EVで電化オートキャンプを初体験〜『Honda e』や『IONIQ 5』がランデブー

電気自動車『Honda e(ホンダe)』を衝動買いしたフリーライター、篠原さんが新潟県でオートキャンプイベントに参加。東京からの往復ドライブを含めたレポートです。100V電源が使える「V2L」の美味しさを満喫!

EVで電化オートキャンプを初体験〜Honda e でランデブー

スノーピークのフィールドにEVが集結!

キャンプシーズン到来。テントを積んであちこち出かけたくなってくる。EVを集めてオートキャンプをする、という話を聞いてすぐに「行きたい!」と思ったものの、実際どういうものになるのかは、あまりイメージが湧いてこなかった。内燃車で行くオートキャンプと、いったい何がどう違うのか。EVのメリットやデメリットは? 新潟県三条市の「スノーピーク ヘッドクォーターズ キャンプフィールド」で開かれた「EVオートキャンプ実証トライアル」に『Honda e』で参加してきた。

じつはこのキャンプ、SNSで開催を知って申し込みを決めていたのだが、ほぼ同時に、モータージャーナリストの片岡英明さんからも「私も行くので、参加しませんか」とお誘いがあった。片岡さんは私と同じHonda eユーザー。以前に取材させてもらったときに、2台並べて写真を撮ったが、本格的なランデブーは初めて。行きます!東京から同行したいです!と返信すると、片岡さんからは「充電のタイミングは、ずらした方がいい。ちょっと考えてみましょう」と温かくも冷静な指摘が。

あっ! それで気づいた。EVで長距離を一緒に走ると「充電スポットをどうする?」という問題が出てくるのか。しかも同じ車種。都内から新潟へ高速で向かうルートのSAPAは充電器が1台ずつしか設置されていない。同着したら必ずどちらか充電待ちになってしまう。幸か不幸か、往路は私的な事情で私の出発が遅くなり、現地集合となったが、帰り道ではこの問題に直面することになった。それはのちほど。

ソロドライブとなった往路、東京の自宅からキャンプ場までは関越道経由で300キロ弱。充電率(SOC)約80%から出発し、首都高速から関越道へ。上里SAで15.7kWh(13→71%)、塩沢石打SAで16.1kWh(21→78%)の充電2回で、到着時のSOCは約40%。余裕を持ってキャンプに臨むことができた。

スノーピークのキャンプ場に集まったEVは、日産『リーフe+』が2台、ヒョンデ『IONIQ 5』が2台、それに私と片岡さんの Honda e の計6台。さらに三菱『アウトランダーPHEV』も1台。普段は少数派なので、EVがぞろぞろ並んでいるというのは不思議な感じだ。

アウトドアで電化キャンプが快適だ!

さて、EVのオートキャンプ、今回のイベントでの趣向は、アウトドアでも家電製品を活用して楽しむことだ。EVは照明器具や調理器具などが家庭と同じように使えてしまう。車から家電製品などへ外部給電することを「V2L(Vehicle to Load)」と呼ぶ。一世帯が一日に消費する電力は約12kWh(環境省調べ、全国平均)だそうで、満充電が35.5kWhしかないホンダeでも、ほぼ3日分にあたる。多少充電量が減っていても、一泊やそこらなら十分だ。

ただし、EVの走行用バッテリーに蓄えられている電気は直流。日本の家電は交流100Vが一般的。そのままでは使えないので、変換装置が必要になる。最近は、EVに限らず、ハイブリッド車(HV)にもAC100V電源(おおむね1500W程度)を備えた車種がある。それならばたいした準備もせずに電化キャンプが可能だ。じつは IONIQ 5 もV2Lは標準装備。1600Wまでの100V電源が活用できる。

この日はあいにくの雨に見舞われたので、大型テントを設置して、その中でいろいろな実証トライアルを行うことになった。ニチコン東京支社の大田幸博さんがV2L機器「パワー・ムーバー」をアウトランダーPHEVと接続して起動する。すると3系統のAC電源(各1500Wで合計4.5kW!)が使えるように。電気BBQグリルでステーキ肉を調理しつつ、ホットプレートで他のお肉や野菜をじゅうじゅう。同時に炊飯器のスイッチもオン。

