経営統合の協議は白紙撤回か
2月5日未明、朝日新聞と読売新聞は、ホンダと日産自動車が進めていた経営統合に向けた協議を打ち切る可能性があると報じました。両紙の電子版によれば、日産の対応の遅さにしびれを切らしたホンダが、日産に対して子会社化を打診。これに対して日産が強く反発し、協議打ち切りの可能性が浮上したとしています。
※冒頭写真は2024年12月23日、経営統合に向けた検討に関する基本合意書締結時の両社社長。
これに続けて日経新聞電子版は2月5日午後、「ホンダ・日産、統合協議打ち切り」と見出しを打ち、日産社内で子会社化の打診に対する反発が起き、経営統合に向けた基本合意書(MOU)を破棄する方針を固めたと報じました。
各紙の報道について、日産、ホンダはコメントを発表。日産は日経報道に関して「当社が発表したものではない」とした上で、「報道の事実も含めて様々な議論を進めている段階」であり、2月中旬をめどに方向性を定めて発表するとしています。ホンダも同様のコメントを発表しました。
ホンダと日産は2024年12月23日に、経営統合に向けたMOUを交わして協議を行ってきました。当初予定では1月末までに方向性を示す予定でしたが、1月31日、決定を2月中旬に延期すると発表していました。
その矢先の、協議打ち切り報道です。ただ、筆者周辺の自動車業界やメディア関係者に、驚きの声はありませんでした。この話が出た時から、経営統合は無理ではないか、ホンダになんのメリットがあるのか、両社の企業体質が違いすぎるなどの疑問が多かったので、この結末は想定内ではありました。
日産の対応遅れから子会社化提案
協議打ち切りの理由について、朝日、読売、日経で共通しているのは、ホンダが日産に子会社化を打診したことに対し、日産が強く反発したことでした。経営統合について当初から日産は「対等」を強調していたので、子会社化の提案は受け入れがたかったのでしょう。
ホンダが子会社化を伝えたのは、日産のリストラ計画の遅れにしびれを切らしたことが大きかったようです。日産は昨年11月に、四半期利益が前期比約9割減という業績不振を受けて、9000人の人員削減や生産拠点の整理などを行うと発表しました。しかしホンダには不十分と映っていて、一層の再生計画を求めていましたが、進展はなかったようです。
読売によれば、ホンダ関係者は「日産には緊張感が足りない。これ以上付き合う余裕は、ホンダにもない」とコメント。一方で日産幹部は、「双方の株主に受け入れられる条件を満たすのは、ほぼ不可能に近い。(経営統合は)もう無理だ」という考えを示していました。
日産の商品開発力が低下?
日産の再生計画以外にも、経営統合についての懸念はありました。最大の懸念が日産の商品開発力です。両社が交わしたMOUでは、経営統合によるメリットのひとつに、「研究開発機能の統合による開発力向上」があります。確かに、お互いが苦手な部分を補完するような技術的な特徴が大きければメリットが生まれます。
しかし今の日産を見ると、商品開発力が低下しているのではという懸念が払拭できません。日産は、2024年に日本市場で新型車をひとつも発表していないのです。日産の商品サイトを見ると、最後の新型車は2023年4月発表の『セレナ e-Power』です。北米市場では新型『KICKS』を出していますが、日本販売はまだありません。既存モデルのマイナーチェンジはあるものの、新型車は出ていません。
1年以上も新型車が出ていないのは、ちょっと驚きです。ゴーン氏時代のコストカットの影響で日産の開発力が低下しているのではという噂は以前から自動車業界内にありましたが、ここにきて新型車の開発速度が遅くなっていることが表面化したようにも見えます。まさか経営戦略で新車を出さないということはないと思います。奇手が過ぎます。
電気自動車(EV)でも、新型車不足は否めません。昨年、『クリッパーEV』は出ましたが、三菱自動車からのOEMです。
『リーフ』は5年前の2019年1月にバッテリー搭載量は増えたものの、現在のモデルは2017年発表です。ひとつの車種の寿命が長いのは一概に悪いとは言えませんが、EVの技術革新が急速に進む中、バッテリーの温度管理が空冷のままというのはいかがなものかと感じていました。
なぜこのようなことになるのか、原因の大元がどこにあるのかは想像するしかありません。とはいえ、もし開発能力に差があれば、経営統合にあたって対等の関係を主張するのは難しいのではないでしょうか。
ホンダのスピード感と日産
ホンダ、日産は2024年8月に「次世代SDVプラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約」を締結して、EV関連技術を含めた共同開発を進めています。これに関してロイターは8月1日に、日産とホンダに体力差があることを指摘しました。ロイターに対して日産関係者、は「ホンダのスピードや投資・予算規模に日産がついていけるか。日産は(ホンダほど潤沢に)お金がない」とコメントしています。まさに、今回のMOU破談につながる認識ではないでしょうか。
日産は2024年3月25日に、経営計画「The Arc」を発表し、2026年度までに16車種の電動車両を含む30車種の新型車を導入する目標を掲げました。2026年度末まで、あと2年です。つまり1年で15の新型車を発売することになります。これは自社開発なのでしょうか、それともOEMなのでしょうか。
もちろんホンダも課題は抱えています。二輪事業の利益率に比べて、四輪事業の利益率が低迷しているし、総売上高は増えていても最終減益になっていることなど、解決すべきことはあります。とはいえ、日産が主張する「対応」の関係は当初から怪しかったと言うほかありません。
実際、経営統合協議のスクープが出た時には日産の株価がストップ高になる一方、ホンダ株は下落しました。市場は、ホンダによる日産の救済と見たわけです。少なくとも「対等」の関係とは見ていないことが分かります。
では今後の日産はどこに向かうのでしょうか。
新型車に関しては、日産は2024年3月25日に経営計画「The Arc」を発表し、2026年度までに16車種の電動車両を含む30車種の新型車を導入する目標を掲げました。このうち日本では5車種の新型車を投入する計画です。
またこれまでに、欧州での「次期リーフ」生産や、『キャシュカイ』『ジューク』などのEV化計画が進んでいることも報じられていました。日本にも期待しているEVユーザーは少なくないと思いますが、どうなってしまうのか心配です。
経営面では、ホンダとのMOUがあったために影を潜めていた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、また買収に乗り出すのではないかという報道もあります。個人的には、ホンダよりも鴻海に買収されたほうが双方にとってメリットがあるようにも思えます。鴻海に不足しているEV開発の経験が、日産にはあります。日産にはない強靱な財務体質が、鴻海にはあります。
こういうのを、ウィンウィンと言うのではないでしょうか。まあ、鴻海の意思決定はホンダより早い可能性があるので、そこに日産がついていけるのかという疑問は消えませんが。あるいは自力で再生を成し遂げるのでしょうか。
EVsmartブログ的には、日産が次期リーフや大衆EVを開発してくれることを祈りつつ、期待と不安を抱えて見守りたいと思います。
文/木野 龍逸