電気自動車『Honda e』箱根日帰り〜EV普及に向けた気付きと思い

11月7日に箱根で開催された『Japan EV Meetup 2021』に、ホンダの電気自動車『Honda e』で日帰りしてきました。バッテリー容量35.5kWhの都市型BEVで片道約90km往復の使い勝手をレポートしつつ、目前に迫るEV普及に向けての思いを綴ります。

電気自動車『Honda e』箱根日帰り〜EV普及に向けた気付きと思い

片道約90km、標高差約1000mを日帰りで往復

2021年11月7日(日)、箱根ターンパイクの大観山展望台駐車場で開催された『Japan EV Meetup 2021』に、ホンダの電気自動車『Honda e(ホンダe)』で参加してきました。

私の拠点である東京・三軒茶屋からの距離は片道約90km。往復でおよそ180kmです。Honda e(Advance)の駆動用バッテリー容量は355.2V×100Ah=約35.5kWhで、カタログスペックのWLTCモード一充電航続距離は259km。259kmー180km=79kmも余裕があるので、電気自動車にあまり詳しくない方は「全然余裕じゃん」と思うことでしょう。

でも、大観山展望台の標高はおよそ1000m。つまり、標高差1000mを駆け上るドライブは電力消費が大きくなります。今回はことさらに省電費ドライブをするつもりもなく、イベント会場ではHonda eから電気を取り出してコーヒーサービスやノートパソコンでちょっと仕事をやろうという計画だったので「運が良くてギリギリ。まあ、帰りに1回充電だな」と想定してスタートしました。

まずは、電池残量などのレポートです。

東京・三軒茶屋スタート時。自宅コンセントで充電して100%。とはいえ、航続可能距離表示は168kmになっています。
東名では90km/h巡航。助手席の木野さんに撮影してもらいました。
写真を撮り忘れたのですが、ターンパイク入口での残量は58%。往復無充電は無理と判断して気持ちよく標高差約1000mのワインディングを駆け上ったので、大観山には30%で到着しました。
イベント終了。復路スタート時は25%でした。コーヒーサービスをサボり気味だったので、思ったより電気残して復路スタート。
ターンパイクを下りきったところで32%。10%くらいは回生で戻したかったのですが、ずっと前車がいる状態だったので、思うような回生最大活用走りができませんでした。
スマホアプリで前車の充電がちょうど終わりそうなタイミングなのを確認して残量21%で大磯PAにピットイン。が、アウトランダーPHEVがどうやらお替わり充電を始めたばかり。「げっ」と思いましたが、すぐにご夫婦がクルマに戻り充電器を空けてくださいました。
トイレ行ってニコチンチャージ。コーヒー買ってクルマに戻ると、68%、航続可能距離126km(帰宅には十二分)になっていたので24分で充電停止。
浜田山まで木野さんを送って無事帰宅。翌日は自宅で85%まで充電して洗車、ぴったり残量80%でホンダ本社に広報車を返却してみました。

エンジン車の「常識」から卒業しちゃおう

Honda eでターンパイクの上り、すっごく気持ちよかったです。追い越し車線が出てきたときに、アクセルを踏み込むと音やらタイムラグやらのストレスなくスコンと加速してくれる感覚はEVならでは。世田谷の狭い道での取り回しの良さなど含めて、本当に魅力的な街乗り&ちょっとスポーティな走りも楽しめるEVであることを再確認できました。

でも、このレポートを読んで「なんだ、無充電で箱根往復もできないんだ」と批判的に捉えるエンジン脳の方は、少なからずいるのだろうと思います。来年には日産&三菱の軽EVが登場するし、経産省の補助金ほぼ倍増(とくに軽に手厚くなりそうな朗報、は、別記事で詳報する予定です)といった状況もあり、日本でもEVの本格的普及が目前に迫る中、エンジン車の常識でEVを考えるばかりの風潮はいかがなものか。どうすれば、EVへの前向きな理解を拡げていくことができるのか、箱根往復ドライブで浮かんだ「思い」を挙げてみます。

WLTCモードの航続距離って無意味じゃない?

