激安EV『宏光 MINIEV』日本導入の真相は? アパテックモーターズ社長に直撃インタビュー

10月下旬、中国の上汽通用五菱汽車が発売して大ヒットしている小型電気自動車の『宏光 MINIEV』が日本にも65万円程度という格安で導入される準備が進行中であることを、日経新聞が報じました。はたして真相はどうなのか。アパテックモーターズ孫峰社長へのインタビューです。

激安EV『宏光 MINIEV』日本導入の真相は? アパテックモーターズ社長に直撃インタビュー

噂の震源となる講演を行った孫社長に直撃インタビュー

『宏光 MINIEV』は中国の自動車メーカー「上汽通用五菱汽車」が手掛ける小型EVです。日本では「ひろみつ」という呼び方で親しまれています(筆者もたまに使います)が、中国語での読み方は「hóng guāng」となります。中国語の読みをカタカナで表記するのは本来なら避けるべきですが、カタカナで書けば「ホン グヮン」のようになります。

宏光 MINIEVについては、EVsmartブログでも『45万円で9.3kWh~中国の電気自動車『宏光MINIEV』が発売早々大ヒット中』という記事でいち早く紹介。「45万円EV」として日本の経済系メディアなどでも大きな話題になりました。現在は価格自体の値上げ、そして円安の影響で日本円に換算すると約66万7850円(2022年11月4日現在)となりますが、依然として中国ではベストセラー車種のひとつです。

その人気ぶりは販売台数を見ても一目瞭然で、初めて年間を通して販売された2021年には累計販売台数42万6484台を記録しました。乗用車全体のランキングではテスラ モデル3も抑え、2位の座にも輝きました(1位は日産 シルフィ)。2022年の販売台数は9月末時点で33万5624台を記録しており、前年の販売台数を更新するか否かに注目が集まっています。
※販売台数は carsalesbase.com などの情報を参照しています。

日本でも65万円という安さで2023年春にも導入?

先日、多くの「EVファン」たちを沸かせたニュースがありました。日経が2022年10月25日に報じた、「中国の格安EVが日本市場を調査 巡回介護車などに用途」というニュースです。本当だとすれば衝撃的な報道ですが、いろいろと引っかかる点もあります。浮かんだ疑問への答えを明確にすべく、記事で言及された「アパテックモーターズ」に取材を申し込み、代表取締役の孫峰氏にオンラインでインタビューさせていただくことができました。

アパテックモーターズは2022年5月に設立されたばかりの会社で公式サイトの事業内容は「EV車の企画、デザイン、開発、製造、販売に関する事業」「EV車のリースに関する事業」「EV車のための充電ステーションの整備事業」(原文ママ)と書かれています。佐川急便が導入する軽EVも最近話題となりましたが、その企画を手掛ける日本のEVベンチャー「ASF株式会社」と、一つ目の事業内容は似たような印象です。

はたして真相はどうなのか。インタビューの内容を紹介します。

日本導入の可能性を探るため市場調査をしている段階

ー日経の記事では、「すでに日本で型式認証の手続きに入っており、2023年春には公道で走れるようになる見通し」と報じられています。これは本当なのでしょうか?

物流会社関連団体が開催した研修会にて我々が講演した内容をもとに記事を書かれているかと思われます。ですが、現時点では上汽通用五菱の宏光 MINIEVが日本に上陸すると決まったわけではありません。あくまでも上汽通用五菱からの依頼を受けて市場調査を行なっている段階です。

また上汽通用五菱だけでなく、他に複数の中国メーカーとの協議も進めています。宏光 MINEVがいつ上陸するのか、どのように保安基準に適合してナンバープレートを取得するのか? その方法も時期も明らかにできる段階には至っておりません。

ー導入はまだ決まっていないわけですね。では、アパテックモーターズが描いているビジョンをお教えください。

はい。日本メーカーが今まで積極的ではなかった「1万ドル以下、手の届きやすい価格帯のEV」を展開していきたいと考えています。単に安くすれば良いというわけではなく、世界的に見てもクルマに対して特に厳しい目を持つ日本の消費者に、どのようにしたら受け入れられるのかも含めて検討を行なっていきます。そのために、上汽通用五菱以外にも、複数の中国メーカーとの協議に入っています。低価格帯で中国メーカーのEVを拡げたら、少し上の価格帯へもステップアップしていきたいと考えています。

ー日本での事業展開にあたり、どのようなビジネスモデルを想定されていますか?

多種多様な業種とのコラボレーションが根幹になります。EV導入に関しては現時点で40〜50社ほどの会社と話を進めており、それぞれのニーズに見合った低価格EVを提供したいと考えております。例えば、とある不動産会社とは「社員に毎月交通費を支給するよりも、同程度のコストで済む『小型EVの貸与』を行い、社員のモチベーションアップにつなげる」といったプランなども話し合っています。

ガソリンスタンドと連携したEVカーシェアなども構想中

ー電気自動車を展開するということは、単に車を売れば良いというわけではないとも考えます。販売事業以外にはどのような事業形態をお考えですか?

