲンのEVであるID.4が66万円であることを考えると、おおむね65万円程度かと思われます。

大きさの割に小回りがきくRWD

アイディー・バズのカタログを見ていて、ちょっと楽しくなるのが、少し明るいイメージのカラーバリエーションがあることです。

ボディカラーは全部で6色あります。このうち3色は、キャンディホワイトと、ライムイエローメタリック、スターライトブルーメタリック、ベイリーフグリーンメタリックがそれぞれペアになったツートンカラーです。白と黒が幅を効かせている日本ではとくに映える色になりそうです。

ID.BUZZ 主要スペック

ProPro Long Wheelbase
全長×全幅×全高4715×1985×1925mm
ホイールベース2990mm3240mm
車両重量2550kg2720kg
定員6人7人
タイヤサイズ前:235/55 R19/後:255/50 R19前:235/50 R20/後:265/45 R20
駆動RWDRWD
モーター交流同期型交流同期型
最高出力210kW
最大トルク560Nm
一充電航続距離(WLTC/国交省審査値)524km554km
駆動バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー
総電力量(グロス)84kWh91kWh
総電圧353V383V
急速充電の対応出力最大403V/350A(約141kW)最大437V/350A(約150kW)
価格(税込)888万9000円〜997万9000円〜

ではスペックを見ていきます。車体の車幅、全高はホイールベースに関係なくまったく同じで、全幅1985mm、全高1925mmです。広い場所で見るとそうでもないのですが、都内の狭い道で見るとだいぶ大きく見えるのではないでしょうか。ただ、海外版のカタログを見ると回転直径は11.1m(半径は約5.6m)なので、後輪駆動だけあってそれなりに小回りはきくのだと思います。

ホイールベースは、プロが2990mm、PLWが3240mmで、約250mmの差があります。

定員はプロが6人、PLWが7人です。定員に関係なくシートは3列で、PLWの方が3列目の足元スペースに余裕があります。シート配置は、PLWは2列目が3人掛けのベンチシート、プロは2列目がキャプテンシートになっています。3列目の足元スペースはホイールベースの違いがそのまま出ているようです。

3列目のシートは前後スライドやリクライニングが可能なほか、取り外しができるので、必要ないときにははずして荷物スペースにすることができます。

急速充電は最大150kW対応

バッテリー容量は、日本のカタログ値ではプロが84kWh、PLWが91kWhです。この数値はグロスで、オーストラリアのカタログを見ると、それぞれのネット容量が79kWh、86kWhとなっています。総容量のうち5.5%程度がバッファになっているようです。

車両重量はプロで2550kg、PLWは2720kgとかなり重たいですが、電費はラグジュアリークラスのEVとしては悪くない約6kWh/kmです。一充電での航続可能距離はWLTCモードで最長554kmあるので、ちょっとした遠出でも経路充電のストレスを感じることは少ないでしょう。

急速充電性能は最大150kWです。ただ、プロは総電圧が少し低い関係で、カタログ値では、日本の150kWで充電した場合は最大141kWになっています。

ちなみに、オーストラリア(急速充電規格はCCS2)のカタログ値ではプロが最大185kW、PLWが最大200kWなので、前記の出力は日本の急速充電器(CHAdeMO規格)が最大150kW程度で整備されている現状に合わせた設定と思われます。急速充電の出力をどこまでも上げればいいとは思いませんが、インフラ性能が車の性能を抑制してしまうのは、ちょっと惜しい感じがします。

なお充電に関しては、アイディー・バズは急速充電の前にバッテリーを温めるプレヒーティングの機能を備えています。

ここでお得な情報をひとつ。フォルクスワーゲンは、ポルシェ、アウディのほか、レクサスの正規ディーラーなどに設置されている90〜150kW急速充電器のネットワーク「PCA(プレミアム・チャージング・ネットワーク)」の一員です。PCAの会員に登録すればこの高出力ネットワークを利用できます。

このPCAネットワークの急速充電器について、アイディー・バズを新車で購入、登録した上で、PCAのアプリで情報の登録をすると、1年間使い放題になる特典がついてくるのです。PCAのネットワークには2025年2月時点で、全国に370拠点、385基の急速充電器が整備されています。

ラグジュアリーな21世紀のワーゲンバス

イモー・ブッシュマン氏。

ところでアイディー・バズの車両価格は、日本市場ではラグジュアリークラスに入るレベルです。ヒッピー文化と親和性のあった元祖ワーゲンバスとはちょっと違います。

フォルクスワーゲン・ジャパンのブランドディレクター、イモー・ブッシュマンさんは顧客層について、2台目、3台目として所有するユーザーをターゲットにしていると話しました。またプロダクトマネージャーの沢村武史さんによれば、以前のイベントで実施したアンケートではポルシェからの乗り換えを検討している人が多かったそうです。

アイディー・バズは、英国やドイツなど欧州ではベースモデルでも1200万円近い価格から始まっています。それに比べると日本で税込み価格が約900〜1000万円弱に設定されているのは安く感じます。

もしかして日本の購買力の低さを考えて値段を下げたのかな、とも思ったのですが、違っていました。北米やオーストラリアも日本と同じ価格帯なので、とくに値下げして売っているわけではないようです。為替の関係も含めて、地域それぞれに合わせた価格設定の考え方があるということなのでしょう。

さて、日本にもアイディー・バズが導入されたことで、いよいよフォルクスワーゲンが掲げる2本柱であるICE車と電動車のうち、電動車の中心になるモデルが登場したことになります。

こうなると、最近、発表された小型車の『ID. 2 ALL』や『ID. EVERY1(アイディ. エブリイ1)』の登場がいつになるのか、日本導入があるのかどうかが気になってきます。

ブランドディレクターのイモー・ブッシュマンさんによるアイディー・バズのプレゼンテーションでは、2026〜27年以降の計画に「?」マーク付きで、この2モデルがラインナップされていました。

気になったので発表会終了後の囲み取材の時に、ダメもとで、ブッシュマンさんに今後の予定を聞いてみました。ブッシュマンさんは、「実際に導入するプランはある」と述べた後、「彼がその鍵を握っている人物なんだ」と言って、横に並んで立っていた長身の人物を目で示しました。

彼の名前はマーティン・セージさんで、この8月からブッシュマンさんの後を継いでブランドディレクターに就任する予定です。

マーティン・セージ氏。

セージさんはまだフォルクスワーゲンの本社所属なので笑顔を浮かべるだけで何も話しませんでしたが、ブッシュマンさんは「彼は本社の商品開発の担当にも非常に強い人脈を持っている。彼がもう少し日本市場に対する理解を深めることができれば、日本にどのタイミングで商品を持ってくるかの適切な判断ができると思う」と、私見を述べました。

そう言われたので、その場でセージさんに、「ぜひ、小型のEVを日本に入れてください」とお願いしてみました。セージさんは笑顔で応えてくれました。とりあえず今は、前向きな検討が進むことを願っています。

なにはともあれ、フォルクスワーゲンのEVの中では目玉商品になるアイディー・バズが日本に導入されたことを歓迎したいと思います。なにしろ現在の日本で買えるEVのミニバンはアイディー・バズだけです。この車の登場が日本のEV市場の活性化につながることを期待したいです。

取材・文/木野 龍逸

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この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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