ホンダと三菱商事が新会社「ALTANA」設立/EV用バッテリーの資源循環を目指す

ホンダと三菱商事が、電気自動車用バッテリーの資源循環やV2G実現への貢献を目指す新会社「ALTANA」を設立することを発表しました。10月10日に発売される『N-VAN e:』では、バッテリーをALTNAが保有することで低価格となるリースプランを提供します。

ホンダと三菱商事が新会社「ALTANA」設立/EV用バッテリーの資源循環を目指す

バッテリーをリースにしてEVを低価格に

軽商用EV『N-VAN e:』の発売日などが発表された2024年6月13日、ホンダからもうひとつのプレスリリースが発信されました。本田技研工業株式会社と三菱商事株式会社がEV用バッテリーの資源循環や再利用を進めるための新会社「ALTNA(オルタナ)株式会社」を、2024年7月に設立します。

オルタナでは「Hondaが持つEV・バッテリーの制御技術やコネクテッド技術と、三菱商事が持つ蓄電池運用やスマート充電などの電力ビジネスに関する知見を組み合わせることで、EVユーザーのTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)を低減する新たなモビリティサービスと、EVバッテリーを長期に活用する新たな電力事業の展開」を目指すとしています。

つまり、EVが高価になる要因とされている駆動用バッテリーをオルタナが保有するリースにすることで、EVをおトクに利用できるようになるということですね。

具体的な新会社の事業としては、以下のような内容が紹介されています。

①バッテリーリース事業

2024年10月10日に発売が予定されている新型軽商用EV『N-VAN e:』を皮切りに、関連リース会社との連携による新しいリース商品の販売を開始。リース車両のバッテリーをオルタナが保有し、車載利用期間終了後はバッテリーを回収して、系統用蓄電池事業(リパーパス蓄電事業)などへ転用。バッテリーを長期で利活用することを前提としたリース価格に設定することで、EVユーザーの負担を減らせるとしています。

N-VAN e: の公式サイトではすでにリースプランであるHonda ONによる全部コミコミで月額2万8440円〜(諸条件あり)という「N-VAN e: バリュープラン」が紹介されており、この料金設定にはすでにオルタナがバッテリーを回収して再利用するメリットが含まれています。

ちなみに、リリースではもうひとつ、三菱オートリースとの提携による「N-VAN e: 循環リースプラン」が紹介されていますが、対象は法人のみ。フリート導入などの際に提案されるプランです。

②リパーパス蓄電事業

バッテリーリースによる安価なリースプランを支えるための事業の柱となるのが、EV用としての役目を終えたバッテリーを系統用蓄電池として再利用して運用を行う電力事業です。

リリースでは「車載利用時からバッテリーの状態を継続的にモニタリングし、得られるデータを基に回収したバッテリーを最大限活用することで、長期的・安定的な運用」に結びつけること、そして「系統用蓄電池としての利用が終了したバッテリーは、循環型のものづくり実現に向けて適切なリサイクル」を行っていくことが説明されています。

③スマート充電事業

電力網の需給逼迫時を避けてEV充電を行い、EVユーザーの電力コストを最適化するEV充電プランを提供。さらに「将来の市場開放を見据えた、V2Gサービスの提供に向けた検討」をするとしています。

ただし、スマート充電を制御するための充電器やアプリなどのソリューションについては、まだ具体的な言及はありません。

より良いEV社会実現に向けた最初の一歩

電力網とEVで相互に電力をやり取りするV2Gは、これからEV普及が進むほどに大切な社会の仕組みになっていくはずです。ただし、オルタナが事業内容として掲げている「②リパーパス蓄電事業」は、これから発売されるN-VAN e: がクルマとしての役目を終える、早くても5〜7年後くらい(2〜3回の車検を経て10〜20万km走行に達する程度を想定)から本格的に立ち上がっていくことになる「まだ先の話」であって、やや具体性に乏しい点があります。「③スマート充電事業」も含めて、そもそも、オルタナそのものが7月に設立される会社であり、念のためホンダ広報部に確認したところ、このあたりの詳細はそれから決まっていくことになるということでした。

ともあれ、N-VAN e: は売れるでしょうから、「①バッテリーリース」事業は、電池のフル活用や資源循環を見据えて、より良いEV社会を実現するための第一歩。N-VAN e: の発売で「EVへの本気」を示したホンダが「EVを売るからにはリサイクルまで含めた電池への責任を果たす」とする意思が、新会社オルタナに込められているのだと感じます。

EV用バッテリーの再利用といえば、日産が初代リーフ発売とともに2010年9月に住友商事とともに立ち上げた「フォーアールエナジー」が思い浮かびます。福島県浪江町に事業所(バッテリー再生工場)を建設して意欲的な取組を続けているものの、現在のところ扱っているのが初代リーフのバッテリーに限定されている上に、廃車になったリーフのバッテリーに海外からのニーズが高いといった逆風があると聞き及び、なかなか、ダイナミックな動きにはなっていないのが現状、という印象もあります。

とはいえ、フォーアールエナジーの公式サイトを確認すると、セブンイレブン10店舗での太陽光発電パネルや定置型蓄電池などによる「再生エネルギー100%店舗の実証実験」(2019年9月)、JR東日本と連携した「踏切保安装置電源への活用試験」(2021年9月)、JR九州などと連携してEVのリユースバッテリーを鉄道沿線地や遊休地での系統用蓄電事業に有効活用する「でんきの駅 川尻」の完工(2024年3月)など、着々とEVバッテリーの活用事例が積み上がっているところです。

オルタナが対象とするバッテリーは、今のところN-VAN e: 一車種だけですが、2025年に発売予定であることが発表されているN-ONEベースのEVをはじめとする「軽EV」のバッテリーを対象としていく計画とのこと。対象となるEV車種が多ければ多いほど、有意義なバッテリー活用やリサイクルが進むはず。オルタナとホンダの、さらなるEVシフトへの本気に期待しています。

文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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