もっとも重要なのがインフラ整備です。主に地方でのEV利用を促進したいと考えており、地方のショッピングモールと提携し、そこの駐車場を充電ステーションとして活用することなどが挙げられます。また、全国に数千のガソリンスタンドを有する商社系の石油元売会社とも話を進めており、EVカーシェア用の貸し出しステーションの構築も行いたいと考えています。

ー輸入EVに対する不安で最も大きい部分はメンテナンスなどのアフターサポートかと思いますが、その辺りはいかがでしょうか?

やはり自動車である以上は日常的な点検が必須です。エンジンはなくともタイヤなどの消耗品は発生するので、そういったメンテナンスもガソリンスタンドで受けられるように体制を整え、輸入EVに対して抱かれる不安を少しでも払拭していきます。年々、減少しているガソリンスタンドの活用も期待できます。

万全なアフターサポートやメンテナンス体制を構築したとしても、「中国企業」へのマイナスイメージは払拭できません。その辺りに関しては、展開するEVが中国メーカーの名前を冠するのかをメーカー側と協議中です。アパテックモーターズとしては、タイアップを行う日本企業の名前を冠することも可能と考えており、多くの選択肢を用意していきたいと思います。

また、これは少し先の展望になりますが、ゆくゆくは輸入だけでなく、中国メーカーの工場を日本へ誘致し、日本国内で自動車を製造、そこから各国へ輸出するレベルまで持っていきたいと考えています。

中国メーカーのEV工場を日本へ誘致

ー日本国内で製造というのは画期的な構想ですね。

はい。記録的な円安はまだまだ続くでしょう。これをチャンスと捉え、日本の生産拠点から輸出も行いたいと考えています。日本国内で年間10〜15万台を製造することを想定しており、生産拠点を福島に設けることができれば、福島の復興にも繋がると我々は信じています。

【インタビューここまで】

直撃インタビューでわかったのは、孫社長が抱いているのは「中国の大ヒットEVを日本でも発売」といった一発狙いではなく、「中国メーカーのEV工場を日本に誘致する」という大きな構想だということです。

確かにこの円安を商機と考えるのは納得がいきます。また人件費を考えても、日本での生産は中国企業にとっては大きなメリットがあるでしょう。実際、この1年で中国よりも日本で製造する方がメリットがあると判断し、生産拠点を日本へ移す中国の製造業者も増えつつあります。

たとえば、大阪・富田林市内にあるマスク製造会社では、長年、人件費の安い中国の工場で製造したマスクを日本に輸入して販売していました。しかし、2021年には富田林に工場を作り原材料や機械を中国から輸入、日本での生産をスタートしています。

経営者の中国人男性いわく、「長年人件費の安い中国で生産をしてきましたが、中国の人件費はこの15年間で約10倍になり、利益を圧迫するようになってきました。そこで、人件費の差が小さくなってきた日本で製造することを考えたのです。日本で生産することで、メイドインジャパンの付加価値を付けることができます」とのこと。

この工場で働くのは社長以外すべて日本人。工場のアルバイトスタッフは時給1000円程度と大阪府の最低賃金並みではあるものの、勤務時間を自由に選べるなどの働きやすさで、求人は人気とのことでした。

インタビューを通して、孫社長のビジョンの根底には「多くの人・企業と協力しながら、より良いEVの環境づくりを行なっていきたい」という点にあると感じました。それには多種多様な選択肢を用意し、提携する企業それぞれのニーズに合わせていくことが重要であるという考えです。

中国メーカーのEVは、これからますます世界を席巻することでしょう。日本のユーザーが「1万ドル以下、手の届きやすい価格帯のEV」を求めていることも間違いありません。手頃な価格で買える中国メーカーの日本製EVが出現すれば、大ヒットする可能性は高いはず。また、EVシフトによって日本の自動車メーカーが苦境に追い込まれる一方で、中国メーカーの工場を誘致できるのであれば、日本の未来にとっては福音となるのかも知れません。

宏光 MINIEVの日本導入や日本への工場誘致といった計画はまだ検討中や調査中のことであり、決定事項ではありません。とはいえ、大きな可能性を秘めたアパテックモーターズ、孫社長のチャレンジに、今後も注目していきたいと思います。

【関連サイト】
アパテックモーターズ公式サイト

※記事中写真は上汽通用五菱汽車公式サイトから引用。

(取材・文/加藤 ヒロト)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 軽EV

    確かに中国では人気かな?
    こだわらない中国の方向け!?
    日本は?では、某大手メーカーのC-PODは売れてるか?
    リースだけだったか?
    本当に売れるなら、我が田舎町の仙台市のEVベンチャー企業の
    小型EVが爆売れだが。
    売れて無い(泣)

