ホンダ『N-VAN e:』試乗記【木野龍逸/前編】電池残量も回生量も見えないのが少し残念

大きな注目を集めているホンダの軽商用電気自動車(EV)、『N-VAN e:』の集中試乗レポート第2弾。木野龍逸氏が日帰りで東京=箱根ドライブを行いました。満足と疑問が入り交じったちょっと複雑な印象のレポートをお届けします。

ホンダ『N-VAN e:』試乗記【木野龍逸/前編】電池残量も回生量も見えないのが少し残念

【N-VAN e: 集中試乗レポート】
ホンダ『N-VAN e:』試乗記【烏山大輔】電動化時代の働くクルマは1人乗りが基本(2024年11月27日)

広い窓で視界良好

ホンダは2024年10月に、軽商用EVの『N-VAN e:』を発売しました。2023年9月に先行情報が発表された後、ジャパン・モビリティー・ショーでプロトタイプが展示されてから、はや1年。「やっと出てきた」と感じた人たちは多いのではないでしょうか。ちなみに筆者はそのひとりです。

N-VAN e: に続いて2025年には、軽乗用車の『N-ONE』がEV化されるのもほぼ確定で、ラグジュアリークラスに集中していたEVの車種が多様化することには期待しかありません。

ホンダに試乗車のお願いをしていたところ、11月下旬に借りることができました。折しも関東地方の気温が激変して急に寒くなった時期だったので、暖房をつけてどのくらい走るのかを試すのにもぴったりです。というわけで、EVsmartブログ編集長の寄本さんと、おっさん2人で東京の世田谷区から箱根、芦ノ湖まで日帰り試乗にでかけてきました。

初めて乗り込んだ正式の製品版N-VAN e:は、思っていたより車体が大きいほか、フロントウインドーも左右のドアウインドーも広くて視界がいいという印象でした。

一方で、走り出して「はて?」と感じたのは、低速域での警告音が室内でとても大きく聞こえたことです。「もしかして室内でも音を出してる?」と感じるほど大きく聞こえたので、窓を開けて外の音を聞いてしまいました。別に室内に音を出しているわけではなく、単に遮音性が低いようでした。

走り出してみると、路面によってタイヤノイズの大きさがはっきり感じられます。EVは音が静かというのは遮音をしているからで、エンジン音がなくてもタイヤノイズが大きいことがよくわかったのでした。遮音材の削減はコストダウンによるものと考えられます。

残量%表示がないガソリン車同様のメーター

走り始めて真っ先に気になったのがメーターパネルの表示です。とくに、SOC(充電容量)のデジタル表示(%表示)がないのです。SOC表示は12セグのバー表示だけなので、残りの充電量はなんとなくしかわかりません。

しかも、切りのいい10目盛りではなく、中途半端な12セグです。なぜなのかと思ったのですが、ホンダの公式サイトで写真を確認すると、どうやらガソリン車の『N-BOX』の燃料計と同じ表示になっているようです。

N-VAN e:は、純正のカーナビと連動したホンダコネクトを利用すればスマホのアプリでSOCのデジタル表示を見ることはできます。

でもアプリは手動で更新が必要ですし、運転中にスマホを操作して表示させるのも非現実的です。というか、運転中にやってはダメです。

N-VAN e:は商用車だし、走行範囲が比較的限定されている法人ユース、それもラストワンマイルをメインに考えているのなら、充電のタイミングは12セグというあいまいな表示でも判断できるのかもしれません。でも走行ルートが日によって違う個人ユースだと、充電ポイント選択のためにも詳細なデジタル表示がほしいところです。せっかく、正確に残量が算出できるリチウムイオンバッテリーを使っているのだし、スマホやパソコンで見慣れた残量のデジタル表示がないのはモヤモヤします。

SOCのデジタル表示といえば、トヨタの『bZ4X』も当初は表示がなくて、マイナーチェンジで表示させるようになりました。ホンダがこの件を知っているのかどうかわかりませんが、bZ4X同様、マイナーチェンジでの変更を期待したいです。SOCとガソリン残量を同じに考えてはいけないと思うのです。

【関連記事】
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回生量が見えない瞬間電費計

この他、メーターパネルにエネルギーの使用状況を示すインジケーターがないので、電力を消費してるのか、回生しているのかがわからないのも気になりました。瞬間電費計はあるもののガソリン車と同じで、目盛りの数字は「7」と「14」しかなくて大まかにしかわかりません。

高速道路ではADASをセットして定速で走ればいいし、法人の商用ユースではそこまで細かいことは気にしないのかもしれません。でもハイブリッド車(HEV)だって回生量の表示は普通にあります。それなのになぜEVのN-VAN e:で表示させないのか、理解に苦しみます。これもコストダウンなのでしょうか。それとも不要と考えたのでしょうか。

エネルギーが戻っていることを視覚で確認できると運転の仕方にも好影響があると思うので、これもマイナーチェンジでの変更を期待したいです。さまざまな制約がある中でガソリン車のN-BOXのメーターを流用するのは仕方ないとしても、EVやHEVで一般的になっている最低限の情報は表示してほしいと思うのは欲深でしょうか。

ヒートポンプなしでエアコンの消費電力大か

さて、東京から目指すのは、芦ノ湖のほとりの箱根駅伝の往路ゴールです。ルートは東名高速から小田原厚木道路に入り、箱根湯本駅、宮ノ下を通る国道1号線を走ります。グーグルマップでの距離は約98kmなので、行くだけなら余裕がありそうです。

と思ったのですが、早朝5時半、外気温8度での航続可能距離は、エアコン23度設定で130kmでした。微妙な距離です。エアコンを切ると203kmになりますが、ここは普通にエアコンを使って走ることにします。

