【N-VAN e: 集中試乗レポート】
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残量ギリギリで大磯PAの充電器を目指す
11月下旬の急に寒くなったある日。私たちはN-VAN e:の試乗コースに東京から芦ノ湖まで、東名高速〜小田原厚木道路〜国道1号線〜箱根駅伝ミュージアムのルート、約95kmを設定。往路はSOC表示計で全12セグのうち、3セグを残して到着しました。
少し撮影をして、箱根関所からの再スタートでは、目標を大磯パーキングエリアに定めました。距離はグーグルマップで37.4kmです。
前編でも触れたように、箱根駅伝ミュージアムに到着したときには、航続可能距離が26kmと表示されていたので、下り基調のルートを考えると35km前後はいけるのではないかと思っていました。
ところが撮影中に電費の再計算があったようで、航続可能距離が18kmに急減。平均電費も5.5km/kWhから、5.2km/kWhに落ちていました。短時間での大きな変化に驚いて、撮ってあった写真を二度見しましたが、短くなった距離は元に戻りません。
でもSOCは3セグで変わらないので、箱根を下りきったところで様子を見て、場合によっては小田原の鈴廣蒲鉾本店の20kWで継ぎ足しすることにしました。
同じ3セグでも幅があるので、こういう時にSOCのデジタル表示がないのは困ります。まあ、こんな走り方をする人は少数派なのかもしれませんけど。
最高標高地点の手前で充電残量低下表示
ということで、まずは国道1号線の最高標高地点までの4.5km弱を上ると、SOC表示はセグがひとつ減って2セグになると同時に、色がオレンジになって「充電残量低下」の表示が出ました。航続可能距離は15kmです。外気温は4度、エアコンは前編から引き続き23度設定のままです。
充電残量が低下しているのは見ればわかるし、2セグなら単純計算で20km程度は走れるだろうし、下り基調なので30kmはいけるのではないかと、頭の中で皮算用します。
出発時に出ていた航続可能距離130kmの表示が、箱根の坂を上っても妙にぴったりと当たっていたことを考えると、朝からの総走行距離が130kmくらいになる大磯PAまでは行けるのでは、という読みもありました。
そこから箱根湯本駅までの下りは、車が詰まってダラダラと下ると回生量が増えなさそうなので、時々、車をとめて前との間隔を広げ、一気に下るようにしながら走っていきます。
箱根湯本駅付近まで降りてきた時、警告表示点灯から15km走った後での航続可能距離は16kmと、ほぼ変化なしでした。もう少し伸びるかと期待していたのですが、あまり増えてなくて少し悲しかったです。
ということで、箱根湯本駅から大磯PAまでは、グーグルマップで19.6km。下り基調なら、なんとかなるかなと思ったのでした。
若干の冷や汗が発生
行けるかなと思いつつ、若干の不安もなくはなかったのですが、国道1号線から小田原厚木道路に入るインターチェンジをナビの指示通りに入った直後、鈴廣蒲鉾本店を通り過ぎてしまったことに気がつきました。
「あ」と思ったものの後の祭り。航続可能距離は、大磯PAまでの距離と同じ程度なのでそのまま走ることにしました。
横で寄本編集長が、「まあ好きにしたら」という顔をしています。寄本編集長は手作り改造EVの日本一周や中古リーフで電欠経験を積んでいるので、なんとなく安心感はあります。気やすめですが。
さて、そこからしばらくして、若干の冷や汗事案が発生したのです。
航続可能距離表示と、目標までの残り距離の差は、一進一退です。下りや平坦路になると航続可能距離が上回り、ちょっとした上りになると残存距離の方が長くなります。速度は、ADASで70km/hに設定していました。
でも小田原厚木道路の大磯PAって、ちょっとした丘の上にあるんですよね。忘れていました。海岸にある湘南有料道路の大磯ICと、うかつにも混同していたのもあります。
最後の上りの手前でSOCが1セグになり、さすがにスピードを60km/hに落とします。残り距離と航続可能距離は両方とも10kmです。SOCのデジタル表示がないので航続可能距離で判断するしかないことが、不安をふくらませます。
ここでJAFを呼んだらどのくらい時間がかかるだろうか、午後4時の車の返却時間に間に合うだろうかなどと対処方法を考えはじめて、若干、手に汗がにじんできたのでした。そうなる前に充電しとけっていう話ですけどね。
初めて見たSOCゼロ%
そしてようやく大磯PA入口が見えた頃、航続可能距離の表示がとうとう「0km」に。そして大磯PA入口の分岐に入ると同時に、表示に「STOP+P」と、「安全な場所に車両を停車し確実に固定してください」が出たのでした。
ほんとうは表示後の出力低下などがあるかどうか確認したかったのですが、有料道路上だったので余裕がなく、そのままPAに入って急速充電器の前に滑り込みました。