    サクラやEKクロスEVは、売れてるが。EV補助金を知らないで購入した方が三割も(笑)

    安いのだけでは無くて、魅力的なEVならば買う!日本人(笑)

    必要な物は全て揃えて、ならば買う!(^-^)

  2. 軽乗用車の黎明期に似ていますね。
    最初の規格は小さ過ぎて乗用車としてはさっぱり売れず、大型化と排気量拡大でスバル360が登場。これが大ヒット。その後も2年に一度のフルモデルチェンジで進化して行きました。中国でも同じようなことが起こるのではないでしょうか?
    日本に導入されるのは次のモデルあたりかもしれませんね。大化けして・・
    日本のメーカーはスピード感に付いて行けないと篩い落とされるのでは?

    1. hatusetudenn さま、コメントありがとうございます。

      軽自動車的な「小型パーソナルEV」が、スバル360のような大ヒット車になるために、どんなパッケージングが良いのか。ここから数年、中国メーカーや欧州メーカーとの競争になるんでしょうね。

      モデルチェンジの度に大きくなってきた軽自動車の歴史を、小型EVも繰り返すのが正しいのか? このあたりも、21世紀の社会が試されるポイントではないかと感じます。

      もちろん、個人的には日本メーカーの奮闘に期待しています。

  3. 中国企業の日本進出ですか…それも人件費高騰が原因なら判らなくもないですが。
    日本には廃工場が結構ありますんで別に福島に限らないと思います。たとえば岐阜県坂祝町にも解体待ちの元自動車工場がありますからその生産設備を流用できれば投資額も少なくて済みますし。

    充電インフラに関しては企業任せでは覚束ないです。いくら日産SAKURA/三菱eKXEVなど軽EVが売れてるとはいえ地方の一戸建てメインでは到底普及したとはいいがたい。都市圏の集合住宅にこそ充電インフラが要るのに…。
    集合住宅にEV充電設備を付ける場合、所有者と管理会社と共用部高圧受電設備管理者の三社合意が必要になるケースが多く、保有者や管理会社に電気的知識がないと最終的に電気設備管理者に負担がかかります。自身それは想定済なんで問題ないですが、保有者や管理会社への説明がネックになりそうです。当事者の意識が変わらないことには動かないんで。

    話は商業施設も同じで、やはり管理会社が間に入ると契約書類など色々面倒な手間が嵩みます。店舗の集積度・滞在時間・駐車場の台数と設置割合など、事前に収集すべきデータも幾つかありますし。必要なのはその手間に対応できる人材をどれだけ育てるかやないですか!?
    ハード面もさることながらソフト面をしっかりサポートしないと電気自動車は広まりにくいと考えます。

    もうひとつ、MINIEVの問題は車幅と電池容量。最低でも幅1.48m未満・電池容量15kWh以上・CHAdeMOポート有でないと慎重な日本人には買いづらいと感じます。実際i-MiEV(M)10.5kWhに5年弱付き合った経験から割り出した結論。

  4. 衝突安全基準を如何にローコストでクリア出来るか、先進装備無しで
    我慢せずに乗れるか?

    そして
    MiEVシリーズで当初コストダウンの為に省略されていた急速充電が
    やがてオプションになり、ついには標準装備になりました。
    無くても納得出来ますか?

    アルトがモデルチェンジした時、頑張って安くしたと言ってましたが、100万円切るのがやっとでしたね。

    私は普段はミニキャブMiEVトラック、仕事ではリモコンキーもパワーウィンドウも無い軽バンに乗っています。
    たしかにこれで充分?
    やはりパワーウィンドウとリモコンキーは最低限欲しい。
    どちらも安いものではありますが、やはり不便です。

    1. ヒラタツさま、軽貨物さま、直之介さま、コメントありがとうございます。

      バッテリー容量や急速充電、ボディサイズなど、気になるポイントはいろいろですよね。
      もちろん、もろもろ幅広いニーズに応えるべく充実してくれるのが望ましいことではありますが、その結果やっぱり200万円オーバー、とかになるのも違うのではないかとも感じます。

      使い方や売り方含めて、「なるほど!」と納得できて、広く日本社会が受け入れることができる「小型EV(どちらかというといわゆる「超小型EV」の位置付けに近い?)」のパッケージングに期待したいな、と個人的には思っています。

  5. せっかく日本で製造するのであれば、ボディサイズを軽規格に合わせるだけで、売れ行きはかなり違うと思います。うかうかしていると日本軽メーカーの脅威となるでしょう。頑張れ日本メーカー。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

執筆した記事