ホンダが2025年秋に発売を予定している新型軽乗用EV「N-ONE e:」の先行情報サイトを公開しました。航続距離は270km以上で、外部給電に対応することなどがわかった一方、車両価格は謎のまま。とはいえ、EVだから走りの気持ちよさが超軽自動車レベルであることは間違いなし。通勤などの足クルマとして軽自動車の買い替えを検討中の方、EVシフトを決断するのはいかがですか?
いつもの街、いつもの道。安心して乗れる航続距離
2025年7月28日、ホンダが2025年秋に発売を予定している新型軽乗用EV「N-ONE e:」の先行情報サイトを公開、8月1日から先行予約を開始することを発表しました。先行情報サイトでアピールされているキャッチフレーズに沿って、明らかになったポイントを確認していきましょう。
ひとつめのキャッチフレーズは航続距離(一充電走行距離)です。価格や詳細なスペックなどはまだ発表されていませんが、先行情報サイト公開を伝えるプレスリリースで「航続距離は、毎日の生活の中で安心してご使用いただけるよう、WLTCモードで270km以上を達成」と明示されました。
「大容量バッテリー」ともアピールされています。2024年10月に発売された軽商用EVの N-VAN e: のバッテリー総電力量は29.6kWhで、航続距離は245km。N-ONE e: のほうが空力を中心とした電費性能が良いであろうことを考えると、搭載するバッテリー容量は同様の29.6kWhであると推測できます。日常の足となる軽自動車として十分な航続距離であり、コンパクトかつ軽量なボディで軽快な走りを楽しむために、約30kWhを「大容量」というのはちょっと盛りすぎの印象ではありますが、バランスのいい容量と評することができます。
カタログスペック通りの航続距離を出すのはなかなか難しいでしょうが、満充電から200kmくらいは「そこそこ安心」して走れるはず。ロングドライブでもまずまず実用的な性能であると思われます。
坂道もスイスイ! 気持ちとつながるような頼もしい走り
ふたつめのキャッチフレーズは走りの頼もしさ。「走り出しのスムーズな加速が日々のおでかけを身軽に。アクセル操作に素直に応えてくれて、ぐっと背中を押してくれる頼もしさ」とアピールされてます。
これは、低回転から大きなトルクを発生するEVならではの特長です。一度EVに乗ると「もうエンジン車に戻れない」と感じる人が多い最大の理由といってもいいでしょう。坂道をスムーズに上っていけるのはもちろん、加速のスムーズさを強く実感できるのが大きな交差点での右折時など、瞬発力がほしいシーンです。まだEVを運転したことがないからわからないという方は、車種を問わず、ぜひディーラーなどで試乗してみることをオススメします。
3つめのキャッチフレーズで挙げられている「03. 電気で走るから静かで会話もはずむ」という特長も、走りの魅力とともに語れるEVの特長です。エンジンの軽自動車が急な上り坂を走るときに響く苦しそうな唸りがないのは、おそらくEVを知らない方の想像以上に気持ちいいことです。
アクセルペダルだけでいつもの道もラクに運転
4つめのキャッチフレーズは「シングルペダルコントロール」、いわゆるワンペダルドライブのアピールです。アクセルペダルを緩めると回生ブレーキ(制動力で発電してバッテリーに電気を戻す機能)で減速し、完全停止までできる機能です。日産のリーフやサクラ、アリアなどのEVにも「e-Pedal」というシングルペダル操作の機能があって以前は完全停止できましたが、現在は完全停止はできなくなっています。
文字通りのワンペダルドライブは街乗りなどのシーンでラクチン&便利です。慣れてしまえば、ブレーキペダルはほとんど踏まずに一日の通勤往復をこなしてしまうなんてこともあるでしょう。このあたりの感覚は、同様にシングルペダルコントロールを搭載した Honda e: を愛車とする篠原さんのEV放浪記に詳しく説明した記事があるのでご参照ください。
まさにパートナーと呼びたくなる愛らしさ

センターディスプレイなしでシンプル仕様のグレードを用意。
5つめのキャッチフレーズはスタイリングに関するアピールです。2020年に発表されたエンジン車の「N-ONE」で強調されていたのは、Honda初の量産軽自動車であるN360(1967年発売)の遺伝子を踏襲した「タイムレスデザイン」を継承するこだわりでした。「まる・しかく・台形」の特徴的な外観デザインと、内装は極限までミニマルにすることで居住空間の最大化と運転に集中できる楽しさを実現というコンセプトは、しっかりとN-ONE e: に受け継がれている印象です。