もちろん、市販EVの多くはSOC表示が0%になってもすぐに止まるわけではありません。でもN-VAN e:がどのくらいの余裕を持っているのか、どのくらい走行できるのか公表されていないので、さすがにちょっとビビりました。
冷たい雨の中でほっと一安心しつつ、急速充電器につないで充電開始です。すると、充電器側のSOC表示のセグがひとつも点灯せず、完全に「0%」になっていることがわかったのでした。
航続可能距離が0kmなので当然といえば当然ですが、寄本編集長も「充電器に繋いで完全に空っぽ表示されるのは電欠で止まった時に見て以来かも」と、驚いていました。
実は、大磯PAの急速充電器では、さらに冷や汗が出るトラブルがあったのですが、それはまた別の話。寄本編集長からリポートが出るかもしれませんのでお待ちください。
11kWhちょっとの充電でSOC50%を表示
N-VAN e:は50kWの急速充電に対応しています。大磯PAの急速充電器は40kWなので最大電力に届きませんが、充電開始直後は電圧360V、電流96Aで、出力は34.5kWとほぼ目一杯が出ていました。
その後、SOCが40%を超えるくらいまでそのままの出力を維持していました。終了間際、SOC75%では26.5kWまで落ちていましたが、軽EVであれば必要十分といえそうです。
一方で大きな疑問も浮かびました。0%から充電を始めて、充電電力量が11kWhを超えたあたりで、充電器側のSOC表示が50%を超えていたのです。公表されているバッテリー容量は29.6kWhなので、「あれ?」です。
最終的に、30分で16.4kWhが充電できて、充電器側のSOC表示は見た目で約75%、車両側では9セグになっていました。この数字で計算すると、車両のSOC表示に従ってユーザーが使うことができるN-VAN e:のバッテリー容量は約21.9kWhになります。「あれ?」が、「あれあれ?」になりました。
電費から計算しても約22kWhが妥当
後日、気になって電費から容量を試算してみました。大磯PAに着く直前、航続可能距離が0kmになった時の平均電費表示は6.1km/kWhで、走行距離は132.1kmでした。
仮にバッテリー容量が公表値の29.6kWhとした場合、132kmを走行した場合の平均電費は約4.46km/kWhになります。一方で実用域(ネット値)が約22kWhだった場合、平均電費は6km/kWhになります。これだと車両の表示とほぼ、一致します。
急速充電器のSOC表示は、車両からSOC情報を受けて表示しています。このことを考えても、実用域が約22kWhというのは妥当だと思えます。
この実用域だとすると、日産『サクラ』や三菱自動車『ekクロスEV』のバッテリー容量20kWと、あまり変わりません。これは驚きというか、ユーザーに対する情報開示としては不十分ではないかと感じました。
今回試乗の電費記録
走行距離 | 航続可能距離 | SOC表示 | 平均電費 | 外気温 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
東京都世田谷区 | 0km | 130km | 12セグ | 8℃ | ||
箱根湯本駅 | 74.6km | 66km | 6セグ | 6.5km/kWh | 8℃ | |
国道1号線最高標高地点 | 90.5km | 26km | 3セグ | 5.3km/kWh | 4℃ | |
箱根駅伝ミュージアム | 95km | 26km | 3セグ | 5.5km/kWh | 4℃ | |
箱根関所出発時 | 96.3km | 18km | 3セグ | 5.2km/kWh | 6℃ | |
充電残量低下 | 98.2km | 15km | 2セグ | 5.1km/kWh | 5℃ |
実用域の情報公開を考えてみた
バッテリーは、完全放電や満充電で放置すると劣化が進みやすいので、通常は上下に余裕を持たせて使うよう設定されています。車両のSOCは、上下に余裕をもたせて設定した領域を100%として表示しています。つまり車両が表示しているSOCと、実際の充電残量には差があります。
これが実際の容量(グロス値)と、実用域の容量(ネット値)の違いです。車両のSOCはネット値をもとに表示しています。
輸入車メーカーでは、グロス値とともに、実用域のネット値を公表していることがあります。でも、グロス値とネット値の差が26%もあるというのは初めて見た気がします。
見方を変えると、残りの航続可能距離が0kmになっても相当な距離を走ることができるのかもしれませんが、ユーザーにはわかりません。SOCが0%になったときの実際の残存容量や、どのような速度、出力で、どのくらいの距離を走ることができるかという情報があればいいのですが、公開されていません。