ウェーバー「パルス」はハイテク電気BBQ。肉の内部温度を計測して、アプリで裏返すタイミングなどを指示してくれる。

つくづく実感したのは、電気のおかげで私たちの生活がすごく楽になっているということ。キャンプというと、まずは水を確保して火を起こして、その火加減を……と食事の準備も一苦労だ。いや、そういう原初的な体験も楽しみではあるのだけれど、いろいろ車に積んで移動できるオートキャンプは、それほどストイックでなくてもOK。使える道具の幅が広がるのは悪いことじゃない。

EVにはACコンセントが標準装備されるといいのに……

ということを感じはしたものの、現場では、ただおいしいお肉とご飯をいただいて、みなさんとEV談義を楽しんだだけ。ちなみにHonda e は、アドバンスという上級グレード(片岡さんのはこちら)ならばAC電源つきなのだが、ベーシックグレードの私の車にはついていない。やっぱり自分のクルマでも「V2L」的なことを実践してみたい。後日、ニチコン東京支社にお邪魔して、ホンダeで「パワー・ムーバー・ライト」(AC電源が2系統の機種)をテストさせてもらった。

CHAdeMOの充電口にコードを繋いで、12Vのアクセサリーソケットにも起動用のコードを接続。とくに難しいこともなく、スイッチを押すと緑色のランプが点灯する。それだけでコンセントが使用可能になって、扇風機をつないで試したら、当たり前のように動き始める。充電口が給電口に早変わり。内燃車の給油口からポンプでガソリンを吸い出すところを想像した。でもガソリンより電気のほうが使い勝手は格段にいい。エネルギーを蓄えたり使ったり、自由自在にできるのは、なかなか気分がいいものだ。

そして、多くのキャンプ用品が災害時に役に立つように、V2Lも災害への備えにつながっている。ニチコンによると、2019年の台風15号で千葉などで長期停電が起きた際に、自動車メーカー各社と協力して約100台のパワー・ムーバーを活用、EVやPHEVを非常用電源として使ってもらったそうだ。

普段から電化キャンプなどでEVと家電製品をつなぐことに慣れていれば、停電した時も慌てずにすむ。万一の時、多くの人の携帯電話を充電したり、寒さを和らげたりできれば、命や財産を救うことにつながるかもしれない。自動車メーカーにお願いしておきたい。これからは、あらゆるEVやHVに標準装備としてAC100V電源をつけておいてほしい。命を守る装備のひとつだと考えてもいいのではないだろうか。

EVから自在に電気を取り出せることをアピール

今回の実証トライアルは、ただ楽しむだけでもいいのだが、じつは大切なテーマを含んでいたのだ。キャンプを企画したのは、EV用充電器を全国に設置するなど充電インフラ整備を事業とする日本環境防災株式会社(東京都中央区)。社長の本郷安史さんは、EV普及のためにさまざまな活動をしているが、EVを災害などの時に非常用電源として活用する「パワーエイドジャパン」というプロジェクトにも取り組んでいる。

キャンプを主催した本郷安史さんのリーフ。

自身もEVユーザーで愛車は日産リーフe+なのだが、何が珍しいってキャンピングカーを牽引している。「Outdoor life with EV」というメッセージとリーフのイラストがボディーに描かれている。まさにEV伝道師。「まずはEVから電気が自在に取り出せるということを知ってもらいたいと考えて、楽しめるキャンプを企画しました」と本郷さん。

そうなのだ。EVが普及していない日本では、「V2L」と言っても、何それ? という人が多いだろう。正直、私自身がそうだった。今回参加して初めて、なるほどなぁ、といろいろなことが腑に落ちた。さらに言えば、V2Lを最初から「防災のために」と言われると身構えてしまうが、「電気BBQグリルがめちゃ美味!」なら絶対試してみたくなる。なんとかAC100V電源を自分の「e」でも実現しできないものだろうかと、コンバーターの後付けなどを検討中だ。

初代リーフのチーフデザイナーを務めた井上眞人さん。

キャンプには、初代の日産リーフ(ZE0)のチーフデザイナーだった井上眞人さんも参加していた。短時間だったがインタビューの時間ももらって、世界でEVシフトが進む中で日本はどうするべきなのか、などについて聞かせてもらった。そちらは夕刊フジの連載記事「EV放浪記」でご紹介したので、興味のある方はこちらで。