N-ONE e: で発売予定のグレードは、シンプルな「G」と、快適装備の「L」の2種類。シンプルなGグレードでは、センターディスプレイさえも割愛。ナビや音楽などは自分のスマホを接続して利用することを想定したミニマルなデザインが採用されています。
横一列に大画面ディスプレイを配した Honda e: とは真逆の発想といえば良いでしょうか。無駄を配したインテリアデザインなどの採用によって、低価格を実現してくれることを期待します。
また、N-VAN e: に続くEVモデルとして、販売台数は圧倒的な「N-BOX」ではなく、ホンダイズムを色濃く踏襲する「N-ONE」を選んだことには「EVでもホンダらしさを表現する」といったホンダの気概を感じる気がして、応援したい気持ちや走りへの期待が高まります。
備えにもなる「走る蓄電池」がいざというときも役に立つ
6つめと7つめのキャッチフレーズは、V2HとV2Lに関する機能のアピールです。V2Hとは「Vehicle to Home」のこと。専用の機器を利用して急速充電口(チャデモ規格)を通じてEVのバッテリーと家庭の系統電力で電気をやり取りする機能です。
V2Lは「Vehicle to Load」。EVのバッテリーに蓄えた電気をアウトドアなど外出先で使える「給電機能」です。具体的には、別売の機器を利用して急速充電口から電気を取り出す方法、車内にAC100Vを出力できるアクセサリーコンセントを装備する方法、普通充電口から電気を取り出すアダプターを利用するなど、いくつかの方法があります。
先行情報サイトでは、普通充電口にアダプターを挿して給電している様子が紹介されていて、純正アクセサリーとしてAC外部給電器(AC100V/最大1500W)が紹介されています(関連ページ)。また、V2H対応ということなので、別売の機器を利用して急速充電口から電気を取り出す方法は可能でしょう。車内から直接給電している様子は紹介されていないので、残念ながらアクセサリーコンセントは装備されていないと推察できます。

純正アクセサリーの公式サイトより引用。
ワーケーションや長距離移動など、車内でノートPCを使いたいってときに、車内コンセントがあるとすこぶる便利なので、正式に詳細スペックなどの発表では、予想に反して「付いてますよ!」ってことにも期待したいと思います。
EVに関することはぜんぶ Honda Cars に聞いてみよう
8つめの「かしこく節約できて、たまに贅沢もいいね」のポイントはランニングコストのアピール。ガソリンより電気のほうが効率もコストもカーボンフリー効果も優れているのはすでにモビリティの常識なので、簡単に大切なポイントにだけ言及しておきます。それは、コストメリットをしっかり享受するためにも「自宅で基礎充電できる」ことがとても大切ってこと。戸建て住まいでN-ONE e: を購入する方は、迷うことなく200VのEV充電用コンセント、もしくは普通充電器を設置することをオススメします。
そして、最後に紹介されているキャッチフレーズが「09. EVに関することはぜんぶ Honda Carsに聞いてみよう」です。これは、現EVユーザーの正直な感想として「ほんとにほんとですね?」と確認したい感じでもあります。日本の新車販売におけるEVのシェアはいまだに3%以下、いわゆる雀の涙の水準です。当然、EVを販売しているディーラーの営業マンの方々にもきちんとEVを活用し理解している人は少なく、相談してもなぁ、って現実がありました。
Honda e: の時は、近所の Honda Cars で質問しても、営業マンさんとのやりとりで「今ひとつ売ろうという気迫が感じられないな」ってことを実際に経験したこともあります。このキャッチフレーズは、ホンダではいよいよ売れ筋である軽乗用EVの N-ONE e: 導入にあたり、販売店スタッフへのEV知識増強に注力するぞ宣言! であると理解して、期待したいと思います。
期待する価格と理解しておくべきチェックポイント
はたして、秋の正式発売に向けて、N-ONE e: がどんな価格になるのか注目です。エンジンのN-ONEは「約173万円〜216万円」(価格はすべて税込)、大ヒット車種であるN-BOXが「約174万円〜248万円」です。
N-ONE e: の価格は先行情報サイトでも未発表ですが、国のCEV補助金が「57.4万円」であることが発表されています。先に発売された軽商用EVの N-VAN e: は「約270〜292万円」。ただし、黒ナンバー登録の場合は国の制度が異なり「約130万円」の補助金がありました。