Honda eの一充電航続距離、WLTCモードのカタログスペックでは、ベースグレードが283km、Advanceが259kmとされています。今回ホンダに借りたのはAdvanceだったので満充電で259kmということになるのですが、出発時100%の状態でもメーターの航続可能距離表示は168kmでした。この数値は直前の走行状態で変動し、前日、青山のホンダから三茶まで気持ちよく走ったので、ということではあるのですが。今回の往復を通じた平均電費は5.5km程度だったので、単純に計算すると「5.5km×35.5kWh=195.25km」程度がHonda eの航続距離に関する実力といえます。

EVsmartブログでは、紹介する電気自動車の航続距離は、より実用値に近いアメリカ環境保護庁(EPA)が定める基準による数値、もしくは推計値を紹介することにしています。充電スポットまでの距離が気になるお手頃電気自動車のドライブでは、より正確に残り航続可能距離を知りたいと思うからです。

EPAの正式なデータがなく、WLTCの数値しかわからない場合は、0.8を掛けて推計値としています。今回のHonda e Advanceの場合、アメリカ未発売なのでEPAのデータはなく、「259×0.8=207.2km(約5.8km/kWh)」、もしくは欧州WLTP値を指数である「1.121」で割った「137mi=約220.5km÷1.121=約197km」が推計値となり、実走データに近い(もう少し省電費運転を心掛ければ達成可能)ことがわかります。

WLTCの航続可能距離は、「満充電で500kmは走れないと」などというエンジン車の常識に囚われた「盛った数値」になっているのです。8掛けしないと参考にならないカタログスペックに、私はあまり意味があるとは思えません。大容量電池搭載の高級EVはまた少し話が別になりますが、35.5kWhという程よい容量のバッテリーを搭載したHonda eのようなEVには、より実用に合った性能を明示しつつ、航続距離の長さだけではない新たな価値を提示して欲しいと感じます。

目的地充電できれば航続距離は倍になる

Honda e から電源取ってコーヒーサービス!

今回の日帰りドライブ。目的地の大観山展望台には、朝8時から午後3時過ぎまで、およそ7時間停まっていました。仮に、この駐車場で出力3kWの普通充電ができれば、約21kWhを補給できます。到着時残量は30%=約11kWhでしたから、復路出発時には32kWh程度、残量90%くらいでスタートできて、ターンパイク下りの回生でほぼ100%に回復。もちろん大磯PAでの急速充電は不要だったことになります。

今回の場合、観光地の広い駐車場におよそ100台のEVが集結したので、その全てが充電できる環境を望むのはまだハードル高すぎですが、宿泊施設やレジャー施設、飲食施設などに目的地充電設備(200VのEV用コンセントで十分!)が普及すれば、バッテリーがコンパクトなEVであればあるほど、大雑把に言って「航続距離が倍になる!」利便を享受できるのです。

急速充電インフラばかりが注目されがちですけど、これからEV普及が進むにつれて、目的地充電インフラが「あって当たり前」になることが肝要です。

エンジン脳に媚びない情報発信を

まずまずの天気に恵まれ富士山も見えました。でも、コートを忘れて寒かった!

Honda eの公式サイトを見ると「優れた急速充電性能」として、「30分程度の急速充電において、満充電量の約80%充電を達成」していることがアピールされています。充電開始時の残量などが明示されていないので、仮に20%〜80%であれば急速充電できるのは満充電の約60%=21.3kWh程度となって、まあ納得できるのですが。

0〜80%だとすると、30分で28.4kWh。ホンダディーラーに多く設置されている最大50kW出力の急速充電器では到達しない充電量になってしまいます。以前ホンダに確認したところ、Honda eは高出力のチャデモ1.2規格に対応しているということではありましたが、EVsmartブログでしつこく検証してみても、実際に50kW(125A)を超える出力での急速充電はほとんどできませんでした。

そもそも「30分で80%」といった充電性能の表記は、変動する要素が多すぎてほとんど意味がありません。にも関わらず、多くの自動車メーカーが同様のアピールをしているのもまた「EVは充電に時間が掛かる」というエンジン脳の常識に媚びた「盛り盛りアピール」に過ぎないと感じます。充電には給油よりも時間が掛かるのは当然のこと。それは「使い方」や「考え方」で対処できるEVの特徴であって、ことさらのデメリットだとは、私は思いません。

