2000km超えラリーに鴻海のEV『LUXGEN n7』参戦/全SS完走で存在感を示す

タイ王国を中心に開催されたアジアクロスカントリーラリーに、台湾の鴻海(ホンハイ)による初のEVとして注目される『LUXGEN n7』が参戦。全SSを含む2000km超を完走して存在感を示しました。フォトジャーナリストの青山義明氏のレポートです。

2000km超えラリーに鴻海のEV『LUXGEN n7』参戦/全SS完走で存在感を示す

LUXGEN n7が総移動距離2000km超えのラリーレイドに挑む

2024年8月11日(日)から17日(土)にかけて、今回で29回目を数えるアジアクロスカントリーラリー(AXCR)が、例年通り今年も8月に開催されました。アジア特有のコースを走るこのラリーレイドは、FIA・FIM公認国際クロスカントリーラリーとしてアジア最大のラリーレイド競技で、約1週間かけて競技区間(SS)940km、総移動距離2000km超の壮大なイベントとなっています。

毎年、タイ王国を中心にマレーシア、シンガポール、中華人民共和国、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマーなどアジア各国を舞台に、アジア特有の山岳部やジャングル、海岸、プランテーション、サーキットなどをコースに取り込んで開催されています。

完走を果たしたチームの記念撮影風景。

今年は予定していたマレーシアの情勢を鑑みてタイ国内だけ、タイ南部のスラタニから北部のカンチャナブリまでのコースとなりました。とはいえ、今回も総移動距離は2000kmを超えています。

競技は2輪(サイドカー含む)と4輪で行われます。4輪では、アジアでよく見かけるピックアップトラックやSUVがエントラントの中心ですが、小型トラックが参戦することもあります。トヨタ・ハイラックス、三菱・トライトン、いすゞ・D-MAX、スズキ・ジムニーといった日本車の参戦が多いことも特徴といえるでしょう。

今年、EVsmartブログとして注目したのは「i TAIWAN Racing Team」からLUXGEN(ラクスジェン)の『n7』という電気SUVです。

ラクスジェンは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がEV事業のために共同出資したユーロン(裕隆汽車製造股份有限公司)が展開する高級自動車ブランドです。初の乗用EV車種となるn7は、台湾国内で納車が本格化した2024年4月にはEV市場シェアの53%を獲得するなど注目を集めています。

このn7は5人もしくは7人乗りSUVのシングルモーターのリア駆動モデルで、最高出力172kW、最大トルク340N-mを発揮します。床下にバッテリーパックを並べ、搭載するバッテリー容量は60kWhとなっています。3サイズは全長4695×全幅1895×全高1625mm、ホイールベースは2920mmです。

災害救助に当たる消防士を育成するミッションも

i TAIWAN Racing Teamは、今回のアジアクロスカントリーラリーに2台のトヨタ・ハイラックスRevoとともにこのn7を参戦させました。台湾内務省消防局との協力があって、「ラリーを通じて災害救助に当たる消防士を育成する」というミッションも持っており、チームの全車両には消防鳳凰チームのエンブレムなどが描かれています。

ゼッケン141をつけるn7が参戦したのは改造クロスカントリー車両(EVエンジン)クラス「T1E」。T1Eクラスには2013年に三菱アウトランダーPHEVが参戦していますが、完全なBEVがこのAXCRに参戦するのは初めてのことになります。ドライバーには台湾人で初めてダカールラリーに参戦したベテランの陳和皇(CHEN, Ho-Huang)選手、コ・ドライバーに洪榮助(HUNG, Jung-Chu)というペアですが、洪選手も現役の消防士です。

車両は、各所のパネルにカーボンを使用していたりしますが基本的に市販車に近いものです。床下にあったバッテリーパックを持ち上げてリアラゲージスペースに斜めに配置し直していることと、ルーフにエアインテーク、そしてリアゲートには大きなエアアウトレットを設け、シート後部に置いたラジエターで冷却をしているようです。

気になる充電ですが、チームはこのラリーレイド用に移動式の充電器を持ち込むことはありませんでした。「PTT(タイ石油公社)のスタンドにはたいてい充電器があるから充電には困らない」とチーム関係者は語ります。

とはいえ、「バッテリー残量10%から100%までの充電にかかる時間は50分かかる」ということで、「台湾からタイへ来るまでのほうが大変だった。あとタイの充電器は台湾のものよりスローな(充電出力が低い)ところが多い」と嘆いていました。n7の一充電あたりの航続距離は425kmとなっていますが、やはりコンペティティブな走りをするSSでは「200kmも走れない」とも語っていました。

全SSと2000km超のコースを堂々の完走

AXCRでは6日間にわたって毎日SSが用意されています。各日のSSの設定距離は異なるものの、200km弱の競技区間が設定されており(最終的にキャンセルとなった区間もあるので実際の距離とは異なりますが)、n7での参戦はほぼ問題がないようでした。

ラリーレイド競技ですからミスコースなどでペナルティが付くこともありますし、SSの区間をスキップしたり、たどり着けずにタイムオーバーになったりして時間が加算されることがあります。このn7は、SS1が36位(ペナルティ32分)、2日目のSS2が33位(ペナルティ7分)、SS3が40位(ノーペナルティ)、SS4で33位(ペナルティ9時間52分)、SS5で37位(ペナルティ10時間)、最終日となるSS6が37位(ペナルティ2時間)という結果でした。

そしてEVの初挑戦でありながら、このn7はきっちり完走を果たし、フィニッシャー(完走)メダルを受け取ることができました。結果、T1Eクラス優勝、そして四輪46台中総合34位という成績を残すこととなりました。

今回のAXCRではこのチームに限らず、多くのエントラントによるミスコースが頻発したこともあって、さらにはあえてコースを走行しない選択をしたSSもあったようで、順位としてはパッとしたものにはなっていませんが、全SSの完走はしましたし、何よりスタックした他の競技車の救出なども行っており、「チームのミッションもしっかりクリアできた」ということです。

今回の結果についてラクスジェンからも「台湾の英雄と台湾のEVで構成されたチームが、この過酷なラリーをLuxgen n7が問題なく走行できることを世界に証明してくれました。BEVでも安全に走行ができ、さらに他の車両を救助することもできました」とコメントが発表されています。

タイの充電環境の整備はかなり進んでいますが、開催される東南アジア各国・各地域の充電環境がさらに整っていけば、これからこのクロスカントリーラリーに多くのEVが参加する機会が増えるのかもしれないですね。

ちなみに、タイではEVの急速充電規格として欧州が主流のCCS2と、日本発のCHAdeMOが多く、今回競技中の充電スポットもほとんどがCCS2規格でした。

取材・文/青山 義明

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 有用な記事をありがとうございます。
    台湾の自動車国内販売23万台のうち10%はEVなんですね!
    国内生産も増えているようだし、日本は置いて行かれてますね・・

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

執筆した記事