全日本EV-GP第4戦/テスラ モデルSプラッドのKIMI選手が年間王者にリーチ

全日本EV-GPシリーズ第4戦「もてぎ60km」がモビリティリゾートもてぎで開催されました。テスラ勢が上位を占め、KIMI選手(モデルSプラッド)が4戦4勝と負け知らずの強さを発揮。Honda eと日産リーフe+の熱いバトルも観客を楽しませてくれました。

全日本EV-GP第4戦/テスラ モデルSプラッドのKIMI選手が早々に年間王者決定

※冒頭写真はJEVRAのYouTubeチャンネル動画から引用。

第4戦は60kmの距離でEVバトル

2024全日本EV-GPシリーズ第4戦「もてぎ60km」が、2024年8月10日(土)、モビリティリゾートもてぎで開催されました。EV-GP(グランプリ)は、日本電気自動車レース協会(JEVRA/関谷正徳理事長)が主催する年間全6戦の電気自動車レースシリーズ。出場車種は市販EVが中心で、サーキットを転戦して争われています。 安全確保のために競技規則は定められていますが、ライセンスも必要なく、敷居が低いのが特徴。マイカーで参戦している人も多数います。

各戦のレースディスタンスは55kmを基準にしていますが、同じサーキットでの2戦目は、60kmに延長されるルールになっています。モビリティリゾートもてぎは第1戦に続いての開催なので60km。約4.8kmのコースを13周することになりました。

高速コースである上に距離が伸びたので、バッテリー容量の小さなEVにはなかなか厳しいレースとなりました。この難条件が国産BEVによるバトルの結果を左右することになるのですが、まずはレースの概要から。

モデルSプラッドが余裕のレース運びで4勝目

予選でポールポジションを獲得したのは、今季ここまで3戦3勝のKIMI選手(GULF RACING GEPARD)で、タイムは2分2秒760。2番手はTAKAさん選手(スエヒロ モデル3)で2分15秒901。TAKAさん選手は今季初参戦ですが、昨年も2勝を挙げている実力者です。3位(2分22秒835)は前戦で初表彰台をゲットするなど上り調子のモンドスミオ選手(モンドコーヒー モデル3 SR+)という予選結果です。

この3台はテスラ勢(モデルSとモデル3)ですが、各車パワーが違っていて、それぞれ750kW、360kW、202kW。予選順位は、順当に出力順となりました。

以下は、4位レーサー鹿島選手(東洋電産リーフe+、2分29秒456)と6位本間康文選手(Mother Audio NJS ZE1、2分48秒283)というリーフ勢のあいだに、5位井岡康晟選手(モデューロレーシングHonda e、2分35秒448)が食い込みました。BEVでもう1台、テスラ モデル Yで参戦したJoe Justice選手はトラブルに悩まされて計測不能となり、最後尾からのスタートです。

e-POWERの日産ノートやオーラなどEV-R(レンジエクステンダー)クラスの各車も含めて11台がスターティンググリッドに並んだ決勝レース。好スタートを切ってホールショットを奪ったのはモデル3のTAKAさん選手でした。序盤のトップ争いは、KIMI選手とモンド選手がTAKAさん選手の後方につける展開に。黒、白、グレーのテスラ3台が、順位はそのままに2分24~25秒台で周回し、後続を引き離していきます。

その後、7周目に2分23秒829の最速ラップを叩き出したKIMI選手がTAKAさん選手をかわし、そのまま順位を譲ることなくフィニッシュ。今季4戦4勝としました。圧倒的な速さを見せるKIMI選手は次の第5戦で優勝が決まる可能性も出てきました。

2位にはTAKAさん選手、3位にはモンド選手が入りました。テスラ3台は順位こそ変わったものの、終盤に入ってもほとんどタイムを落とすことなく、安定した走行ぶりでした。まさに盤石です。

リーフとHonda eの4位争いも白熱

三つ巴のテスラバトルもなかなか面白かったのですが、国産BEVによる4位争いも今回の見せ場でした。リードしたのはリーフの鹿島選手で、Honda eの井岡選手が僅差でこれを追う展開。この2台、出力ではリーフが160kWに対してHonda eが113kWなのですが、鹿島選手のリーフはバッテリー冷却システムの増設などで車重が約1750kgとノーマルより重くなっています。一方、改造範囲の多いEV-P(レース専用車両)のHonda eはノーマルから約300kgも軽量化して約1230kg。車重は500kg以上も違います。

ドライバーの力量やクルマの戦闘力、コース条件などさまざまな要素がちょうどバランスしていたようで、2台がずっとテール・トゥー・ノーズで連なる展開。井岡選手が時々並びかけるものの、鹿島選手は巧みにインを押さえて逆転を許しません。

ピット上の立ち見席から観戦していたのですが、2台のランデブー状態は終盤まで続き、このまま終わるのかなぁ……と思えた10周目、Honda eがリーフを抜き去ってホームストレートに戻ってきました。そして残り周回もリードを保ったままゴール。何が起こったのかわからなかったのですが、あとで両選手に聞いていろいろ判明しました。

EVレースでは、バッテリーの状態(おもに残量と温度)が勝負を左右します。バッテリー容量が小さなEVは、ひたすらアクセル全開では60kmを走りきれません。特にHonda eはバッテリー総容量が35.5kWhと、出場したBEVの中では最も少ないため、電力使用量を計算しながらの走行になります。一方で、リーフはバッテリーの過熱による出力制限がネック。アクセルワークなどで熱を持たせないようにコントロールする必要があるそうです。