重箱の隅をつつくようで恐縮ですが、公式サイトで公開されているHonda eの主要諸元(PDF)を見ると、動力用主電池の「種類/個数/電圧(V)/容量(Ah)」が「リチウムイオン電池/192/3.7/ 50.0」、「総電圧(V)」が「355.2」となっています。

この数値で総容量を計算すると、「355.2V×50Ah=17.76kWh」になってしまいます。これはおそらく、「96セル×2並列=192セル」で、「直列1系統の容量が50Ah」なのだろうと想像してホンダに確認すると「その通り」である旨の回答をいただきました。まあ、カタログサイトの「航続距離」の説明冒頭に「35.5kWh(ホンダ測定値)の高出力型リチウムイオンバッテリーを搭載」とあるので、諸元表の細かな数値で計算するのは私ぐらいなのかも知れないですが。わかりにくいなぁ、というのが正直な感想です。

充電に時間が掛かっても、航続距離が200km弱でもいいじゃないですか。エンジン車の常識から卒業して、コンパクトなEVならではの特徴や魅力を、わかりやすく情報発信して欲しいな、と感じます。

また、もし高出力での急速充電性能を商品であるEVの魅力としてアピールするのであれば、自動車メーカー自身がテスラやポルシェ、アウディ(VWグループ)、日産のように高出力急速充電インフラ整備にコミットすることが大切だと思います。

100Vコンセントはすごく便利!

今回のイベントでは、Advanceに標準装備されているAC100V1500Wのコンセントから電源を取り、仕事場から持参したコーヒーメーカーによるコーヒーサービスを行い、ノートパソコン繋いで溜まっていた原稿確認などの作業をやりました。外部機器の接続なしに、直接電気を取り出せるコンセント、やっぱりすごく便利です。

私は以前、EVスーパーセブンと三菱アウトランダーPHEVで、オール電化キャンプを繰り返しつつ東北の津波被災地を巡る旅をした経験があり、その際、ホットプレートとティファールを活用したキャンプの快適さを実感したことがあります。今回、改めてオール電化キャンプの快適さを思い出し、Honda eでオートキャンプに行きたい! 思いが強くなりました。さすがに厳寒期はつらいので、春になったら「北軽井沢あたりでオール電化キャンプ!」の記事を考えてみたいと思います。

Honda e は、やっぱり魅力的なコンパクトEVです。個人的には「ああ、あと100万円安かったらなぁ」という思いをますます強くしました。今回試乗したHonda e Advanceの希望小売価格は495万円(税込)。バッテリーのkWh単価を計算すると約14万円/kWhになります。約54kWh(推定)のテスラモデル3スタンダードレンジプラスが459万円(11月28日現在)。バッテリー単価は約8.5万円/kWhなので、どうしても割高に感じてしまうのです。

そもそも私自身、新車で購入するマイカーの価格は「400万円くらいが精一杯」という人生を過ごしてきました。これから、軽EVをはじめ、大衆車として普及するべきEVがいろいろと登場してくることでしょう。EVの価格基準として、私はわかりやすいと感じているので好んで用いる「バッテリー単価」にして10万円/kWh以下に値段を抑えつつ、EVならではの魅力をさらに高めてくれるパッケージングをどう実現していくか。日本メーカーの奮闘を期待しています。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)9件

  1. I-Miev(M)10.5kWhを約5年程使っていますが、今後日本でEVを普及させるのに軽EVという選択肢は有りと思っています。但し軽EVが一般ユーザーに受け入られるには、冬場のヒーター性能向上が求められます。寒冷地では走行エネルギーの何倍もの暖房エネルギーが必要となってきます。大容量電池を積んで対処するという方法もあるかもしれませんが、そういう技術選択肢だといつまでもガソリン車には追い付けないのではないか?と個人的には思っています。日本の自動車会社が優れた熱マネ性能を持った小型EVを開発してくれる事を期待しています。

