「EVならではのモータースポーツ」氷上電気カート競技会参戦〜ハードルは低く、奥は深く

スケートリンクを電気カートで疾走する第4回『SDGs ERK on ICE』が2023年9月23日、新横浜スケートセンターで開かれました。ビギナークラスへの参戦ルポとともに、大会の様子をお伝えします。

「EVならではのモータースポーツ」氷上電気カート競技会に参戦〜ハードルは低く、奥は深く

排ガスも爆音もない電気カートで氷上を走る!

ERKは「Electric Racing Kart」(電気レーシングカート)のこと。いまではJAF公認の全日本カート選手権にもEV部門ができています。排ガスもなくエンジン音もしないので屋内でも競技可能。その特性を生かして、屋内のスケートリンクでレースしちゃおうというユニークな競技会がERK on ICEです。主催は一般社団法人日本EVクラブ。

競技は、特製のスパイクタイヤを4輪に装着したERKで争われます。車両は日本EVクラブとERKオーナーが用意してくれて、レース参加者はそれを借りて走ります。レース経験やテクニックに応じて、ビギナー、エキスパート、マスターの3クラスがあって、私は昨年に続きビギナークラスにエントリーしました。

早めに申し込んでラッキーでした。ビギナー20人、エキスパート20人、マスター8組(16人)の参加枠は、すぐに定員いっぱいの満員御礼になったそうです。すっかり人気が定着してきていますね。

ERK on ICEのレース風景。

第4回大会となる今年は、レース内容が少し変更されました。1周100mのオーバルコースを左回り(半時計回り)するのですが、コーナー出口にパイロンが置かれています。1周目はパイロンを避けながら周回し、2周目はそのパイロンを右回りしてからコーナーを抜けるというコース設定。つまりパイロンを中心に鋭い360度ターンが必要。かなりテクニカルになっています。

といっても私たちのビギナークラスは、いかにも難しそうな360度ターンは無し。ただ、コースのパイロンをヒットしたらその時点でアウト(失格)ですよ、と説明されました。私は去年のレースで2回もスピンしてしまったので、今年の目標はスピンやコースアウトをせずにドリフトを決めることです。

スピンしない! を目標に走ったものの……

ビギナークラスは各組一対一の一発勝負。勝てば表彰台ですが……。なんと私の出走は第1レース。ペースカーが先導してくれる慣熟走行はたった1周。どれぐらいのスピードでコーナーに進入すればいいのか、ハンドルに対する追従性はどんなものなのか、ブレーキを踏んだ時のノーズの切れ込み方はどうか、アクセルをどれぐらい踏めばテールスライドするのか、できるだけ試してみながら周回しました。気分はレーサーです。いけそうな気がしてきます。

並んでスタート位置についたところで、いよいよグリーンフラッグが振られてスタート!……でも、私のERKは前に進みません。後輪が猛烈な勢いで空転して氷に穴を開けています。「アクセルを踏みすぎるとスタートできませんよ」とアドバイスしてもらっていたのに、やっちゃいけない見本になってしまいました。とほほ。

スタート失敗で慌ててしまい、追いつこうとして第一コーナーでアクセルを踏み過ぎてスピン。半周もしないうちに早くも勝利の女神はどこへやら。

こうなると勝負は二の次で、自分との戦いです。ドリフトしながら逆ハンでコーナーを抜けてみたい。進入時にできるだけスピードを乗せておいて、よし! と、ここで……はいまたスピン。くるくる。

2周のレースでほぼ周回遅れというのはどうなんでしょうか。一緒に走った澤野貴紀さん、レースにならなくてごめんなさい。澤野さんはイベントで子供がカートの組み立て体験をしたことがきっかけで、ERKに興味を持ったそうです。3年連続の参戦で「今年は勝ててよかったです」とニッコリ。私も来年はもう少しうまく走れるようになってリベンジしたいと思います。

カート経験者のクラスはハイレベル

ビギナークラスには、私のような素人も参加しているのですが、続くエキスパートクラスのレースは、かなりハイレベルになる予感がします。カートレースなどの経験者が参戦。レーシングドライバーみたいにツナギのスーツとレース用ヘルメットで固めたガチ勢のみなさん、見るからに速そうです。

レースが始まってすぐに予感が正しかったことがわかりました。走りが段違いです。きれいにテールスライドしながら、コーナーをアウトインアウトで抜けていきます。ビギナークラスは横並びスタートでしたが、猛者揃いのエキスパートクラスは、イン・アウトの差をなくすため両ストレッチ(半周ずれた位置)にスタートとゴールを設定したパシュート形式。またカートの性能差を考慮して、車両を交換して2回レースをします。

このパイロンを360度ターンします。

2戦して2勝すれば文句なしに勝ちですが、今回は、勝ち数が並んだ場合にゴール地点からの停止距離が短いほうが勝つという新ルールも加わりました。つまりなるべく早く走って、ゴールした瞬間に急制動。カートを自在に操る技術を要求されるレースとなりました。

そしてラストは、いよいよ2人1組のチームで競うマスタークラスです。コース設定はもちろん360度ターンあり。ERKのレース経験者、モータージャーナリストなどが参戦していて、エキスパートクラスよりもさらに本気度が上がっています。

知人のサクラオーナーがチーム監督で参戦!

Team Mission Possibleのみなさん。

そこになんと、知人のサクラ(元リーフ)オーナー、中村さつきさんがチーム監督として初参戦しているではありませんか。早速お話を聞きました。中村さんは初回のERK on ICEで初試乗して、氷上電気カート魅力にはまったそうです。「すごく面白かったんですよ。カートというと、車速も出るし爆音だし、怖い乗り物だと思っていたんですけど、これはスピードも出ないしうるさくないでしょう。やってる人たちがすごく楽しそうだったので、私もやってみたいなぁと」

わかります。電動なので会場に響くのはスパイクタイヤが氷を削る音だけ。ツルツル滑る氷上なので、スピードを出し過ぎたら曲がれません。タイヤのグリップも怪しくて、なにかとマシンは暴れたがる。それをなだめて走らせるのはすごく楽しいですよね。いや私は2年連続でスピンしまくっていますが、それだって安全をしっかり確保してくれている場所だからこそできる貴重な経験です。

中村さんが職場で「チームをつくりたい」と話したところ、「やりましょう」と賛同する仲間が続々。中古のフレームやモーター、バッテリーなどを集めてきてマシンを制作。Team Mission Possible(チーム・ミッション・ポッシブル)が結成されました。9月にはERKカップジャパン(通常のカートサーキットでのシリーズ戦)にも初参戦したそうです。

この日は黒沢昌生さんと雨宮雄大さんがドライバーとなって、中村さんの声援を背に、マスターズクラスに挑戦。残念ながら勝利はおあずけとなりましたが、ほかの参戦者のレース用にマシンを提供していたので、バッテリー交換とかマシンのチューニングとか、レース以外の場面でもチームは大活躍していました。ERKは運転する以外のこともいろいろと楽しそうです。

「少しだけサーキットで試走しましたけど、アスファルトのサーキットでドライブするのはもういいかな、と思っています。ただ私も、氷上でなら走ってみたい。練習できるような機会を作ってほしいですね。氷上レースが普及したら、幅広い人がモータースポーツを楽しめるようになると思います」(中村さん)

ほんとうにそうですね。ハードルの低さがERK on ICEの魅力。そして、本気で取り組んだら奥はかなり深そうです。Team Mission Possibleの今後の快走に、そして氷上電気カートの楽しみがさらに広がることに期待しています。

取材・文/篠原知存

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

執筆した記事