今回は電動バイク『EM1 e:』で放浪記
いつもはHonda eであちこち訪ねている放浪記ですが、ジャパンモビリティショー2023の会場は東京ビッグサイト。中央区の自宅から数キロなので、バイクで行くことにしました。EM1 e: をバイク置き場に止めて、会場へ。
訪ねたのはプレスデー。EVに力を入れている自動車メーカーを中心にメディア向けのブリーフィングを聞きつつ、各社のブースでコンセプトカーや新型EVを見て歩き、4輪だけでなく電動バイクもチェック(関連記事)しました。
その記事でも触れたように、ホンダのブースにEM1 e:が並んでいました。説明員に「私も乗っているんですよ」と話すと、開発責任者の後藤香織さんを紹介してくれました。なんと愛車を作った人にお会いできるとは。立ち話でしたが、さっそくインタビューをお願いしました。
【Q】これまでホンダの電動バイク(BENLY e: など)は法人向けでした。初の一般向けとなるEM1 e: が登場した経緯をお聞かせください。
【後藤さん】ホンダとして、カーボンニュートラルに貢献するために電動化を進めるという目標があります。そのためにMobile Power Pack e: を開発したので、まずはそれを使って、家庭で充電ができて、使い勝手のいい電動スクーターを世の中に出そう、ということで開発を進めました。普通免許で乗れて、多くのお客さまを対象にできる原付一種がいいと考えました。
【Q】ゼロから作るのではなく、中国で販売している五羊ホンダ製のU-GOとMobile Power Pack e: を組み合わる手法をとられたのは。
【後藤さん】今回はバッテリー以外はほとんど変えていなくて、出力などもそのままです。ピリオンステップを無くすなど、国内の法規に合わせる対応だけしています。U-GOとの共用化によってコスト面のメリットが出ます。手の届きやすい価格でご提供したいというのは、やはり意識していました。
【Q】Mobile Power Pack e:は、2輪メーカー4社とENEOSホールディングスの共同事業であるバッテリーシェアリングサービス「Gachaco」に対応しています。私も利用者の一人なのですが、企画の時点で、このサービスは前提にされていましたか。
【後藤さん】まだまだどこにでもサービスが整っているという状況ではないので(現在は東京・大阪で法人のみ利用可)、まずはバッテリーを取り外して家庭で充電できることの方が、多くの人にはメリットは大きいでしょう。いずれインフラが整ってきたら、家庭でも充電できるしGachacoも使えるということで、汎用性、発展性、可能性があると思っています。
【Q】Mobile Power Pack e: 対応のBENLY e: などはバッテリー2個搭載ですが、EM1 e: は1個です。これはどういう判断だったのですか。
【後藤さん】バッテリーが増えると重くなりますし、値段も高くなります。航続距離とのバランスを考えて、1個にするというのは最初の段階から決めていました。原付一種に乗られているお客様の走行距離は一日平均6~7キロ。家から会社や駅への往復プラスちょっと寄り道をしても、1個で十分まかなえます。
【Q】航続距離はカタログ上は53キロ(定地走行テスト値)、私の実感では40キロ程度かなという印象です。
【後藤さん】電動アシスト自転車も普及していますので、それよりは少し足を伸ばすときに使ってもらいたい。一日10キロから15キロを往復して、電池の不安なく戻ってこられるという想定です。
【Q】EM1 e: は8月24日に発売して3ヶ月ほど経ちましたが、反響はいかがですか。
【後藤さん】いま1000台ぐらい予約をいただいています。年間3000台が目標で、社内ではチャレンジングな数字だという認識でしたが、堅調に予約をいただいているのはありがたいですね。お客様のフィードバックはまだそれほど確認できていませんが、意外と坂を登れるとか、静かなのがいいとか……。ホンダの一般向け市販車としては初めてのモデルなので、ご意見は今後のモデルにもフィードバックしていきたいと思っています。