エアコンの有無で差が大きいのは、ヒートポンプを使っていないためかもしれません。今どきのEVでヒートポンプなしというのは微妙ですが、予告していた車両価格「200万円」を実現するため、コストダウンの中で削除された可能性はあります。ただ、商品力を考えると、これだけの差が出てしまうのは難点に思えます。ユーザーも、事前に説明があっても驚いてしまうかもしれません。

なお暖房のエネルギーを抑えるための「ECON」モードにするとシートヒーターがオンになるほか、パワーが抑えられます。でも1人乗り前提の商用車なので助手席はシートヒーターがありません。寄本編集長を凍えさせないために「ECON」はオフで走りました。

山登りをらくらくこなす軽商用EV

N-VAN e:のドライブモードは、通常のDと、回生強めのBのシンプルな2種類です。Dだと、ガソリン車のハイギアでアクセルオフしたような感覚と似ています。回生はあまりとっていないようです。Bは回生強めですが、ワンペダルで操作可能というほどではありません。強めのエンジンブレーキという感じです。

運転支援システム(ADAS)は、細かな舵角修正でステアリングがピクピク動くことがありますが、きちんとレーンキープもできるし不安はありません。

というわけで一路、芦ノ湖を目指しました。東名高速では80km/h、小田原厚木道路では70km/h巡航にセットして、のんびり走って行きました。道中は渋滞もなく、すんなりと箱根湯本駅まで行くことができました。

箱根湯本駅までの走行距離は74.6km、平均電費は6.5km/kWhでした。残りの航続可能距離は66kmで、ゴールまでは約18kmです。この時点でSOCは約半分の6セグも残っているので、到着後もしばらくは走ることができそうでした。

ここからは箱根駅伝の往路5区、ひたすら山を登ります。つづら折りのコーナーは、気休めかもですが、できるだけ斜度が緩い外側を回るようにしました。

山登りは、さすがEV、らくらくとこなしていきます。アクセルをむやみに踏む必要はないし、苦しげなエンジン音もありません。軽自動車で箱根をストレスなく登れるのは、EVだからこそです。

午前7時50分過ぎ、国道1号線の最高標高地点(標高874m)を通過。走行距離は90.5km、平均電費は5.3km/kWhで、航続可能距離は26km、SOCは3セグを残していました。これなら余裕で芦ノ湖に着きます。

3セグ残して芦ノ湖の往路ゴールに到着

午前8時2分に無事、箱根駅伝往路5区のゴール、芦ノ湖畔の箱根駅伝ミュージアムに到着しました。ここまでの走行距離は95km、平均電費は5.5km/kWh、SOCは3セグ、航続可能距離は26kmでした。5kmの短い下りで電費が少し改善していますね。

ここまでの走行データを考えると、スタート時の航続可能距離が、ほぼ合っていることになります。95km+26kmで約130kmです。

箱根の山を登ったにもかかわらず、航続可能距離が予測値と同じというのは、ちょっと驚きました。ナビと連動しているわけでもありません。

いったいどういう計算をしているのか気になります。箱根くらいの上り下りでは電費に大きな影響がないのでしょうか。

広々とした室内は車中泊にピッタリかも

ゴールに着いたところで撮影タイム。とりあえず荷室から助手席までフラットにしてみると、まあ、広いこと。付属の板で助手席と後部座席の段差を埋めるときれいに平らになります。荷物を置くためですが、ひとりで寝るならちょうどいい長さと幅です。車中泊してみたくなります。

フラットにするときの助手席のヘッドレストは、座席後部に備わっている収納袋に入れます。細かいところで気が利いています。後輪のタイヤハウスの部分は幅が狭くなっていますが、これは床を下げているためでしょう。床を上げれば完全にフラットですが荷室容量は減ります。なにを優先するかですね。

普通充電口からAC100Vが給電できるV2Lアダプターもオプション(税込2万6400円)も用意されています。
普通充電ケーブルもオプション(7mタイプで税込6万6000円)です。また、収納スペースがないので、広報車ではプラスチックボックスに入れて荷台に積んでありました。日産サクラもオプションですが、三菱eKクロスEVは標準装備。出先での充電に備えて積みっぱなしにするケースも多いだろうし、充電ケーブルは標準装備が望ましいと思います。

箱根から大磯PAまでぎりぎりチャレンジを決断

普通充電のカバーは押すと開きますが、急速充電口は車内のボタンで開きます。ただ主電源がオンになっていないと操作できないのが少し不便です。充電口内側のカバーはキャップタイプ。切り込みがあって、はめる向きが決まっているため暗い中ではちょっと手間取りそうです。ワンタッチで閉まるタイプのほうが望ましいと思います。

撮影後は即、東京へとんぼがえりです。さすがに無充電で東京までは無理ですが、航続可能距離を見ながら充電場所を探すことにしました。

ところが、スタートしようとして航続可能距離を見ると、なぜか18kmに減っていました。セグ数は3セグで変わりません。撮影の間に1kmほど走りましたが、そこで再計算したようです。平均電費がこの間に、5.5km/kWhから、5.2km/kWhに落ちていました。びっくりでしたが考えても答えは出ないし電気残量も増えないので、「ま、いっか」で出発です。

ここで復路の目標を、小田原厚木道路の大磯パーキングエリアに定めました。距離は約37kmです。航続可能距離より長いですが、下り基調なのである程度までは行けるのではと考えました。

この37kmが、近年まれに見るチャレンジになったのでした。

私たちは無事に大磯に着くことができたのでしょうか。次回、「冷や汗編」でお伝えします。お楽しみに!

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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