  2. i-MiEV(M)10.5kWh信者ですwwエンジン車の常識はEVの非常識やと痛感してますがな。
    電池の取扱い方はノートPCやミニ四駆などで慣れておりあまり満充電せず、経路充電も電費から残り航続距離を暗算し必要量だけ充電する…ただでさえ電池容量少ないから理系脳フル回転で最大限パフォーマンスを出す乗り方になりましたよホンマ。
    逆に電気が劣化しにくい耐久性こそが肝要やないですか!?今でこそ日産リーフも電池劣化を食い止める技術を持ちつつあり改善されたとは聞きますが。
    ホンダeアドバンスは以前カーシェアで借りましたが発車時の表示が電費6km/kWh前後…「今まで借りた人たちはなんて電費悪い乗り方してんだ!?」て素直に感じましたよ。エンジン車脳の運転では電力回生や節電がうまくいってないです。自身が運転して返却間近に電費計見たら7km/kWh、残り航続表示230km…自身しっかりEV脳やと感じさせられたエピソードですー。
    最近ガソリン代高騰で電気自動車人気が高まる可能性が高いですが、来年発売予定の軽EVは少なくともi-MiEVより相当上回る台数が出ると思いますよ!?

  3. 24kのリーフに乗っております。購入時航続距離は100キロそこそこ。時速100キロで走る高速は距離70キロくらいが安心して走る限界で高速道路の走行は諦めました。7年経過で6セグまでバッテリー低下。今では市内50キロ走行も危うい状況。 今時のEVがメーカー保証が切れる頃ここ迄の劣化は無いと思いますが、今までの自動車の代わりにはなりません。シティーコミューターの新しい交通手段捉えるのが正しいと思います。

  4. HONDAと日産にはどちらにも言いたいことがあります。
    HONDAには、「BEVを売るからにはもっと真面目にインフラ構築に貢献して。」です。
    日産には、「AV100V1500Wコンセントくらいオプションで良いから用意して。」です。
    ラゲッジスペースを占領するほど大きく、数十万円もする外部給電器など常備出来るわけがありません。

  5. 記事の内容を読まずに失礼します。
    今朝日産の営業所に立ち寄ると(非EV)HONDAeが充電中でリーフさんが順番待ちをされていました。
    売ったらキチンと対応してほしいです。

    1. メーカーにある充電器=そのメーカーの車種専用という考えを捨てた方が良い。ガソリン車だと、特定のガソリンブランド推奨車があった場合、給油待ちや給油中の車を飛ばしたり、強制終了して譲ること一緒。これ許される?

  6. 100vコンセント便利ですよね。アリアについてないらしいですね。日産のセンス理解できません。コンセントのないEVは日本車では日産だけですよね。設計は外人支配が続いてるんでしょうか?

  7. http://evnews.blog.jp/archives/13744364.html
    2011年8月のアイミーブMグレード(10.5kWh)について書いた上のブログでも以下のように触れています。電池容量は多ければ良いというものではありませんね。
    「約17分間95%充電で114kmを走行できると表示するということは,充電時間の短さが走行距離の短さというMグレードの「欠点」を補うことになるのかもしれません」
    114kmといっても実際にはそんなに走ることはできませんが、Honda eの「35.5kWh」で航続距離が200km弱、かたや10年前の発売されたEVが「10.5kWh」で90km弱って、進歩しているのでしょうか^_^;

    1. 同じi-MiEV(M)10.5kWhユーザーとして、電費を気にしない人の多さに歯がゆい思いをしてますよ。電動化の波で真に断ち切るべきは航続距離信奉やとマジで感じてますから。
      イノベーターやアーリーアダプターが航続距離信奉しているからこそ電気自動車はなかなか普及せーへん…一方それほどでもない一般EVユーザーは近距離ユースで自宅充電中心なら車両代が安いほうがエエし。
      現にルート営業でi-MiEVを使い自宅兼事務所で充電している僕は電気代のほうが気になりますよ。仮に道中充電が必要になっても大概普通充電で間に合いますし。
      ガソリン価格が上がっている今、答えは来年早々に出る日産三菱軽EVで出るんやないですか!?おそらく価格に敏感な層がだいぶEVシフトすると思いますよ!?こちとら電気屋やから相談増えそうですが。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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