バッテリーの劣化防止のために余裕を持たせるのは当然なので、それはいいのですが、N-VAN e:は容量29.6kWhをひとつのセールスポイントにしています。ユーザーも、それを期待して選ぶのではないでしょうか。でも実際には、電費表示から期待できる航続距離が出ないことがわかったら、失望を感じないでしょうか。
少なくとも筆者は、バッテリー容量のわりに航続距離が短いことに疑問を感じました。メーカーの考え方はさまざまだと思いますが、実用域の情報は公開してほしいと思ったのでした。
それにしても、なぜここまで大きな余裕を持たせるのか、よくわかりません。バッテリーはAESCのはずなので、信頼性は高いと思えます。これらの点については、ホンダの広報にコメントを依頼中です。新たに何か情報が入ったら、追記したいと思います。
HONDA eの経験はどこに
ここからは筆者の個人的な考察なので、読み飛ばしてもらっても構いません。
今回、N-VAN e:に乗ってみて一番疑問に感じたのは、『Honda e』の経験はどこにいったんだろう、ということでした。
ホンダはこれまで、1990年代に発売したニッケル水素電池の『EV Plus』にはじまり、生産台数が少ないとはいえ『Fit EV』で最高電費を目指し、Honda eで新しいEVの姿を見せようとしてきました。でもN-VAN e:を見ると、こうした経験の蓄積をほとんど感じないのです。不思議です。
例えば電費ですが、フィットEVはバッテリー容量20kWhで、JC08モードで航続可能距離225kmを出しました。WLTCに置き換えると、約7割から8割として、電費は8km/kWhにもなります。
これに対して、N-VAN e:は前面投影面積が大きいとは言え、WLTCモードで約7.8km/kWhです。もっと言えば、29.6kWhのバッテリーで航続可能距離が245kmです。10年以上前に発売したフィットEVと変わりません。バッテリー容量が1.5倍になっているのに、です。
SOCのデジタル表示や、回生量の表示のように、EVを普段から使っていればあたりまえに感じる情報が省略されているのも気になります。コストを抑えるためだったのかもしれませんが、デジタル表示にそこまでコストの違いがあるのかなあとも思います。
懸念材料はもうひとつ。ホンダは来年、N-VAN e:をベースに軽乗用車の『N-ONE』をEVにして発売する計画があることです。
例えばN-VAN e:のメーターパネルがそのまま出てくるとは思いませんが、過去のEVの経験が生かされないまま、N-ONEがEVになると、どんな車になるのだろうと思ってしまうのです。
SOCのデジタル表示はどうなのか、電費はどうなのか、バッテリー容量のネット値とグロス値はどうなのかという個別のこともありますが、根本的なことを言えば、EV PlusやフィットEV、Honda eに感じたワクワク感を感じられるのだろうかなどなど、一抹の不安を感じます。
それもこれも、N-VAN e:に対する期待値が高かったのが原因だとは思います。高すぎたのかもしれません。でも過去の経緯を見てしまった者として、EVの楽しさや新しさを、やっぱりホンダには期待してしまいます。
1970年代の排ガス戦争の時にCVCCという突拍子もないものを出して自動車業界を混乱の渦に巻き込んだホンダは、環境対応でも楽しさの追求についても、高いポテンシャルを持っていた企業だと思います。四輪の自動車を作り始めたばかりの企業が、すでに大手だったトヨタにCVCCを技術供与するという驚天動地の事態は、ホンダのチャレンジ精神が生み出したものです。
期待が高すぎるのを承知の上で、N-VAN e:のマイナーチェンジや、次のN-ONEが実用性も楽しさも兼ね備えた、突拍子もない軽EVになることを願ってやみません。なんていう勝手な思い込みをしている今日このごろなのでした。
取材・文/木野 龍逸
〃10年以上前に発売したフィットEVと変わりません。バッテリー容量が1.5倍になっているのに、です。〃
もしかするとフィットは米国のみSCiB搭載車がリース販売されていた?電費ギネス記録?
Fit EV WLTC相当 225km→180km / 20kWh:111Wh / km
N-VAN e : 245km WLTC-L/M平均 103.5Wh / km→9.66km / kWh、188.7~285.9km
冷暖房を考慮せず渋滞・住宅地低速(30km/hとか)走行時だとカタログ値は越えそうdesu
WLTC-H 145Wh / km 暖房66.6% 217.5Wh / km→136km 登坂標高差で更に減少。
バッテリーが大きくても消費電力が上回れば走行可能距離は減ります。yo.
とても詳しく誠実なレポートで感心しました。こんなギリギリの体験記が読めるのは本当に貴重で、メーカーに対する不信感もしっかりとした考察の上でのものなので、とても共感できました!文句ナシの良い記事!