ここで紹介しておきたいのは参加したEV3車種についての井上さんの寸評。まずはご自分がデザインした日産リーフ。フルモデルチェンジを経ていまも売れ続けている。
「初代はアーリーアダプターがターゲット。だから普通の車とは違うこと、電気自動車だとわかることが大事だった。二代目はアーリーマジョリティーを意識して、ターゲットを広げている。そのためのデザインとしてはよくまとまっていると思います」

続いてHonda e。
「ミニマルを志向するデザインはとてもいい。でもEVの基本性能である航続距離や充電効率はもう少し頑張っても良かったのかな」。
ユーザーとして感じていたことを的確に言語化してもらった感じ。さすが。

高評価だったのはヒョンデ IONIQ 5だ。
「素晴らしい車。ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーの選考では、同じプラットフォームの車であるKIAのEV6とIONIQ 5の2台が入ってるのは不利だと言われていた。それが結局1位と3位。EVの基本性能で他メーカーを圧倒している証拠です」

現在、イタリア・トリノに事務所を構え、デザイン専門大学IEDで教鞭を執る井上さんは、EVシフトに乗り遅れた日本の自動車産業の未来を懸念する。2011年ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した日産リーフのような名車が、日本からもどんどん出てきてほしいものだ。

補機バッテリー上がりのトラブルを体験

同じ車種でのバッテリージャンプって、なんだか微笑ましい。いや事態は深刻なんだけど……。

電気についていろいろ学ぶことができた一日だったが、翌朝に予想もしていなかったトラブル発生。片付けを済ませて、いよいよ出発しようとしたら、片岡さんのHonda eが動かない。リモコンも効かないし、どのボタンを押しても沈黙。リアゲートもロック。どうやらバッテリー上がりらしかった。

いわゆる電欠ではない。充電残量はたっぷり残っていたという。走行用バッテリーとは別に、EVにも電装品用に12Vの補機バッテリーが積まれている。こちらが空になると、起動できなくなってしまうのだ。たっぷり電気を積んでいるのにお手上げ…… このなんともいえない歯痒さはEVならではかも。幸い本郷さんからブースターケーブルをお借りできて、色違いのHonda e同士でバッテリージャンプ。無事に再スタートすることができた。

「半日以上停めたまま、仕事でWi-Fiを使ったりしたせいかも」と片岡さん。航続距離に直結する走行用バッテリーの残量は常時表示されているが、補機バッテリーの状態なんて、ほとんど考えたことがなかった。EVユーザーのみなさん、御用心ください。

そんな苦難も乗り越えて、帰路はHonda eでのランデブーが実現。販売台数があまりにも少なくて、街ですれ違うこともめったにないだけに、一緒に走るというのは新鮮な体験。後ろをついていきながら「こんな感じに見えてるんだなぁ」とニヤニヤ。

高速道路に乗る前に一緒に昼食をという話になって、道の駅 漢学の里 しただ(新潟県三条市)へ立ち寄ることにした。EVsmartアプリによると、ここには20kW充電器が2台ある。並べてちょい足しできればありがたい。そう目論んだのだが、着いてみれば地元ナンバーのリーフが充電中。先に着いた片岡さんがさりげなく譲ってくださって、ありがたく充電させてもらう。

道の駅には充電器が2台あったのに…… これは地元「リーフ」がいなくなってからの写真。

充電器をセットしているとリーフのオーナーさんが降りてきて「Honda eは初めて見ました。しかも同時に2台も。ラッキーです」と喜んでくださったので、気分は晴れ晴れ。ちなみに30分での充電量は7kWh(SOC35→55%)とそれほど上がらなかったが、あとでこれが効いた。

片岡さんのHonda eは高速道路に入る前に充電が必要になり、ランデブーは魚沼市までの約50キロで終了。一足先に高速に乗った私の方は塩沢石打SA(16.0kWh)と高坂SA(16.4kWh)での充電2回で帰京できた。到着時のSOCはそれぞれ10%と9%。充電残量低下の警告灯を気にしながらの走行となった。旅先ではやはり、充電できるタイミングは大事にしたほうがいい。

EVを連ねてロングドライブというのはやはり楽しい。経路充電については高速化も望まれているが、仲間との楽しい時間のために、何台も同時に充電できる環境をぜひ実現させてほしい。

(取材・文/篠原 知存)

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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