鹿島選手と東洋電産・リーフe+。

今回、鹿島選手のリーフは、終盤にバッテリー温度が上がりすぎてパワーセーブされてしまったそうです。

「限界でした。ラスト3周で警告が出て、アクセル全開でもパワーが6割ぐらいしか出なくなってしまいました」(鹿島選手)

この日の気温と路面温度なら2分42秒台でラップを重ねればノートラブルで完走できると見込んでいたそうです。ただ、レースがHonda eと一対一のような展開となり、先にゴールするためには想定ラップを上回ってでも抑え続ける必要があって、バッテリー総容量60kWhのうち充電率(SOC)を40%以上残しながら、無念のオーバーヒート。

同時にHonda eも電費との戦いを演じていました、ゴール時のSOCはなんと1%! 電欠寸前だったんですね。

「1周あたりのSOC消費が8%で、ほぼ作戦通りに走れていたのですが、やっぱり(リーフを)抜きたいじゃないですか。加速は勝てるけど最高速は及ばない。いくつかのコーナーで仕掛けましたけど、いい感じにブロックされてしまって。我慢比べでしたね」と井岡選手。

ゴール後に、ピットに戻って井岡選手と握手を交わした鹿島選手は、紙一重の勝負だったと知って、笑顔を浮かべていました。

「聞きましたか? 残り1%だったって。私たちのチームも、アクティブサスペンションやバッテリー冷却など、さまざまなことに取り組んでいますし、モデューロレーシングも本田宗一郎さんの流れを汲む『走る実験室』をEVで体現されているチームです。お互いにいい実験になりましたね」(鹿島選手)

鹿島選手は、EV-GPに参戦して12年になるベテラン。「レースは絶対速度を競うものだけど、EVはバッテリー温度を考えたり電費を計算したり、速さだけではないというのが面白い」とその魅力を話してくれました。

一方のモデューロレーシングは、ホンダの関連会社・ホンダアクセスの社員有志による部活動チームです。黒石田利文監督はEV-GPへの参戦理由をこう語ります。「会社が電動化に舵を切っていく中で、EVについて自分たちの手で確かめながら知見を高めて経験を積んでいきたい。EVレースは、まだ社内で誰もチャレンジしていなかったというのも魅力的でしたね」

シリーズ参戦してみて、面白さと難しさを感じているそうです。「スプリントレースなのに耐久レースの要素がある。頭を使うのが面白いんですが、レースを組み立てるのは難しい。クルマもまだ仕上がっていないので、これから詰めていきたいと思っています」とのことでした。

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EV-GPレースの見どころは?

3位に入ったモンド選手にもインタビューしました。実は前回のレース後、興味深いメールをもらっていたのです。「レースでは高い負荷をかけた時の各EVの実力が見えてくるのが面白く、パワーがあったりバッテリーをたくさん積んだ車だけが勝てるわけでもないところが、観戦される方にとっても一番の見どころでは」という内容。そこで今回、詳しくお話を聞きました。

モンドスミオ選手とモンドコーヒー モデル3 SR+。

「私のモデル3はスタンダードというグレードでパワーは(モデル3としては)低めです。でもバッテリーの冷却能力が高くて、60km走っても熱ダレしない。もちろんブレーキの限界があるし、充電率は気にしなくちゃいけないんですが、かなりのハイペースで走り切れる。でも例えば以前に参戦していたポルシェ・タイカンは熱に弱かった。そうしたEVの限界特性は、サーキットで走らないとわかりません。Honda eも、前回と今回のレースは最後までペースが変わらなくて、クルマの特性として興味深いですよね」(モンド選手)

モデューロレーシングHonda eは、EV-Pクラスで参加しているので、バッテリーやモーターを積み替えることだって可能です。魔改造されたスーパーHonda eを見たいとも思っていたのですが、鹿島選手やモンド選手の話を聞いて、ちょっと考え方が変わりました。「街なかベスト」というコンセプトのクルマに、やはり大容量バッテリーは似合いませんよね。いまはリミッターもそのままで、最高速も140km/h付近で頭打ち。だけどEV-GPという舞台を考えると、それでいい、というか、それがいいのかもしれません。

あと、今回もまたHonda eオーナーズクラブのメンバーが4台集合して、モデューロeを楽しく応援したことも追記しておきます。初参加してくれたメンバーもいてうれしい限り。EVレースの面白さを満喫させてもらった第4戦でした。

EV-GPの詳細な結果や今後の日程についてはJEVRAのホームページをご覧ください。 第5戦は9月28日(土)に富士スピードウェイで開催されます。

2024 ALL JAPAN EV-GP Series Rd.4 もてぎ EV60km Race

【編集部注】 当初記事で、「テスラ モデルSプラッドのKIMI選手が年間王者に決定」としていましたが、Xのコメントで「23号車の残り2戦が0ptで、55号車が連続優勝した場合は逆転の可能性がある」という指摘をいただき、タイトルと記事内容を修正しました。大変失礼いたしました。

取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)2件

  1. リーフのバッテリー冷却システムとは興味深いですね!
    キットが発売されたら取り付けてみたいです

    1. hatusetudennさま
      コメントありがとうございます。
      冷却システムが市販されるようなものかどうかわかりませんが、鹿島選手のリーフからは、白いもくもく(水蒸気?)が流れ出てたりして、最初はびっくりしました。機会があれば記事でご紹介しますね。
      よかったらぜひ、観戦にいらしてください!

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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