N-ONE e: に期待するのは、CEV補助金を入れて「約170〜240万円」というエンジンN-BOX並みの価格になること。つまり、シンプル装備の「G」グレードで約227万円、快適装備の「L」グレードで約297万円程度を期待! ということになります。もちろん、さらに安価であれば言うことなしです。
もし、期待に応える価格で発売されるとしたら、個人的には「エンジンの軽自動車を新車で購入するのはいかがなものか」と感じます。軽自動車の買い替えを検討中の方、ようやく、ホンダ(日本人に愛着がある国産メーカー)が、手が届きやすい価格帯の、魅力的な電気自動車を発売してくれました。多くの方に向けて「買い替えるならEVがオススメです」と言える電気自動車が登場してくれることを喜びたいと思います。
ただし、今回の先行情報発表ではまだ不明で、購入するのであればチェックして理解しておくべき注意点を挙げておきます。
まず、エアコンの暖房にヒートポンプシステムが搭載されているかどうかです。N-VAN e: はヒートポンプ非搭載であるため、冬場の航続距離が短くなってしまうのが大きな弱点になっています。とはいえ、寒冷地で暖房フル回転でも150kmくらいは走れるでしょうから、ロングドライブ以外で実用的な障壁とは言いがたいところもあります。乗用車だし、いろいろコスト削減のミニマルインテリアだし、せめてヒートポンプは搭載してて欲しいと願いつつ。正式発表時には要チェックのポイントです。
あと、実際に使用できるバッテリー容量が、カタログスペックの「総電力量」とは異なることを理解しておくべきということです。これまた N-VAN e: の場合、総電力量は29.7kWhですが、実際に長距離ドライブを試してみるとユーザーが使用できる電力量は22〜23kWh程度と確認できました(関連記事)。
EVのバッテリーは劣化抑制などのためにある程度の「バッファ(余裕)」が設けられており、搭載しているバッテリー全体の電力量(グロス値)と、実際に使用できる電力量(ネット値)が異なります。ホンダの軽EVの場合、このバッファが慎重に、多めに設定されていると理解できます。
これもまた、実際に表示される航続可能距離に配慮するなど、EVであることを理解した使い方をすれば実用的な問題とはいえません。でも、自分が買った「N-ONE e: のバッテリーは約30kWhだし!」を前提としてロングドライブプランを考えたりすると間違いのもとになるということは知っておくべきでしょう。願わくば、バッテリーのバッファの設定も N-VAN e: より少なくなって、ユーザーが使える電力量が増えていることに期待しつつ……。
あと、実際に購入を検討する場合、強力な比較対象となるのがヒョンデ「インスター」です。最廉価グレードのカジュアルはバッテリー容量42kWhで価格は284万9000円。ただし、このグレードはヒートポンプ非搭載でもあり、49kWhバッテリーのボヤージュ(335万5000円)か、最上位グレードのラウンジ(357万5000円)がオススメです。49kWhはコンパクトカーとしては余裕のバッテリー容量で、航続距離は実質400km程度を走破する実力です。CEV補助金の額は56.2万円。おそらくは N-ONE e: との価格差はそれほどないのではとも思われます。ぜひ、試乗で乗り比べた上で、購入車種を決断するのがいいでしょう。
日産サクラ、三菱eKクロスEVのアップデートにも期待!
来年には、BYDが日本市場向けに専用開発する軽EVを投入することを発表しています。数年のうちには、スズキからも軽EVが登場してくるはずと期待しています。ホンダ N-ONE e: の発売が、日本のEV普及にとって朗報であることは間違いありません。
こうなってくると、気になるのが先に登場し、2022-2023「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞までした日産サクラと、三菱eKクロスEVです。両社は、三菱i-MiEVと日産リーフで量産EVのパイオニアとなったものの、両車とも、その後のアップデートが乏しく、テスラやBYDにEVの主導権を奪われてしまった歴史があります。
かくなる上は、せめて来年くらいには日産サクラ&三菱eKクロスEVが劇的なアップデートを遂げて、日本のEV市場を隆盛化させてほしいと期待します。ちょっと「とばっちりな感じ」ではありますが、結構マジな期待です。
がんばれホンダ、がんばれ日産、がんばれ三菱です。
文/寄本 好則
コメント