【Q】EM1 e: に乗って驚いたのは、ほとんど無音ということでした。接近通報音もなく、ウインカーリレーの音もしない。これは、あえて、そうされたんですか。
【後藤さん】あえて、ですね。好みもあるかもしれませんが、EVだから静かにできる。たとえばREADY(走行モード)に入れる時に『ピッ』と効果音を鳴らしたりもできますが、夜遅くや朝早い時間にバイクを出すときには、余計な音がしない方がいいですよね。
【Q】自宅近くの郵便局で使っているBENLY e: は「ウイーン」と音を立てて走っていますが、個人的には電動バイクはサイレント仕様が好みです。
【後藤さん】賛否があるとは思います。ウインカーの消し忘れが増えるかもしれない、歩行者が気づきにくいかもしれない、などという意見もありました。そこで、気になるお客さまのために、接近通報装置をオプションで取り付けられるようにもしました。
(Q&Aここまで)
急な取材にも関わらず、快く対応してくださった後藤さん、ありがとうございました。いま自分用のEM1 e: も予約されているそうなので、納車されたらぜひ改めてリポートさせていただれば、と思っています。
自宅近くにGachacoステーションがオープン!
という感じで、ジャパンモビリティショーのプレスデーを取材していたのですが、その間に、Gachaco企画営業部のIさんからうれしい連絡をいただきました。東京エリアで23番目の交換スポット「東雲2丁目ステーション」がオープンしたとのこと。しかも、空白地域だった江東区です。
まだEM1 e: のバッテリーに余裕はあったのですが、2日目の取材帰りに訪ねてみました。首都高速湾岸線と並行して走る湾岸道路を走って、バイク用品店「ライコランド TOKYO BAY 東雲店」へ。玄関脇にステーションが設置されていました。わかりやすい場所で、アピール度も満点です。
ちなみにお隣の「A PIT オートバックス東雲」には、テスラの東京ベイSCがあって、BYDの試乗や購入予約ができる「BYD AUTO」もあったりします。いまCHAdeMO充電器は使用中止になっています(11月7日現在)が、EVユーザーにも親しみ深いスポットですね。
GachacoステーションにEM1 e: を横づけしてガチャッと交換。59%だったSOC(充電率)は一瞬で100%に復活です。せっかくなのでライコランドで冬用のグローブを物色。ついでにA PITのスターバックスでコーヒーブレイクしました。日々のバッテリー交換が楽しくなりそうです。ステーションの設置場所としては最高の環境ですね。こちらの出費も増えそうですが……。
東雲2丁目ステーションから自宅までは、直線距離で約3キロ、実走で4キロ強。帰宅して確かめるとSOCは95%でした。これまで自宅の最寄りは港区の「青山2丁目ステーション」か千代田区の「三崎町3丁目ステーション」だったのですが、どちらも自宅に戻るだけでSOCは80%台になってしまいます。充電のための往復でバッテリー容量の約3分の1を費やしていたわけで、それもお散歩ツーリングと楽しめる(私のような)物好きは別として、効率重視の日常ユースには辛いでしょう。
Gachacoの最大のメリットは充電時間(ゼロから満充電まで約6時間)が不要になること。自宅や通勤・通学先とステーションが近いほど、その利点は生きてきます。都内でニーズのあるエリアを中心にステーションを設置していくというのがGachacoの計画ですが、普及のためにはユーザーの使用拠点から3キロ程度の圏内に1基は設置されていてほしいと感じます。
私の場合はたまたまでしたが、ひとつステーションが増えただけで利便性が爆上がり。4輪のEVと同じく電動バイクも、充電インフラ網の整備が車両性能の向上に直結しているのですね。EV放浪記でも、発展期のバッテリーシェアリングサービスについて時々リポートしていきます。
私の Honda EM1 e:(2023/11/7現在)
走行距離 758km
平均電費 32.7km/kWh
取材・文/篠原知存